米国関連

米国防総省、極超音速滑空体を使用して開発中の艦対空ミサイル「SM-6 BlockIB」をテスト

日本が今後導入するかもしれない開発中の新型艦対空ミサイル「SM-6 BlockIB」は今年後半、極超音速滑空体を模倣したターゲットを使用したテストを行うと報じられている。

参考:Navy SM-6 Missile Will Attempt To Swat Down A Mock Hypersonic Weapon

SM-6BlockIBを使用した実証実験が行われるのは大きな前進、ただし極超音速兵器の迎撃実用化は当分先の話

米国のレイセオンが開発した「SM-6BlockIA(RIM-174 Standard ERAM)」はSM-2ER BlockIVにAIM-120AMRAAMのアクティブシーカーと協調的エンゲージメント機能を追加した艦対空ミサイルで、目標の近くまで誘導さえしてやればアクティブシーカーが作動して自律的に終末誘導を行うため艦艇に搭載されているイルミネーター(ミサイル射撃指揮装置)による終末誘導が不要=つまり同時交戦の目標数に余裕(増える)が生まれるのが特徴だ。

他にもSM-6は協調的エンゲージメント機能を活用してイルミネーターの電波が届かない水平線/地平線下に位置する目標と「リモート交戦(EOR)」を行うことが可能で、弾道弾迎撃ミサイル「SM-3」を補助する形でターミナル・フェイズ(終末段階)段階での弾道弾迎撃や対艦/対地攻撃にも使用できるという多彩な才能を持ち合わせている。

出典:public domain イージス巡洋艦「レイク・エリー」から発射されるRIM-161スタンダード・ミサイル(SM-3)

補足:2016年1月にSM-6は対艦攻撃能力を実証するため退役したオリバー・ハザード・ペリー級ミサイルフリゲートに向けて発射され撃沈すること成功、SM-6にGPSを組み込むことで地上目標の攻撃に使用できるのだがSM-6の調達コストが巡航ミサイル「トマホーク」よりも高価なためGPSの組み込みはオプション扱い。

国防総省は中国やロシアが実用化した極超音速兵器を迎撃する手段としてSM-6を有望視しており、実証実験で使用されたSM-6の特定バージョン(実証実験に調整されたモデルのことを指しており量産モデルとは異なる)について「極超音速兵器迎撃にある程度の能力を示している」との見解を示していたが、同省で技術研究開発部門のトップを務めるバーバラ・マキストン国防次官は15日に開催された上院歳出委員会の公聴会で「開発中のSM-6BlockIBを使用して今年後半に高度な機動性を備えた脅威に対するテストを行う」と明かした。

現在開発中のSM-6BlockIBはBlockIAの発展型というよりも、本体のサイズが拡張(13.5インチ→21インチ)されたSM-3BlockIIAの筐体にSM-6BlockIBの誘導装置を移植して爆風/断片化弾頭を搭載する迎撃弾に改造したと表現する方がピッタリで、迎撃速度はマッハ3.5→マッハ5.0以上に交戦距離は240km→300km以上に強化されている。

出典:public domain 米国が研究していた極超音速試験飛翔体 Falcon HTV2

マキストン国防次官が言及した「高度な機動性を備えた脅威」とはHGVと呼ばれる無動力の極超音速滑空体のことを指しており、要するに国防総省はミサイル防衛局や海軍と協力して海上ターミナル・ディフェンス(※)開発の一貫として無動力の極超音速滑空体を模倣したターゲットを使用したSM-6BlockIBの初期能力実証実験を行うと言っているのだ。

補足:米海軍主導のイージス弾道ミサイル防衛システム(BMD)は中間段階で弾道ミサイルを迎撃するため開発(SM-3)が進められているが、ミサイル防衛局主導の海上ターミナル・ディフェンス(SBT)は終末段階で弾道ミサイルを迎撃するため開発(SM-6)が進められている。つまり大気圏の上層を飛翔する極超音速兵器の迎撃はBMDではなくSBTで対応するという意味。

ただSM-6BlockIBがどれだけ極超音速滑空体の迎撃に有効なのかは未知数で、マキストン国防次官も「極超音速兵器の脅威に対処するためSBTを進化させて2024年度までにSM-6BlockIBの迎撃能力を実証するテストする」と述べているので極超音速兵器の迎撃に対応したSM-6BlockIB実用化の依然として目処が立っていない。

出典:米国政府説明責任局 弾道ミサイルと極超音速滑空体の飛行コースの違い

そもそも極超音速滑空体の迎撃が難しいのはマッハ5以上の速度で接近してくる点だけではなく、空気抵抗が小さい大気圏上層を飛行してくるため射程が長距離化しやすく不規則な飛行経路を経由して接近してくるため防衛側がインターセプトコースを予測しにくいという点が大きく影響しており、宇宙軍が開発を進めている低軌道上の「赤外線センサー網」や国防総省が開発を進めている「統合全ドメイン指揮統制(JADC2)」などが実用化されない限りSM-6BlockIBだけでは役に立たないだろう。

