米国関連

ウクライナ提供で激減したスティンガー、生産量を2025年までに50%増

米陸軍の報道官は「2025年までにスティンガーの生産を月60発に増やす予定だ」と明かしたが、この生産量でウクライナ提供分(推定4,000発前後)を埋め戻すに相当な時間を擁するだろう。

参考:Stinger missile production to rise 50% by 2025, US Army says

現在の生産量は月40発=年間480発で「2年後の2025年まで生産量を年間720発に引き上げる」という意味

ウクライナに提供されたスティンガーの数は最低でも2,600発以上(米国1,600発以上、ドイツ500発、デンマーク300発、オランダ200発)で、英国、イタリア、ラトビア、リトアニアといった国も「スティンガーを提供した」と表明しているため、仮に上記の国が300発づつ提供しているならウクライナに提供されたスティンガーの総数は4,000発前後と推定され、各国は備蓄分を埋め戻すため動いている。

出典:U.S. Army photo by Staff Sgt. John Yountz

米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)は「レイセオンが年間720発まで生産量を引き上げるのに2年のリードタイムが発生し、保有するスティンガーの1/4相当をウクライナに提供した米軍は備蓄分を埋め戻すのに最低でも5年(同盟国分の発注も含まれるため年間生産量の全てを米軍に回せない)はかかる」と予想していたが、米陸軍の報道官は「2025年までにスティンガーの生産を月60発(50%増)に増やす予定だ」とジェーンズに明かした。

つまり現在の生産量は月40発=年間480発で「2年後の2025年まで生産量を年間720発に引き上げる」という意味になり、CSISが予想したとおり米国や同盟国は備蓄分を埋め戻すに相当な時間を擁するだろう。

出典:Дмитрий Медведев

因みにレイセオンのヘイズ最高経営責任者は昨年末「約10ヶ月間の戦いでウクライナ軍は13年分のスティンガーを使い切った」と述べて注目を集めたが、ここまで携帯式対空ミサイルの消耗が激しいのは有人機との交戦だけでなく「低空の戦い」が激しいためで、つまり前線を飛び回る無数の商用ドローンやミリタリーバージョンの無人機を放置すると敵砲兵に狙われるため携帯式対空ミサイルが多用されているからだ。

ただ携帯式対空ミサイルを使用した無人機迎撃はコスト的に釣り合わない上、スティンガーは年間480発~720発しか供給されないため現在のペースで消耗すれば各国は備蓄分が尽きるか、提供を制限しなければならなくため安価な迎撃方法(実弾系の対空砲や電子妨害系のカウンター・ドローンシステムなど)に切り替える必要があり、低空でも空中消耗戦が発生しているのかもしれない。

関連記事:世界初の空中消耗戦に挑むウクライナ、戦闘機提供は勝利の助けにはならない
関連記事:ウクライナ支援で減少した米軍備蓄、ジャベリン7,000発の補充に最低でも3年
関連記事:ロシアの武器製造が止まらない理由、制裁を回避する物流ルートの存在

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Marine Corps photo by Lance Cpl. Rachel K. Young スティンガー

スペインがレオパルド2A4を春までに提供、西側は計321輌の戦車をウクライナに提供か前のページ

英空軍高官、現時点でウクライナへの戦闘機提供は優先順位が低い次のページ

関連記事

  1. 米国関連

    戦闘機に搭載する兵器コスト、無誘導爆弾なら40万円、AIM-120Dなら1億円

    中々、知る機会の少ない航空機が搭載する空中発射兵器の調達単価を「The…

  2. 米国関連

    米国がHIMARS提供を正式発表、ドイツに続き英国もMLRS提供を表明

    予告していた通りバイデン政権は米国製の多連装ロケットシステム「HIMA…

  3. 米国関連

    米海軍が直面する厳しい現実、造船業界に攻撃型原潜を増産する余裕はない

    米海軍は2022年以降に攻撃型原潜の保有数が減少に転じるという危機を乗…

  4. 米国関連

    米シンクタンク、米国が提供する核の傘で韓国を安心させるのはやめよう

    米国のシンクタンク「ケイトー研究所」でシニアフェローを務めるダグ・バン…

  5. 米国関連

    開発予算の超過もなく予定通りに進捗、F-35を批判する軍事委員長も称賛するB-21の開発状況

    米空軍の地球規模攻撃軍団(AFGSC)で司令官を務めるティモシー・レイ…

  6. 米国関連

    多くの人が集まる場所に近づくな、米国大使館がロシア国内でのテロ攻撃を警告

    ロシアの米国大使館は20日、ロシア国内でテロ攻撃の脅威が高まっていると…

コメント

    • 774rr
    • 2023年 1月 28日

    シャヘドとかオルラン10とかならともかく
    普通の民生用ドローンみたいなのにも遠慮無くスティンガー使ってるのん?
    ブローニングさんのM2とかじゃ落とせないのかな
    空中での見越し射撃がし易くなるスマートスコープ的なのを開発出来ればワンチャンある?

