米国関連

KC-46Aの欠陥は空軍が原因、国防総省が空軍の開発体制を批判する報告書を発表

国防総省は空中給油機KC-46Aの欠陥はボーイングだけではなく空軍が開発の監督を正常に行なわず問題を見過ごしたせいだと結論付けた報告書を発表して注目を集めている。

参考:KC-46A’s Long-Troubled Vision System Can’t Even Reliably Show The End Of The Refueling Boom

空中給油機KC-46Aの失敗はボーイングだけでなく空軍にも責任があると国防総省が発表

国防総省の監察総監(OIG)は27日、空中給油機KC-46Aが一部の航空機に給油を行えない問題(フライングブームが機体表面を傷つける可能性があるためF-22A、F-35A、B-2、A-10への空中給油を制限して運用中)は空軍が開発の監督を正常に行なわず問題を見過ごしたせいだと結論付けた報告書を発表して注目を集めている。

ボーイングが開発したKC-46Aに非常な深刻な欠陥が3つ残されており1つ目は空中給油作業を監視・制御する「リモートビジョンシステム(RVS)」の映像に歪みが発生して作業が困難になる欠陥、2つ目は空中で給油口に差し込むブームが給油を受ける航空機の機体表面に損傷を与える欠陥、3つ目は現在のフライングブームの設計だと推力抵抗が大きすぎてA-10の給油口にブームを押し込むことが困難な欠陥だ。

これまでKC-46Aの問題は開発を担当したボーイングの設計ミスだと言われていたが国防総省の監察総監(OIG)は「ボーイングのミスは空軍が開発をきちんと管理していれば回避可能だった」と指摘しており、KC-46Aが一部の航空機に給油を行えない問題を招いた責任は空軍のKC-46Aプログラムオフィスにもあるとの見解を報告書の中で主張している。

出典:U.S. Air Force photo by Staff Sgt. Daniel Snider 目視作業によるKC-10の空中給油作業

米空軍が運用しているKC-10の空中給油作業は目視作業による完全なアナログ制御なのだがボーイングはKC-46Aの予備設計レビューに初期設計とは全く異なる空中給油システムを提出、これは空軍が要求した空中給油作業のデジタル化に対応するためで、特にフライングブームは実績のあるKC-10に使用された技術をベースにしたもののデジタル化に対応するため多くの設計変更が加えられており「新設計」と呼ぶに等しいものだった。

当然ボーイングが提案したKC-46A向けの空中給油システムは技術成熟度評価(TRA)による検証が未実施のものなのに空軍は「実績のあるKC-10に使用された技術をベースにしたもの」と考えて入念な検証・評価作業やTRAは必要ないと判断、KC-46Aの開発中に実施された飛行テスト中の空中給油が失敗して改良作業が実施されても空軍は空中給油システムに対する簡易な検証・評価体制を崩すことなく開発が進められ、最後の最後で問題が炸裂してしまい空軍もボーイングもお手上げになったというのがOIGの見解だ。

出典:U.S. Air Force Photo by John D. Parker

要するにOIGは空軍がKC-46Aの開発段階で空中給油システムの開発と検証をまともに監督していれば、KC-46Aの空中給油システムを再設計することを避けられていたという意味で問題を招いた責任はボーイングだけではなく空軍のKC-46Aプログラムオフィスにもあると指摘している。

さらに米空軍協会が発行するAir Force Magazineで編集長を務めるブライアン・エバースティン氏はKC-46Aに搭乗して実際の空中給油作業を見学、同機の空中給油システムが直面する問題を目の当たりにしたと報告しており非常に興味深い。

参考:Inside a KC-46 Refueling Flight

オペレーターが航空機を直接目視して給油作業を行うKC-10と異なりKC-46Aはリモートビジョンシステム(RVS)に映し出される映像を元にフライングブームを操作するのだが、平面の映像からは奥行きを把握することが困難なため3Dメガネを装着して奥行きの感覚を取り戻すらしい。

出典:U.S. Air Force photo/Airman 1st Class Colby L. Hardin 3Dメガネを装着してRVSを操作する様子

しかし3Dメガネを装着してRVSを見ると映像に歪みが発生、さらにRVSが映し出す画像にはフライングブームの先端が映し出されないためオペレーターは機体表面に発生した影を頼りに給油口とフライングブームの先端の位置関係を把握しているとエバースティン氏は報告、影が利用できない天候や夜間の作業はオペレーターがKC-10で培った経験やカンに頼って空中給油を行っていると指摘しているのでRVSの欠陥は相当深刻だと複数の米メディアが取り上げている。

因みにボーイングは問題を根本的に修正するための「リモートビジョンシステム 2.0(RVS2.0)」を2023年頃までに開発して順調にテストをパスすれば翌年の生産分からRVS2.0搭載が始まり、新設計のフライングブームは2024年頃に届けることができると予想しているが、RVS2.0供給まで最短で3年もかかるためRVSの画質を修正(恐らく歪みに対応したもの)したRVS1.5を開発して提供を始めたらしい。

今のところRVS1.5の詳細は不明だがフライングブームの先端位置に関する問題に対応していないため効果は限定的だと言われている。

関連記事:自動空中給油システムの開発が完了したA330MRTT、欠陥の修正に忙しいKC-46A
関連記事:日本が導入する空中給油機KC-46A、当面はF-35Aへの空中給油が不可能?

