米国はNATO加盟国に国防支出基準として5.0%を、これと同じ基準をアジアの同盟国にも要求しているが、トランプ大統領は「米国は5.0%の達成義務を負うべきではない」「NATOとしての国防支出増額分は米国以外の加盟国で対応すべきだ」と主張した。
参考:Nederland hoopt dat Spanje verzet tegen NAVO-norm van 5 procent staakt
参考:Dutch leaders urge Spain to drop resistance to NATO’s 5% defense target
参考:Trump says US exempt from NATO’s 5 % defence spending goal
トランプ大統領の発言はパリ国際ショーで見せた米防衛産業企業の動きとリンクしてくるのが大変興味深い
NATOは6月末の首脳会談に向けて加盟国の国防支出=2.0%基準の見直しを進めており、ルッテ事務総長は3.0%以上を提案したもののトランプ大統領は5.0%を要求、最終的にルッテ事務総長も「総額5.0%(国防支出3.5%+軍事インフラとしても活用できる分野への投資1.5%)という高い目標で合意できるだろう」と表明、ドイツ、オランダ、スウェーデン、イタリア、ルーマニア、ブルガリア、ハンガリー、チェコ、スロバキア、ポーランド、エストニア、ラトビア、リトアニアが総額5.0%支持を表明している。

出典:Nicușor Dan
他の国は総額5.0%に対する支持を表明していないものの明確な反対もしておらず、6月末の首脳会談で「総額5.0%基準は合意に至る」という見方が支配的だが、スペインだけは「総額5.0%の達成にコミットする意向はない」と表明し、オランダのショーフ暫定首相は「ロシアがもたらす真の脅威に対抗するには5.0%という目標は不可欠だ」と、フェルトカンプ外相も「この重要性をスペインが認識していることを心から願っている」「スペインの外相に(NATO加盟国としての)連帯感を訴えた」と述べ、スペインに「もう総額5.0%の目標に抵抗するのを止めよ」と促した。
スペインが態度を変えるかどうかは不明だが、6月末の首脳会談に向けて調整が残されている問題は「軍事インフラとしても活用できる分野への投資の中身」と「総額5.0%をいつまでに達成するか」で、前者については加盟国が自由に「これは軍事インフラとしても活用できる分野への投資」と主張すると整合性が取れないため「会計処理の基準が必要になる」と言われおり、後者に関して2028年、2032年、2035年の間で交渉が続いているらしい。

出典:NATO
さらに興味深いのはHelsinki Timesなど複数の海外メディアが「トランプ大統領は金曜日『長年に渡って米国はNATOを支援し、多くの費用を負担してきたためこれ以上の国防費増額には反対だ。しかし米国以外のNATO加盟国は絶対に国防費を増額すべきだ』と記者団に対して述べた」「トランプ大統領は米国が5.0%の達成義務を負うべきではなく、NATOとしての国防支出増額分は米国以外の加盟国で対応すべきだと主張した」と報じている点だ。
米国の国防支出はGDP比3.19%、NATO加盟国全体の国防支出に占める割合も66%で、基準が曖昧な「軍事インフラとしても活用できる分野への投資1.5%」を除くと「国防支出3.5%部分に近い額を既に支払っている」と言えるが、トランプ大統領の発言は「今後も通常予算で国防支出を増やすつもりはない」「バイデン政権時代の支出ラインを今後も維持する」という意味になり、この支出規模ではインフレ率の上昇分を吸収しきれないため購買力ベースで見れば「実質的なマイナス予算だ」と議会に指摘されている。

