米国関連

ますます高価になっていくF-35、再び平均取得コストが1億ドルを突破

国防総省は昨年12月「F-35のLOT18生産(145機)をカバーするため最大117.6億ドルの支払いでロッキード・マーティンと合意した」と、今月22日「LOT18向けエンジン契約を28.8億ドルで締結した」と発表、そのためF-35の平均取得コストは再び1億ドルを突破した。

参考:New F-35 Engine Contract Puts Fighter’s Price Tag Over $100M

もうBlock4は何を実現するのかという根本的な部分が壊れ始め、プログラムの規模と複雑さの中で身動きが取れなくなっているのだろう

米軍の大規模な装備調達は「長期間の調達を約束する複数年契約」でカバーするのだが、F-35はIOT&Eが未完了だったため「BlockBuy=複数ロットの一括契約」で調達を行っており、2019年締結のLOT12~14でF-35Aの取得コストは8,920万ドルから7,600万ドルまで値下がりしたものの、2022年締結のLOT15~17で8,250万ドルに値上がりし、Air&Space Forces Magazineは昨年11月「LOT18~19に関する合意通知が議会に送付されたが1機あたりの取得コストを公表しなかった」「1機あたりのコストが660万ドル上昇し、取得コストは限りなく9,000万ドルに近づくだろう」と報じた。

出典:U.S. Air Force photo by Staff Sgt. Zachary Rufus

国防総省は昨年12月「LOT18(F-35A×102機、F-35B×24機、F-35C×19機=145機)をカバーするため最大117.6億ドルを支払うことでロッキード・マーティンと合意した」と、今月22日「P&Wと28.8億ドルでLOT18向けエンジン契約(141基)を締結した」と発表、まだLOT18の契約は確定しておらず、まもなく発表される正式な契約も「LOT18とLOT19をカバーする一括契約」になる見込みで、その際に当該契約の詳細を公表する予定だが、それでもLOT18での平均取得コストは1億ドル(機体8,110万ドルとエンジン2,040万ドル)を突破する見込みだ。

ロッキード・マーティンも「LOT18以降は能力向上のためアップグレードが含まれるため取得コストが高くなる」と言及しており、このアップグレードは段階的に実装されるBlock4の構成要素のことを指しているものの、Block4の主要構成要素=F135の能力を強化するEngine Core Upgrade、電力・冷却システムを改良するPower and Thermal Management System、AN/APG-81を置き換えるAN/APG-85などが完成していないため、Block4の全要素がいつ実装されるのか、Block4へのアップグレードにかかる費用は幾らなのか誰にも分かっていない。

出典:U.S. Air Force photo by Staff Sgt. Zachary Rufus

一つだけ確かなのはBlock4の開発開始は2018年で「開発費用106億ドル」「開発期間9年間」と見積もられ、当初予定なら2026年までにBlock4は完成するはずだったのだが、追加する機能が雪だるま式に膨れ上がり、政府説明責任局は2023年「Block4の開発費用は55%増加して165億ドル=約2.4兆円に達している」と報告、開発作業の完了も2029年に延期されたが、もはや議会、軍、産業界、アナリストらは「2020年代中にBlock4の全要素は完成しないだろう」と見ている。

米空軍のシュミット中将も2024年、下院の公聴会に出席した際「Block4で予定されている多くの能力は2030年代まで実現しない」「そのためBlock4自体を再構築することになった」「再構築されたBlock4は産業界が本当に提供可能なもので構成されなければならず、必須能力の提供のみに焦点を当てる」と証言し、戦術空陸軍小委員会のウィットマン委員長も「私は過剰な約束と過小な成果にうんざりしている」「Block4は現実を反映してほしい」「現実的に何ができるのか理解すべきだ」と述べ、もうBlock4で何を実現するのかという根本的な部分が壊れ始めているのだろう。

出典:U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 2nd Class Eduardo Otero TR2仕様のコックピット

但し、この問題はロッキード・マーティンだけに非があるのではなく、開発プログラムを受注するとプログラム全体の権利を所有できる装備品取引の習慣(製造、運用、維持、アップグレードに関する作業の独占)が時代にマッチしなくなったこと、国防総省のJCIDSが主導する能力要件の策定や検証プロセスが開発作業の足を引っ張ること、集中や効率ではなく国際共同開発の枠組み維持を優先しなければならない事情などが複雑に絡み合った結果であり、もうプログラムの規模と複雑さの中で身動きが取れなくなっているのだ。

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※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force photo by Staff Sgt. Zachary Rufus

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コメント

  • コメント (19)

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    • たむごん
    • 2025年 8月 27日

    『ストーリーとしては素晴らしい』何でもできるというのは…

    単発機・ステルス機という空力の制限=量産性・納期・価格・稼働率など、現実は拡張性に無理があり厳しいというのを見せつけられていますね。

    13
      • 納豆兵
      • 2025年 8月 27日

      何でも出来るとコストが高くなるだけではなくて、器用貧乏というどっちもつかずになるだけになる事も有りますからね…。

      8
        • 名無し
        • 2025年 8月 27日

        米軍のMC率の基準だと何か一つのミッションでも遂行できるか否かなので、対空戦闘には使える、CASならできる、電子戦はできるとか可能な事がそれぞれバラバラなのをかき集めて5割なので現状だと器用貧乏と呼ぶ事も疑問に思ってしまいますな
        突出したものが無くとも幅広い用途にそれなりに使えるのが本来の器用貧乏だと思うので

        8
          • たむごん
          • 2025年 8月 27日

          仰る通りですね、ステルス機だからと特別視しないことが肝要だろうなと。

          武器はあくまで機械の1つなわけですから、我々が機械と向き合うくらいの感覚で、見ればいいんですよね。

          安全保障ですから、なおさら機械(武器)の信頼性が求められるわけで、(いざという時に使えないでは話しにならないので)どんな代替策があるのかを考えていくのが現実的かなと感じています…

