米国関連

拡張性に乏しいF-22の設計、空軍の要望が一向に実現しない理由

雲行きの怪しいF-22のアップグレード、4.5世代で一般的な赤外線捜索・追尾システムやヘルメット装着型ディスプレイの追加が難しい問題は解決可能だろうか?

参考:USAF Looks to Small Businesses for Some F-22 Upgrades

ステルスに相性がいいIRSTを追加するスペースがなく、非常に狭いF-22のコックピットではJHMCSがぶつかる

世界初の第5世代戦闘機で制空戦闘に特化したF-22を「最強のステルス戦闘機」と評価する向きもあるが、本格的なアップグレードが見送られ続けた影響で第5世代のF-35A、4.5世代のF-15C、F-15E、F-16C/Dにも能力的に劣る部分があり、予想よりも早く進展している後継機開発と合わせて「空軍がどこまでF-22のアップグレードを資金を投じるのか?」非常に怪しくなっている。

出典:U.S. Air Force photo by Airman 1st Class Andrew D. Sarver

ロシアや中国が第5世代戦闘機の配備を進めているため戦闘機に赤外線捜索・追尾システム(IRST)を追加するのが主流になっており、4.5世代のF-15C、F-15E、F-16C/Dは機外のハードポイントに専用のポッド式IRST=Legion Podを携行するか、IRSTを組み込んだ増槽を携行して赤外線捜索・追尾能力を手に入れているが、第5世代のF-35Aはステルスを損なわないよう機首下に専用の赤外線センサーが予め組み込まれているが、F-22は予算の都合上IRSTの搭載が開発段階で削除されてしまいレーダーを使用しなければ周囲の状況を認識できない。

これをF-22に追加するためは4.5世代と同じようにLegion Podをウェポンベイに搭載して「使用する時だけ機外に露出させる方法」が最も簡単だが、当然Legion Podを使用すると折角のステルス性能が台無しになってしまうためF-35Aのように機体に埋め込む方が良いに決まっている。

出典:U.S. Air Force photo by 1st Lt Savanah Bray Legion Podを搭載したF-16C/D

しかしF-22の機内にはIRSTを組み込む物理的なスペースが存在しないため、重くて分厚い初期型のフラットパネルディスプレイ(FPD)を最新のスリムバージョンに交換すれば「コックピットエリアにIRSTを組み込むスペースが確保できるかもしれない」とロッキード・マーティンが提案しているが空軍は非常に狭いF-22のコックピットが更に狭くなることに反対で、これはJHMCS(照準システムが組み込まれたヘルメット装着型ディスプレイ)の統合にも関係しており根が深い問題だ。

F-35A、F-15C、F-15E、F-16C/Dの全てがJHMCS(F-35のみ専用のHMCS)に対応してAIM-9Xのオフボアサイト能力を最大限生かせるのだが、F-22のコックピット内は非常に狭く既存のJHMCSを使用するとパイロットの動きを妨げる=キャノピーやコックピット内のクリアランス不足で今だにF-22のパイロットはJHMCSを使用することが出来ない。

出典:U.S. Air Force photo by Senior Airman Ali Stewart

これを解決するためにはF-22向けに超薄型のJHMCSを開発しなければならないのだが、200機にも満たないF-22のために専用モデルを開発するのはコスト的な問題で実現しておらず、仮にFPDを交換してコックピットエリアにIRSTを組み込み今以上にクリアランスが減少すればJHMCS統合は諦めなければならないだろう。

空軍は上記の問題を含むF-22アップグレード問題について中小企業にアイデアを求めようとしており、この中には新しい機能も含まれている。

出典:U.S. Air Force photo by Tech. Sgt. Anthony Nelson Jr.

