米国のミサイル生産における主要なボトルネックはシーカーと固体ロケットモーターの供給であり、防衛スタートアップは伝統的な防衛企業と異なって「自社で全部作って生産と供給をコントロールする」というアプローチを採用しており、それに必要な資金も市場から集めることに成功している。
参考:Castelion Raises $1B Series C to Scale Production of Low-Cost Hypersonic Weapons
参考:U.S. Navy Awards Castelion First Delivery Order for Blackbeard Hypersonic Weapon
参考:Awards Castelion $90M to Advance Blackbeard to Early Operational Capability
参考:Powering America’s Arsenal: Anduril Expands Rocket Motor Production with Additional $43.7M in Defense Production Act Title III Funding
参考:Developing the Future of Precision Fires & Affordable Mass: Anduril’s New Rocket Motor for the U.S. Army
参考:Saab Chooses Anduril Rocket Motor Systems to Design and Produce Solid Rocket Motors for the Ground-Launched Small Diameter Bomb Weapon System
参考:Anduril Industries Successfully Test Fires Hypersonic Solid Rocket Motor for the U.S. Navy
参考:Anduril Expands Solid Rocket Motor Production Facility
参考:Enter Anduril: The United States’ Third Supplier of Solid Rocket Motors
膨大な需要に対する期待が自ら作ってコントロールすることへの投資リスクを上回っている
国防総省は5月「米軍の攻撃能力を積極的に拡張するため、革新的なイノベーションをもたらす新規参入企業や民間の革新的企業との間で新たな枠組み合意を締結した。Anduril=アンドゥリル、CoAspire=コアスパイア、Leidos=レイドス、Zone 5=ゾーン5との合意によりLow-Cost Containerized Missiles=低コストコンテナ化ミサイル(LCCM)計画が開始される。これと並行してCastelion=キャステリオンと締結した合意は低コスト極超音速兵器ソリューションの量産化に向けた取り組みを推進するものだ。これらの合意は効果的かつ安価なキネティックマス(圧倒的な物理的攻撃力)を大規模かつ迅速に配備するものだ」と発表。

出典:Anduril
この取り組みを端的に言うと「複雑な設計、防衛産業に特化したサプライチェーン、高度な専門労働者、手作業による製造手法で構築された拡張性の乏しい精巧なシステム」ではなく「シンプルな設計、調達先が複数存在する商用サプライチェーン、増員が容易な平均的労働者、特殊工具や専用設計の治具を必要としないハイパースケールを前提にした製造手法で構築された拡張性の高い汎用システム」でキネティックマス=物理的破壊手段の質量を達成するというものだ。
LCCMのための枠組み合意を見ても伝統的な防衛企業の名前はなく、量という質を如何に安く、早く、大量に生産するかという点において重要なのは「生産上の仕組み」であり、デュアルユース技術や商用部品を如何に素早く統合するか、3Dプリンティング技術など新しい生産技術を如何に素早く活用していくかで、アンドゥリルのパーマー・ラッキー氏も「我々が解決しようとしているのは軍事上の問題ではなく生産上の問題だ」と述べており、この生産上の仕組みにおける防衛スタートアップと伝統的な防衛企業の大きな差は「生産上のボトルネックになる部品製造を自社のコントロール下に置く」という点だろう。

出典:Anduril
ミサイル生産における主要なボトルネックはシーカーと固体ロケットモーターの供給であり、前者は秘匿性の高い軍事技術や特注部品ではなく可能な限りデュアルユース技術や商用部品で構成したものに置き換え、固体ロケットモーター(SRM)の供給はノースロップ・グラマンとエアロジェット・ロケットダインの二社寡占なので、アンドゥリルは自社でSRM製造を開始し、コアスパイア、レイドス、ゾーン5はSRM使用を打ち上げ時のみに限定し、キャステリオンも自社でSRM製造しているもののアンドゥリルとは明確に違う点がある。
アンドゥリルはSRM製造技術の近代化でノースロップ・グラマンとエアロジェット・ロケットダインの二社寡占に割って入ること(自社製品以外への供給)を狙っているが、キャステリオンはSRMを構成する材料を航空宇宙分野のサプライヤー以外(石油採掘向けのフラッキング用精密管など)から調達することで伝統的なSRMのサプライチェーンとは異なる供給体制を構築し、垂直統合方式で低コスト極超音速兵器ソリューション全体を構築している。