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※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force Photo by Tech. Sgt. John Wilkes

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コメント

    • 匿名
    • 2021年 5月 28日

    (アメリカなのに戦前の某国と似てきてるのって)何で?

    6
    • さだはる
    • 2021年 5月 28日

    何故、アメリカ軍の装備関係はなにからなにまでグタグタなのか。

    5
    • 匿名
    • 2021年 5月 28日

    ブーム位置を給油口に合わせるシステムにブームが映らないって、照準器を開発したら照準線を付け忘れてたみたいなギャグレベルの設計ミス。

    現実の経験なしに、バーチャル世界と講義室の座学しか知らずにエンジニアになったような人が増えてる気がする。ネット上で「理論を知ってれば経験は不要!」と断言してた自称専門家(学生)がとんちんかんな書込みしてたこともある。

    2代目NSXの開発過程で、テストドライバーがトルクベクタリングのハンドリングに「インフォメーションが無い」と指摘したら、担当プログラマーは「インフォメーションって何?」と聞返したそうな。

    18
      • 匿名
      • 2021年 5月 28日

      ボーイングも空軍も、まともな技術力があるエンジニアにとって魅力ある職場じゃなくなってるのかもね

      11
      • 匿名
      • 2021年 5月 28日

      ホンダが車もバイクもリコール頻発するのがよくわかる。

      7
      • 匿名
      • 2021年 5月 28日

      あとこういうのって、地上試験用の機材を用意して入念に試験して問題点の洗い出しをするもんじゃないのかね?
      スレ主が指摘していること以外に、会社全体のマネージメント力も落ちてる気がする。

      9
        • 匿名
        • 2021年 5月 28日

        空軍やボーイングも、海軍と同じく地上試験をすっ飛ばして問題を見つけられずに大問題に発展させたと?
        となると、デジタルセンチュリーシリーズ構想もどうなるのやら……
        まあボーイングから会社全体のマネージメント力が消滅しているのは、現在の諸問題の数々を見れば証明済みなので驚くには値しないが

        10
    • 匿名
    • 2021年 5月 28日

    日本の防衛省も発注してますが・・・

    >影が利用できない天候や夜間の作業はオペレーターがKC-10で培った経験やカンに頼って空中給油を行っている

    多分、自衛隊なら今のKC-46Aでも運用しきれる気がする。(笑)

    9
      • 匿名
      • 2021年 5月 28日

      本邦だと無理矢理白塗りされそうだ

      1
      • 匿名
      • 2021年 5月 28日

      「謎の光や湯気に比べればどうということはない」

      7
        • 匿名
        • 2021年 5月 28日

        特定の部位を隠す謎の技術とか欲しいなぁ

        2
          • 匿名
          • 2021年 5月 28日

          特定の部位が見える過ぎる技術も欲しいですなぁ(ゲス顔)

          3
        • 匿名
        • 2021年 5月 28日

        今はモザイク破壊技術(高解像度化技術の転用)なんてのが登場したから
        見えない筈の物が見えすぎちゃってこマスプロ。

        3
      • 匿名
      • 2021年 5月 28日

      無駄に超熟練を必要とする航空機を運用すると実戦でやられた後補充が遅くなるんだよな

      3
      • 匿名
      • 2021年 6月 01日

      KC767に改修して納品を希望(費用はボーイング負担で)。

    • 匿名
    • 2021年 5月 28日

    アメリカが自国産業保護のために最初の選定にケチつけてまで再選定したのはわからんでもないけど日本やイスラエルがこれ選定したのは失敗過ぎる
    どうせ選定されないだろうからという理由で提案すらされなかったって話だけど
    購入を検討したいから提案してくれって頼めば拒否はされなかったでしょうよ
    どうせアメリカ製選定するって思われてるから提案もされないって結果になったわけで少しは反省してほしい
    提案すらされないと競争がなくて足元見られて結果的にアメリカ製選ぶ場合も提案内容が悪くなる

