米軍の武器開発体制は黒歴史ともいえるM247 サージェント・ヨークの開発失敗を経て独立した運用試験・評価局(DOT&E)を設立したが、トランプ政権はDOT&Eを半分以下まで縮小し、武器の不具合などを報告する非機密報告書の一般公開も停止させ監視がない旧時代の武器開発体制に逆戻りさせようとしている。
参考:Follow-on Operational Testing and Evaluation of Weapons Systems
参考:Air Force Operational Test and Evaluation Center
参考:Pentagon Removes Decades of Weapon Test Reports From Public View
参考:Fact Sheet: Cuts to DOT&E Weapons Testing Put Troops at Risk
参考:POGO Preserves Hidden DOT&E Operational Testing Documents
参考:GAO Finds DOD Testing Office Strained by Workforce Cuts
参考:Behemoth Golden Dome may face lackluster scrutiny in Trump’s Pentagon
巨額の費用と時間を費やす主要兵器の開発は国防総省や軍の高官離脱問題と合わさってますます先行きが怪しくなるだろう
米軍の武器開発はベトナムショックを受けるまで「陸軍、海軍、空軍が独自に開発してテストして量産を承認する」という客観性が欠ける仕組みで動いていたため、ベトナムでM16の悲劇が起こり、国防総省が1965年から1970年の間に東南アジアへ配備された22の主要兵器システムを調査すると「1つを除く全てが実戦で重大な欠陥を抱えていた」と判明し、1971年にFly Before You Buy=買う前に飛ばせ(量産前に実証せよ)という開発・調達方針が正式に導入され、各軍は開発部門から運用試験・評価(OT&E)を独立させたものの、会計検査院が1978年10月に公表した報告書の中で何も改善していないと報告する。

出典:U.S. Air Force
会計検査院は報告書の中で「陸軍は低率初期生産を決定する重要な試験を量産ユニットが利用可能になるまで延期していた」「空軍は初期生産決定前に実施される運用試験の大部分が開発者による試験と統合されており、これは十分な運用試験とは言えない」「海軍は陸軍や空軍と異なり生産決定の前に十分な運用試験を実施していたが、システム配備後も本格的な運用試験を継続して実施している」「システムの有効性および適合性を判断する上で不可欠な運用試験を初期生産決定前に完了させるべきだ」と指摘し、陸軍が陸軍を評価し、海軍が海軍を評価し、空軍が空軍を評価する問題が浮き彫りになった。
特に有名な米陸軍の失敗はM247 サージェント・ヨーク(DIVAD)の開発で、1977年にM163 VADSの後継を開発するため5社の提案からフォード・エアロスペース案とジェネラル・ダイナミクス案がプロトタイプ製造に進み、比較テスト後にフォード案をM247 サージェント・ヨークと命名して量産契約を授与したのだが、フォード案の採用理由は「ジェネラル・ダイナミクス案よりもデザインが優れている」という性能とは無関係なもので、フォード案は開発期間を短縮するため車載レーダーにAN/APG-66の派生型を採用したものの、地表近くで使用するとクラッターの影響が酷くヘリコプターと樹木を区別することすら不可能だ。

