米国関連

米軍がOCX開発中止を検討、1.2兆円以上の資金を投じたGPS近代化に失敗

米軍が進めているGPSシステムの近代化計画の主要な構成要素は「軍用向け信号の妨害耐性と安全なアクセスの向上=Mコード信号の導入」だったのだが、約15年の歳月と1.2兆円以上の資金を投じた新しい地上運用システム(OCX)の開発に失敗し、宇宙軍はOCXの開発中止を検討しているらしい。

参考:Pentagon Eyes Canceling ‘Troubled’ GPS Ground System

計画を中止した場合、OCXに依存しているスポットビーム機能やBlock IIIFの機能をどうするの?

米国が長距離電波航法=LORANの後継システムとして24基の衛星で構築したGlobal Positioning System=GPSは軍事、民間、商業ユーザーに重要な測位機能を提供し、米議会は技術の進歩と新たな能力を取り入れたGPSシステムの近代化計画を2000年に承認し、この計画は「次世代のGPS衛星=GPS Block III」と「GPS Block IIIを制御する新しい地上運用システム(OCX)」で構成され、前者はLockheed Martinが、後者はRaytheon(現在のRTX)が開発を担当し、近代化計画の主要な構成要素は軍用向け信号の妨害耐性と安全なアクセスの向上=Mコード信号の導入だった。

出典:U.S. Marine Corps photo by Lance Cpl. Alexander Mantai

Block IIR-M衛星で導入されたMコード信号は従来通りの広角アンテナで発信されていたが、Block III衛星からは広角アンテナに加え、強力な指向性アンテナ(スポットビーム)からも発信されるため現地の信号強度を20dB(電界強度で10倍、電力で100倍)増強でき、2018年12月~2026年1月までにBlock III衛星が9基打ち上げられ、今年4月に最後(10基目)の打ち上げが控えているものの、このスポットビーム機能の運用はOCXに依存している。

Raytheonが開発するOCXは「Block III衛星の起動とチェックアウトのみに対応したBlock 0」「Block II/III衛星のコマンド制御と民間向けL1C信号の発信に対応したBlock 1」「Mコード信号のスポットビーム機能に対応したBlock 2」に分かれ、2016年にOCX Block 2までを引き渡す予定だったが、開発遅延を繰り返してプログラムコストも34億ドルから80億ドル(1.2兆円)以上に膨らみ、現時点で完成しているのはBlock 0のみでBlock 1とBlock 2は2025年7月に引き渡されたものの、宇宙軍がテストを行うとソフトウェアの欠陥が発見され「これを解消するには非常に多くの時間がかかる」と言及し、遂にOCXの開発中止を検討しているらしい。

出典:Lockheed Martin

米空軍はOCX開発遅延が明らかになった2017年「現行のGPS運用制御システムに暫定的なMコード運用能力=M-Code Early Use(MCEU)を付与する作業」をLockheed Martinに発注し、2020年3月にMCEU開発作業が完了、運用承認の手続きもパスして2021年に運用が開始されているが、MCEUが対応しているのは広角アンテナで発信されるMコード信号の制御と監視のみで、OCXが提供するはずだったMコード信号のスポットビーム機能には対応していない。

さらにBlock III衛星の後継として開発・製造が進められているBlock IIIF(22基)の機能もOCX Block 1/2がなければ十分に活用できず、既にRaytheonはOCX Block 3Fの開発契約も受注しており、OCXが開発中止になればBlock III衛星の後継プログラムに影響が出るのではないかと噂されている。

出典:U.S. Marine Corps photo by Sgt. Peter Rawlins

要するに「Block IIR-M衛星から広角アンテナを使用したMコード信号の発信は可能」「MCEUの完成でBlock IIR-M衛星やBlock III衛星の広角アンテナで発信されるMコード信号の制御と監視が可能になった」「肝心のスポットビーム機能はOCX Block 2の完成待ちだった」「開発から15年以上が経過してもBlock 1/Block 2は未完成で宇宙軍はOCX自体を中止すべきか検討している」「GPS衛星の制御自体はMCEUが付与された現行の運用制御システムで管理可能」「計画を中止した場合、OCXに依存しているスポットビーム機能やBlock IIIFの機能をどうするの?」という意味で、現状では本当に救いがない。

