米国関連

米SandboxAQ、妨害を受けない地磁気ナビゲーションシステムを発表

米国のSandboxAQは25日、妨害を受けない新しいナビゲーションシステム「AQNav」を正式に発表、このシステムは独自のAIアルゴリズム、強力な量子センサー、地球の地殻磁場を活用した地磁気ナビゲーションシステムで既に航空機よるテストが始まっている。

参考:SandboxAQ Announces AQNav – World’s First Commercial Real-Time Navigation System Powered by AI and Quantum to Address GPS Jamming
参考:SandboxAQ launches navigation system to counter GPS spoofing, jamming
参考:Ground system for jam-resistant GPS delayed again to July 2025 at earliest, Pentagon tester says

Mコードが実用的になるよりもAQNavの実用化が早い可能性がある

GPSを使用する精密誘導兵器や航法ナビゲーションは戦場で使用される電子妨害によって効果を失いつつあり、対抗技術や代替技術の開発に注目が集まる中、米国のSandboxAQが新しいナビゲーションシステム「AQNav」を発表して注目を集めている。

SandboxAQは「GPS信号の妨害に対応するためAQNavを正式に発表する」「AQNavは独自のAIアルゴリズム、強力な量子センサー、地球の地殻磁場を活用した地磁気ナビゲーションシステムだ」「米空軍は昨年1月に地磁気ナビゲーションを使用するシステム開発を発注し、2023年5月までにAQNavは最初の飛行テストを完了した」「既にAQNavは4種類以上の異なる航空機に搭載され計200時間以上の飛行時間(米空軍、ボーイング、エアバスによるテストを含む)を記録している」「この技術によって世界の空軍と航空会社は妨害されない安全なナビゲーションシステムを手に入れた」と言及。

AQNavは地殻磁場からデータを取得するため極めて感度の高い量子磁力計を使用、このデータを独自のAIアルゴリズムが磁場マップと比較することで位置を特定するため、位置取得に影響を与える干渉を排除することができ、GPS信号が受信できない地下や水中でもAQNavは作動するらしい。

出典:U.S. Air Force photo by Airman 1st Class Gracie I. Lee/Exercise Mobility Guardian

因みにSandboxAQはプレスリリースの中で「米空軍がAQNavの開発に関与している」「他の同盟国政府、大手航空企業、航空宇宙産業界のトップリーダーがAQNavの開発に協力している」「南カルフォルニアで実施されたExercise Golden Phoenix(軍と民間による防災訓練)や米空軍が主催するExercise Mobility Guardian(複数の同盟国が参加する軍事演習)でAQNavがテストされた」とも明かしているが、いつAQNavが実用化されるのかは不明だ。

追記:米空軍はロシア軍や中国軍のスプーフィング攻撃や妨害電波に晒されているGPSの問題を解決するため、2009年までに「Mコード」と呼ばれる新しい信号に対応したGPS衛星BlockII RMを計8基打ち上げたのだが、レイセオンがMコードに対応した次世代運用制御システム(GPS OCX)の開発に手間取り、2016年に予定されていたサービス開始は2023年4月にずれ込み、開発コストも37億ドル→62億ドルに高騰。

出典:public domain GPS衛星BlockII RM

そのため米空軍は現行の制御システムを暫定的にMコードへ対応させること決断、この作業を受注したロッキード・マーティンの努力によって暫定バージョンの「M-Code Early Use」が2020年3月に承認され、同盟国向けのMコード対応受信機も2021年3月に出荷が始まっているものの、これは同盟国がMコードをテストするためのもので実用性は非常に限られている。

DOT&Eのレポートによると「軌道上にある31基のGPS衛星からMコードを送信できる環境が整っているが、OCXの問題やMコードを受信できる受信機不足のせいで限られた軍人しか利用できない」と、GAOもレポートの中で「宇宙軍は既存のプラットフォームでMコードを受信できるようにする専用機器の開発を進めているが、この取り組みも遅れている」と指摘、GPS OCXのIOT&E=初期運用テスト&評価も2023年8月→2024年第4四半期、さらに2026年度へ延期されているため、Mコードが実用的になるのは相当先の話だ。

