米国関連

国防総省の現実的な決定、1年間の納入停止を経てTR3構成機を受け入れる

F-35JPOのシュミット中将は3日「戦闘能力を除外した暫定バージョンのソフトウェアを搭載するTR3機の受け入れを決定した」と発表、Bbreaking Defenseも11日「暫定バージョンを受け入れることで来週にもF-35の納入が再開される予定だ」と報じている。

参考:Pentagon to accept deliveries of Lockheed F-35s after yearlong pause
参考:F-35 deliveries to resume next week, despite incomplete upgrade

Block4を構成する各要素の開発は破綻状態で、いつ完成するのか誰にも分からない

F-35JPOのシュミット中将は3日「戦闘能力を除外した暫定バージョンのソフトウェアを搭載するTR3機の受け入れを決定した」と発表、Bbreaking Defenseも11日「国防総省は暫定バージョンのソフトウェアを受け入れることでTech Refresh3が組み込まれたF-35量産機の納入を再開することができた」「来週にも納入が再開される予定だ」と報じている。

出典:U.S. Air Force photo by Senior Airman Zachary Rufus

TR3の問題を説明すると話が長くなるので割愛(詳しく知りたい方は過去記事を参照)するが、今回の決定を要約すると「約1年間停止されてきたTR3構成機(70機~100機)の納入が再開される」「TR3構成のF-35量産機は訓練用途のみしか使用できない」「暫定バージョンのソフトウェアも動作が不安定」「欠陥を修正するため頻繁な修正パッチをリリースしなければならない」「戦闘任務に対応したフルバージョンのリリースは少なくとも1年先の話」となり、引き渡し待ちや保管場所の不足を解消する現実的な決定と言えなくもない。

因みにTR3構成機は開発が進められているBlock4のバックボーンとして機能するが、Block4を構成する要素やソフトウェアの開発が遅れており、下院の公聴会に出席したシュミット中将は「Block4で予定されている多くの能力は2030年代まで実現しない」「そのためBlock4自体を再構築することになった」「再構築されたBlock4は産業界が本当に提供可能なもので構成されなければならず、必須能力の提供のみに焦点を当てる」と言及。

出典:U.S. Air Force photo by Airman 1st Class Anna Nolte

Breaking Defenseは再構築されるBlock4について「電子戦や通信能力の強化で構成される可能性が高い」と報じているが、もはやBlock4を構成する各要素の開発は破綻状態(いつ完成するのか誰にも分からない)に近く、戦術空陸軍小委員会のウィットマン委員長も「私は過剰な約束と過小な成果にうんざりしている」「Block4は現実を反映してほしい」「現実的に何ができるのか理解すべきだ」と述べ、Block4の能力追加は縮小される可能性が高い。

関連記事:F-35量産機の納入停止問題、2024年7月の引き渡しにはリスクがある
関連記事:ベルギーのF-16提供はF-35A取得と連動、TR3構成機の問題が影響する可能性
関連記事:ロッキード・マーティン、当面TR3構成機は訓練飛行にしか使用できない
関連記事:F-35Block4の能力追加を縮小、TR3構成機は完全な戦闘能力なしで引き渡し
関連記事:F-35のTech Refresh3問題、国防総省は149機分のアップグレードを中断
関連記事:70機近くまで膨れ上がった保管状態のF-35、米空軍や同盟国に影響
関連記事:多難なF-35Block4、未検証のシステム搭載による出荷停止は秋まで続く
関連記事:検証作業中のTR3でトラブルが発生、F-35の年内引き渡しが97機に減少
関連記事:F-35Block4実用化に向けたマイルストーン、TR3搭載の試験機が初飛行

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force photo by Airman 1st Class Matthew Arachik

米国、パトリオットシステム本体が含まれるウクライナ支援パッケージを発表前のページ

侵攻869日目、ウクライナ軍がボルチャンスク北市内でロシア軍を押し戻す次のページ

関連記事

  1. 米国関連

    ボーイング、スキージャンプ台を使用してF/A-18E/Fの発艦デモに成功

    ボーイングは21日、F/A-18E/Fがスキージャンプ台を使用して発艦…

  2. 米国関連

    J-20に劣るF-22A Block20、今後も維持するなら次世代戦闘機の開発費が吹っ飛ぶ

    米空軍と議会はF-22A Block20の退役問題で対立しており、空軍…

  3. 米国関連

    F-16の後継機計画が米空軍の公式資料に登場、新しい戦闘機「MR-X」の登場は2035年頃

    米空軍は2022年度の予算要求で維持コストが高騰しているレガシーな戦闘…

  4. 米国関連

    米海軍、30万ドル以下で年500発調達可能な低コスト巡航ミサイルを要求

    米空軍は「将来の低コスト巡航ミサイル(射程926km/取得コスト15万…

  5. 米国関連

    米空軍が年内に極超音速兵器AGM-183Aを試射、来年にも量産開始

    米空軍は開発を進めていた空中発射型の極超音速兵器「AGM-183A A…

コメント

    • クル
    • 2024年 7月 12日

    映画でしか活躍してるの見たこと無い機体になりつつある…
    しかも昨今戦争映画で戦闘機がバチバチに活躍する場面なんてロクに無いので怪獣や宇宙人と戦ってやられるやられメカという

