米国関連

懲りない米空軍に米会計検査院が警告、KC-46のRVS2.0開発で同じ失敗を犯す

ステルス戦闘機や爆撃機に対する給油制限を解除するため開発が進められているKC-46のリモートビジョンシステム2.0について、米政府説明責任局は「再び同じ失敗を繰り返そうとしている」と警告して注目を集めている。

参考:GAO Warns Air Force: Think Twice Before Owning KC-46 Tanker Fix

RVS開発失敗と同じアプローチでRVS2.0の開発を進める空軍にGAOは「もっと慎重にテストを行え」と警告

KC-46の開発は「実績のある767ベースなので開発リスクが低い」と判断した米空軍とボーイングは開発費用を最大49億ドル(約5,310億円)で固定するという画期的な契約を締結、米空軍としては開発が難航してもトップライン以上の支出を行う必要がなく、ボーイングにとっても開発を49億ドルよりも安く収めれば儲けが多くなるためコスト削減とスケージュール厳守の自助努力が進むと考えられていたのだが、KC-46の開発は固定金額という落とし穴にハマってしまい酷い目にあっている。

出典:U.S. Air Force Photo by Tech. Sgt. John Wilkes KC-46A

KC-46の空中給油システムは実績のあるKC-10ベースのアナログ制御で予備設計を通過したのだが、空軍は予備設計をやり直すことなくデジタル制御への変更を要求して初期設計に進み、技術成熟度評価(TRA)による検証が未実施の技術で構築された新型の空中給油システムは「新規設計」と呼ぶに相応しいのに米空軍は「実績のあるKC-10に使用された技術をベースにしたもの」と考えて入念な検証・評価作業やTRAは必要ないと判断、テスト中に何度も不具合が報告されても無視して開発を強行。

KC-46Aは空中給油口に差し込むブームが航空機の機体表面を損傷させるリスク(実戦任務におけるF-22A、F-35A、B-2への給油制限)については後日修正すれば良いと判断してKC-46Aの調達を開始、しかし空中給油作業を制御するRVSに起因する同問題は後付の修正で解決できないことが判明したためリモートビジョンシステム2.0(RVS2.0)を新規開発するハメになったのだが、空軍はRVS2.0の早期実用化を急ぐため予備設計の審査を「標準的なアプローチとは異なる手法で時間の短縮している」と米政府説明責任局(GAO/旧会計検査院)に指摘されている。

出典:U.S. Air Force photo by Chustine Minoda

特にRVS2.0はRVSの不具合を解決したバージョンではなく自動空中給油システムへの対応が含まれているためRVS以上に検証が未実施の技術で構築されているのだが、空軍は予備設計で要求されている「完全なプロトタイプによる入念な検証」について現実的ではないと拒否しているらしい。

つまり予備設計でプロトタイプの検証を行えばRVS2.0実用化が2024年→2026年に後退するため、このまま初期設計に進み通常の開発試験でRVS2.0のテストを行えば良いと空軍は考えているのだが、これは完全にRVSの開発で失敗したアプローチと同じなのでGAOは「先に進む前にもっと検証とテストを行うべきだ」と要請している。

GAOは予備設計で未成熟なRVS2.0の問題を潰した方が「結果的にコストと開発スケージュールの節約に繋がる」と主張しているのだが、空軍やボーイングは「通常の予備設計以上の細やかさでRVS2.0について吟味したため今後重大な技術的リスクに直面することはない」と述べてGAOの要請を拒否する構えだ。

出典:U.S. Air Force photo/Airman 1st Class Colby L. Hardin 3Dメガネを装着してRVSを操作する様子

果たしてどちらの主張が正しいのかは疑問だが、もしこれでRVS2.0がRVSと同じような問題に直面すれば何も言い訳ができなくなるため空軍やボーイングも根拠がないまま「できる」と言っていないと思うが、第三者からするとGAOの方が正しいことを言っているように感じてしまう。