    2
      • 匿名
      • 2021年 5月 28日

      767の国産率はもともと7割程度で、KC45とA330はアラバマ州で5割程度の生産組み立てを行う予定だったから、自国産業保護的にはどっちもどっちだったけど、2008年にオバマが当選したから赤いアラバマではなく青いワシントンで生産されるKC46が逆転採用されたってだけの話で、自国産業というより自党産業保護。

      日本とイスラエルはそもそも767のラインやインフラはあるけどA330のラインやインフラはないから、JALとANAが787の代わりにA330を200機発注とかでもしない限り767一択やろ。

      21
        • 匿名
        • 2021年 5月 28日

        あと、A330って翼幅が60m超えているのよ。767は-400を除けば48m程度だし、KC-10やC-17でも50m程度だ
        この差は、地上設備の大規模な見直しが必要になる可能性が高いから、それをせずに受け入れられる767ベースの機体の方が有利。747や777を受け入れた実績のある場所ならば問題無いかもだが
        最大離陸重量でも、KC-46は188トンなのに対し、A330MRTTは233トンで一クラス上に当たるし。KC-10やC-17と同じクラスになるかと。これも滑走路の路面を強化する必要性に繋がるしね。同様に747や777が頻繁に離着陸していたのであれば問題無いだろうが

        17
      • 匿名
      • 2021年 5月 28日

      日本が調達を決定したのは2015年、未調達だった3機分の調達費を決めたのが2018年
      不具合諸々が指摘され始めたのが2017年、諸々深刻であるという話になってきたのが2019年時点

      767ベース機とA330ベース機を選ぶ事による整備面、運用面での支障については上で出てる通り
      なので2015年の時点でKC-46Aを蹴ってもう一回入札やり直してA330MRTTを選べというのは不可能では?

      10
    • 匿名
    • 2021年 5月 28日

    どうせボーイングは、リモートビジョンシステム 2.0(RVS2.0)の開発にも失敗するだろうよ。
    「時間が足りない」とか「資金が足りない」と言い訳するだろうよ。
    傲慢な会社の惨めな末路だ。

    3
    • 匿名
    • 2021年 5月 28日

    > 空中給油機KC-46Aが、F-22A、F-35A、B-2、A-10への空中給油を制限して運用中

    KC-767はF-35Aに給油できてるの?

    1
      • 匿名
      • 2021年 5月 28日

      イタリアのは成功してる
      フライングブームでのF-35Aへの給油だから日本のでも可能でしょう
      日本のJの弱点はコスト削減でプローブアンドドローグを省いたこと
      F-35Bや米海軍や豪空軍のF/A-18や英のタイフーンや仏のラファールに給油できない
      プローブアンドドローグ対応に改修しないと有事に米や豪の友軍として行動するときに困りますね

      6
        • 匿名
        • 2021年 5月 28日

        当時の日本にはプローブアンドドローグ方式の機体は存在しなかったし、海外派遣にも制約が有ったので特に問題は無かったのですが、いまや空自がF-35Bを導入し、海外派遣も積極的に行う方向性ですからね

        7
        • 匿名
        • 2021年 5月 28日

        > 日本のJの弱点はコスト削減でプローブアンドドローグを省いたこと
        え、マジか。
        KC-46A導入の最大の利点はF-35BやMV-22Bに
        給油が可能になる事じゃなかったのか。

        1
          • 匿名
          • 2021年 5月 28日

          多分読み違えてる
          省いたのはKC-46Aじゃなくて日本向けのKC-767(KC-767Jと当初はボーイングは言ってた)の事でしょう
          日本のJの~って書いてるし

          8
            • 匿名
            • 2021年 5月 30日

            ああ、なるほどすまん。
            そもそものコメ元の最後の1行読み流してた。

        • 匿名
        • 2021年 5月 30日

        他の掲示板で昔あったけど有事に米海軍への協力ができないねと書いたら、
        アタッチメントをドローグ先端に付ければ出来ると帰ってきて、
        想像力のなさにレス返すの止めたネタだな。

    • 匿名
    • 2021年 5月 28日

    肩書つけてる人がなにもせずお金だけもらうための上級国民システム
    国防総省にも空軍にもボーイングにももちろん三菱にも石川島播磨にも防衛省にもある
    ド素人の自分らにわかミリオタがわかるレベルで駄目なのすごーい
    ブーム先端に段階的に発光塗料塗って夜間視認性上げたりカメラの位置的な問題ならカメラ用ブームを別に出すかブームの先端付近にドローグと給油口の絵が見える位置に付けないとって普通の感覚なのでは

    2
    • 匿名
    • 2021年 5月 28日

    エアバスに金払って767に330MRTTの給油システムつけてもらおうよ()

    5
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