米国関連

バイデン大統領、G7でウクライナ人パイロットの訓練を支援すると表明

CNNは政府高官の話を引用して「バイデン大統領が『F-16を含む第4世代戦闘機でウクライナ人パイロットを訓練する同盟国の取り組みを米国が支援する』とG7の首脳に伝えた」と報じており、欧州で行われる訓練に人員を派遣するらしい。

参考:Biden tells G7 allies the US will support joint F-16 training effort for Ukrainians

欧米当局者は交渉のテーブルにつくだろうと思われるが、どうやって提供する機体と資金を捻出するのかに注目が集まる

バイデン大統領はウクライナに対する西側戦闘機提供に消極的で「F-16が必要だとは思わない」と主張しているものの、CNNは18日「バイデン政権はNATO加盟国に対してウクライナへのF-16移転を許可する意向を伝えたが、まだ同盟国から移転に関連した承認手続きを要請されたことはなく、これを審査する国務省のスタッフも承認手続きの仕事に取り掛かるよう指示されていない」と指摘していたが、CNNは19日「バイデン大統領が『F-16を含む第4世代戦闘機でウクライナ人パイロットを訓練する同盟国の取り組みを米国が支援する』とG7の首脳に伝えた」と報じている。

出典:U.S. Air Force photo by Master Sgt. Tristan McIntire

政府高官はCNNに対して「この訓練は国内ではなく欧州で行われ、米国も人員を派遣してウクライナ人パイロットの訓練に参加することになり、今後数ヶ月間に渡って行われる訓練と平行して『ウクライナに戦闘機を提供する時期』『ウクライナに提供する戦闘機の数』『実際に誰が戦闘機をウクライナに提供するのか』を決定する」と述べており、欧米当局者はウクライナに「F-16を含む第4世代戦闘機」を提供するためテーブルにつくのだろう。

管理人的に興味深い点は「ウクライナ人パイロットに対する訓練の機種を「F-16」に限定するのではなく「F-16を含む第4世代戦闘機」と表現しているところで、これは英国主導の連合体が訓練や提供機種を「F-16」に限定して「誰が機体を提供するのかという問題の矛先を米国に向ける・巻き込む政治的意図の否定」かもしれない。

出典:Trevor Hannant / CC BY-SA 2.0

ウクライナ空軍が希望している戦闘機は西側製で「F-16の入手が難しいならラファールやグリペンでもいい」と述べており、欧州諸国は「戦闘機提供に賛成でも機体の提供には応じたくない」と考えている可能性が高く、英国は「タイフーンを提供するつもりはない」と、ベルギーは「提供できるF-16を持っていない」と、ポーランドは「F-16の提供は難しい」と、フィンランドは「代替戦闘機の供給が約束されるか、F-35Aで更新するまでF/A-18は手放せない」と、スウェーデンは「グリペンに余剰分はなく提供は不可能」と主張している。

つまり英国主導の連合体が訓練や提供機種を「F-16」に限定するのはウクライナ人のためではなく、戦闘機を手放したくないので「米国に機体提供の役割を押し付ける」ための方便に過ぎず、わざわざバイデン大統領が「F-16を含む第4世代戦闘機」と表現したのは「ウクライナ人パイロットに対する訓練を支援しても機体提供に応じない」もしくは「欧州が言い出したのだから機体は欧州が提供すべきだ」というメッセージなのだろう。

出典:U.S. Air Force photo by Master Sgt. Tristan McIntire

米国はウクライナが戦争継続のため必要とする資金、装備、弾薬の大半を負担しているので「戦闘機提供は欧州主導でやってくれ」と言うのが本音で、ウクライナメディアの取材に応じた米統合参謀本部のバトラー大佐は「ウクライナ支援に米国は一定額の資金や能力を割り当てているが、F-16は非常に高価なシステムでロシア軍は500機以上の戦闘機を有しており、同数もしくは一定の競争力を確保できる数のF-16を提供するなら『政府が容認している以上の資金』が必要になる。率直に言うとF-16を提供すれば他の物を提供できなくなるだろう」と述べている。

要するに10機程度のF-16を提供して済むならまだしも、500機以上の戦闘機を有するロシア軍相手に一定の競争力を確保するには最低でも50機程度の戦闘機が必要だと言われており、ウクライナ空軍のイグナト報道官は「最初のステップとして2個飛行隊(1個飛行隊は12機)分、最終的に5個旅団分(1個旅団は3個飛行隊で構成)の戦闘機が必要だ」と主張したことがあるため、1度提供を始めれば西側諸国が負担する支援額は一気に跳ね上がるかもしれない。

