米国関連

KC-46Aの不具合解消が4度目の遅延、調達コストも約1億ドル上昇

米空軍はKC-46Aの不具合解消=RVS2.0リリースについて当初「2024年3月」とアナウンスしていたもの、2025年10月→2026年→2027年夏と遅延を繰り返し、5月12日「RVS2.0配備は2028年初頭」と4度目の遅延を発表。さらに議会から「調達コストが約1億ドル上昇する理由」も問い詰められた。

参考:Air Force, Boeing accelerate KC-46 upgrades to target readiness
参考:Air Force expects new KC-46 vision system in 2028 as lawmakers question price hike
参考:Air Force will not pursue KC-46 extension until RVS 2.0 is validated

逆説的には「2028年までに全て問題が解消すると見込んでいる」となり、KC-46Aの不具合を追いかけてきた管理人からすると痺れる展開だ

KC-46Aの空中給油システムは信頼性が高いKC-10のものを使用するはずだったのだが、米空軍は予備設計後に空中給油システムの制御をアナログからデジタルに変更するよう要求、未検証の技術で構築されたリモートビジョンシステム=RVS1.0は新規設計と呼ぶに相応しいものだったにも関わらず予備設計審査を簡略化して初期設計に移行し、プロトタイプのテスト中に不具合が報告されたのに問題を軽視して調達を強行した結果、KC-46AはRVS1.0の不具合で空中給油能力が制限される事態に直面。

出典:DoD Photo by U.S. Army Sgt. James K. McCann

この不具合は小手先の修正で何とかなる問題ではなく、米空軍とボーイングはRVS2.0開発を決定して「2024年3月から交換作業に入る」と発表したが、一から作り直すRVS2.0には未検証の新技術(自動空中給油システム導入に向けた拡張要素など)が含まれており、これを標準的な手順で検証すればリリース時期は2026年頃になると予想されていたものの、米空軍とボーイングはスケジュールを守るため予備設計審査を再び簡略化し、米政府説明責任局から「再び同じ失敗を繰り返そうとしている」と警告されていた。

交換時期を2024年3月に設定したのは「ブリッジタンカー(次期空中給油機までの繋ぎ)の入札」が関係しており、米空軍は「予備設計の段階で完全なプロトタイプによる入念な検証は現実的でない」「初期設計後の通常試験でRVS2.0のテストを行うため問題はない」と主張、米政府説明責任局は「未成熟なRVS2.0の問題を予備設計の段階で潰した方がコストや開発スケジュールを節約できる」と反論したが、米空軍は警告を無視して「予備設計審査の完了」を宣言したものの、2022年10月「KC-46Aの不具合解決が19ヶ月遅れる」と発表。

出典:Boeing

RVS2.0のリリース時期がずれ込む理由について「一部のハードウェアの入手性が極端に悪化しているため」「耐空証明を取得するプロセスも原因の一つ」と説明したが、ハンター空軍次官補は2024年3月「スケジュールに対するプレッシャー」「耐空証明を取得するプロセス」を挙げて「RVS2.0のリリースが2026年にずれ込む可能性が高い」と述べ、アルヴィン参謀総長も出席した下院歳出委員会で「2026年中にKC-46Aの問題は解決されない」と明かした。

アルヴィン参謀総長は「RVSの問題を修正するには(2026年から)更に18ヶ月かかる」「給油ブームや制御システムの問題はRVSよりも早く修正されるだろう」と、米空軍の広報担当者もAir&Space Forces Magazineの取材に「現時点でRVS2.0の配備時期は2027年夏になると見込まれている」「米空軍とボーイングはスケジュール遅延の圧縮もしくは軽減するための機会を模索している」と述べ、RVS2.0配備が2026年から2027年に遅れると認めていたが、米空軍は4度目となるRVS2.0配備時期の遅延を発表。