    12
      • ku
      • 2024年 7月 12日

      何故か怪獣(敵)の攻撃にやられる為に超接近戦で落とされるw

      14
      • マニアックな映画
      • 2024年 7月 12日

      TR3のF-35がミサイル撃てずに怪獣にやられるマニアックな映画

      24
      • バーナーキング
      • 2024年 7月 12日

      映像作品での「戦闘」ってのは見映えのためにフレーム内に敵味方を映したいですから、視界外戦闘は論外、足を止めての格闘戦が理想、となるので、あんまり遷音速で飛ぶ固定翼機に活躍の場は(トップガンマーベリックの様に無理矢理作らない限り)少ないでしょうね。
      現代や未来の戦場を「真面目」に映像化して地味な絵面になってしまうのを避けるためのギミックがミノフスキー粒子とモビルスーツや平面宇宙と時空泡、その他諸々な訳で。

      14
        • kitty
        • 2024年 7月 12日

        現代の航空戦がどれだけ味気ないか、エリア88で実際にBVR戦闘の回を作って描写したのがありましたっけ。
        空母いぶきではF-35が敵空母に機銃掃射…。

        8
        • アンゴラ
        • 2024年 7月 12日

        フライトシマーのゲームとかありますけど、無茶苦茶地味ですよねw
        延々とレーダーとにらめっこしながら敵機よりも先にロックオンして空対空ミサイルをリリースして終わり

        これやってるくらいなら民間機の離着陸の方がまだ楽しそうです

        5
          • さだを
          • 2024年 7月 13日

          現実なら不意打ちで生きるか死ぬかのリスクや、それの合間を縫ってサンドイッチを食べたりボトルの水を飲んだりマップを腿のポケットから出したりiPadで確認したり…なんかもありますが、シミュレータだとそういう感覚も無いですからね…

          2
            • さうんど
            • 2024年 7月 13日

            カーオーディオならぬ、ファイターオーディオとかないんだろうか。
            ワルキューレの騎行を流すスピーカじゃないよ。

      • そら
      • 2024年 7月 12日

      トムキャット爺さんの活躍にも適わないな

      1
    • qwerty
    • 2024年 7月 12日

    アメリカ軍って予算のわりに新兵器の開発や更新に失敗しすぎな気がする。
    陸軍のヘリの新規開発、海軍のズムウォルトや沿岸域戦闘艦、空軍のKC-46あたりは新兵器の失敗事例として
    パッと思いつくし、コロンビア級なんかも計画段階から遅延するような気配がある。
    主力兵器に限っても陸軍の戦車やその他装甲車両は冷戦期のものがほとんど、空軍もF-35による更新が進まないし、海軍も
    アーレイバーク級やバージニア級の改良がされてる程度で後継の開発が進んでない。
    正直言ってもっとしっかりしてほしい

    44
      • 戦略眼
      • 2024年 7月 12日

      米国の産業の足腰が、崩壊しているのです。
      ソフトウェア開発もインドとかに外注したりするので、国内にIT技術者が不足している。

      19
      • PLA TANKS LOVERS
      • 2024年 7月 12日

      アメリカ軍の関わるプロジェクトが炎上しまくってるのを見ると、仕事を取る企業側よりも発注側の軍がヤバい気がしてくる……

      15
      • Authentic
      • 2024年 7月 12日

      レーガノミクスの帰結だよ
      脱工業化などして軍事的生産力を維持できるわけがないんだから
      使用価値という概念を拒否する経済を交換価値の総和としてしか理解できない新古典派経済学者に政策立案を任せるからこういうことになる

      9
      • けい2020
      • 2024年 7月 14日

      失敗原因が20年以上前の軍用基準で開発しようとしてるのが原因かと
      生産現場なんて30-50年前のまんまだったりするし

      こんな骨董品みたいな事やってたら開発・製造人材すら集まらないのは当たり前

      1
    • jimama
    • 2024年 7月 12日

    戦闘能力抜き戦闘機・・・サメの出ないサメ映画並みのわけわからなさよ
    >>Block4を構成する各要素の開発は破綻状態で、いつ完成するのか誰にも分からない
    デスマ確定してるやん。もうこれBreak4でしょ
    昔はこういうのを「空飛ぶサグラダファミリア」とか言ったもんだけどあいつもう完成するしなあ
    やっぱり最初から全部乗せでやろうとしたのがダメだったんじゃなかろうか
    お兄ちゃんたち(P51,F15,F16)みたいに最初は制空戦闘機として大切に育てて、余裕が出たらできることを増やしてくのほうがうまくいったんじゃないか