    3
      • エニグマ軍曹
      • 2023年 1月 28日

      過去にバレットが対ヘリコプター用にブルパップのM82を開発して、採用はされなかったけど民間に出回ってからYouTubeに上がってますよね。それに光学機器のっけるだけでも相当戦力になるだけでなく、コスパもいいんじゃないですかね。M2の限界は反動が強すぎてただ車に載っけてるだけじゃ(RWSでなく手動での射撃だと)飛行物体に当てられるわけないかる威嚇にしかならず、特に無人機にはなんの効果もない、少なくともワンチャン撃ち落とせるかもってだけってとこですかね。

      3
        • 774rr
        • 2023年 1月 28日

        スコープつけてもワンチャンしか無いか。。。残念

        やっぱRWSやね
        高機動車から戦車にまで対応する汎用性の高い 車両側の規格に依存しないのを作って
        何にでも載せてく位しなくては

        1
      • 58式素人
      • 2023年 1月 28日

      対空兼用のRWSに装備なら、ワンチャンではなく確実かと思います。
      素人はミニガンならばもっと良いのではと思っています。
      1連射50発くらいでドローンを落とせたら良いなと思っています。

      2
        • 名無し
        • 2023年 1月 28日

        小火器は射程が短いから、RWSを数百メートル間隔で「敷き詰めないと」射程に漏れが出るのよ。
        だから、部隊の防護有効でも、都市防護目的だと数が厳しい。(1基のS300で半径100キロ防護する地域でも、半径1キロ有効なRWSだと、直径分、100基が最低でも必要、しかも中高空飛ぶ飛翔体には無力、みたいな感じ。)
        都市はデカすぎ・数も多すぎて、困る。

        10
          • 58式素人
          • 2023年 1月 28日

          目標と目標の状態によって使い分けですね。

          3
          • 2023年 1月 28日

          小火器類の射程の短さを補うための機動性、都市・拠点防衛のための滞在性、RWSを使用するための高度に機械化済みの兵器…
          戦闘ヘリが対UAV防空システムとしてジャストフィットしますな

          自国内で使用する限り対空兵器にネガティブな部分は無視出来ますしね

          1
            • 58式素人
            • 2023年 1月 29日

            Shahed-136は高度50mを飛ぶそうなので、
            都市部での迎撃となると、迎撃機には難しい対象ではないかと。
            機関砲を下向きには撃てないし、水平に撃つには自分も50mまで
            下がらないとですね。自分も危険になります。
            さらに、相手は秒速50mほどで飛ぶので、難易度は高い思います。
            他方、野戦ではおっしゃる通りと思います。
            Orlan-10は良い的にできるのでは。

            1
    • キレネンコ
    • 2023年 1月 28日

    Orlan-10にしてもShahed-136にしても一機1万ドル前後して決して安くはないんだけどな (manpadや対空システムとは比べられないけど)
    イランとロシアのUAV供給だって そうポンポンとできるもんでもないと思うんやが

    こっち側からはロシアの兵站事情かあまり見えんから西側の「足らぬ足らぬ話」に目がいきがちになる

    取り敢えず対空ミサイルの安定供給の実現を切に望む

    あくしろよ(豹変)

    15
    • おわふ
    • 2023年 1月 28日

    ウクライナ戦に間に合うかはともかく、早く安価なドローンに対応したRWSを開発しないといけませんね。
    これからの装甲車両には必須になるかも。
    もう同軸あればokなんて言ってられません。

    10
    • 鼻毛
    • 2023年 1月 28日

    ウクライナに直売せずとも世界的な品薄で日本国産のMANPADSも需要がでてくるのでは。そのためには政治的なあれこれが障害になると思われるので政治家さんに調整とか法整備がんばってほしいですね

    9
      • 2023年 1月 28日

      だが増産しようにも半導体足りないけどね。
      という事情を知ったこのタイミングでTSMCが熊本に工場を作るのは色んな意味で勘ぐってしまう。
      あと俺のアクアの増産はよ