ちなみに、宇宙軍調達責任者を務めているトーマス・アインズワース氏は今月25日に下院軍事委員会で行われた公聴会で「OCXプログラムの不振はRTXだけでなく政府側の管理がお粗末だったことにも原因がある」と述べている。

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※アイキャッチ画像の出典:U.S. Army photo by Staff Sgt. Helen Miller/released

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コメント

  • コメント (13)

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    • 戦車
    • 2026年 3月 31日

    また中止かぁ、陸海空宇と中止が多すぎてもはや数えられないなぁ。

    25
    • ponta
    • 2026年 3月 31日

    イラン攻撃の真っ最中に、この情報を拾ってこれる管理人さんが、すごい。すごすぎる。アメリカ宇宙軍も、今ならばれないと思って、この発表を今したのだろう。

    47
    • 通りすがり
    • 2026年 3月 31日

    結果的にせよ、コストを掛ける優先順位としては中止で良いんじゃないの、とは思う
    高度でなくて良いから、先ずは豊富なミサイル、弾薬、ドローン等
    ウクライナやイランでの戦訓の1つ

    3
      • せい
      • 2026年 3月 31日

      それらの弾薬を活かすためには衛星からの情報が重要だから、これが正解とも言い難い

      22
        • 通りすがり
        • 2026年 4月 01日

        普通に現行とニアリーイコールの技術水準のGPS使い続ければ良いだけ。それでも日本のみちびきより進んでんだし
        どうせ量子コンピュータが実用化されたらまた信号等を変えるんだし、今回スキップしたところで致命的なことにはならない

        2
      • T.T
      • 2026年 3月 31日

      米軍の優位の根源の一つを捨てることになるんですが。

      16
    • イーロンマスク
    • 2026年 3月 31日

    中国の北斗に追い抜かれそう

    19
      • 犬の〆
      • 2026年 4月 01日

      イランのミサイルに北斗入ってるらしいですね。
      今回の戦争になるちょっと前に納品済だとか。

    • たむごん
    • 2026年 3月 31日

    イーロンマスク(スペースX)に頭下げて、何かやった方がいいものできそうな気もするなあと…。

    アメリカは、陸海空宇宙どれも開発資金ばかり費やして、なかなか上手くいってないように感じるのですがどうなんでしょうかね。

    20
    • 黒丸
    • 2026年 3月 31日

    GPSへの妨害に対して、信号偽装を防ぐための対策がMコードでこれは実装済み。
    電波妨害されている地域に対してピンポイントで衛星からの電波を強くすることで
    妨害に打ち勝つスポットビームを制御するための地上側の機能が開発できていない。

    GPS+スターリンクで何とかならないのでしょうか?

    8
    • SB
    • 2026年 3月 31日

    これ真面目にスターリンクの派生型でやるんじゃねぇかな、実際2025年には売り込みに行ってるし
    スターリンクはLEOだからMEOのGPSよりも信号が強いし、衛星がアホみたいに多くて抗堪性も高いわ妨害にも強いわで次期GPSの最有力候補でもある

    11
    • uralT72
    • 2026年 4月 01日

    Mコードとスポットビームのうち、Mコードだけでも出来たんならそれだけでも運用したらとも思うけど、記事のニュアンスだとスポットビームの方が重要みたいな?ウクライナではGPS妨害は単純な電波妨害がほとんどでデータ偽装はそれほどやられてないのか。

    1
      • せい
      • 2026年 4月 01日

      スポットとは言うが、直径数百km範囲で情報強度を爆増させるって計画だったからね
      地上部隊は勿論、高速移動する航空機の無人機とのチーミングとかにも必須レベルの技術だったんだろう

      1

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