現在の米国には中国を圧倒できるほどの軍事力がなく、特にA2/AD戦略が機能する中国沿岸部での交戦は米国にとって不利で、Defense Newsも米陸軍少佐の主張に基づき「米軍は太平洋からの撤退を計画すべきか」「時間、空間、戦力の優位性を形成するため後退戦術を検討すべき」と指摘した。
参考:Rethinking Retreat
参考:Should America’s military plan for a retreat from the Pacific?
米国は中国の弱みを、中国も米国の弱みを徹底的に研究し「自国の強み」を全面に押し出してくるため、自国にとって有利な戦場を設定できるかは未知数
米国は台湾海峡危機に空母打撃群を派遣することで中国を引き下がらせることに成功したものの、現在の中国は接近阻止・領域拒否(A2/AD)戦略に基づいたミサイル戦力、航空戦力、防空システムの増強で本土沿岸部の軍事的優勢を確保し、独自の空母と艦載機を開発して米海軍に匹敵する空母打撃群を整備しつつあり、一方の米国は極超音速ミサイル、対艦弾道ミサイル、無人機といった新たな分野で明確な遅れが生じ、特に海上戦力の規模に関しては中国海軍に追い抜かれた可能性が高く、造船関連の基盤が衰退したことで艦艇の建造や維持に深刻な問題が発生している。

出典:U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 2nd Class Carson Croom
まだ太平洋のど真ん中で中国と対峙するなら総合的な能力で米国優位だが、A2/AD戦略が機能する中国沿岸部(台湾を含む)で衝突が発生すれば米国は圧倒的に不利で、このギャップをカバーしてきた軍事技術の優位性も一部分野で逆転され、もはや米国にとって中国は対等の競争者、中国沿岸部に限っては自身よりも強大な競争者となり、Defense Newsは21日「米軍は太平洋からの撤退を計画すべきか」という興味深い記事を公開した。
太平洋からの撤退計画とは「米軍が戦略的に西太平洋を放棄してハワイや東海岸沿岸まで後退する」という意味ではなく、火力の優位性が衰退し、戦力の分散が台頭し、中国人民解放軍の作戦範囲が拡大したため「作戦思考も拡大させる必要がある」「攻撃は最大の防御という攻撃、攻撃、攻撃のワンパターンでは対抗できない」「時間、空間、戦力の優位性を新たに形成するため後退戦術を検討する必要がある」というもので、陸軍のパトリック・スミス少佐は「太平洋地域で米軍の立場を危うくするリスク」について以下のように説明している。

出典:U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 3rd Class Sean Lynch/Released
“米軍の戦力は脆弱な接触線地域で活動しているため、衝突が発生すれば大量のスタンドオフ兵器や封鎖作戦によって個々に撃破されるリスクに晒されている。中国が保有する長距離攻撃兵器の射程では補給が困難な上、この地域の人員と兵器の備蓄も乏しく、実際の衝突に直面した地域パートナーは米軍支援を驚くほど早く撤回する可能性があり、一部の地域では米軍の駐留維持が不可能になるかもしれない。さらに米軍は十分な量の海上輸送力能力が欠け、危機対応訓練や維持管理が著しく不足し、このことが水陸両用作戦能力を損なわせている”
要するにスミス少佐は台湾危機を想定した衝突で「攻撃のタイミングを決定するのは中国」「現行の態勢では個々に撃破されるだけ」「これを吸収しながら態勢を立て直す作戦思考が必要」「中国と衝突初期段階で撤退と遅延は指揮官の戦術上の鋭い矢になる」「中国の反復する攻撃に晒されながらも敵を弱体化させる位置を慎重に見極めるべき」と主張し、中国が攻撃に踏み切っても分散することで標的選定のジレンマに陥れ、適時の撤退で戦力損失を最小化し、戦闘地域の内外で欺瞞作戦を実施することで敵の行動を制限し、米軍の強み=友軍が移動するための時間と空間を作り出すことで中国の弱みを突くことができるという意味だ。

出典:U.S. Army Photo by Spc. Aiden O’Marra
ここでいう中国の弱みとは「柔軟な解釈を許さない厳格なトップダウン構造に基づく中国人民解放軍の意思決定方法」「実際に攻撃を担当する下級司令部が権限外から脅威や事態に晒されることで発生する行動の混乱や麻痺」で、米国の柔軟さを最大化することで硬直した中国の意思決定に影響を与えて隙を作り出し、衝突初期のリスクを切り抜けて反撃に転じるとなるが、スミス少佐は「最終的に中国との戦いで決定打になるのは機動力の効率と戦場地域へのアクセス回復だ」と主張している。
但し、MIT国際研究センターのアナリストはDefense Newsの取材に「それでも大半の米国人は撤退や遅延戦術ではなく『最も優れた防御は攻撃である』という考えに同意するだろう」「現在の環境は第2次大戦と異なり『敵の長距離攻撃能力に晒されながら自らの火力を投射できる能力』にかかっている」「問題は米国が太平洋地域の拠点を中国のミサイル攻撃から保護する努力を怠っていること、あるいは攻撃に晒されても機能する柔軟かつ冗長を確保できていないことにある」と指摘し、以下のように述べている。
We are a tide of steel over the vast ocean.