空軍がF-22に追加しようとしている機能はIRSTやJHMCSの他に、パイロットの戦闘を支援する自律型システム、GPSの代わりに正確な位置情報を提供する慣性航法システム、F-35のメンテナンス管理を司るALIS/ODINのような予測保守システム、地上システムのレーダーや戦闘機のレーダーを回避しながら迎撃目標に接近するための飛行ルートを自動的に計算するシステム、請負業者がF-22の機密データにアクセスすることなくソフトウェア開発が行えるようにするシステムなどが含まれており、何時までに追加するのかなど具体的な指示はないが空軍がF-22のアップグレードを見捨てていない証拠とも受け取れるため中々興味深い。

次期戦闘機F-Xが実用化される2030年まで空軍はF-22を維持すると名言しているが、2019年末に今後5年間のメンテナンス費用と予備パーツの供給網(サプライチェーンの保護)を維持するため約70億ドル(約7,300億円)を支給する契約オプションを行使しており、200機に満たないF-22を維持するためのコストとしてアリなのかナシなのか、、、

関連記事:アップグレード完了でF-22Aは2060年まで飛行可能、但しラプターの将来は未知数

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force photo by 2nd Lt. Samuel Eckholm

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コメント

    • ブルーピーコック
    • 2022年 1月 17日

    F-22好きとしては非ッッッ常ッッッに遺憾だが、今ならアップグレード費用をF-35の生産・改良や、極超音速ミサイルに振り分けた方が良いと思う。

    戦力化するまでに冷戦が終わったり、マルチロール機にしろだの名前変えろだの生産方式変えろだの言われて紆余曲折したせいで、開発期間が長くなり過ぎた(約20年・・・)のが悪い。
    最近のアメリカ議会は予算面で常識人ヅラしてやがるが、そもそも(以下略)

    53
    • ハガ
    • 2022年 1月 17日

    しかしそうやって金を掛ければ掛けるほど、
    「高価過ぎて危険な空域には出し辛い」
    と使いにくくなっていく罠・・・。

    32
      • くらうん
      • 2022年 1月 17日

      大和「来いよぉ・・こっち来いよぉ・・」

      12
        • tarota
        • 2022年 1月 17日

        あんたは図体デカすぎて遅かったのが悪い

        2
          • 匿名
          • 2022年 1月 18日

          燃費の問題じゃないか?その燃費も魔改造した金剛型より良いけど。速度はテストで31ノット出してるし、そもそも27ノットは戦艦のなかでは早いほうだし。

          20
    • ウツボ
    • 2022年 1月 17日

    イカロス出版の戦闘機年鑑には、機体に埋め込まれている赤外線ミサイル警戒装置を発展させたIRSTを計画とあったが、実現していないのか。EO-DASのような状況認識型IRSTならスペースの問題もクリアできると思うんだけど。  

    5
    • クローム
    • 2022年 1月 17日

    元記事も見ましたが、
    F-22に統合しようとしているのはJHMCSではなくスコーピオン(Scorpion)だと思います。
    スコーピオンはGentexVisionixが製造し、A-10に採用されているHMD。
    F-22でも実際にパイロットがスコーピオンを装着しテストしたことがあります。

    22
    • あああ
    • 2022年 1月 17日

    米軍パイロット「愛機のコックピットが狭くて困るわ」
    おれ「家での肩身が狭くて困るわ」
    両者「HAHAHAHA」

    47
    • 匿名
    • 2022年 1月 17日

    下手すると大型改装とF-35共有化改装した方が結果的に維持費が安くなりそう

    1
      • samo
      • 2022年 1月 17日

      F-35は機体に各種センサーを設計段階で盛り込むことによってHMDに統合してるから、
      センサーを後付できないF-22では、F-35と共有化するのは無理って散々言われてるよ
      ここでも昔記事になってたような

      5
        • 京都府在住81歳
        • 2022年 1月 19日

        生産打ちきり前の調達予定数も250機程度のはずだから、予定通り調達出来たとしてら状況が多少マシになるだけで、今と同じ問題にぶち当たっただろうな。
        その250機の予定も開発当初の750機からガッツリ削減された結果だから、登場のタイミングが悪かったとしか言いようがないと思う。

        3
    • 無無
    • 2022年 1月 17日

    ひたすらF35の増産とアップグレードに取り組んで、ラプターは退役に
    というのがダメなほど、両機には性能格差があるのか

    12
      • ネコ歩き
      • 2022年 1月 17日

      F-22はステルス機対処能力に関しIRST等を装備する第4.5世代戦闘機以下てことかと。
      それを改善しようにも機体スペースに余裕が無く、IRST内蔵やJHMCS適用が難しい。専用品を開発すればできないことはないが、改修費が馬鹿らしいほど高コストになるけどどうする?という話。