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※アイキャッチ画像の出典:SandboxAQ

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コメント

    • ふむ
    • 2024年 6月 26日

    つまり…弱点考えるならポールシフトの発生中とかになるんですかね?(心配性)>地球の地殻磁場を活用

    2
    • たむごん
    • 2024年 6月 26日

    太陽フレアの影響は気になりますが、技術の進歩は非常に興味深いですね。

    対抗する技術も生まれてくのか、注目したいと思います。

    7
    • nachteule
    • 2024年 6月 26日

     安価なワンチップGPSみたいな物があるからこそのGPS誘導兵器の普及が進んだと思うが、これってサイズや価格的にどうなんだろうな。初期GPSみたいな小型化や安くなるような漢字を受けないんだけど。

    9
    • MK
    • 2024年 6月 26日

    使い捨て兵器に搭載されるのは相当先になりそうですね~

    • Easy
    • 2024年 6月 26日

    コンセプト的に面白いし、地球磁気は弱い割に天文学的に巨大なので意外と妨害が難しい、という原理的な強みはよく分かるのだが。
    航空機への実装はともかく、GPSを置き換えるほど他の小型機器に搭載出来るようになる未来がちょっと想像しにくい・・・
    および、外部撹乱には強いかもしれないが、内部の磁場発生源の撹乱を強く受けるので、配線のシールドが大変そう。

    9
    • 折口
    • 2024年 6月 26日

    昔習ったっきりで記憶が不確かですが、地磁気って緯度に基づいて均一に決まるものではなく地形や地殻変動の痕跡やプレート構造でかなり歪むものだったと記憶しています(地盤が磁鉄鉱だったりするとえらいことに)。つまりこのシステムであれば事前にいかに正確な地磁気マップを作っておけるかが鍵なのでしょう。宇宙から観測できるなら良いのかもしれませんが、地磁気って送電網や鉄道といった人間の施設が出す磁場に比べて弱いものなので、戦場になりそうな敵対国の領域で精密な地磁気マップを作るのは大変そうな気がします。まあ、自国領域で作っておくだけでも大きな価値はあるでしょう。

    11
      • 58式素人
      • 2024年 6月 26日

      ”このデータを独自のAIアルゴリズムが磁場マップと比較することで位置を特定するため”
      この文脈からすると、少なくも、米軍の行動している範囲の地磁気マップは既にあったりして。
      軍事技術の存在の開示には、常にタイムラグがあるでしょうし。

      5
        • paxai
        • 2024年 6月 26日

        国土地理院で日本の地磁気図が公開されてた。日本すらやってるならアメリカもやってるやろなあ。択捉島まで調べてるけど一体どうやったんだ・・・

        6
      • kitty
      • 2024年 6月 26日

      ミノフスキー粒子じゃないけど、この原理だと妨害装置の製作も簡単そうな気が。

      1
        • 774
        • 2024年 6月 26日

        磁石を広範囲に撒いたら妨害できるのかな?

        1
    • iops
    • 2024年 6月 26日

    段々地上でも対潜水艦戦みたくなってきましたね

    3
    • 765
    • 2024年 6月 26日

    ちょうど1年ほど前にC-17に積んで実験していましたね
    サイズはこれくらいだそうなので、車両や航空機ならともかく砲弾やミサイルだとまだまだ先でしょうね
    リンク

    2
    • イーロンマスク
    • 2024年 6月 26日

    これは半分冗談なのだけど地上における潜水艦戦とはつまり地中にあたるので
    掘削装置が戦車みたいな役割を果たすようになると思ってる

    • 犬の〆
    • 2024年 6月 26日

    地磁気って年間50kmくらいのスピードで移動してるって前にどっかで読んだことあるけど、こういう差分も吸収できるシステムなのかな?
    もちろん、運用テストをしてるくらいだから実現可能なんだろうけど、またあれやこれや機能や要望を追加して使い物にならなくなるのかな?

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