We cruise the deep and we patrol the sky.
With tactical formations and live-fire drills,
We forge a Great Wall of steel at sea.
Each time our warships assemble and each time we conduct combat-oriented drills,
We safeguard peace… pic.twitter.com/p5cm8keYzZ— ChinaNavy (@China_Navy) August 1, 2025
“この問題は撤退そのものではなく、非常に脆弱な地域に部隊を前方展開させないことに関連し、こうした脆弱性は分散戦術によって軽減することが可能だ。さらに米国人は撤退を嫌うかもしれないが、これを中国よりも上手く行える条件が揃っている。米国が太平洋地域において享受している優位性は広大の海上の縦深さ、望む場所とタイミングで交戦できる能力で、逆に中国海軍は大陸沿岸部に張り付くしかないため逃げ場所も隠れる場所もない。事実上、中国海軍は衝突初日から射撃場のような環境に置かれているようなものだ”
上記の考え方は「絶対的な正解」ではなく、米国と中国を取り巻く多面的な要素や条件の一部分を比較したものに過ぎないが、米国は中国の弱みを、中国も米国の弱みを徹底的に研究し「自国の強み」を全面に押し出してくるため、自国にとって有利な戦場設定を敵に強制できるかは蓋を開けて見るまで分からない。
A training formation composed of Chinese PLA Navy destroyers and frigates conducted a multi-day, multi-subject combat readiness training exercise and significantly enhanced its capabilities to fulfill diversified tasks. pic.twitter.com/LcYCFKxGS9
— ChinaNavy (@China_Navy) June 28, 2025
ウクライナとロシアの戦争も高度な防空システムが空からのアプローチを制限し、ロシアが保有する戦術・戦略核兵器が致命的なウクライナ支援を制限し、ドローンの活用がロシア軍の機械化部隊運用を制限し、唯一の突破口が人的リソースの供給能力=犠牲を顧みないアプローチが優位性を作り出す戦場となり、この点においてロシアは「自国にとって有利な戦場設定をウクライナに押し付けることに成功した」と言えるだろう。
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※アイキャッチ画像の出典:Petty Officer 3rd Class August Clawson





















そこに1億を越える人口と工業基盤を備えた列島があるじゃろ
そこって非常事態になってもやる気のある人たちがごく一部ですし
中国・日本間は充分な縦深のある海域がありますが、台湾海峡で殴り合うのは、もはや今の米軍には無理ってこってすな。
台湾有事と第二次朝鮮戦争は同時に起きてもおかしくない。
中国陸軍に韓国軍が耐えられるのか? 釜山が陥落したら日本もキツイな。
>実際の衝突に直面した地域パートナーは米軍支援を驚くほど早く撤回する可能性があり、一部の地域では米軍の駐留維持が不可能になるかもしれない。
これ、アメリカ目線で、いざ戦争になったら、日本が日米同盟を破棄して、日中同盟に鞍替えすることを想定しているんじゃないですか?
日本がアメリカを裏切って中国側につく可能性があると、アメリカ側は考慮していると。
現時点での韓国が主眼ではなかろうか
韓国は台湾うんたらでの言質をアメリカに容易に与えないし、日本とフィリピンのように島の領有権をめぐって中国と激しく衝突るわけでもない(どこかの島で争ってはいるけどホットスポットではない)から熱量も低く、平時から米軍撤退がしばしば話題になるぐらいだし
日米同盟破棄とか日中同盟とかそういう話ではないでしょう
例えば中国が沖縄に執拗にミサイル攻撃を仕掛けてきて、自衛隊の迎撃ミサイルを一気に射耗させられた結果、日本政府がアメリカに「これ以上はもう物理的に防護不可能です」と通知するケースが考えられます
そうなれば嫌でも安全な場所まで動かざるをえません
駐留維持が困難というのはそういう場合を指しているのでは
そのケースもあるとは思うけど、自軍の活動に必要なら米軍も展開できるから、台湾有事にアメリカが関与し続ける気があるなら日本のことはお構いなしにやりそうな気がする(自軍の防衛で結果的に日本も守られる)
日米両軍のミサイルが枯渇するようなケースなら抵抗のしようがないけど
艦隊や航空機、陸上兵力を沖縄にがっつり貼り付けるのは不合理だし、兵站拠点はグアムやフィリピン、オーストラリアにあった方が良いよねって言うのは、アメリカの純戦略的には正しいんですけど
前線を中国沿岸部〜台湾海峡ではなく、第一列島線に引かれてしまうと、日本人的にはお付き合いを考え直したくなっちゃいますね。
論じているのが陸軍の方なので、用兵の自由度が低い日本周辺での戦闘を厭う気持ちは分かるのですが
海軍や海兵隊の主張する、スタンドインフォースが、大方針としては採用され続ける事を祈りたいです。
どういうシナリオを想定してんのか分からんけど米軍も日本も中国に上陸することなんて出来ないので、日本は終わりがなくコストが不利すぎる防衛戦になるんだろうな。最悪だ
米軍のみで中国とぶつかるとは思えないです
。台湾どころか日本、オーストラリアも間違いなく加わるでしょうから圧倒されるというのは思い過ごしでは???
