ヘグセス国防長官は10日「我々は今世紀最大の戦場イノベーションともいえる殺傷力の高い小型ドローンを持っていない」「2027年までに無人航空機支配領域を確立するため抜本的な改革を行う」と宣言し、2026年末までに全部隊で小型ドローンの本格導入を行うよう指示した。
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ヘグセス国防長官の指示は「ウクライナ軍のドローン部隊が戦場で直面した政策面や運用面での制限」をよく研究した内容
ヘグセス国防長官は国防総省前で撮影された映像を10日に公開、その中で「ドローンは今世紀最大の戦場イノベーションで、ウクライナで今年生じた死傷者の大半もドローンによるものだ」「我々の敵対勢力は何百万機もの安価なドローンを毎年生産し、過去3年間で世界の軍事向けドローン生産は急増している」「我々は前政権が決定した官僚的で煩雑な手続きに囚われ、米軍は現代の戦場で求められる殺傷力の高い小型ドローンを装備していない」と述べ、2027年までに無人航空機支配領域を確立するため「必要な調達・配備方法に抜本的な変更を加える」と宣言した。
Unleashing U.S. Military Drone Dominance @DOGE pic.twitter.com/esaQtswwDb
— Secretary of Defense Pete Hegseth (@SecDef) July 11, 2025
この映像の演出自体は非常に微妙で不評なのだが、今回の変更はドローンを本格導入する上で非常に大きな意味をもち、5段階に分類した無人航空機システム=Unmanned Aircraft Systemのグループ1~2について「耐久財」から「消耗品」に、全グループの無人機開発に義務付けていたNATOのSTANAG 4856規格=相互運用性要件についても「グループ1~2に分類される無人機には不要」と、さらにグループ1~2の無人機に対する権限を大佐級指揮官に与えると定義を変更し、これにより米軍は小型ドローンの調達・運用において大きな柔軟性を獲得した格好だ。
RQ-11、RQ-16、スキャンイーグルといったグループ1~2の無人機は耐久財と定義されているため、これを喪失すると指揮官は膨大な量の書類を提出しなければならないのだが、FPVドローンや徘徊型弾薬の本格導入に向けてグループ1~2の無人機は弾薬と同じ消耗品に定義が変更されたため現場の負担が軽減される。

出典:U.S. Marine Corps Photo by Lance Cpl. Isaac Llanez Delgado
さらにグループ1~2の無人機からSTANAG 4856規格への対応を廃止することで開発期間、テストの手間、コストを削減し、権限が拡張された大佐級指揮官も小型ドローンの調達、訓練、テストを独自の裁量で行うことができるようになり、特に後者は戦場のニーズに応じた小型ドローンを前線部隊の3Dプリンタで製造し、これを運用する上で欠かせないものだ。
この他にも小型ドローンを本格導入する上で障害となっていた問題(ブルーリストに登録された部品を使用して小型ドローンを製造すればシステム全体の認証不要、意味不明なグループ1~2に課せられた航続距離制限の廃止、使用周波数の承認手続き簡略化、周波数規制がない演習場の設定など)への対応が多数含まれており、この抜本的な変更を通じて陸軍、海軍、海兵隊、空軍に小型ドローンを実装するための実験部隊を9月1日までに創設し、2026年末までに全部隊へ小型ドローンを本格導入させるらしい。

出典:U.S. Army photo by Sgt. Joskanny Lua
要するにヘグセス国防長官の指示は「ウクライナ軍のドローン部隊が戦場で直面した政策面や運用面での制限」をよく研究した内容で、これはドローン戦争に対する適応の本気度をよく物語っている。
ヘグセス国防長官は国防総省の中庭で行われた国産無人システムの展示会=Drone dayでも「我々は急速な戦場イノベーションのタイムラインを加速させなければならない」「戦場で戦う兵士のためにも必ずやり遂げなければならない」と、国防総省の研究技術次官も「半年毎に実施される実験的なウォーゲーム=T-REXの一環として、8月に最先端の対ドローン防衛システムを含む集中的な戦闘演習を行う予定だ」「このT-REXでは若いFPVドローンのオペレーターを全軍から集めてトップガン・スクールを開催する」「FPVドローンによるレッドチーム対ブルーチームの戦いだ」と言及。