出典:U.S. Air Force photo by Airman 1st Class Joshua Hastings

米空軍は12日「ボーイングとKC-46のアップグレードを加速し即応性を大幅向上する計画で合意した」と発表し、この取り組みの3つの柱(初期生産機の再利用、RVS2.0改修の加速、性能ベースロジスティクス協定の導入)を説明する中で「2028年初頭に配備開始予定のRVS2.0は改修作業を整備拠点でのメンテナンスを一括で実施し、さらにRVS2.0キット納入も前倒しすることで全既存機の改修期間を13年間から7年間に圧縮する」と言及、これを受けてBreaking Defenseは「空軍はRVS2.0に関するスケジュール遅延も一緒に発表したようだ」「2027年夏に予定されていた配備予定が2028年初頭に変更されている」と指摘している。

さらにKC-46を脅かしていた「ブリッジタンカー」の存在は2026会計年度予算でTanker Production Extension(ブリッジタンカーの必要性を否定してKC-46Aを最大75機追加調達する内容)に置き換わり、2027会計年度予算文書の中で「2028会計年度に調達するKC-46Aの調達コストは2億3,500万ドルから3億3,400万ドルになる」を報告し、米空軍当局者は上院軍事委員会の航空・陸上小委員会で約1億ドルもの大幅な値上げを問い詰められた。

出典:U.S. Air Force photo by Senior Airman Robert Nichols

米空軍当局者は「現在購入しているKC-46Aは(固定価格契約の影響で)これまでで最も安価な空中給油機であり、ボーイングは(固定価格契約を守って)赤字を出しながらKC-46Aを納入している。もし適正な価格で取引されていたらKC-46Aの価格は遥かに高価だっただろう」「つまりKC-46Aの価格はこれまで人為的に安く抑えられていたのだ」「それでも調達価格の上昇率は非常に大きなものでコスト削減に関する交渉が現在も続いている」と説明したが、委員会は「大幅な値上げには詳細な情報が必要で、その動機が何なのか見極めなければならない」「調達プロセスそのものの近代化も必要だ」「答えが出るのを待つことになる」と述べている。

ちなみに最大75機の追加調達に関する契約は2028年締結が見込まれているものの、米空軍は2026年4月「カテゴリー1の欠陥が解決されるまで新たな契約は結ばない」と言及し、これは「RVS2.0の能力が検証されるまで追加調達契約を締結しない」という意味で、逆説的には「2028年までに全て問題が解消すると見込んでいる」となり、KC-46Aの不具合を追いかけてきた管理人からすると痺れる展開だ。

関連記事:Boeingが2026年度予算で大勝利を収める可能性、KC-46A追加調達の動き
関連記事:米空軍が3度目の遅延を発表、KC-46Aの不具合解消は1年半遅れの2027年夏
関連記事:米空軍が空中給油戦略をまもなく発表、KC-46Aは納入停止が長引く可能性
関連記事:KC-46Aの主構造に亀裂、ボーイングは対策を講じるまで納入を停止
関連記事:米空軍機の即応性、主力戦闘機の約半分は実戦投入の準備が整っていない
関連記事:ボーイング防衛部門の損失が過去最大になる見込み、四半期全体で49億ドル
関連記事:ボーイング防衛部門は第3四半期に20億ドルの損失、主犯はT-7AとKC-46A
関連記事:Lockheed MartinはF-35、Boeingは固定金額契約で損失が膨らむ見込み
関連記事:KC-46Aで新たなカテゴリー1の欠陥、燃料ポンプの振動が原因
関連記事:ボーイングが陥った固定価格の悪夢、KC-46Aの損失が70億ドルを突破
関連記事:再び破られた約束、KC-46Aの不具合解消は2025年から2026年にずれ込む

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force photo by Joshua J. Seybert

対イラン作戦の戦費負担、米海軍の活動資金は夏までに枯渇する見込み前のページ

米軍、1万発以上の低コスト巡航ミサイルを新興企業4社から3年で調達次のページ

関連記事

  1. 米国関連

    米空軍がE-3更新のための取り組みを正式に開始、E-7Aを米空軍仕様に変更

    一部の米空軍上層部は繰り返し「運用維持が困難で能力的にも時代遅れな早期…

  2. 米国関連

    米海軍、水上艦艇には長時間作動する消耗型アクティブRFデコイが必要

    米海軍のウィリアム・デイリー少将は「実戦でMk.53 Nulkaが素晴…

  3. 米国関連

    高価過ぎたF-22、開発の終わらないF-35、この教訓を次世代戦闘機「FX」にどう活かす?

