米軍関係者はウクライナとロシアの戦争から教訓を得て「1度しか使用できない安価な無人機を開発して欲しい」「1万ドルの自爆型無人機が欲しい」と防衛産業界に呼びかけていたが、国防総省のDefense Innovation Unit(DIU)は片道飛行の長距離プラットフォームに関する入札を開始した。
参考:Pentagon taps commercial vendors for low-cost, throwaway drones
参考:Russia’s Shahed-type drones are losing their bite in Ukraine
効率化と省力化が求められている西側諸国の軍隊で同じことが(平時に)出来るかは謎だ
軍事利用されるプロペラ推進の無人機について「低レベルな紛争向け」「正規軍同士の戦いには通用しない」「高度な防空システムの保護を突破することはできない」という評価が一般的だったが、有人機と比較してサイズの小さい無人機は低観測性に優れ、弾道ミサイルや巡航ミサイルよりも調達コストが安価なため量を揃えることができ、ウクライナとロシアは自爆型無人機を使用して互いの軍事施設やインフラを攻撃し合っている。

出典:IMA Media 演習に登場したShahed-136
特にイラン製自爆型無人機=Shahed-131/136の大量使用(もしくは他の攻撃手段との併用)は防空能力やリソースに無視できない影響をもたらし、CNNは2023年1月「安価なイラン製自爆型無人機でウクライナのインフラ破壊に成功したことに関係者が注目している」「米軍関係者は1度しか使用できない安価な無人機を開発して欲しいと防衛産業界に要請している」「1万ドルの自爆型無人機を望んでいる」と報じていたが、国防総省のDefense Innovation Unit(DIU)は片道飛行の長距離プラットフォームに関する入札を開始した。
DIUは片道飛行の長距離プラットフォームについて「低コストで片道飛行タイプの無人機が戦場に及ぼす非対称な影響が浮き彫りになった」「信頼性が高く、適応性に優れ、手頃な価格で大規模運用が可能な長距離プラットフォームは米軍の柔軟な運用性を高めるのに役立つ」「迅速に発射可能で、低高度を飛行し、様々なペイロードを搭載でき、DDIL(Disconnected、Disrupted、Intermittent、Limited)及びGNSSが拒否された環境下で見通し通信の距離を越えて運用できる地上発射型の商用技術(飛行範囲は50km~300km)を求めている」と説明し、この入札に提案されたシステムは12月にデモンストレーションを実施する予定だ。

出典:Tasnim News Agency/CC BY 4.0
DIUの説明を要約すると片道飛行の長距離プラットフォームに求められている最低要件は「通信やGNSSが妨害された環境下で10kgのペイロードを50km離れた地点まで運搬できる能力(理想は25kgのペイロードを300km以上離れた地点まで運搬できるプラットフォーム)」で、Shahedのように1,000kmを超える飛行能力は求められてない。
さらにDIUはDefenseNewsの取材に「片道飛行の長距離プラットフォームは攻撃任務用だが、電子戦、ISR、戦術通信の中継に対応できるシステムにも関心がある」「ベンダー固有のライセンスが必要な独自インタフェース、フォーマット、ハードウェアの使用は許可しない」と述べ、調達コストについても「1機あたりも取得コストではなく達成できる効果のコストに重点を置く」「100万ドルのプラットフォームと10万ドルのプラットフォーム10個が同じ効果を生み出すなら効果あたりのコストは同じだ」とも述べている。

出典:U.S. Army photo by Sgt. Alexandra Shea
因みに米軍のマコンヴィル大将はウクライナとロシアの戦争について「安価でシンプルな技術がインパクトを残せると証明した。高度な防空システムを『隙間のない壁』のようにイメージして『脅威はこれをすり抜けることが出来ない』と考えるかもしれないないが、実際にはこれを回避する方法もあるし突破する戦術もある」と指摘したことがあり、戦場には利用されてこなかった隙間が沢山存在し、このギャップを単一の対抗手段でカバーすることは困難なのだ。
