米空軍のE-7調達中止を巡る戦いは「宇宙ベースの能力獲得に集中したい国防長官と国防総省」と「E-7調達を維持したい議会と空軍」の対立で、今年も予算審議を通じて熱い戦いに発展するかと思われたが、ヘグセス国防長官は議員からの激しい反発を受けてE-7調達中止を撤回した。
参考:Hegseth says E-7 Wedgetail ‘has a future,’ reversing planned cancellation
結果論から言えばボーイングはヘグセス国防長官の迷走でE-7の欧州需要を根こそぎ失った格好だ
米空軍は2022年4月「老朽化したE-3を更新するためE-7を26機調達する」と発表し、米空軍バージョンのE-7プロトタイプ2機を25.6億ドルで発注したのだが、Aviation Weekは2025年5月「米空軍のE-7調達は中止の危機に直面している」「国防総省はE-7調達をキャンセルし、リソースをAMTI能力を備えた衛星に集中させることを検討している」「この案はBMC2能力が問題になるため空軍が抵抗している」と報じ、ヘグセス国防長官も「現代の戦場でE-7は生存不可能」「宇宙ベースのAMTI能力移行」に言及した。

出典:U.S. Air Force photo by William R. Lewis
ヘグセス国防長官は下院歳出委員会の公聴会で「我々はウクライナで得られた教訓や中国軍近代化のテンポを踏まえて投資を再考している」「投資するシステムが現代戦に耐えられないか十分な優位性をもたらさないと判断されれば厳しい決断を下さなければならない」「こうした新システムへの資金供給と判断を下すのが我々の仕事でE-7はその一例だ」「将来的にISR能力の大半が宇宙ベースになる」「E-7のようなシステムも検討を続けるが、我々の見解では既存システムへの投資と、これを上回る宇宙配備型ISRへの大規模投資を組み合わせることで将来の優位性が獲得できると考えている」と証言。
下院歳出委員会のコール議員は「指摘は正しいが、新しい技術ではなく豪州や英国も使用しているプラットホームがある。この機能するプラットホームは我々が持っているものより遥かに優れている。宇宙ベースの能力は素晴らしいものの未知の領域で完成していない能力だ。そのため決断を下す際は十分な検討をしてほしい」と要求したが、国防総省は2026会計年度予算案でE-7関連予算を計上せず、宇宙ベースのAMTI能力を獲得するまでE-2Dでカバーすることを主張した。

出典:DoD photo by U.S. Navy Petty Officer 1st Class Alexander Kubitza
結局、議会はE-7調達計画の中止を阻止するため「空軍向けのE-7継続開発(EMDフェーズへの移行)」に11億ドルの資金を配分し、米空軍は既存の基本契約25.6億ドルに「EMDフェーズ機の製造=23億ドル」と「MESAレーダー開発と部品確保=9,900万ドル」を追加していたが、トロイ・メインク空軍長官は4月30日「EMDフェーズ機の製造契約としてE-7を5機発注済みだ」と明かしたため、米空軍は契約上「E-7を7機発注している状態」になるものの、EMDフェーズ機を5機発注するための23億ドルは今後の単年予算による資金供給が続くかどうかにかかっており、国防総省は2027会計年度予算案でE-7関連予算を計上してない。
つまりE-7調達を巡る対立の構図は「ヘグセス国防長官と国防総省はE-7調達を中止して宇宙ベースのAMTI能力獲得に投資を集中したい」「議会と空軍はE-7調達を維持して宇宙ベースのAMTI能力獲得までのギャップをカバーしたい」となり、下院国防歳出小委員会のジェイク・エルジー副委員長は「E-7計画を大幅削減してE-2Dで代替させるのは本当に正しい判断なのか?」「E-2は能力的に全く足りない」「性能的に言えばターボプロップのキングエアとボーイング777を比べるようなものだ」と疑問を投げかけた。

出典:U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 3rd Class August Clawson
メインク空軍長官も「E-2は優れた航空機だがE-7と同格ではない」と認め「空軍省は2027会計年度予算を調整してE-7に資金を充てる方法を議会と協力して検討している」「その後で2028会計年度予算についても前向きに取り組んでいく」と言及し、米空軍はウィッシュリストにE-7を含めて議会からの追加資金を引き出すのかと思われたが、Breaking Defenseは12日「ヘグセス国防長官が議員からの激しい反発を受けてE-7調達中止を撤回し、E-7調達のための予算を確保する方針だ」と報じている。
ヘグセス国防長官は方針転換に至った理由について「将来的に航空ISRや衛星ISRがAMTI能力を引き継げるという立場を取ってきたが、これは既存装備の削減(divest to invest)、いわゆる緊縮マインドセットを象徴するものだった」と述べ、コール議員もヘグセス国防長官の方針転換を「考え直してくれてありがとう」と評価し、Breaking Defenseも「今回の決定はボーイングにとって大きなビジネスチャンスとなる」「米軍がE-7導入を断念した影響でNATOをはじめとする他顧客も発注をキャンセルしたが、今回の方針転換でE-7の魅力は再び高まるだろう」と予想した。