    米空軍が現在、研究を行っている次世代戦闘機「FX」は、F-22ラプター…

  4. 米国関連

    米空軍、F-16C/DをF-35Aで更新するのか後継機を別に用意するのか8年後までに決断

    米空軍のブラウン参謀総長は防衛政策の分析や防衛産業界の市場調査などを手…

  5. 米国関連

    米空軍参謀総長、対イラン作戦で最も役立ったのはF-35やB-2でなくMQ-9

    米空軍はMQ-9について「太平洋地域では生存性が見込めないので退役させ…

  6. 米国関連

    米空軍、B-52Hの新型エンジンにロールス・ロイス製「F130」を採用すると発表

    米空軍は今月24日、76機のB-52Hが搭載するエンジン「TF33」を…

コメント

  • コメント (22)

  • トラックバックは利用できません。

    • 戦車
    • 2026年 5月 14日

    本当にもうボーイング

    21
    • あばばばば
    • 2026年 5月 14日

    MicrosoftのWindowsOSの将来の指針くらいには、ボーイングを信用してる

    14
    • リンゴ
    • 2026年 5月 14日

    なんというか、全体的に「おお」と言うしかない
    警告無視してスケジュールが19か月遅延するとか、フツーの企業じゃ考えられないぜ

    17
      • SB
      • 2026年 5月 14日

      それはボーイングの責任でなく米空軍の責任のような…

      8
        • リンゴ
        • 2026年 5月 14日

        書き方が悪かった
        (米空軍が)警告無視して

        4
    • AH-X
    • 2026年 5月 14日

    こんなとこにもアメリカ製造業の凋落が見えてますな。

    16
    • HEAT信奉者
    • 2026年 5月 14日

    半年後には28年半ばまでに延びてそう…

    14
    • YF
    • 2026年 5月 14日

    KC-46A、自衛隊でも導入してるんでどうなってるんだろうと思ったら、日本でも空中給油ブームの破損事故起こしてるんですね。
    自衛隊はKC-46Aを総数で15機調達予定で、日本の安全保障にも関わってくるだけに出来るだけ早く問題解決になって欲しいです。

    6
      • kitty
      • 2026年 5月 14日

      リンク
      これなんですけど、RVSがどうとかいうレベルのインシデントではないと思うんですよね…。

      6
        • YF
        • 2026年 5月 14日

        ありがとうございます。
        確かにヒューマンエラーですねこれ。

        2
        • プラネット
        • 2026年 5月 14日

        報告書はブームオペレーターの操作ミスとしていますが、「無自覚に」とあることから、オペレーター本人は操作ミスを否定しているのではないかとも思われ、接続給油中にシステムが誤作動を起こしてディスコネクトと認識し、乗員の操作がないまま勝手にブームの格納を開始してしまった可能性もあるようにも思われます。
        航空事故の原因調査で、機体側の不具合を指摘しづらい場合に、ヒューマンエラーとして乗員に事故原因を押し付けたのではないかと疑われることがままありますが、このケースの場合どうなんでしょうか。

