米国関連

M1E3は自動装填装置の採用が濃厚、APSは装着方法で効果が異なる

国防総省は予算文書の中で「オートローダーとアクティブ防御システムの成熟に重点を置いた主⼒戦⾞システムの開発の開始を2025年度まで延期する」と述べており、M1E3には自動装填装置の採用が濃厚だ。さらにAPSは後づけと設計自体への統合で効果が異なるらしい。

参考:REPROGRAMMING ACTION – PRIOR APPROVAL
参考:Weight, survivability and logistics: Army lays out priorities for M1E3 Abrams design

APSの能力を最大限引き出すには「後づけ」ではなく「設計自体への統合」が望ましい

米陸軍はM1Abrams、M2Bradley、M113の後継車輌、歩兵旅団戦闘団向けの火力支援車輌、地上無人車輌を対象にした「Next Generation Combat Vehicle(NGCV)」を進めており、2030年代の登場が予想される次期主力戦車までのつなぎとしてSEPv4の開発も予定されていたが、ウクライナとロシアの戦争で徘徊型弾薬やFPVドローンが登場したことで状況が一変し、米陸軍は2023年9月にSEPv4の開発中止とM1E3の開発を発表した。

出典:117 окрема механізована бригада

ノーマン准将はM1E3開発を決定した理由について「Abramsが最も効果を発揮する戦術は機動した状態での攻撃で、逆に静止状態ではあらゆる脅威に対して脆弱になる」「FPVドローンなどの上の脅威に対してAbramsの装甲は薄すぎる」「M1E3では直接攻撃を受ける前面、側面、背面、地雷や即席爆発装置の影響を受ける車体下に加え、トップアタック攻撃を受ける上面の保護能力の強化に取り組んでいる」「このトップアタック・プロテクションにはアクティブ防護システム(APS)が含まれる」と言及し、M1E3では乗員構成の変更、無人砲塔の採用、重量削減等も示唆。

GDLSはM1E3の予備設計契約を米陸軍から受注済みだが、国防総省は予算文書の中で「オートローダーとアクティブ防御システムの成熟に重点を置いた主⼒戦⾞システムの開発の開始を2025年度まで延期する」と述べており、M1E3には自動装填装置の採用が濃厚だ。

アクティブ防御システムについてはノーマン准将がBreakingDefenseの取材に「TrophyはSEPv3に優れた保護能力を提供してくれるもののシステムを装着しただけ統合はされていない」「M1E3ではAPSを設計自体に統合する」「これによって装着しただけのTrophyよりも保護能力が大幅に改善される」と述べており、M1E3にTrophyを統合するのか、別のAPSを統合するのかイマイチはっきりしないが「APSは装着方法=後づけと設計自体への統合で効果が異なる」という点が非常に興味深い。

因みにElbit SystemsはブラッドレーのM2A4E1パッケージに採用されたIron Fist Light Decoupled=IF-LD(Iron Fistの米陸軍向けの改良モデル)について「ロケット弾や対戦車ミサイルに対する保護能力を維持したままドローンにも対応できると実証した」と主張し、トップアタックを仕掛けるFPVドローンや徘徊型弾薬にもIron Fistは「対応できる」と示唆していたが、RafaelもTrophyについて「新たなアップグレードによって対戦車ミサイルやドローンによるトップアタックを防げるようになった」と発表。

Janesは「防衛省が10式戦車のアップグレードに関する文書を発行した」「この文書はAPSとRWSの取得に焦点を当てている」「APSは接近する対戦車弾を、RWSは接近するドローンを検出可能なセンサーを備えている必要がある」「未確認ながら防衛省はRafaelのTrophy、Elbit SystemsのIron Fist、RheinmetallのStrikeShieldを検討中していると報じられている」「RWSはKongsbergのPROTECTOR RS6が検討されている」と報じており、Elbit SystemsとRafaelの主張を信じるならIron FistとTrophyはFPVドローンの攻撃を防ぐことができる。

問題は小型で軽量の10式戦車にAPSを搭載できるマージンがあるのかどうかで、APSの能力を最大限引き出すには「後づけ」ではなく「設計自体への統合」が望ましい。

関連記事:Trophyのアップグレード、ドローン攻撃の脅威から戦闘車輌を保護
関連記事:米陸軍、AbramsはFPVドローンの攻撃を防ぐように設計されていない
関連記事:米陸軍、M1E3の重量60トン以下でアクティブ防護システムも採用

 

※アイキャッチ画像の出典:Photo by Sgt. James Dunn

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コメント

    • 無印
    • 2024年 11月 01日

    現行のトロフィーを、レオナルドが小型軽量化した「トロフィーVPS」なる物があるそうですが、「トロフィーの新たなアップグレード」ってこの事なんですかね?