出典:Saab
NATOはトランプ政権の不確実性、欧州の安全保障に対する方針転換、欧州と関係悪化が重なり、フランスは独自に運用するE-3Fの後継機にGlobalEyeを選択、ドイツもAWACSの独自取得を検討中で、オランダ国防省も2025年11月「オランダは米国を含む7ヶ国と共にAWACS更新計画に参加していたが、米国は2025年7月に計画から撤退(米空軍のE-7調達中止のこと)してしまったためE-3後継調達は大きな変更の真っ只中だ。E-7調達計画は戦略的基盤と財政的基盤の両方が失われたため、米国を除く計画参加国は満場一致でE-7調達の中止を決定し、代替機の選定や新たな協力の枠組みを模索している」と発表。
欧州のNATO加盟国はGlobalEyeに投資する可能性が高いと見られていたが、フランスの防衛専門誌=La Lettreは4月「NATOはE-3後継機としてGlobalEyeを選定した」と、ドイツ通信社も「NATOはE-3の後継機としてGlobalEyeを導入する」「最終決定は2026年7月にアンカラで開催されるNATO首脳会議で下される」と報じ、Defense Newsも「この決定が正式に発表されれば、1982年以来初めてNATOの共同空中監視の中核をボーイング製以外の機体が担うことになり、米産業の機能的不全と欧州の戦略的自立に起因するE-3後継機選定の迷走に終止符を打つだろう」と報じた。

出典:U.S. Air Force photo by William R. Lewis
トランプ政権はNATOと調整することなく一方的にE-7調達から撤退し、E-3共同運用に参加するNATO加盟国は「E-7調達への単独投資」ではなく「欧州製のGlobalEye」を選択したことは「性能よりも武器主権の確保が重要」と物語っているため、少なくとも欧州のNATO加盟国はGlobalEyeからE-7に乗り換える可能性は低く、結果論から言えばボーイングはヘグセス国防長官の迷走でE-7の欧州需要を根こそぎ失った格好だ。
関連記事:米空軍の新しい早期警戒管制機、今年もE-7調達を巡って熱い戦いが始まる
関連記事:NATOの米国製兵器離れ、E-3の後継機をE-7からGlobalEyeに変更
関連記事:NATOがE-7A調達計画を撤回、E-3後継需要がGlobalEyeに向う可能性
関連記事:ドイツ国防相がGlobalEye取得に言及、控えめに言っても最有力候補だ
関連記事:もう米国製はデフォルトではない、フランスがE-3F後継機にGlobalEyeを選択
関連記事:米空軍のE-7調達中止問題、宇宙ベースに移行するまでE-2Dを活用する
関連記事:米国防長官はE-7調達に否定的、宇宙ベースの能力に投資したいと主張
関連記事:米空軍が望んでいるE-3の更新、国防総省がE-7A調達のキャンセルを検討
関連記事:米空軍がボーイングに契約を授与、E-3の後継機としてE-7を計26機調達
※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force photo by 2nd Lt. Mark Goss





