          7
    • DEEPBLUE
    • 2025年 8月 27日

    中露第五世代機があの程度だったら、開発が終了するまでblock4凍結してblock3を今すぐ生産すれば良くない?幾ら机上の性能が良くても戦場に届かないならゴミですよ。

    8
      • hoge
      • 2025年 8月 27日

      Block4の要素をだいたい諦めても兵器の統合をしていかないと話にならないんだが
      これすらも先が見えない

      30
      • 2025年 8月 27日

      根本的にF35のステルス性能がどれだけあがろうと地上から空中からレーダー探知されたら隠しきれない程度ならステルス切った方が性能良いわけで。
      ガンダムでいう第3世代第4世代のようにあだ花で終わる可能性すらありますよね第5世代。

      そういう意味で第4世代、第4.5世代でその分安く数揃えてる日本や東南アジア勢の方が結果的には賢かったと言われる日が来るのかもしれません。

      2
        • NHG
        • 2025年 8月 27日

        中国のステルス戦闘機が日本海を飛んでも日韓のレーダーで探知できなかったという話(真相は不明)もあるから、程度はどうあれ敵に感知されづらいステルス性能が無意味ってことはないのでは

        8
        • 神田明(仮名)
        • 2025年 8月 27日

        >そういう意味で第4世代、第4.5世代でその分安く数揃えてる日本や東南アジア勢の方が結果的には賢かったと言われる日が来るのかもしれません。

        ステルス戦闘機 VS 非ステルス戦闘機
        という想定で空中戦をした場合、先に相手を見つけるのは常にステルス戦闘機の方なので、周辺国がステルス戦闘機を保有している場合は、自国もステルス戦闘機を装備しないと絶対に勝てないと思いますよ。

        6
          • hoge
          • 2025年 8月 28日

          それは根本的な誤りで、中国軍自身、演習でAWACS + J-10の組み合わせでJ-20を撃墜する様子を公開しているので、中国自身がプラットフォーム間で最も競わせて試行錯誤を繰り返して、費用対効果を最適化いているのだと思いますよ。
          戦闘機の本体よりも、センサーやネットワークの進歩のほうが早いので、将来的に陳腐化する可能性があるし、ステルス戦闘機は40年以上の経験のあるアメリカですら維持管理が難しく特定の用途以外は費用対効果が悪い可能性も高いけれども、かといって技術的にキャッチアップも必要だから全部やると。

          6
            • 神田明(仮名)
            • 2025年 8月 29日

            索敵自体はAWACSの支援を受けられるとしても、ロックオンしてミサイルを誘導するのは戦闘機ですよね?

              • hoge
              • 2025年 8月 29日

              それすらやらない仕組みをすでに中国は実現しているらしく、こうなると母機はレーダーを動かさないのでRWRで存在を気づかれることもないだろうし、そもそも有人戦闘機でなくても良いのではという話になっていきそう。
              リンク

      • もん
      • 2025年 8月 28日

      実戦能力があるblock3/tr2仕様で納入されたところで5~10年後には旧型化し多額の費用をかけてblock4/tr3に改修することが避けられないので、未完成であってもtr3仕様で生産して将来の改修費用を抑えるのは理にかなっているかと。
      現実は大抵の国でF-35をほとんど訓練にしか使わないし、それらの国は実戦に対応したblock3/tr2を既に多数所有しているので課題は残るけどどこも金欠だから仕方ない。

      3
    • 病まんと
    • 2025年 8月 27日

    記事内にもありますが何で開発途中に更に追加機能を盛ろうとしちゃうんですか……?
    B-21の場合みたいにちゃんと計画整理して後から設計の途中に追加であれこれ突っ込まなければ普通にコスパ最高のステルス機になりそうなのに何故……?

    14
      • トーリスガーリン
      • 2025年 8月 27日

      そりゃまぁ、B-21プロジェクトはF-35プロジェクトの反省を全面的に取り入れた結果なので…
      あと(現時点では)米空軍専用で機能も絞り込まれてるからという要素もあります

      12
      • 台湾大好き
      • 2025年 8月 27日

      どんな立場でもプロジェクトマネージャーやるとわかりますが、PJで「断る・却下する」「代替手段を考えろという」って滅茶苦茶パワーいるんですよ。そこで”いいよ”と言っても苦労するのは現場で自分じゃないし、たった1件の追加要件なら大したことはないんです。それがあらゆるところで何十件も起こる訳ですが。
      提案者は局所的に考え抜かれたアイデアを善意100%で持ってくる訳で、それを採用しないお前は裏切り者で会社の敵だみたいなことを言われる。それに対しやらない理由を論理的に説得しなきゃならんわけですよ。

      正直、端から「このPJとは金が無い、時間がない」「とりあえず形にしないと〇〇が起きて全員クビ」とか制約がきついほうがやりやすかったりします。意識が同じ方向向くし、全体最適で考えられるからね。

      すいません、現在進行系の愚痴です…

      36
    • マトウ
    • 2025年 8月 27日

    実証機のX-35から数えて今年で四半世紀。その5年前に初飛行したF-2はぼちぽち退役を見据えた動きがあるというのに…

    いや、日光東照宮の如く未完成の美学としてF-35は開発が続けられて行くのでしょう。

    8
    • T.T
    • 2025年 8月 27日

    F-35自体が失敗作だとは思わないけど、Windowsのアップデートみたいなノリで機体をアップデートしていこうと言うのには流石に無理があったね。

    6
      • 匿名
      • 2025年 8月 28日

      Windows Update自体、現状色々とヤラかし過ぎて破綻してますからね…🙄

      12

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