      7
        • samo
        • 2022年 1月 17日

        ちょっとそれも違う
        IRSTもJHMCSもそもそも第4世代機用に開発されたものだから、第5世代機のF-22に合うわけがない
        F-35では専用として代替品が開発されたけれども、
        おっしゃる通り改修キットを開発するには200機にも満たない実戦機じゃ、費用的に割に合わない
        F-35は代替手段に機体に最初から設置されたセンサーを用いたけど、それが災いして
        センサーのないF-22ではF-35のものを転用できない
        専用品を開発することはなんらおかしいことじゃなく、別にふつうのコト
        そのふつうの事が適用機が少なすぎて予算がつけられない

        結局は、機体数少なすぎて、やるべきかやらないべきかで二の足を踏み続けてきたってこと

        18
        • samo
        • 2022年 1月 17日

        >ステルス機対処能力に関しIRST等を装備する第4.5世代戦闘機以下
        あと、流石にこれは言い過ぎ
        普通に戦うんだったらF-22に勝てる戦闘機は未だない
        真正面からかち合ったら、IRSTで捉えられるまで、F-22に接近できるわけがないし、そもそもF-22の居場所を最初に特定もできないから、接近そのものが難しい
        F-22のステルス性は伊達じゃないし、レーダーもF-22の方がずっと強力なんで、初撃はまず間違いなくF-22がする
        問題になってるのは、F-22はそれ以外できないって話だから

        16
          • バーナーキング
          • 2022年 1月 17日

          探知勝負の直接対決でF-22が4.5世代機に負ける、とは言ってないんじゃないかな?
          「ステルス機対処能力」だから例えばPAK DAの侵攻に対処する時の話かと。
          確かにF-22は敵に見つかりにくいかもしらんけど、お互い見つけられずにすり抜けられちゃったらステルス機対処としては失敗でしょ?

          6
            • samo
            • 2022年 1月 18日

            PAK DA相手だと、IRSTもJHMCSもいるような状況にならないのでは?
            そんな機動なんかとれないし。いずれも、機動力のあるものを相手に優勢を得る代物
            データリンクは第4世代機のそれよりも上等な物を積んでるから、むしろ有利に働くと思うけども?
            高速で飛翔する戦闘機や爆撃機といった物を相手にした場合は、F-22が第4世代機に遅れをとる理由は見当たらない
            これ以外のステルス対象となると、F-22は使えないって記事だと思うけど

            1
              • バーナーキング
              • 2022年 1月 19日

              いやだから何でF-35に向かって来てくれる前提なのよ…

                • バーナーキング
                • 2022年 1月 19日

                ああ書き掛けで訂正しようとしたら暴発しちゃった。
                当然F-35じゃなくてF-22ね。

                それはさておき、まず↑で書いた様に向こうはF-22(やF-35、あるいは4.5世代機)の様な前衛の戦闘機を落としに来る訳ではない。

                >機動力のあるものを相手に優勢を得る代物
                違うと思いますよ。
                オフボアサイト能力は(J)HCMSの1能力に過ぎないし、現代ではその比重はそこまで高くないかと思います。

                >データリンクは第4世代機のそれよりも上等な物を積んでる
                そりゃ4世代機よりはマシでしょうが、一部4.5世代機に抜かれてるから問題になってるって記事でしょ?