        19
    • たむごん
    • 2026年 5月 14日

    航空機で、東北大学流体科学研究所(焼野藍子准教授など)が、新たな技術革新を見つけたと話題になっているようです。

    『空気抵抗を最大40%以上(!)減らせる』目に見えない凸凹を表面につけることで、表面は滑らかではない方がよいという考え方のようですね。

    軍用機の開発遅延という悲しい現実が溢れていますが、いつの間にか加工面でも技術が進化していて、性能が向上していく兆しがでているのは興味深く感じます。

    8
    • ドゥ素人
    • 2026年 5月 14日

    無理なんでしょうけど、エアバスに頭下げてrvsだけ購入できないですかね?
    A330向けシステムの改修の方が安くて早かったりして…

    • かず
    • 2026年 5月 14日

    何でKC-10のシステムに戻す決断が出来なかったんだろうかとか少なくとも初期ロットはそっちにしとけばとか思いますが
    中の人じゃないと分からないようなどうしようもない事情があったんでしょうなあ

    2
      • daishi
      • 2026年 5月 15日

      KC-Xの時にイタリア向けのKC-767A仕様(フライングブームとプローブ両対応)で最初からコンペしてたら今の有様になってなかった可能性もあるので当時のボーイングが欲張りすぎた後始末とも言えると思います。

      (1) ボーイングが総額で儲かるリース提案にした
      (2) 議会から「所有よりリースが高額」「ボーイング単独指名」になっているのはなぜかと突っ込まれる
      (3) 国防総省とボーイング間の汚職問題が発生しコンペからやり直し
      (4) A330ベースのKC-45が選定されるがボーイングの申し立てが通りKC-46Aが採用

      KC-767Aは翼端給油ポッドの問題でデリバリーが遅れていたためアメリカ空軍向けも遅延した可能性がありますが、それでもKC-767Aと仕様を変えずに2010年にデリバリーを開始していれば今の惨状はなかったと思います。

      今となっては、アメリカ軍に蔓延る「せっかくだから病」は軍縮開始から始まっているように感じていますね。

      6
      • SB
      • 2026年 5月 15日

      多分記事にはアナログとしか書かれていないのでKC-10のシステムが分かりにくいでしょうけど、KC-10やKC-135って小窓から目視で覗いてプローブを操作するんですよ
      そりゃ無理でしょう

      3
    • 匿名希望係
    • 2026年 5月 14日

    A33(1)0中古市場から買ってきて改修して使おうぜ

      • SB
      • 2026年 5月 15日

      何度も書くけどデカすぎて無理です
      C-17より大きいですからねA330MRTT

      2
        • 匿名希望係
        • 2026年 5月 16日

        一応310も入ってるんですが・・・(こっちは国内でのメンテ先に問題があるけど)

    • maru
    • 2026年 5月 14日

    そんな率先して
    第三次世界大戦を良い、均衡した戦いにしようと
    尽力しなくても

    2
    • 朴秀
    • 2026年 5月 14日

    機体性能が低くて価格が値上がっても
    アメリカが使っているという安心感は金じゃ買えません(お目目ぐるぐる)

    • 七面鳥
    • 2026年 5月 15日

    一言だけ。
    「ふざけんな!いいかげんにしろ!」
    すみません二言でした。

    ※ボーイングは、トランプ商談で支那が旅客機200機買うとか……そんなんで延命しないで一度潰れた方がいいような気がする。一度死ぬ目にあっても懲りない自動車ビッグスリーというのも居ますが……

    3

ポチって応援してくれると頑張れます!

にほんブログ村 その他趣味ブログ ミリタリーへ

最近の記事

関連コンテンツ

  1. 中東アフリカ関連

    アラブ首長国連邦のEDGE、IDEX2023で無人戦闘機「Jeniah」を披露
  2. 米国関連

    米空軍の2023年調達コスト、F-35Aは1.06億ドル、F-15EXは1.01…
  3. 欧州関連

    BAYKAR、TB2に搭載可能なジェットエンジン駆動の徘徊型弾薬を発表
  4. 中国関連

    中国は3つの新型エンジン開発を完了、サプライチェーン問題を解決すれば量産開始
  5. 欧州関連

    オーストリア空軍、お荷物状態だったタイフーンへのアップグレードを検討
PAGE TOP