      13
      • トーリスガーリン
      • 2023年 1月 28日

      誘導弾自体は損耗補充用に作ってるんでしょうけど、91式も93式もここ10年以上調達してないんで東芝が発射機の生産体制維持してるのか疑問
      JUDGITで調べると誘導弾の取得でタレスジャパンが91式Bに対して何かしら能力向上やってるんで発射機にも手が入ってはいるみたいですが…
      >・計画どおり携帯地対空誘導弾を調達し、所要の部隊に配備する。(元年度) ・携帯地対空誘導弾の部品を調達し、その能力を向上する。(2年度)
      リンク

      3
    • panda
    • 2023年 1月 28日

    対ドローンはレーザー兵器が本命でしょうか
    ランニングコスト、実弾と違って地上に被害が及ばないといった利点があります

    イニシャルコストは高いかもしれませんが

    13
    • TKT
    • 2023年 1月 28日

    今のロシア軍のヘリコプターや、Su-25のような襲撃機の多くには、画像誘導式のスティンガーの命中を回避するための指向性赤外線妨害装置である
    「プレジデント-S( L-370 ヴィーツェプスク)」
    が装備されていると言われます。Ka-52なども装備していると言われます。

    なので、ウクライナ軍が発射したスティンガーの多くは、ロシア機が搭載するプレジデントーSによる赤外線妨害によって、当たらない、命中していないのかもしれません。ウクライナ軍のスティンガーの消耗が激しいのはプレジデントSのせいもあるかもしれません。

    4
      • ななしの
      • 2023年 1月 28日

      今年の1月1時点で視覚的に確認されたka-52の撃墜数は30、トータルのロシア側ヘリコプターの撃墜数は74。
      被害の半数近くを担当してるので装置の性能は大したことないようですね。
      ロシア空軍のka-52の運用数は侵攻前の時点で約90と言われており、既に3分の1が撃墜されたことになります。

      後、スティンガーは赤外線誘導なのでいわゆる画像誘導式ではありません。

      17
      • VRTG
      • 2023年 1月 28日

      ロシア製兵器が謳い文句通りの性能なら既にウクライナ全土を占領しているでしょうね。

      それはさておき。
      プレジデントSの初公開が2010年、イグラを使った試験が2015年とされています。
      クリミア危機(2014)以降の小競り合いでは秒間500程度の周波数ホッピングを封殺してくるなど高度な電子戦能力を持っているという話がありましたが、今回の戦争では影も形もありません。
      ロシア半導体産業の能力不足と経済制裁により製造不能になった兵器は少なくないようですが、プレジデントSの場合は製造不能か性能不足か、どちらでしょうかね。

      9
      • 匿名
      • 2023年 1月 28日

      かもしれない。
      かもしれない。
      かもしれない。

      7
    • VRTG
    • 2023年 1月 28日

    現在の日産2基くらいだとラインを組まずに手作業での製造なんで効率は良くないんですよね。
    今後防空兵器の需要は大幅に拡大するでしょうが、ラインを組むべきかというと、開発中のドローン対応防空兵器と競合するのが目に見えているわけで。
    スティンガーの生産量に限れば、この程度の増強で様子を見るってところでしょうか。

    4
      • hiroさん
      • 2023年 1月 28日

      組立が手作業なら、人員増(訓練期間は必要だけど)で増産は可能だと思う。
      部品加工とか電装品のASSYとか何らかのボトルネックを解消するのに2年かかるのかも知れないけど、レイセオンの費用対効果が主要因では?
      企業としてはあながち間違いでは無いが、F-16の増産のニュースを見ると何だかもやもやする。

    •  
    • 2023年 1月 29日

    在庫が減った分中国に利するんだから考えてほしいもんですねえ。
    この4000発が台湾に渡されていればどれほどよかったことか。

    7
  1. この記事へのトラックバックはありません。

  1. 欧州関連

    アルメニア首相、ナゴルノ・カラバフはアゼル領と認識しながら口を噤んだ
  2. 日本関連

    防衛装備庁、日英が共同で進めていた新型空対空ミサイルの研究終了を発表
  3. 米国関連

    米海軍の2023年調達コスト、MQ-25Aは1.7億ドル、アーレイ・バーク級は1…
  4. インド太平洋関連

    米英豪が豪州の原潜取得に関する合意を発表、米戦闘システムを採用するAUKUS級を…
  5. 中国関連

    中国は3つの新型エンジン開発を完了、サプライチェーン問題を解決すれば量産開始
PAGE TOP