欧州でも宇宙ベースのセンサー網構築と迎撃ミサイルの開発プログラム「TWISTER」が立ち上がっており、中距離弾道ミサイルや極超音速兵器の迎撃に対応した新しい防空システムを2030年までに開発する予定だ。

要するに開発中のSM-6BlockIBを使用した実証実験が行われるのは極超音速滑空体迎撃に向けた大きな前進だが、不規則な飛行経路を経由して接近してくる極超音速兵器を確実に捕捉してインターセプトコースを予測するためのセンサー網構築や戦場のネットワーク化をセットで進めないと極超音速滑空体の迎撃は実用化しないという意味で、マキストン国防次官の発言を元に「SM-6を導入してイージス艦に搭載すれば直ぐにでも中国の極超音速滑空体が迎撃が出来るようになる」と報じるようなメディアの罠に引っかからないよう注意しなければならない。

関連記事:護衛艦「まや」も搭載可能? 米海軍、極超音速ミサイル「SM-6 Block IB」2024年迄に実用化

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Navy photo アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦「ジョン・ポール・ジョーンズ」から発射されるSM-6

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コメント

    • 匿名
    • 2021年 4月 17日

    これからは、すばやい探知能力プラス目標の未来位置への正確な予測という領域に入るだろうね、AIの領域

    3
    • 匿名
    • 2021年 4月 17日

    毎回、無動力の極超音速滑空体を模倣したターゲットを使用した迎撃ミサイルの開発において一番気になるのは、無動力の極超音速滑空体を模倣したターゲット。
    これ、中露の防空網どころか、アメリカの防空網も突破するよね。わかりやすいように型番つけて欲しい。

    1
    • 匿名
    • 2021年 4月 17日

    空力制御だし、スラスタないと上層での機動力は限界あるから未知数だよな。
    正直、対BMD、対HGVへの性能はIAとIBで余り変わらないんじゃないかと。

    • 匿名
    • 2021年 4月 17日

    サイドスラスター付きは運動性能は折り紙付。
    PAC3だって実のところとんでもない機動性ですからね。
    それでも極超音速の飛翔体を落とすには能力不足ということはミサイル単体の進化は頭打ちなんでしょうかね。
    第一次湾岸戦争時点で既にハイテク戦争なんて言われていましたけど、当時水準ですら今の兵器はSFじみてきましたね。

    2
    • 匿名
    • 2021年 4月 17日

    日本へは7億くらいでしょうか?
    現状3億のASM-3とかどうでしょう?
    AWACSや輸送機なら落とせそうな。今の仕様でも射程200kmの最長対空SAM
    艦対空や地対空ならブースターが必要でしょうが
    対巡航ミサイルや戦闘機には、中SAMのシーカーに高機動用にフィンの改造
    ASM-3改が完成すれば射程500kmのS500並み
    萌え~ 一人で胸熱~

    • 匿名
    • 2021年 4月 18日

    個人的にはSM-6とイージス艦の組み合わせに期待しているけど、やっぱり宇宙に配備するセンサーが完成しないと極超音速で飛んでくるミサイルは迎撃が難しいのかな?

    あと韓国や日本の記事だといっぱいコメントがつくのに何でこの話題には食いつかないんだろう?みんな興味ないのかな?

      • 匿名
      • 2021年 4月 18日

      興味の問題というより、
      政治性が薄く専門性が高い記事に対して気の利いたコメントが出来る程度の知識がある読者の割合の問題でしょう

      3
        • 匿名
        • 2021年 4月 18日

        政治的関心で軍スレに群がる、ややお門違いな連中が多いということ
        枯れ木も山の賑わいってのかw

        1
      • 匿名
      • 2021年 4月 22日

      ちょっと難し過ぎてコメントする程の知識と情報不足だからです
      ASM3でウハウハで止まってます

      1
    • 匿名
    • 2021年 4月 18日

    SM-6とイージス艦の組み合わせなど必要としない CEC作戦装置とコンソールさえあればたとえばもがみ型さえも搭載可能なのだ これにより中国との紛争初期にSM-6BlockIBにより早期警戒機からの攻撃を受けた際の防空ミサイル支援射撃してもらうだけで戦局は違ったものとなるであろう 早期警戒機に空対空ミサイル搭載では哨戒時間が短くなるからである もがみ型も重哨戒艦として活躍できることだろう 初期のペルシャ湾航行の自由作戦目的どころではもうないのだ。
     

    • 名無し
    • 2022年 7月 04日

    sm-2が引退してsm-6に起き変わるのか

    じゃあ、sm-3とsm-6だけになるな

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