出典:Jollyroger/CC BY-SA 3.0
これ以外にもボフォース40mm機関砲を上向きで発射すると銃身がレーダーに干渉し、目標に対するレーダー照準も20秒もかかり、寒冷地での耐久試験では無数のオイル漏れが発生し、比較的単純な電子妨害で機能しなくなるなど次々と問題が噴出していたにも関わらず、連邦議会の議員や英国軍将校を招待したデモンストレーションを開催して大惨事が起きる。
このデモンストレーションは空中の目標を撃墜するという簡単なものだったのだが、起動したサージェント・ヨークは40mm機関砲の銃身を上空に向けるのではなく、このデモンストレーションを見守る観客スタンドに向けて照準を合わせ始めたため、招待された観客はパニックになって逃げ出すことになり、観客スタンドを狙い始めたサージェント・ヨークは事前に設置していた安全インターロックが機能して「招待された観客を掃射する」とう前代未聞のハプニングだけは何とか避けられたが、このような失態を犯してもサージェント・ヨークを再調整してデモンストレーションは続行されて再び赤面することになる。
再調整はサージェント・ヨークは今度こそデモンストレーションの目標に銃身を向けたように見えたが、弾丸は300m前方の地面に土埃を作るだけで、その後も何度か射撃を試みたもののデモンストレーションの目標に銃弾を命中させることは出来ず、この結果に怒った米陸軍はフォード側に説明を要求したが「デモンストレーションのため洗車した際に電子機器が濡れたため誤作動した」と回答し、欠陥を修正した初期生産モデルが引き渡されるも、サージェント・ヨークは銃身の狙いを空中目標ではなくトイレの換気ファンに合わせて米陸軍を失望させてしまう。
それでもサージェント・ヨークに代わる自走式対空砲がなかったため調達を強行するも、これに危機感を感じた議会の要求でテストが実施され、サージェント・ヨークは直線に飛行する標的に照準を合わせることすら出来なかったため、テスト内容が空中にホバーリングする標的の撃墜に緩和されたものの、それでもサージェント・ヨークは標的に照準を合わせることが出来ず、標的にレーダー反射板を追加してレーダー照準を合わせやすくすることで「標的に照準を合わせることができない」という問題を見事に解決した。
サージェント・ヨークの40mm機関砲は満を持して標的に火を吹いたが、どれだけ射撃しても空中にホバーリングする標的に弾丸を命中させることが出来なかったため、最終的に目標を遠隔操作で自爆させ命中したように見せかけたが、このインチキがマスコミにバレてしまい当時のワインバーガー国防長官が1985年に調達計画の中止を命令したものの、サージェント・ヨークに注ぎ込んだ10億ドル以上の資金は戻ってこず、議会は陸軍、海軍、空軍から独立させた「実戦環境での有効性を客観的に評価する独立機関」として運用試験・評価局(DOT&E)を設立させる。
そして議会はDOT&Eに一般公開用に非機密報告書作成を法律で義務付け、さらに2011年には非機密報告書をオンラインでも一般公開するよう法律で義務付けたのだが、ピート・ヘグセス国防長官は126人いたDOT&Eの職員を30人に削減し、専門知識の不足を補うため専門の請負業者を雇う権限も剥奪し、DOT&Eが監督する運用試験・評価の数も251から152に削減し、2026年7月には法律で義務付けられていた非機密報告書の公開も停止してしまい、現在は軍事規格の共通アクセスカードを持つ特定の軍人、政府職員、請負業者のみにしかアクセスできないようになっている。

出典:The Office of the Director, Operational Test and Evaluation
DOT&Eのエイミー・ヘニンガー副局長は主要兵器プログラムの評価状況に関する過去25年間分の非機密報告書を非公開にした理由について「米国の作戦上における安全保障態勢を強化するための措置」「外国の敵対勢力がAIなどの高度なツールを用いて非機密データを収集し、米国の重要インフラや防衛能力を標的とした非常に詳細な脆弱性プロファイルを作成する可能性があるからだ」と説明したものの、上院軍事委員会は「武器の不具合を明らかにする報告書を隠せば軍人の命を奪い、数十億ドルもの税金を無駄にする可能性がある」と批判した。
DOT&Eが非機密報告書の公開を制限したということは、議会が政府説明責任局(GAO)に義務付けているF-35計画の年次報告書などは出てこなくなる可能性が高く、ヘニンガー副局長の説明は一見すると合理的に見えるが、Defense NewsはDOT&Eの職員や監督するプログラムの削減について「これらの措置はDOT&Eがゴールデンドーム計画を監督対象に加えようとしたことへの懸念が一因だった」「レイモンド・オトゥール局長がゴールデンドーム計画を監督対象に追加すると通知した際、通常とは異なるレベルの反発が起こり『DOT&Eが関与すれば開発が遅れてコストが上がる』とホワイトハウスまで懸念が報告された」と指摘している。

出典:The White House
ホワイトハウス主導のゴールデンドーム計画は「実現に幾ら掛かるのか」「いつまでに実現させるのか」「このシステムには何が含まれるのか」など何も分からないまま進行しており、民主党だけでなく共和党もゴールデンドーム計画の資金が含まれた2027会計年度の義務的支出=3,500億ドルに否定的なのは「どうしてこれだけの額が必要なのか」「この資金には何が含まれているのか」「この資金で何をするのか」を一切説明しないためで、詳しい説明がない暫定的な1,750億ドルという見積もりですら「何も情報がないので判断できない」というのが現実だ。
どこまでトランプ政権が兵器開発の情報を隠してくるのか分からないが、独立した運用試験・評価や監視がなければ軍が何を優先するのか過去の事例でハッキリしており、特に巨額の費用と時間を費やす主要兵器の開発は国防総省や軍の高官離脱問題と合わさってますます先行きが怪しくなるだろう。
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※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force photo by Senior Airman Daniel Walderbach





