出典:U.S. Air Force
つまり米防衛産業界にとって米軍発注だけでは収益が悪化するため、米国以外のNATO加盟国が増やす国防支出を取りに行く必要があるという意味になり「パリ国際ショーで見せた米防衛産業企業の動き」とリンクしてくるのが大変興味深い。
因みに国防総省のパーネル報道官は「アジアの同盟国にも欧州と同じ5.0%基準を設定している」「中国や北朝鮮の脅威を考慮すればアジアが欧州に追いつくのは当然だ」と述べているため、日本にとっても6月末に行われるNATO首脳会談の結果は他人事ではなく、特に「軍事インフラとしても活用できる分野への投資に関する会計処理の基準」「総額5.0%をいつまでに達成するか」についてもアジアの同盟国に同じ基準が適用されるだろう。
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※アイキャッチ画像の出典:The White House
うーん🧐 他国に要請しておいて自分はどうなの?
ワイの理解力が低いだけか
他国が軍事費に使わない分をアメリカが肩代わりしてやってるということなんでしょう
自分のことは自分でやれと
トランプは軍事費を削減したがっていますし米軍分はさらに減らされるかもしれないですね
それと引き換えに得ているのが国際通貨の地位なんだけど
小学生が妄想する「美味しいとこどりできるとっても強い大統領」をいい歳してやろうとするトランプさんには
分かってないんでしょうなぁ
別に頼んだわけでもないのに勝手に肩代わりしてやってたみたいな恩着せがましい態度はなんなんだよ
大日本帝國並に軍事費に費やせば納得するのか?
こうなるとアメリカとしては同盟国にアメリカ製兵器の購入を強制してきそうですね
NATO加盟国は最悪アメリカの要求を跳ね除けて米軍の撤退や削減をチラつかされてもアメリカ以外の加盟国同士で協力して対抗出来るかも知れませんが、韓国や日本はそうはいかないのでアメリカの言いなりで装備を購入する必要があるかも知れませんね。
MAGA派の票を考えると、他国防衛のために国防支出を増やすことはできませぬな。
アメリカは、100%インフレ負けしますね。
財政引き締めを優先するのかと言えば、One Big Beautiful Bilで歳入が大幅に減ってしまうなと。
ドル基軸通貨が揺らいでいるという指摘もありましたが、イスラエル=イラン戦争で『有事の円買い』も発生しませんでしたから、日本もなかなか厳しいかもしれませんね。
すでにアメリカは世界最強の軍隊を保有してるわけで、GDP比が低くてもそこは文句つけづらいですね。戦力が圧倒的すぎて。
正直、世界中に駐留とか世界の覇権維持とか考えずに、自国防衛だけを考えるら2,3割削減されてもなお戦力としては十分すぎるレベルですし。
台湾海峡で中国とガチンコ勝負を考えず、オバマ時代に一時期言われたG2で太平洋を分割するのであれば尚更だと思います。
> 国防支出3.5%+軍事インフラとしても活用できる分野への投資1.5%
なんか政治家視点なら(予算こんだけ回さなきゃいけないからと)権力増強出来るから
賛成してるだけじゃないかって疑っちゃいますね
各国の国民賛成してんのかな
支出するなら米国債うった金で買うしかないよ
それでもいいならね
「軍事インフラとして活用できる分野」については基準が必要か。そりゃそうだとしか。
TPP協定のように、議論がまとまる頃には米国が一抜けしそうと思ってはいたが、先手を打って米国は適用外か。さすがに抜かりはない。
本丸の3.5%部分についても、人民解放軍の隠れ国防費とは逆の意味で何でもありになりそう。東日本大震災の復興予算のように、国防費の名目で農水省や建設省が予算取りしたり、「思いやり予算」で基地周辺の学校や病院に投資しますか。
この機会に、後方支援科や施設科を強化して掩体増築したり、海運をフロント企業化して海上輸送力強化したり、重要施設周辺を国有地化したり、正面装備増強に拘らなければ国内に予算還流させる方法はあると思う。ただ、空自が割を食うし、米国がそれを許すか。
あまりに身勝手すぎる。こんなことに付き合うくらいならもうアメリカに頼らないという国も出てくるだろう。NATOが崩壊してEUが軍事同盟化するとかありそうだなあ。日本の場合、東南アジア諸国と同じようなことが出来たらと思うが、難しいだろうなあ。
アメリカに頼らないなら5%でも足りないだろ
増額分は有事の際の移動に活用出来るから高速道路や将来の自衛隊員となる子供達に使おうぜ
まあ米国が持ってる戦力を当てにしてるのは間違いないが、言い方よ、、、
現状の空母艦隊や原潜部隊を維持管理し、同盟国の戦時に強力な味方になるってとこをアピールすれば大分変わるだろうに
日本も自国投資枠とか各国向け上限枠設定して防衛予算増やしてもFMSやライセンス生産で米国に金は渡さないって意思表示すべきなのか
反米国家が増えそう