出典:DoD photo by U.S. Navy Petty Officer 1st Class Alexander Kubitza
T-REXを指揮するライムベリー中佐も「この演習で試されるの個々の攻撃・防御システムだけではなく、これを統合して調整するソフトウェア、ネットワーク、人間とAIで構成される指揮系統もテストされる」と説明し、新たな軍事的概念=Passive and multi-spectral air-surveillance kill chainに言及したが詳細は不明で、Breaking Defenseは「パッシブとは積極的にエネルギーを放出しないセンサーを指し、アクティブセンサーに比べて有効範囲は狭いものの自身の位置を露呈しないという特徴がある」「マルチスペクトルは音響、赤外線、レーダーなど異なるセンサーの情報をソフトウェア上で統合・表示させる能力だ」と指摘している。
ウクライナ軍のドローンオペレーターらは「ヘルソン州で効果があったFPVドローンをドネツク州に持ち込んだけでは機能しない」「電子妨害能力の特性も戦場毎にことなるため環境に応じたセッティングが必要になる」「FPVドローンの運用で最も多くの労力が割かれるのはセッティングと調整だ」「その能力こそが攻撃効果を大きく左右する」と指摘していたが、米陸軍も欧州、中東、アフリカ、インド太平洋地域で演習を繰り返し「単一の戦術、能力、セッティングでは通用しない」「戦場環境に適応する戦術、能力、セッティングを開発する必要がある」という暫定的な結論に辿り着いた。

出典:DoD photo by U.S. Navy Petty Officer 1st Class Alexander Kubitza
米軍は8月のT-REXでドローン戦争に必要な新たな課題を見つけるかもしれないが、どのシステムにも共通するのは「統合して運用する能力」で、これが欠落した運用体制でFPVドローンを導入してもオペレーター個人の能力以上の効果は得られないだろう。
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※アイキャッチ画像の出典:U.S. Marine Corps photo by Lance Cpl. Alondra Y. Lopez Gonzalez





