ウクライナ軍は移動式のEWシステム、ZU-23-2、ゲパルト、スティンガー、イグラ、APKWSなどで構成された機動性の高い機動射撃部隊を組織、これを張り巡らした早期警戒ネットワーク(レーダー、光学センサー、音響センサーなど)と組み合わせることでShahedの攻撃に対抗、DefenseNewsに寄稿しフェデリコ・ボルサリ氏も「十分に多重化された対抗手段と訓練を受けた人員があれば片道飛行の長距離プラットフォームに対抗可能だ」「過去6ヶ月間の迎撃率は平均80%だ」「片道タイプの無人機に対抗する技術は既に存在する」「問題は優先事項の多い中でこの分野に投資できるかどうかだ」と指摘。

出典:Генеральний штаб ЗСУ
但し、Shahedの有効性が低下しても脅威は低下しておらず、ボルサリ氏は「対抗技術があっても片道飛行の長距離プラットフォームがもたらす脅威を過小評価するのは間違いだ」「目標到達前に撃墜されても敵防空システムの位置が暴露され、迎撃手段のリソースを枯渇させ、別の地域で使用できる防空リソースを吸い上げる効果がある」「仮に少数の機体しか目標に到達できなくても重要なインフラに命中すれば深刻な破壊をもたらすかもしれない」「この種の無人機は他の長距離攻撃兵器と組み合わせた飽和攻撃において劇的に効果が増加する」とも述べているのが興味深い。
ウクライナ方式の欠点は単一システムのカバー範囲が狭く、広大な領域を守るためには数=大量のシステムと人員が必要で、効率化と省力化が求められている西側諸国の軍隊で同じことが(平時に)出来るかは謎だ。
関連記事:現代戦に大きな影響をもたらしたウクライナ侵攻、米軍も1万ドルの自爆型無人機を要望
※アイキャッチ画像の出典:U.S. Marine Corps photo by Lance Cpl. Chase W. Drayer
平時に、生産基盤・サプライチェーンを構築しなければ、戦時増産はすぐにできません。
自爆型無人機は、ウクライナ戦争・ガザ戦争関連の戦訓を見れば、充分に価値のある装備と言えるでしょう。
米海軍も、フーシ派からの攻撃を紅海で受けた時に、防空ミサイル消費を強要されているため、戦訓として考えたのかもしれませんね。
(2024.01.19 安価な無人機やミサイルの迎撃コスト問題、米海軍も紅海でジレンマに直面 航空万能論)
戦争のつまりところコスパだし
軍隊の最大の敵は予算
米軍やソ連軍の最も脅威だったのは兵器の質よりも数だったしな
日本も数十万で作れる自爆ドローンを量産できるようにしておくべきだろう。
「まだ」日本には工業力生産力が残っている、今手を付けないと大変な事になる気がする。
とはいえ、日本はアメリカと強制二人三脚なので、勝手に自分で歩くのは許されていないという。
でも、どうせ作るなら、簡単な技術で大量に揃えられるものがいい。例えば昔トヨタやホンダが作ってた「壊れなくてコスパが良くて安い」自動車みたいなものが一番かも。作ろうと思えば作れるんだけどなあ。。。なんで。。。
日本の40年前の家電はいまだにノーメンテで現役です
扇風機、ストーブ、冷蔵庫、ビデオデッキ・・・
動くのだからそりゃ新しいものは買いませんw
ウクライナがロシアの弾薬庫破壊に使用している巡航ミサイルもどきではなく
米国の無人機はもっと軽量で短距離のものでいい、ということですか
DIUの要求スペックで実用化されれば、米国版ランセットと呼ばれそうな。
安いの出来ました!(中国製)はネタとして。
米政府は100%USA製にしたいんだろうけど別にインド製ぐらいならいいんじゃないですかね?
iPhoneもインドで生産してるしさ。ウロも中国製使いまくりだしさ。そうでもないと1万ドルの壁は難しいんじゃないかなって。
実際に火薬原料ニトロセルロース、その材料のコットンリンターが中国依存激しいので洒落で済まない気もするのですよね…
自国生産するにしてもコットン生産できるだけの水は用意できるのか、地下水枯渇は大丈夫なのかと
開発スピードと、現場の声?を反映させる柔軟性がドローンには重要になりそう
あとは精密さとコストとのバランスが大事?