    M1E3用の自動装填装置って、だいぶ前にYouTubeで見たやつだ
    本当に採用される時が来るとは、驚きだなぁ

    4
      •    
      • 2024年 11月 01日

      APSは複数攻撃に対する対抗力が弱いからなぁ。ドローンは価格が安いから、4発でダメなら。6発使えばいいの世界だと思う。そうなると問題はパイロットの数。一人複数台、親機子機の時代が来るのか?
      正直言って、既存のAPSの改善じゃない対応できない。一から設計し直さないと。
      複数発射なら、LEDS-150 APSがあるけど。あまり情報がないけど。ポンコツなのか?

      3
        • hoge
        • 2024年 11月 01日

        そういった場面ではハードキルAPSよりもソフトキルAPSや乗員の判断でスモークを焚いてにげるのでは。

        1
    • 774RR
    • 2024年 11月 01日

    戦車は何処まで重くなるんやろうね?

    従来通りの前面や側面だけじゃなくて
    ドローン攻撃対策に上面やら背面
    地雷対策に底面
    更に更にRWSやAPS付けて重くなった分だけエンジンも更に強化して。。。
    100トンに迫る日も近い?

    3
      • 理想はこの翼では届かない
      • 2024年 11月 01日

      「ドローンウォー」を見せつけられた結果、次世代MBTの設計が一からやり直しに近い形になるとは
      しかしAPSでトップアタックに対処するのも限界があるでしょうし、何か抜本的な構造変化が無いとダメな気もします

      4
      • paxai
      • 2024年 11月 01日

      ティーガーIIが70トンだからそこぐらいまではいけそう。冶金技術向上で故障率は減らせるだろうし。

      3
      • hoge
      • 2024年 11月 01日

      少しでも重量を軽くするために乗員を減らして車体にまとめて砲塔を小型化する。
      実際、展示されているLeopard2の無人砲塔型は重量が60t程度で、69tのLeopard2 A8よりも10t軽くなっている。
      それでも不十分ならば、将来的にはエンジンの小型化、砲弾の搭載量の縮小、さらなる乗員数の削減(2人乗り化)して車体も大幅に小型化すると思われ。
      さらに突き詰めて、危険な戦闘は無人車両でリモート操作化されるかもしれない。

      1
      • nachteule
      • 2024年 11月 02日

       当たり前のように70t超えるならそもそものコンセプトを見直すべき。露宇戦争のように泥濘が当たり前なら100tなんてとんでもないし、それなら接地圧を下げる為に履帯の幅を広げようとか重量増に対応する為に話が際限なく広がっていく。
       トランスポーターが重量に対応するのか輸送機は道路や端のインフラの問題ないか燃費は・・・etc。

       少なくとも既存のコンセプトを踏襲してとんでもない重量増になるなら完全無人化なり省人化や無人砲塔新しい対策はすべきでしょう?