E-3をイラン戦争で失っているから、取敢えずE-7を導入した方が良いでしょうね。
トランプの強烈なキャラクターで隠れてるけど、ヘグセス国防長官もかなりのアレ気な人だよな。
元がTVキャスターだったのをトランプのイエスマンという理由で国防長官に指名されたものの、就任前から能力が疑問視されていた人物ですからねえ。
上記記事を見る限り、最初からE7を装備化することを前提にしたい派閥が存在するようだ
前任機がジェット機だから似たような性格のE7にしたいと経験則が働いてるいるように見える
しかしながら、スターリンクを筆頭に宇宙インフラは現在の戦争で決定的な優位性を発揮してる
E2Dは米軍で既に実戦投入され、性能や運用適合性が米軍自身で把握され
追記
ているなど、E7を装備しないメリットも明確に存在しているとも言え、最初から前任機に類似した航空機でなければならないというのは固定観念の様に見える
その宇宙インフラを用いたISR能力なるものが「今すぐに導入できる完成された技術」であれば何の問題もないんですけどね。
その擁護は無理があるぞ。
現実を見れば宇宙インフラを用いたISR能力は未完成で未知数の部分が多い。
E2DはE7とは使われる環境や用途が異なる。小型で能力の限られたE2DではE3やE7の需要はカバーできない。
ほとんどのE-7導入検討国がみんな他に行っちゃった後で、「やっぱE-7使うわ」ってなっても遅すぎる
こんな立場の安定しない物に、国防を預ける気にはなれないでしょう
最初から「調達数減」で留めとけばいいと思うんですけど、なんでこう大きく舵を切りたがるんですかねぇ。
結局E-7の単価が上がってむしろコストが増大するという…
てか今の米国で新しい技術に置き換えるって信頼が無さ過ぎる
宇宙ベースにしたとて維持管理が出来るのか?
相手が衛星破壊の手段を手にした場合の防護、或いは即座に穴埋め出来る手段はあるのか?
この辺りを明確にしないのに現役のシステムを放棄するのは死を見越した墓穴掘りにしか思えない
NATOでの商機を失ったのは痛いだろうが、ギリギリの所で踏みとどまったなって印象
1基100kg、五億円の小型SAR衛星が現実に存在する事を考えると将来的に無駄になる可能性が高いと思ったんでしょうね。
打ち上げコスト含めても滞空型無人機より安い本物のゲームチェンジャーだと思います。
SpaceXの打ち上げ能力とStarlinkの存在があまりに強すぎますからね
撃ち落とされたらどうするんだへの回答が、沢山打ち上げれば良い&すぐに打ち上げれば良いを本当に実行出来できるので信頼性は充分にあります
TB-2より安い偵察衛星ってだけで信じがたいのですが、打ち上げ費込15億円を5年で償却する前提で黒字を出して、解像度46cmの画像が有るんですから信じない訳にも行きません。
早期警戒機として使うには4桁打ち上げ無ければ成らないでしょうが、Starlinkは5桁打ち上げてますしね。
少なくとも、3桁単位上げて地上画像が一分ごとに更新されるのは期待しても良いと思います。
当初の話どおり衛星に注力、E-3は改修で、の選択と集中がうまく行けばいいが、仮に衛星を10年開発してものにならなかった場合
今でも部品取りに2割くらい回す予定のE-3は運用から50年経過して更に運用可能基数が減り、その状態から後継機の開発計画や導入・訓練…を新たにやり…ってなるから
E-767の今後にも響く話だけどこっちはどうするやら(E-3の運用が細るなら影響するし)
E-3は既にメーカーサポートが終了しているため改修して使い続けるのは現実的ではありませんね。
今すぐにでも更新が必要なE-3をまだ影も形もない技術で代替するというのは無理がありすぎたんですよね。
宇宙ベースのISR能力獲得への投資も将来的には間違っていないのでしょうが、ヘグセス案は「それまでの繋ぎをどうするか」の部分があまりにも不十分で、今後数年の間に台湾有事が起これば米空軍は僅かな機数のE-2Dと稼動機が残っているかどうか分からないE-3で戦う羽目になっていたかも知れませんね。
E-7の調達といいアーレイ・バーク級駆逐艦Flight IIIの継続といい現実路線に戻してきたのは良かったと思いますが、裏を返せばそれだけアメリカに余裕が無くなってきた事の証明かもしれませんね。
まだ先の話ですが日本もE-767の後継機はE-7になるんですかね。
結局は、アメリカの開発力が方針決定も含めて心許ないのが原因ですからね。既存の物ベースでないとままならない。
ものづくりのサプライチェーンも弱体化してるようですし。一部で製造業の限界集落化してるのではと疑いたくなります。
日本の場合母機がまだへたってないから当分はE-767で後継機が必要になってから独自にいくんじゃあないですかね?
あるいはスウェーデンかイスラエルからの輸入か
E-737に関しては、日本が導入するときには母機のNGが中古市場からも消えてそうだし。
ヘグセス国防長官は方針転換に至った理由について「これは既存装備の削減(divest to invest)、いわゆる緊縮マインドセットを象徴するものだった」と述べ…
これは間違っても言うべきではなかった。国防長官の資質が問われかねないぞ。
航空機と衛星じゃそもそも発電能力が桁違いなので、電力制約から必然的に偵察衛星のレーダー性能も限られたものにしかならないという制約がありますよね。
E-767に600kW以上の発電能力がある一方でSAR衛星は精々数kWしかないため、照射する電波の強度や時間分解能、探知精度にはどうしても大差が出ますし、その上で高度10km程度の航空機と最低でも高度100km以上の衛星という距離の壁もある。
将来的には解決できるかもしれませんが、少なくとも当面は早期警戒管制機が必要でしょう。
あと犠牲減らしたいにしても、ポセイドンとトライトンのように有人機と無人機の組み合わせの方がまだ筋が良さそうに思います。
ウクライナでの戦訓を考えると、端から落とされる前提で低コスト使い捨て無人機を大量に用意するやり方でないと早晩運用破綻するでしょうけど。