ほんとアメリカを弱体化させることに関してはトランプ大統領は天才的な閃きを発揮しますね。
昨日の記事はF-16の稼働率から将来のアメリカ空軍に関する懸念する示す内容で、各軍用機のMC達成率が表になってたりと、こういう情報がちゃんと表に出て問題点を指摘する事はアメリカの良さだと思ってた矢先にこの記事ですか…
アメリカは巨額の開発費を掛けても不採用だったり、予定調達数を大幅に下たりとありますがダメだとわかったらすぐに中止にすることは評価すべき点だと思います。一番悪いのは責任問題を恐れて、上層部も現場もダメだとわかってても購入し続ける事なので。
この辺が揺らぐとなると、トランプ政権の4年間でアメリカ軍がどれだけおかしな方向に行くのか恐ろしいですね。
ここまで来ると、トランプ大統領こそは米軍弱体化のために送り込まれた中露の第五列と陰謀論のひとつも言いたくなりますなぁ(呆)
ロシアとか破壊工作の一環じゃないかと思ってしまいます。
亡国
ゴールデンドームはホワイトハウスとそのお友達が税金を抜いて私腹を肥やすために計画されたって言ってるようなもんだねこれ
前代未聞の金額をかけて出来上がったのはまともにドローンも落とせないゴミになりそう
トランプ級戦艦も怪しいモノですなぁ。
アメリカという国が形骸化していくのか…
頑張って読んだけどレーダー反射板を付けた標的さんが出てきたあたりで耐えられなかった。
それはさておき、じゃあテストと監査をいっぱいやればよいかというと、良い塩梅がむずかしいですよね…
本ブログでも1年くらい前に取り上げられていましたが、トランプ氏が米軍の兵器開発手続きのJCIDSを廃止したことは多くの評価を得ていたとありました。
JCIDS廃止を訴えていたハドソン研究所のレポートを読んでみましたが、覚えているところだと
・あれもこれも、念のため、と詰め込まれまくった要件の山が何十年も生き延びていて、かつ優先度もつけられていない。このため不要な機能の開発がされ、必要な機能が埋もれる。物理学的に成立不可能なヘリの要件すら作られ、しかも計画は止められなかった
・その要件の評価段階だけで2-3年かかり、また開発の各段階ごとにものすごい量のチェックを必要とする
・要件は数値になり、1%の未達すら許されない。F-35の航続距離が1%変わるくらい(1100kmが1090kmになるくらい)の、わりとどうでも良さそうな変更に対して、米軍トップ級たちが1年近く議論してその分開発も遅れた
といった有様だったようです。
同レポートではこのような”机上の空論”に代わり、「現実にとにかく必要で動くものを速く作れ」という方針を提案していました
1. 軍が「まさにこれが本当に重要」と思うリアルなユースケースを提案する
2. 開発はとにかくアジャイルに、かつ現場とそっくりな現実環境で試作を繰り返し、開発サイクルを回しまくる。その時運用方法に関しても知見を積む
3. 実際のユースケースで本当に役立ちそうな物がちゃんと形になったら、量産する
下手にテストや監査を残したり増やすだけでなく、本当に役立つかの目線でチェックするのが重要に思えました
プリンシパル=エージェント問題。CEO的には最小の人数と予算で済ませたいが事業部長としてはより多くの予算と人員を貰えた方が社内政治力が増す。そして知識量は大抵事業部長>CEOなのでCEOは事業部長に必要と言われれば反論出来ない。
不正の温床になりかねない事をやってる事に懸念はあるけど、電磁カタパルトとか、ここ数年のアメリカの兵器開発の杜撰さを見る限りは居ても居なくても変わらないんじゃないかとは思う
DOT&Eの存在が進捗・品質に影響しないことはB-21が証明しています。
B-21は承認プロセスの簡略化と同時に要件定義をキッチリ終えて以降の変更を認めないなど「ちゃんとしたプロジェクト」をやってる分がそのまま進捗に出ているように見えます。
デジタルツインだけでなくビジネスジェットを改装した「空飛ぶテストベッド」で事前に十分なソフトウェア、ハードウェア試験を行うことも効果の高い手法だと思います。
DOT&EがNRA(アメリカ合衆国原子力規制委員会)やFAA(アメリカ連邦航空局)のような「規制の虜」になる要素は少なからずありますが、B-21という事例で十分に反論できると思います。
ただ、トランプ大統領からすれば「B-21が短期間で実戦配備できたのはDOT&Eの縮小で私の手柄だ」としてしまうのでしょうね。
リンク
dot&eがあっても米国兵器開発は問題まみれだったんだから、無くなってもいいんじゃね?って思った
非機密情報の公開はあった方がいいんだろうけど、正直俺らみたいなミリオタが気にするくらいで、とくに社会への影響も無さそうだしな
それにどうせトランプ政権も長くは続かんだろうから、あんまり気にしてもしょうがないし