欧州やアジアでは米国製兵器の納入遅延に対する懸念が広がっている中、New York Timesは「トランプ政権が中東諸国に約170億ドル相当の迎撃ミサイル売却を承認した」「この迎撃ミサイルは2種類のパトリオット迎撃ミサイルだ」「1発400万ドルと仮定すると約4,250発分に相当する」と報じた。
参考:As Stockpiles Fall, U.S. Sells More Missiles Worth $17 Billion to Gulf Nations
これからパトリオットシステムを新規取得して運用国に加わろうなどという考えは狂気の沙汰でしかない
トランプ政権の議会軽視はますます酷くなっており、イランとの戦争は戦争権限法の上限ぎりぎりで収めたものの、2027会計年度の国防予算は「予算審議を必要とする通常予算の1兆1,500億ドル」と「法律に基づく義務的支出の3,500億ドル」に分けて提出し、通常予算は上院と下院の国防委員会で予算審議が行われるが、義務的支出は国防委員会ではなく議会で審議されるため「国防予算の審議手続きを軽視している」と反発を招いている。

出典:RTX
さらに対イラン作戦=エピック・フリー作戦でイランの報復攻撃を受けた中東諸国は高価な迎撃ミサイルを消耗してしまい、国務省は3月19日にアラブ首長国連邦とクウェートに対する対外有償軍事援助(総額164.64億ドル=約2.6兆円)を議会審査免除で緊急承認、5月1日にもアラブ首長国連邦、カタール、クウェート、イスラエルに対する対外有償軍事援助(総額86.3億ドル)を議会審査免除で緊急承認したと発表したが、New York Timesは7日「トランプ政権はアラブ首長国連邦、クウェート、バーレーンに対する約170億ドル(171.75億ドル)相当の迎撃ミサイル売却を承認した」と報じた。
この170億ドル相当の迎撃ミサイル売却も「武器輸出管理法第36条(b)に基づく議会審査の要件免除」で緊急承認されたが、3月19日と5月1日の緊急承認とは異なり公式発表されておらず、国防総省はアラブ首長国連邦、クウェート、バーレーンが受け取る迎撃ミサイルの数は明かしていないものの、議会関係者が明かした金額ベースによるとアラブ首長国連邦は62.5億ドル分、クウェートは93億ドル分、バーレーンは16.25億ドル分の迎撃ミサイルを受け取るらしい。

出典:NATO Support and Procurement Agency
New York Timesは「我々が入手した国防総省の文書には2種類のパトリオット迎撃ミサイルが記載されており、1発400万ドルと仮定すると売却額170億ドルは約4,250発の迎撃ミサイルに相当する」と報じ、2種類のパトリオット迎撃ミサイルとはPAC-2 GEM-TとPAC-3 MSEのことだ。
PAC-2 GEM-Tの生産能力は2027年に年420発を予定しており、この生産枠をNATO発注の計1,000発、ドイツ発注のウクライナ向け推定672発、カタール発注の200発が奪い合う格好で、Lockheed Martinは2026年1月「PAC-3 MSEの生産能力を年600発から年2,000発に増強する」と発表したが、これを達成するにはサプライチェーンの生産能力から強化しなければならず、年2,000発の生産率を達成するのは7年後=2033年頃の話だ。

出典:Lockheed Martin
年600発のPAC-3 MSE生産枠も各国が発注した推定数千発の受注残、5月1日に緊急承認されたカタール向けの300発、2027会計年度予算が原案通り成立すると発生する3,203発が奪い合う格好で、ここに非公開で緊急承認されたアラブ首長国連邦、クウェート、バーレーン向けの推定4,250発(PAC-2 GEM-TとPAC-3 MSEの合算)が差し込まれ、アラブ首長国連邦、クウェート、バーレーン向けの納入が優先されると、他の顧客への納入はどんどん後回しにされるだろう。
国防総省は1月に発表した国家防衛戦略の中で「同盟国およびパートナーへの負担拡大」を訴え、トランプ政権も2月に発表した「米国第一主義の武器移転戦略」の中で「自国の防衛能力への投資を強化し、米国の戦略において重要な役割や地理的条件を有する国々が武器売却交渉において優先される」と明確に言及しており、自国の防衛能力への投資強化とはトランプ政権が「国防支出の新基準だ」と呼んでいるGDP比総額5.0%(実質は純粋な国防支出の3.5%)のことだ。