出典:Public Domain

欧米当局者は交渉のテーブルにつくだろうと思われるが「実際に誰が戦闘機をウクライナに提供するのか」で揉めるの確実で、どうやって提供する機体と資金を捻出するのかに注目が集まる。

追記:NBCは政府関係者の話を引用して「欧米諸国は長期的な取り組みの一環としてウクライナへのF-16供給を計画しているが、機体が米国から直接供給されるとは限らない』と報じている。

追記:ポルトガルが英国主導の連合体への参加(パイロットや整備士の訓練を支援)を、デンマークもパイロットの訓練を支援すると表明した。

上記の内容は旧ソ連製戦闘機や西側戦車の提供過程、ウクライナのニーズに四苦八苦の米防衛産業、経済効率を優先して増産への動きが鈍い欧防衛産業などを見てきた管理人の個人的な見解なので、こういった見方もある程度で受け取ってほしい。

関連記事:バイデン政権、NATO加盟国にF-16のウクライナ移転を許可すると伝達
関連記事:英国、ウクライナ人パイロットに対する西側製戦闘機の訓練を夏に開始
関連記事:米軍高官、ウクライナ軍の反攻作戦が始まればロシア人は驚くはずだ
関連記事:ウクライナ空軍の報道官、全域の空をカバーするには180機の戦闘機が必要

 

※アイキャッチ画像の出典:首相官邸

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コメント

    • 黒丸
    • 2023年 5月 20日

    日本には提供可能な戦闘機の機体がないですが
    NATO諸国の艦船や航空機と一緒に北海道一周を
    毎週するだけでも、ある程度の効果はあるかも。

    3
      • 半分の防衛費の国から
      • 2023年 5月 20日

      日本のF-15Jの内、1981~1984年に製造された98機(Pre-MSIP機)がF-35と入れ替えで退役していきますよ‥計算だと2025年に機体寿命を迎え初めて、延命して飛行時間2000時間追加する費用と、機体内部の配線規格が古く、全てを交換しないと近代化出来ない為、退役が決まっていますが、機体を日本が提供して、近代化改修と機体寿命延長費用をG7とかで負担するとかすれば今でも十分使えるとおもいますけれど、近代化改修作業を日本で出来れば飛行機関連の仕事も増えますしね、とかすれば、NATO軍が何故か北海道に派遣されてきて自衛隊と仲良く付き合うとかも出来そうですね。

      10
        • TA
        • 2023年 5月 20日

        F-16が無理ならグリペンでもいいって言うんだしPre-MSIPでも良いと思うんだよな
        このままだとどうせ廃棄なんだからくれてやればいい

        2
        • samo
        • 2023年 5月 20日

        ほしいのは、戦闘機というより、打ちっぱなし能力だからpreMSIPをそのままは対象にならない

        やるなら米国で退役中のF-15C。
        ただこれは相当に老朽化してるようだから、部品取り機としてpreMSIPを供給する、というのが現実的な所だろう

        3
          • 戦略眼
          • 2023年 5月 20日

          preMSIPににCの部品を組み込んだ方が、寿命がありそう。

        •  
        • 2023年 5月 20日

        pre機を一定の競争力があるレベルに性能向上して機体寿命の延命処置もしてってそんなことすれば新造のF-35買える値段になりそう

        5
    • おわふ
    • 2023年 5月 20日

    もうそろそろF-35がウクライナの戦場に出てもいいんじゃないですかね(真顔)
    絶対無理ですが、そんな胸熱な事を聞いてみたい。

    7
    • 匿名
    • 2023年 5月 20日

    ロシアは、ウクライナ戦争前は1000機以上の戦闘機保有していたので、アメリカ除いたら世界有数の保有国だった。

    5
      • とくめい
      • 2023年 5月 20日

      100機ぐらい鹵獲させてくれませんかねぇ…

    • 戦略眼
    • 2023年 5月 20日

    先ずは、ルーマニアのMig-21を提供しよう。

    1
    • 月虹
    • 2023年 5月 20日

    現状ではラファールの導入に伴い2022年に退役したフランス空軍のミラージュ2000C(制空・マルチロール機型、124機)が西側が供与する戦闘機として有力と言われていますが、カエサルやAMX-10RCの供与はしたものの主力戦車であるルクレールは供与を見送ったフランスですので戦闘機供与に関しても消極的だと思います。

    F-16は中古でも世界各国で人気があり、途上国では老朽化の進むF-5やMig-21などの軽戦闘機の代替として候補に挙げられる場合も少なくないのでウクライナへ供与する為の西側製戦闘機をどうやって捻出していくかは大きな課題だと思います。

    6
    • 匿名
    • 2023年 5月 20日

    交渉の初期だから各国は出せないと言ってるだけで、
    最終的には戦車みたいに各国でちょっとずつ出すという結論に向かっていきそう

    1
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