      2
    • らっく
    • 2024年 11月 01日

    案外馬に戻るかもね。超壕能力もあるし。

    1
      • ののの
      • 2024年 11月 01日

      露軍のバギー歩兵やバイク歩兵が実質それである。

      17
    • 逃げるは恥だが
    • 2024年 11月 01日

    ドローン登場で戦車が更に重くなると言う悲観論もありますが、運用次第だと思います。個人的には戦車、歩兵と言った従来の敵とドローンは運用上分けて対応すべきじゃないかと。
    敵戦車、歩兵は
    ・視野、機動力と物量の面で味方戦車とほぼ同格
    ・先制攻撃を受けても、装甲で数発耐えさえすれば逆襲可能
    なので従来のAPSや各種装甲はその前提で開発されてきた筈です。
    ただドローン相手だと
    ・視野、機動力と物量で勝てる訳がない
    ・何機の攻撃に耐え、撃退しても、寧ろ敵が集まってくる
    これでは装甲、APSが幾らあっても無謀です。だからこそ敵ドローンに対しては徹底的に逃げの姿勢を取るべきです。
    具体的には敵ドローン接近に対して早期警戒を張り、敵ドローンが接近する前、或いは先制されても増援が寄せてくる前に追撃を振り切って退散すべきです。
    先ずAPS登場で戦車にも簡易なレーダーは搭載されてるので、今後低空域への早期警戒は実現するでしょう。万が一ドローンに捕捉されても、煙幕を張るだの回避機動とるだの2、3機APSで叩き落とすだの逃げる方法はありますし、今後APSを利用した電子戦攻撃も実現するかと思います。
    以上より無理にドローンの猛攻に耐えるのではなく、柔軟に前進と退却を繰り返す運用を取るべきですし、それは現代技術+αで十分実現可能かと。

    7
      • 名無し
      • 2024年 11月 02日

      そもそもドローンのコストが安すぎてドローンのいない戦場を見つけるのが難しい位だから悲観論になってるんじゃないか?

        •  
        • 2024年 11月 02日

        ロシア戦車と同じです。
        機械自体は安くて無限に存在しても、操る人間が限られます。

    • ドローンは戦車の敵ではない
    • 2024年 11月 01日

    ドローン登場で戦車が活かし難くなったって言うマイナスな話しか上がらないけど、裏を返せば味方ドローンが不死身かつ高機動の随伴歩兵として戦車の突進の露払いにもなり、随伴歩兵がいれば、APSや爆発反応装甲が使えない問題が解消する可能性もあるわけで、決してドローンは戦車にマイナスな影響ばかり与える物ではないのでは?

    11
      •     
      • 2024年 11月 01日

      問題の一つとしてドローンパイロットがどこに居て、何人必要か? 仮に四人として、戦車に乗せるスペースない。
      となると、装甲が厚いイスラエルのAchzaritみたいな兵員輸送車に複数人のパイロットを乗せるのか? そうなると、攻撃も守備もそれが中心になる。 実際は併用だと思うけど。
      砲塔なし戦車というカメ戦車の変形版みたいなものが、大量に出るかも。

      2
        •  
        • 2024年 11月 01日

        ドローン操縦者は今まで通り野外か或いは司令部にいた方が、車両内にいるよりは安全かと思います。ただ戦車にドローンを随伴させるために、ドローンと後方にいる操縦者との間の通信を戦車に中継させる、または戦車を通じて司令部とデータリンクさせてはどうでしょうか

    • どねつくぼうし
    • 2024年 11月 01日

    ついにM1も自動装填に…
    そうなれば西側でレオ2だけが周回遅れとなってしまいますね
    ドイツは何か手を打ってくるのでしょうか

    3
      • hiroさん
      • 2024年 11月 01日

      検討中のパンターの130mm砲が自動装填対応ですね。
      これは砲弾の大型化に伴う選択と思います。
      メルカバも自動装填装置は採用しておらず、Mk4は装填手に素早く弾薬供給をする半自動弾倉を装備していますね。
      戦車の自動装填装置は運用思想で採用の有無が分かれている様で、乗員4名体制を重視(非乗務任務の負担軽減、乗員負傷時の機能維持等)するメルカバやエイブラムスは装填手を残す選択をしています。
      今回のM1E3の自動装填装置採用は、記事にある通り無人砲塔化を実現するために必要な選択なのでしょう。
      自動装填装置の信頼性や乗員の体制、砲弾重量等がからみますので、自動装填装置を採用しないから周回遅れということでは無いと思いますね。