出典:The White House
つまり「GDP比総額5.0%を達成もしくは達成すると約束した国」かつ「米国の戦略にとって重要な国」は対外有償軍事援助の武器納入で優遇され、それ以外の国は「政治的な意向」で優先順位が変更される可能性が高く、有償軍事援助の納入遅延に関する補償もなく、納入遅延により生産コスト増分も納入遅延国が負担しなければならず、これからパトリオットシステムを新規取得して運用国に加わろうなどという考えは狂気の沙汰でしかない。
関連記事:米国製兵器の納入遅延リスク、米国が中東諸国に武器の緊急売却を承認
関連記事:米国がUAEとクウェートに武器の緊急売却を承認、売却総額は約2.6兆円
関連記事:欧州への米国製兵器供給が大幅遅延する要因の1つ、米国が台湾を優先か
関連記事:米国製武器の納入遅延が拡大、日本を含むアジアの同盟国も納入遅延を覚悟すべき
関連記事:米国製武器の納入遅延が拡大、ノルウェーにも納入遅延の可能性を通知
関連記事:米国が弾薬不足対応でFMS優先条項を行使、欧州に武器納入遅延を通知
関連記事:米国が技術移転を拒否、ポーランドのHIMARS大規模調達が行き詰まる
関連記事:米軍は長距離攻撃兵器を全力で消耗中、対イラン戦でJASSM-ERを1,000発以上も発射
関連記事:米軍は対イラン戦でトマホークを850発以上消耗、現在の発注率換算で14年分
関連記事:スイスはパトリオットシステム取得の支払いを停止、米国の態度によっては取得中止
関連記事:スイスはパトリオット購入の支払いを停止、米国はF-35A購入資金を勝手に流用
関連記事:スイスがF-35調達削減、パトリオット納入遅延で追加の欧州製システム導入も検討
関連記事:スイス議会、パトリオットシステムからSAMP/Tへの乗り換えを議論
※アイキャッチ画像の出典:Lockheed Martin





















4,250発の迎撃ミサイルって現物としてまだあるんだろうか
購入権の入手でしょうね。
手元に有るのは証文だけ
数字が非現実的すぎる上に4,250発も納入するのに何年かかるのかという話で、ちょっと俄かには信じがたいですね。
もしかして本当に売る気はなく、まだ交渉中のイラン相手に圧をかけるために売却をアナウンスしただけとか?
需要があまりにも膨大ですね。
アメリカ(米軍)への需要も、中東駐留部隊+補充分そもそもあるわけですから、納品は本当に期待できないだろうなと。
大盤振る舞いは良いのですけど、優先権があっても数年後に納入だと、アメリカ以外のミサイルで繋ぎとして購入も出てくるでしょう。本当にバックオーダー分さばけるんですかね?
新興企業の代用品ある程度カバーできてしまったら、元も子もないし、需要があるなら参入メーカーも増えるでしょうし。サプライチェーンの主権問題もあるし。
アメリカがこれらの湾岸諸国を重視してますっていう政治的アピールですかね。米軍が駐留してる国は国内勢力の説得の為にもこの手のニュースが必要でしょうから。
ある意味空手形でも問題ないのかもしれません。
日本にその能力があるかどうかはわからないですが、パトリオットにしろアムラームにしろ部分製造じゃなくて一括で作らせてくれないですかね。これだけ需要が逼迫してるなら。
アメリカ(というかトランプ)は危機感が全然足りてないんじゃ?
中東と太平洋、どちらが米国の安全保障に直結するかは火を見るよりも明らか。
米国の貧弱な生産力と中国の圧倒的生産力を考慮すると戦争では長期戦になるほど不利であり、短期決戦で勝負をつけるしか勝ち目はないだろうが、短期決戦で決め切るにはそれこそ積みすぎなほどの備蓄を用意しておかなければならない。
その貴重な弾薬を散々に消費するわ、更にこれからの生産分を中東の穴埋めにって…長い間国として勝ちすぎて不利な戦いを想定する事を忘れてしまっただろうか?それとも中国が攻めてくる事は無いとお祈りでもしてる?
アメリカとしてはそうなんでしょうけど、トランプ氏としてはイスラエルのほうが大事なのでしょう
意味がないどころか世界経済に有害なだけの戦争をまき散らした挙句圧倒的物不足に陥る
大した同盟国ですな
アラブ諸国への輸出も状況によっては後回しになるかも知れないんですよね。もう、何を信じたら分からない。
>アラブ首長国連邦、クウェート、バーレーンが受け取る迎撃ミサイルの数は明かしていないものの
三国とも対イラン強硬派ですな、傀儡ともいう
オマーンは実質中立でサウジが非協力的で一時的に領空封鎖までしたってのはほんとなのかもしれない