米国関連

米国製兵器の納入遅延リスク、米国が中東諸国に武器の緊急売却を承認

欧州やアジアでは米国製兵器の納入遅延に対する懸念が広がっている中、米国が再びアラブ首長国連邦、カタール、クウェート、イスラエルへの武器の緊急売却(総額86.3億ドル)を承認し、APKWS-II、PAC-2 GEM-T、PAC-3 MSEの納入順位変更の可能性が浮上してきた。

参考:United Arab Emirates – Advanced Precision Kill Weapons System
参考:Qatar – Patriot Missile Replenishment
参考:Qatar – Advanced Precision Kill Weapons System
参考:Kuwait – Integrated Battle Command System
参考:Israel – Advanced Precision Kill Weapon System
参考:US clears $8.6 billion arms sales to Middle East countries, ‘waiving’ congressional review

APKWS-II、PAC-2 GEM-T、PAC-3 MSEの発注国は納入順位の変更に戦々恐々だろう

米国務省は3月「アラブ首長国連邦にAIM-120C-7またはAIM-120C-8を400発売却する可能性(推定費用12.2億ドル)を、F-16向けとしてGBU-39/Bを1,500発、Mk-84向けJDAMキットを900セット、BLU-109向けJDAMキットを300セット売却する可能性(推定費用6.44億ドル)を、THAADと連携する長距離レーダーや関連機器を売却する可能性(推定費用45億ドル)を、拠点防衛用の対ドローン迎撃システム(FS-LIDS)を10セット売却する可能性(推定費用21億ドル)を承認した」と発表。

出典:RTX

さらに「クウェートに低層向け防空ミサイル用レーダー=LTAMDSを8基売却する可能性(推定費用80億ドル)を承認した」と発表し、上記5件の有償軍事援助(総額164.64億ドル)について「国務長官は緊急事態が存在し『即時売却することが米国の国家安全保障の利益に合致する』と判断した」「詳細な理由を提示したため武器輸出管理法第36条(b)に基づく議会審査の要件が免除された」と説明しており、これは欧州への米国製兵器供給が大幅遅延する要因の1つと考えられてきたが、トランプ政権は再び議会審査を迂回する武器売却を発表した。

米国務省は5月1日「アラブ首長国連邦にAPKWS-IIを1,500発売却する可能性(推定費用1.4億ドル)を承認した」「カタールにパトリオットシステムの迎撃ミサイル=PAC-2 GEM-Tを200発、PAC-3 MSEを300発売却する可能性(推定費用40.1億ドル)を、APKWS-IIを1万発売却する可能性(推定費用9.9億ドル)を承認した」「クウェートに次世代統合防空向けの指揮統制システム=IBCSを6セット売却する可能性(推定費25億ドル)を承認した」「イスラエルにAPKWS-IIを1万発売却する可能性(推定費用9.9億ドル)を承認した」と発表。

出典:BAE Systems

上記5件の有償軍事援助(総額86.3億ドル)について「国務長官は緊急事態が存在し『即時売却することが米国の国家安全保障の利益に合致する』と判断した」「詳細な理由を提示したため武器輸出管理法第36条(b)に基づく議会審査の要件が免除された」と説明しており、APKWS-IIの生産量は年2.5万発以上なので余裕そうに見えるものの、2025年8月にロット13~ロット17の5年分として最大55,000発(米陸軍、米海軍、米空軍、米海兵隊、ポーランド、チェコ、バーレーン、シンガポールなど)の契約が締結されている。

この契約の初回発注=約11,000発の大部分を占めるのがポーランド発注分(7,058発)で、この他にも英国、サウジアラビア、エジプト、ヨルダン、イラク、レバノン、オーストラリアなどからの需要分もあり、ここに緊急承認で21,500発の需要が差し込まれ、仮にアラブ首長国連邦、カタール、イスラエル向けのAPKWS-II納入が優先されると他の国への納入は遅延するだろう。

出典:NATO Support and Procurement Agency

PAC-2 GEM-Tの生産量も2027年に年420発を予定しており、この生産枠をNATO発注の計1,000発、ドイツ発注のウクライナ向け推定672発、カタール発注の200発が奪い合う格好で、Lockheed Martinは2026年1月「PAC-3 MSEの生産能力を年600発から年2,000発に増強する」と発表したが、これを達成するにはサプライチェーンの生産能力から強化しなければならず、年2,000発の生産率を達成するのは7年後=2033年頃の話だ。

既にPAC-3 MSEには現状の生産能力を超える発注(推定数千発+2027会計年度予算が原案通り成立すると3,203発追加)が集中しており、ここに緊急承認で300発の需要が差し込まれ、仮にカタール向けのPAC-3 MSE納入が優先されると他の国への納入は遅延するはずで、有償軍事援助の納入遅延に関する補償はなく、納入遅延により生産コスト増分はそのまま納入遅延国に請求される。