因みにボーイングはRVS2.0を開発するため2021年に4億600万ドルの資金を支出しており、KC-46Aの開発費超過=つまり49億ドルを超えてボーイングが負担している額は54億ドルを突破している。

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※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force photo by Tech. Sgt. Abigail Klein

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コメント

    • ブルーピーコック
    • 2022年 1月 29日

    安物買いの銭失いと言うか大企業病と言うか。実証すら行われていない技術を試験機なしで通しちゃうとか、空軍上層部にメス入れなきゃ治らんのでは(治るとは言っていない)

    26
    • あばばばば
    • 2022年 1月 29日

    ボーイング707ベースのKC-135の後継も火急の問題になりそうですよね。
    KC-10もDC-10、MD-11の運用会社が少なくなってきているし、近いうちにボーイング707ベースの軍用機と同じような事になるだろう。
    まじでどーすんだこれ……

    3
      • 戦略眼
      • 2022年 1月 29日

      尻に火が着いたら何とかするんじゃないかな。

      1
      • 黒丸
      • 2022年 1月 29日

      B-21をベースに作りそうな気がするな。
      ロシアや中国の長距離ミサイルで空中給油機を狙われるリスクが下がるから。
      B-21の低ランニングコスト機体作って実験ぐらいはするかも。

      2
    • クローム
    • 2022年 1月 29日

    今でこそ検証不足は明らかだけど、
    KC-10ベースの給油システムと767で作る空中給油機がここまで泥沼化するとは予想してなかったなぁ。
    コストと開発期間を圧縮することでより一層時間もコストも膨れ上がるのが何とも言えない。

    18
      • 匿名
      • 2022年 4月 22日

      まったくその通り。
      ボーイングの経営者は、絵に描いたような正真正銘のバカですな。
      ボーイングなど倒産してしまえ。

      2
    • くらうん
    • 2022年 1月 29日

    ズムウォルト級やLCS、ARRWなど個別の問題は違えど、どれも未知の技術に向き合う誠実さの無いことが通底する問題

    13
    • 無明
    • 2022年 1月 29日

    KC-46売ってA330MRTT買うことできないのかな

    1
      • 7C
      • 2022年 1月 29日

      空自の運用でどういう風に対応してるのかは詳しくは中国四国防衛局の出してるPDFとかを見てもらうとわかるけど、太陽との位置関係でカメラの映像が不鮮明になる状況での運用を避ける事で対応可能という事なのでそういう状況を避けて運用する事で対応するらしいよ
      それにKC-767を4機保有してるからKC-46AでF-35Aに給油するのがどうしても厳しいならF-35Aへの給油にはそっちを従事させてKC-46AはF-15JやF-2といった機種への給油に充ててもいいだろうし、将来導入するF-35Bに関してはプローブ&ドローグ方式だからKC-46Aの問題の影響はないので空自に限って言うなら欠陥の修正を待ってたらいいかと

      MRTTはサイズが大きいから取り回しが出来る空港が限られてくるし、A330の保守整備体制が空自では整ってないのでそこから構築し直す必要もあったりと負担が結構デカいので・・・輸送機としても普段使いをする事も考えるとこの点で使い勝手悪いのは非常に宜しくない

      なのでもう購入済みのKC-46Aを売却してまでMRTTに乗り換えるのはデメリットの方がずっと大きくなると俺は思う

      20
    • ネコ歩き
    • 2022年 1月 29日

    開発を急ぎたい故か検証不要という姿勢は開発能力に対する過信の現れなんでしょうか。
    最近の米軍における先端技術兵器の開発政策は頭が優先して手が追いついていない印象ですね。

    3
      • derr
      • 2022年 1月 29日

      IT系のスピード絶対思想に毒されすぎたんじゃないの

      11
    • 匿名
    • 2022年 1月 29日

    A310 MRTTがほしくなるな…
    あっちはフライングブームに正式対応してないんだけどさ

    1
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