米宇の間で兵器支援の対価を現金ではなくドローン兵器の提供で支払う話が進んでいるそうですが、
やはり安価で有能なドローンの調達はドコの国でも至上命題になっているのでしょうね。
ウクライナが提供できるのは他にもドローン運用のノウハウとかもありそうですね。
実戦で証明されたノウハウや攻撃時の映像(AI学習のためのビッグデータ)なんてどれほどの価値になるのやら
で、どこが生産するの?
ウクライナを無理やり停戦に追い込んで、そのあと軍事支援の代金として無償でドローン作ってもらいましょ。
西ウクライナはアメリカの軍産複合体の根城にしてしまおう
中国企業に任せると凄い量作ってくれそう。
ついでにF-15やF-16も。
中国の生産力に追いつけるだけのサプライチェーンを築けるのか見ものだ
今からDJIに匹敵するようなサプライチェーンを構築出来るのか怪しいわな
段階的に進めるにしても年間数十万機を生産出来る体制を構築・維持しなきゃいけないのは相当に金が掛かりそう
民主主義国家で資本主義経済の国には無理じゃないですかね?
使いもしない平時に生産体制維持は株主に説明つかないですし、政府からの複数年発注でも税金の無駄と言われそうですし…。しかもアップグレードが難しい…
理想は中国みたいに民営でしっかり市場があって、アップグレードもコストをペイしながら行えて、有事にはガっと増やせる「専制国家のなんちゃって民営会社」ですけど、西側には無理ですし……
いうて対中は海、空が主戦場なんだから、安価なドローンの生産力を過度に脅えること無いと思うけどな
それより衛星関連の情報技術、潜水艦戦力こそキモだと重う
あんまり良い動きだとは思わないけどな。
ロシアが宇と小型ドローンを投げ合う泥臭い陸戦をやってるのって
結局制空権とれなかったから仕方なくそうなったって面はあるだろ。
小型ドローンが活動する超低空の優勢と伝統的空軍の航空優勢ならどっちが
破壊的か?って言ったらまあ破壊の物量的に後者だろう。
エアフレームのデカさからくるペイロードが全然違う。
制空権とってフツーに空爆でボコるのが可能なら最適解だし、どうせアメリカは
安価大量な兵器生産とか最も苦手とする所だろうから、苦手なことするより持ち味
生かした方がいいんじゃないか?
ドローンへの適応とかそこそこにして対策だけガチって従来空軍の方優先した方が
米軍的にはいい気がするわね。
>>安価大量な兵器生産とか最も苦手とする所
WW2ではこれがいちばん得意だったのにいつからかつてのドイツみたいな高価高級主義になったんだろか
冷戦中、取り込んだ日本などの市場から安価な製品が流入
冷戦後のグローバル化で海外に仕事出すようになって更に加速
高価高級主義じゃなくて、それ以外が滅んだ
アメリカ特有のド派手な支援爆撃は確かに有効だろうけど、結局防空陣地で空爆凌がれて、逆襲されてきたのがベトナムなり、アフガンなりな訳で、
そういう陣地に逃げ込んだ敵まで叩けるドローンは有効じゃないかな?
ウクライナ戦争最大の戦訓は技術水準が同程度だと防空網制圧が成り立たないと証明された事だと考えます。
まぁ、敵の航空機に破壊される対空システムはそもそも対空兵器として機能して無い訳で、折り込み済みなのは当たり前では有るんですが。
つまり、実際に対空ミサイルを所管し共に行動してる陸軍から見ると「近接支援と戦場航空阻止は来ない」という結論になる訳です。
ステルスとステルス対策の進み具合にも依りますが、当面の戦訓としてはそう解釈するしか有りません。
ワイルドウィーゼルのSAM狩りによるSEADで名を馳せたF-16の提供は敵防空網制圧のためじゃないかな?
かつての湾岸戦争とかイラクの再現というか 命知らずのイタチ達が危険を冒してSAM食いまくってたからな
敵防空網制圧は一朝一夕にできることじゃない。あなたがいうところの命知らずのイタチ達の育成こそが要点で、F-16を提供しさえすればできるというものではない。
そしてウクライナには育成にかける時間がない。
同じ程度の技術水準ってのがミソで、30年前の旧ソ連の技術同士ではそうなった訳です。
勿論、最新のSEAD機を投入すれば打開出来るのでしょう。しかし、最新同士(米中間)ではどうか?、中露の最新を供与された第三国ではどうか?という話です。
湾岸戦争もイラク戦争も、イラクが孤立無援で防空システムもボロボロで一方的な状況だから成立しましたが。
中露相手には全く無理でしょう。
下記の記事の最後の方に記載されてますが。
「アングル:ウクライナ切望の飛行禁止区域、西側が及び腰な理由」ロイター
ピエトルチャ氏とベニテス氏は、コソボ紛争の事例を取り上げた米シンクタンクのランド研究所の論文に言及し、世界最強クラスの空軍力を持つ米国が二流の防衛態勢に全力で立ち向かったにもかかわらず、圧倒的な制空権を決して確保できず、作戦支援に必要な空中監視機は攻撃されるのを避けるため、当該空域にずっと近づけなかったと説明した。
一応湾岸戦争ではパトリオットの様な最新鋭対空ミサイルもF-16で撃破しているので全く勝てない訳じゃ無いんでしょうが危険過ぎますからね
実際トルネードは撃墜されてますし
空軍が制空権取っていても、細かい偵察飛行まで空軍がやるのかと言うと馬鹿らしくて、地上部隊がドローンで偵察して照準付けた段階で空軍呼べば良い話だし、ドローンがアメリカには不要と言う訳では無いと思う。上手く行けばアメリカが永らく苦しんだフレンドリーファイアの問題(常に支援受けられる米軍特有の贅沢な悩みだろうけど)も今世紀に撲滅じゃないかな
部品はプリンタでどうにかなるとして、やっぱりチップとかサーボとか通信とか膨大に必要になりそうだな
米軍は中東でドローンを使った攻撃に散々悩まされたのにウクライナで本格化するまで放置というのもすごい話だと思う
なんども悩まされたけど、それで万単位の兵が死んだわけじゃないからね
イランのドローン攻撃がイスラエルにほとんど効果がなかったように、西側の正規軍が脅威と感じるようなドローン攻撃を今できるのは22年以降の宇・露ぐらいだから動きが遅くても仕方ないじゃないのかな
使用周波数の承認手続き簡略化、周波数規制がない演習場の設定
日本もこれくらいは見習って欲しい。
グループ 1-2ドローンに該当するRQ-11, RQ-16 がどのくらいのサイズかと思えば「一人で運べなくはないレベル」なんですね。
確かにこの大きさのドローンを消耗品として扱えるようになることは兵士に1台以上のドローンを装備するための制度上必須でしょう。
問題は中国DJIのような企業をどうやってアメリカ国内で起こすかですね。
製造業とセットであることは不可欠なため、今までのようなファブレス企業では不可能ですし、「人海戦術で製造しなくても良い」イノベーションが求められます。
ぶつける前提のFPSドローンはともかく、安全上、動画みたいな政治的なデモの操作はやっちゃいかんでしょ。
小さくてもローター露出したヘリなんやで。せめてダクテッドファンの機種にしろよ。
航空畑出身の兵士なら拒否したんだろうけど、その辺の安全感覚が陸戦兵には欠如してたんだろうなあ。