出典:Castelion
キャステリオンはPrSM Increment4(ラムジェットモーターを採用する射程1,000kmの精密攻撃兵器)の能力の約80%を大幅にコストダウンしたBlackbeard=ブラックビアードを開発しており、米海軍からブラックビアードの早期運用能力(EOC)達成に向けて試作50発納入に関する契約を獲得、さらに8月にはシリーズCの資金調達で10億ドルを集めることに成功して同社の企業価値は起業からたった4年間で130億ドル=約2兆円に達し、これは起業からたった5年で企業価値が180億ドル=約2.8兆円に達したヘルシングに迫る成長スピードだ。
このブラックビアードは米陸軍のMLRSやHIMARSで使用することを想定した地上発射型の低コスト極超音速ミサイルだが、米海軍は空中発射バージョンのブラックビアードを要求しており、8月下旬に開催されたテイルフック・シンポジウムでF/A-18E/Fに搭載したブラックビアード空中発射バージョンの写真も披露されており、EOC達成に向けた作業完了は2028年8月なのでブラックビアードはPrSM Increment4よりも早く実用化されるかもしれない。
MACE is Project Alpha https://t.co/YatJzd7NDR https://t.co/EjrgMhEdsB pic.twitter.com/IOzpmwsTJ2
— 笑脸男人 (@lfx160219) August 26, 2026
兎に角、アンドゥリルとキャステリオンはアプローチが違っても独自に調合した推進剤をロケットモーターケースに充填してSRMを製造しており、それ以外の構成部品もほぼ自前で作ることで納期と価格をコントロールすることができ、生産上の仕組みにおける伝統的な防衛企業との違いは「経営上のリスクを冒しても自ら作ってコントロールする」「そして必要な資金も投資家から十分集められる」といったところだろう。
どちらのアプローチが正しいのかは状況に左右されるため伝統的な防衛企業のやり方が間違っているとまでは言えないものの、その状況が大きく変わってしまい「膨大な需要に対する期待」が「自ら作ってコントロールすることへの投資リスク」を上回っているため、伝統的な防衛企業も自ら作ってコントロールするというアプローチに回帰するかもしれない。
関連記事:米ミサイル防衛局、75万ドル以下の低コスト迎撃ミサイルを開発中
関連記事:米防衛企業の大手3社、弾薬不足解消に対する独自解決を11日に発表
関連記事:米軍、迅速なミサイル増産計画を21日以内に提出するよう防衛産業界に要求
関連記事:米軍、1万発以上の低コスト巡航ミサイルを新興企業4社から3年で調達
関連記事:ナプキンの落書きから生産体制確立まで9ヶ月間、激安の肩撃ち式ミサイルが登場
※アイキャッチ画像の出典:Castelion





















写真の右側にあるゆるキャラみたいな旗はなんなんだ
海賊の黒髭(blackbeard)では?
ホワワワワ~ンってモノローグしてる顔文字に似てる
Pirate Flag of Blackbeard (Edward Teach)で検索すると元ネタの絵が出てきますよ。
現物が足りない以上、今までとは違うやり方に期待されるわな
新興企業のその後にも、伝統的な企業の変革も目が離せない
やり方やスピードが革新的なのはわかるんですが、そもそもサプライチェーンとか原材料の問題が解決してないのは大丈夫なのかなと
結局、その辺が圧倒的な中国には勝てないんじゃないですかね。
これからの国際情勢と、行われるかどうかはわかりませんが戦争結果でわかっていくんだろうけど…
水平分業は
・専業部品メーカーが勝手に機能向上・改善する。
・スケールすればより安価に調達できる
というメリットがあるものの、核軍縮に伴う生産量の低下と相性が悪いですね。
防衛ベンチャーはこのボトルネックを嫌ってキーパーツを自社製造しつつ電子系部品はCOTSでコストダウンを狙う「第2世代垂直統合」と呼べる手法なのが興味深いです。
どの部分をCOTSや外部調達にするかはタイミングにより変わってくるので、ここも将来予測を見ながら適応が求められると思います。
完全に手遅れだよ
今のアメリカには素材や部品レベルで大量生産する能力がなく
しかも汎用的な技術になればなるほど中国の生産力に差を付けられるんだから
工業製造基盤で大差を付けられてる以上この路線でアメリカが中国に勝つのは絶対無理
下の記事で話題になってる3Dプリンターも世界で一番導入が進んでるのは中国というのが現実
平穏な市場が確保されている前提であれば数が必要なものはそのほうがいいでしょうね。
最近の傾向なんでしょうかね。
スペースXが、タービンブレードから作るという話しもありまして、サプライチェーンの強靭化が求められてるのかなと。