ドローンといってもコスト、用途とかいろいろあるし
ドローンに弱いから高度な対空システムがいらないというわけでもないし
ハイローミックスを上手くやってくしかないのかなぁ
物価も人件費も高い西側で中露と同じことをやるのは厳しいんじゃないですかね…。
安価さと量を求めるならインドや東南アジア諸国に作ってもらった方が良さそうな気もします。
台湾に生産させればいいじゃない(おや?支給部品と納品数が合わないが気のせい気のせい
ナゴルノ・カラバフの時はお互いの規模が小さかったので、ドローンの活用も「航空戦力の少ない小国同士の紛争だから」という解釈がありましたが、ウクライナ紛争でこれだけ大規模に使われて効果が確認されるとアメリカとしても独自に賄えるようにするのは当然だと思います
問題はこれを生産する会社があまり儲かりそうになく、平時にサプライチェーンを維持できるかという点でしょうね
国防省としては大量生産できるようにしてほしいし、価格はもっともっと安くしてほしいでしょうけど、どうなることやら
もしかして我が国はこのへん一切手を付けてないのでは?
そりゃ「ドローンのニーズはない」と言い切る自衛隊幹部がいる国ですから…
日本の防衛力整備計画令和23-27年度では「無人アセット防衛能力の強化」に5年間で1兆円をつぎ込む事になっていて、来年度防衛予算概算要求では攻撃型無人機取得に30億円が計上されてます
>令和23-27年度
ここ「西暦」の間違いですよね…?
令和23年って20年ぐらい未来の話になってしまうのですが…
ああ、すみません、ご指摘のとおりの誤りです
報道ベースだと昨年の段階で試験を行っているはずです
ここにも記事が上がっていた記憶がありますが
無人機のこともあるのだけれど。
今のウクライナ戦役で、ステルス技術が少しずつ試されるのでは、と思います。
ステルス性能を持つミサイルから始まって、ステルス性能を持つ機体での夜間攻撃、
高空(高度20,000mくらい?)からの昼間攻撃を可能にする機体を、の順序くらいで。
米国は既にその能力がありますが、中級国家(日本含み)がそれを必要とするのでは?。
少なくも中/露を相手にする国々には必要では?。
副次的な目標として、既存の兵器体系(爆弾/ミサイルなど投下兵器)を活用すること、
高空から親子無人機(運用する機体から見れば孫機?まで?)を運用することなども?。
西側大手がシャヘド型を作るとオリジナルが単機能すぎるように思えるはずです。しかし機能は価格に直結です。買い手が100万というなら100万でどこまで作れるかですが、軍需の誘導弾のラインではそんなの無理です。
ということは工場新設しないのなら下請けで作らす他ありません。西側大手の自爆無人機は新たに子会社作って機密性の低い民生ラインでそれ専門での生産になるはず。
動力部も誘導装置もセンサーも市販ので切り替えも早い物を使う。弾頭部のみは軍需ラインから転用でこれが最も高く付く。ジャベリンの弾頭部だけでうん十万はしちゃうわけです。しかしAT4の転用なら違いますね。
目標単価が100万円なら米国製でも構成要素はラジコンとスマフォとAT4ですよ。
弾頭部分転用ならば、RPG-7のそれの転用が容易いと思います。
RPG-7なら、世界中どこにでもあるし(米国でも)、弾頭は種類があります。
価格は同種のもので一番安いでしょう。実力は証明済と想像します。
既存品で実例でいうと、ポーランド製のパニッシャーなどがあります。
現在、ウクライナでライセンス大量生産中と読んだことがあります。
飛行機型で、弾頭は付け替え式だそうです。これなどどうでしょうか。
製品名を間違えました。
「パニッシャー」→「ウォーメイト」のつもりでした。
他にRPG-7ベースの自爆ドローンに、ウクライナ国産の
「UJ-32」などがありますね。
これなどは、RPG-7のロケット部分を取替えた?だけに見えます。
製造なんて中国に出しとけばいいって偉い人がゆってた
問題は先進国の製造業が非耐久消費財以外は軒並み海外に外注、もしくは工場が移転していることに加えて、国内の人件費、資源価格の高騰に直面していることじゃないですかね?
さらに、そうして委託した先が今後数十年、ずっと味方でいてくれる保証などどこにもなく、技術の漏洩やサプライチェーンの脅威、原材料や労働力の確保などにも気を配らないといけないと。。。
2000年代に「綺麗なテロ戦争」とかいうお遊びにお金を浪費したツケが来ていますね。そもそも戦闘に綺麗もクソも無いんですよ。
物量に晒されたら、自衛隊の防衛装備なんかは直ぐに尽きるだろうから、
本当に専守防衛という構想は竹槍と大差なくなったよなぁ。