      • hoge
      • 2022年 1月 18日

      現状だと速度性能とミサイル搭載数で大差あるのでは。
      アダプティブ・エンジンとミサイル搭載数増加が実現されれば差がかなり縮まりそう。

      1
    • 内務大臣
    • 2022年 1月 17日

    最強の戦闘機も末期はやはりこうなるんだなあ
    諸行無常
    盛者必衰
    南無南無

    11
      • 匿名
      • 2022年 1月 17日

      アメリカだし「アーメン」じゃね?(野暮なツッコミ)

      13
    • 南極1号
    • 2022年 1月 17日

    オバマ政権が生産を打ち切った時、なんてもったいないことをするんだと思ったが、
    今になっては意外と正しい判断だった・・

    14
      • ブルーピーコック
      • 2022年 1月 17日

      あの頃のアメリカの主敵は中国ロシアではなく、ステルス機を使う必要の無いイスラム国やタリバンだったという理由もあります。対する中露はずっと対アメリカを見据えてた訳ですが

      18
    • B-58
    • 2022年 1月 17日

    いや、生産打ち切ったから200機の改修の為に開発予算出せるかよって話じゃ

    18
    • LSgt
    • 2022年 1月 17日

    F-22ってそんなに拡張性無かったんだ。あんなにデカい機体規模だから、ステルスと将来の拡張性両方を追求した結果だと思っていたが違ったんだな。

    7
      • samo
      • 2022年 1月 17日

      拡張性はあるけど、改修キットを開発するには調達数が少なくて割りに合わないっていう話だよ
      そう記事に書いてるでしょう
      他のキットを転用したらマッチしないからスペースを圧迫するってこと

      14
    • ハガ
    • 2022年 1月 17日

    だから大柄なYF-23にしておけば良かったんだ!

    7
      • くらうん
      • 2022年 1月 17日

      YF-23のデザインは最初「うわないわー」と思ったけど、大人になってみると「たまらん」
      俺にとってイカの塩辛のような存在

      2
        • ATF
        • 2022年 1月 18日

        先に公開されたYF-23の格好良さに驚いて
        競合試作相手のYF-22は、どんな姿なんだろう
        と、期待していたが、公開されたその姿は自分の予想や感じる格好良さとはかけ離れていたので、がっかりした
        そして、本採用がYF-22と決まったときに、もう一度、がっかり
        しかし、F-22として完成したときには、全体的な形状は大きく変わっていないのに、こっちはなんて格好良いんだ
        と、驚くことになった
        残念ながら、その驚きをX-32では味わえなかった

        6
    • そら
    • 2022年 1月 17日

    後継機の開発に資金が掛かるなら、少数の機体に金は出したくないわな。
    でもF-22には最強でいて欲しかった。

    3
      • Wee
      • 2022年 1月 17日

      単純な空戦性能に限れば、当分は最強なんじゃね
      第6世代機も空戦性能は重視しないかもだし

      10
      • samo
      • 2022年 1月 17日

      今でも戦闘機同士で戦えば最強だろうけど、
      戦闘機は戦闘機と戦うだけが仕事じゃないから、戦闘機とだけ戦うことに専念されると使いづらいってことだろうね
      そのステルス性とレーダーで圧倒するって戦い方だから、JHMCSがいるような格闘状況や乱戦、航空支援やるなんて状況は想定してないだろうし

    • hiroさん
    • 2022年 1月 17日

    今となっては空自への導入を拒否してもらって良かったということでしょうか?

    13
      • ネトウヨ
      • 2022年 1月 18日

      現在の状況見ると良かったぽいなぁ。F-22だったら値段が高すぎて100機くらいしか買わないだろうし。

      12
      • 7C
      • 2022年 1月 18日

      仮に空自が導入していたら維持費で苦しんでいた可能性はあると思うけど、代わりに空自の導入機数分と恐らく空自がOKならイスラエルにも供給される可能性が高いと思うので今よりも200~300機程度総数が増えてる可能性がある(ひょっとしたらオーストラリアも?

      それだけ増えると機体の価格もある程度下がると思うので、米軍の機数も今より増やされてる可能性が出てくるし、そうなったらンテナンス用の部品やらが今よりも多く供給されてるだろうから今程劣悪な維持費ではなくなってるんじゃないかな(それでもすごい高級機になるんだろうけども
      そして、そうなってくると今回のような改修案が機数とコストが見合わないから見送り、という状況にならなずに実行されてる可能性にまで及んでくるので空自が採用出来たか否かはある意味で子の機体のその後の命運の分岐点なのだろうと思うなぁ

      まぁ、イフを考える分には面白いなぁと思うけど現実はそうなってないのでこの話はこの辺で留めた方がいいね、すまん

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