    34
      • 全てF-35B
      • 2024年 7月 12日

      block1-3で順番に機能アップして、ある程度実戦参加できる様になったのだが。
      ソフトウェアだけでも、block3の物に戻して運用出来ないかな。

      7
        • DEEPBLUE
        • 2024年 7月 12日

        外国では元気に飛んでいるのにアメリカ本国だけ飛行自粛とかブラックジョーク

        11
        • daishi
        • 2024年 7月 13日

        管理人さんの記事だと、現在の量産構成が「TR3ハードウェア+ブロック3Fソフトウェア」で問題が出てるそうなので、TR2+ブロック3Fの機能すら満たさない状況のようです。
        つまり、TR2をTR3アップグレードした時点で文鎮化するので、米軍もTR2搭載機のTR3アップグレードを中断してます。

        リンク

        2
      • あばばばば
      • 2024年 7月 12日

      サメ映画でサメが出てこないのは割かし普通では?
      それとアメリカにとって多様性を一つのプロジェクトに押し込むのは必須事項みたいなものだから

      7
    • 事実
    • 2024年 7月 12日

    2026年からは戦闘任務に就ける、って事でいいのだろうか?

    these jets, even after delivery, would not be able to fly combat missions until 2025,

    3
    • イーロンマスク
    • 2024年 7月 12日

    世界最強の訓練機

    21
      • Whiskey Dick
      • 2024年 7月 12日

      世界一高価な練習機

      5
        • 事実
        • 2024年 7月 13日

        まさかATTとT4の後継機がF35になるとは、、、

        6
      • jimama
      • 2024年 7月 12日

      >>「暫定バージョンのソフトウェアも動作が不安定」
      >>「欠陥を修正するため頻繁な修正パッチをリリースしなければならない」
      飛行中の予期しない突発的なトラブルへの対処やデバッガーとしての訓練も積めるからセカンドキャリア対策もばっちり(白目

      8
      • 通りがかりさん
      • 2024年 7月 12日

      正にそれ

      1
    • DEEPBLUE
    • 2024年 7月 12日

    冗談抜きに安定性やら更新のgdgdがwindows11みたいになってますねえ。B21は開発順調だし、ノースロップにやらせれば一番堅実なんじゃないだろうか米空軍。

    4
      • 事実
      • 2024年 7月 12日

      変態飛行機ばかりになる予感、、、

      5
      • T.T
      • 2024年 7月 12日

      いかん、全翼機になってしまう
      それはそれで見てみたいかな・・・

      8
        • 事実
        • 2024年 7月 12日

        長距離AAM、長距離ASMが標準になって、ペイロードが大きく、ステルス性能が高く、航続距離が長い「戦闘機」が望まれるだろうから、、、
        あれ、どこのレイダー?

        デカいレーダー付けた(無人?)随伴機とセットで飛ばせば無敵かも?

        5
    • 名無しのゴン太郎
    • 2024年 7月 12日

    何が悲惨かって、戦力化できてるのがBlock3Fしかないけど、今量産してるのはハード的に互換の無いTR3だから、幾ら製造しても、増えるのは練習機だけで、戦力がビタイチ増えない所よね。
    中国は殲20をアホみたいに増産してるのに。

    10
    • けい2020
    • 2024年 7月 14日

    TR3なんか性能的には民間コンピュータの15年遅れぐらい
    (性能・サイズ・電力効率の全部が)

    利権なのか思考硬直が原因なのか、とにかく骨董品の軍用基準規格を見直して
    最新民間基準を採用すればTR3に求められてる性能程度なら3ヶ月で納品できてしまう

    複雑なソフトウェアも最新コンピュータのパワーで解決すれば済むわけで

    1
  1. この記事へのトラックバックはありません。

  1. 欧州関連

    オーストリア空軍、お荷物状態だったタイフーンへのアップグレードを検討
  2. 中国関連

    中国は3つの新型エンジン開発を完了、サプライチェーン問題を解決すれば量産開始
  3. 北米/南米関連

    カナダ海軍は最大12隻の新型潜水艦を調達したい、乗組員はどうするの?
  4. 米国関連

    米陸軍の2023年調達コスト、AMPVは1,080万ドル、MPFは1,250万ド…
  5. 軍事的雑学

    4/28更新|西側諸国がウクライナに提供を約束した重装備のリスト
PAGE TOP