出典:Lockheed Martin

ちなみにスイスは2019年に20億フランでパトリオットシステムを発注したが、米国からウクライナ向けを優先するため4年~5年の納入遅延を通知され、Defense Newsは「取得コストが最大50%上昇する可能性があるとスイスは試算している」と報じており、取得コストが上昇する要因の1つにはPAC-3 MSEの需要による価格上昇やインフレ率が関係しているらしい。

とにかく生産枠は需要に追いついておらず、特に精密誘導兵器の生産は固体燃料ロケットモーターと誘導装置の電子部品の供給を奪う状況なのでAPKWS-II、PAC-2 GEM-T、PAC-3 MSEの発注国は納入順位の変更に戦々恐々だろう。

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※アイキャッチ画像の出典:BAE Systems

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コメント

  • コメント (10)

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    • 無印
    • 2026年 5月 05日

    APKWS-IIって類似品作るのにそんなに手間かからなさそうなのに、アメリカからこんなに導入してるって事は、意外に作るのが難しいのだろうか?
    類似品の開発を始めても、誘導装置の電子部品の出所が同じなら、結局供給不足に当たってコスト増になるのだろうか

    3
      • 航空万能論GF管理人
      • 2026年 5月 05日

      自前で作っても統合するプラットフォームがないと意味がないです。米国は自国製戦闘機への独自兵器や類似兵器統合にとにかく渋いです。逆に欧州製戦闘機は米国ほど独自兵器や類似兵器統合を拒否しない印象です。

      21
    • あるまじろ
    • 2026年 5月 05日

    戦争中の国家に対する供給が優先されるのはわかる。
    イランの無差別攻撃に対するシールドだから、石油の安定供給にも意味と恩恵がある。
    でもその費用増加分は、顧客持ちっていうのは流石にやり過ぎ。

    23
    • せい
    • 2026年 5月 05日

    まあ米国がそうするんなら仕方ない
    欧州からアジアまで米国に依存してたツケとでも思って、今後の兵器製造や貯蔵への教訓にするしかないね
    米国がこういう事になると、尚更にGCAPの重要度が上がると思うんだけど、イギリスさんはどうするんやろ?

    28
    • あばばばば
    • 2026年 5月 05日

    日本もパトリオット3に関してライセンス生産をしているわけだが、この問題は例外ではない。
    なぜなら、弾の全てを生産している訳ではなく、シーカーなどの部品を輸入しているのである。
    シーカー生産の追加レーンが動き出すのは、予定では来年(納入は再来年?)からで、予定通りに行くかは分からない。(155mm砲弾の製造をみながら)

    12
    • 58式素人
    • 2026年 5月 05日

    色々と足りなくなる様子だけれど。
    日本国産の物で、APKWS相当品はあったかしら?。
    ハイドラ70は、ライセンスしている様子だけれど。

    6
    • YF
    • 2026年 5月 05日

    ここ近年のアメリカ動きを見て思うのは
    日本の5類型撤廃、改もがみ型の輸出、アメリカ製ミサイルの共同生産、アメリカに頼らない戦闘機開発
    韓国の欧州での兵器輸出の躍進
    アメリカが製造能力の減少、開発の失敗、兵器の高性能化と高価格による生産数の少なさ等をカバーするために日韓に
    その役割の一部を担わせようとしてるのかなとも思います。

    4
    • たむごん
    • 2026年 5月 05日

    中東情勢、まだまだ緊迫してますね。

    ギラッド・コーヘン大使が日本のメディアに『日本=イスラエルは、アメリカの同盟国として競合している』こういった趣旨で説明されたことがあります。

    アメリカの同盟国間は平等ではなく『アメリカの関心・軍事資源をどれだけ振り向けて貰えるのかの外交戦』これが常々続いているわけですから、そこを忘れないのが重要なのでしょうね。

    4
      • ponta
      • 2026年 5月 06日

      アメリカはイラン相手に1ヶ月で弾薬在庫を半分使った。これは中国を相手にするには過少。なので日本は既にアメリカのリソースをウクライナやイスラエルと取り合う関係にはないと。
      仮に全アメリカ戦力が東アジアに来ても、中国相手にはならないのが明白

      2
        • たむごん
        • 2026年 5月 07日

        弾薬在庫では、仰る通りかもしれません。

        台湾に、エイブラムスが最終28両(全108両)引き渡しが4月末に報道されています。
        台湾陸軍の戦車も、旧式化が進んでいましたが、アメリカが極東に絡むことで非常に強化されました。

        中国目線で見れば、台湾単独で見れば何とかなりそうですが、アメリカが絡むと非常に嫌だと思いますよ。

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