      5
    • 58式素人
    • 2024年 11月 01日

    思うのですが。
    ドローンに限らず、トップアタック対策なのでは。
    底面や立面については、ほぼ、対策はし尽くしているのでは。
    それでは対策は、となりますが、ここで素人の勝手な想像(笑)をすると。
    砲塔のターレットリングを今よりも高く(100mm?)設置して、
    車体上面にボックス装甲/複合装甲/ERAを使い分けて敷き詰めるのでは?(笑)。
    砲塔上面も同じ方法で?。結果、戦車の全高が200mmくらい高くなる?のでは。
    あと、APSですが、クレイモアの逆さ使い?では嵩張るし再装填が面倒でしょうから、
    大口径(20〜30mm?)のフルオートのショットガンを製作し、ドローンレーダー
    と組合せ、車両用のCIWSを作っては?(笑)。地上掃射にも使えるようにもして。
    以上、妄想の部分が多いですが。

    1
    • Natto
    • 2024年 11月 01日

    Sタンクみたいな無砲塔型はダメかな?

    1
    • kitty
    • 2024年 11月 01日

    将来的には、対空ドローンを複数機搭載し、常時迎撃用に飛ばして、充電ソケットを外に付けて、UAV空母みたいな運用にしたりして。
    まあ対空車両を随伴すればいいだけなんですけど。

    1
      • gobu
      • 2024年 11月 01日

      同じこと思った
      戦車型地上ドローン空母

      案外、航空機の無人随伴機よりこちらが先に
      くるかもー

    • マンゴー
    • 2024年 11月 01日

    寧ろドローンを早めに察知して安全な場所まで逃げ切れる戦闘車両の方が、需要は伸びる気はする
    ただ、それってバイクでも良いですよね?ってなってしまうから、戦車や歩兵戦闘車を生かし切れる戦術を開発するしかない
    ……平野じゃどうあがいても無理だが
    ただ、この課題を乗り切れれば、新たな道が開ける気がする

      • レーダーは必須かと
      • 2024年 11月 01日

      人間の目であれ、カメラであれ、地を這う戦車やバイクが空飛ぶドローンに視野で勝つことはほぼ不可能ですし、機動力もドローン相手にはバイクも、戦車も勝てないかと。結局電磁波の力借りて、レーダーで先に察知するしか逃げようがないんじゃないでしょうか?

      1
        • マンゴー
        • 2024年 11月 01日

        これからは電波範囲も重ねて地図を見た方が良いのかもしれない
        電子戦戦術と電子戦部隊の重要性が更に増して来るなぁ、と
        それには人材育成、産業の裾野……考える楽しみ(悩みともいう)は増えたのかも

        2
          • ななし
          • 2024年 11月 01日

          ドローン操縦電波を妨害するECM技術と操縦者がいると思われる電波発信源を攻撃するカウンターアタック技術がこれから重要になりそう
          最低でも電波妨害用アンテナつけないと戦車はこの先生き残れないかもしれない
          電子戦装備って高価だから調達価格が上がるんよね…
          攻撃側は10万円のドローンで済むから必要金額の非対称性が凄い

          2
    • ブルーピーコック
    • 2024年 11月 02日

    乗組員は3人になるのか、新たにドローンオペレーター(もしもの時の装填手)が入って4人のままなんだろうか。

    • 2024年 11月 03日

    10式戦車も制式化からもうすぐ20年ですし、当座はRWSやAPSの後付けで実験実績を固めつつ、新戦車の設計なり10式(改)名目でのRWS/APSを統合した改善型の新規設計なりに持ち込むのではないかと思います。
    遅くても2030年代中盤には、新戦車の制式化をしないと色々困難になるでしょうし。
    今、高機動車や3トン半トラックに積んだ車載レーザ兵器の開発に本腰入れてる感じがあるので、エンジンの出力強化やAPUの搭載とセットにして、最終形態としてレーザでの迎撃システムを積む可能性すらありますけど。

    • bbb
    • 2024年 11月 03日

    >>APSの能力を最大限引き出すには「後づけ」ではなく「設計自体への統合」が望ましい

    10式は主装甲が完全外装モジュール構造でこれはメルカバと同じなのでAPS統合化に基礎設計が関与する必要はありません
    10式はAPS最適化の砲塔外装に必要機材を盛り込む余力があるがレオ2もM1はそれが無く内装特殊装甲で形状変更も困難
    そもそも10式は外装へのAPS追加が前提で設計されてますのでメルカバMK4よりも最適化が容易だろうにと普通に思います

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