外征能力が未知数な国に期待するのは駄目だろ。
中国は、日本と戦うつもりはない。って言ってきて、日本と交戦することを否定すると思いますが、これに対して日本側から積極的に中国に宣戦布告して、戦争行動を取りますかね?
>実際の衝突に直面した地域パートナーは米軍支援を驚くほど早く撤回する可能性があり
これはそういう意味だろうね
中国は戦わずして勝つ国だし調略では中立を保たせるのも勝ちだから
そもそもアメリカですら中国がまだ自分たちに手を出してきてない段階で攻撃できるか怪しいのに
日韓豪も一緒に先制攻撃とかまず無理
だからシンクタンクのシミュレーションとかでは都合よく中国が沖縄の米軍基地に先制攻撃してくる想定になってたりする
でないと台湾以外はにらみ合いで終わる可能性もあるからね
中国に対する日米の明確な強みは太平洋上に領土があることかと
日本が南西諸島全域に対艦ミサイルを配備しているのに習って
グアムやサイパンを対艦ミサイル基地化していけば、中国艦隊の太平洋への進出への予防箋になるのでは
というか前にアメリカ軍が太平洋島嶼部の基地を復活させようとしてる記事を見た気がするんですが、
進捗どうなんでしょうか
いや、だから日本周辺とか太平洋で戦うのでなく台湾周辺で戦う事を想定したら圧倒的に不利だっていう話では?
台湾周辺で戦う事を想定したら圧倒的に不利だから太平洋の縦深を使って戦おうという話ですよね?
ですので縦深を活かすなら島嶼部からの対艦ミサイルが有効ですねと書いたつもりでしたが、
何か内容に問題ありましたか。
中国軍が太平洋に出てくる理由がないでしょ
漸減作戦と同じく絵に描いた餅では?
「太平洋の嵐」とかいうと壮大だけど「台湾海峡の嵐」というと、なんか・・・。
日本はウクライナどころではなさそうだな
予算額では外圧のおかげで増額へ予算の中身は従来の対外的にも見栄えの良い正面装備重視の路線も薄まっているだけに後は国民のウクライナどころではなさそうだなという認識が少しでも増えればね…
防衛費増額以外にも社会インフラやら医療保険等の社会保障の崩壊防止でも資金注入しないといけないので現状非常事態なはずなんですけどね
どっちも重要だから並行して実施しているでしょう
ウクライナは民生支援が主体で台湾有事に要するであろう防衛装備にあまり被らない様にしてますし
もっと広くものを見たほうが良いと思います
お金と民生品主体の支援でウクライナの人たちが血で書いた最新版の戦訓を得られると考えれば
ちょっと今年で1番シャレにならんニュースかもしれん
もうトランプが言ってた「ボーナス80兆円」とやらを、文字通りボーナス扱いで利益度外視で全部アメリカ造船界隈に突っ込んでもいいかもしれん。西半球の造船所に何がなんでも再興してもらわんと日韓台がまとめて滅びる。
少なくともウクライナ支援とかいう泥沼に金突っ込んでるよりはマシでしょ
中国経済も、大型船舶による海運がなければ、現代文明は成り立ちません。
宗谷海峡・津軽海峡・大隅海峡・宮古海峡・バシー海峡・マラッカ海峡などのチョークポイントを封鎖されたときに、経済活動が成り立つのかは気になるところですね。
米中ともに研究しているはずですので、どれくらい持つのか、どういった見解なのかは気になるところだなと…
>チョークポイントを封鎖
造船能力に200倍とも500倍とも言われる差がある状況で今のアメリカにそれができるかな
手持ちがなくなったら終わりな気がするけど
建造速度も本気でやったら中国はアメリカの倍の速さで作れそう
というか下手したらアメリカが太平洋に出れなくなるんじゃないかな
まあ、そうなってもアメリカは資源もあるし大西洋もあるから大丈夫だろうけど
建造速度は仰る通りで、倍以上の速さで作れると思う。
原子力潜水艦1隻でも残れば面倒くさくなるけど、お互いそこまでやるのかなあとは見ていて感じるんですよね。
海運ほど効率はよくなくても陸路があるから致命的な影響はほぼないと思う
石油・LNGのエネルギーはタンカー。鉄鉱石・石炭・穀物などは、ばら積み船なんだよね。
陸路では、今のところ代替は無理かな…
仮に戦争になれば前線の負担である兵の補充は民兵レベルすら日本は用意できない
であるならば代わりの銃後への負担=戦時税をかけなければならないが、どの党が与党であってもそのような遂行能力のある政権であるという期待を持てない
持てる人居る?
政府が機能不全起こして何もしなくなったら自衛隊がクーデター起こすだけだよ
それをするしかない状況であれば、コロナの時の一斉自粛のように国民も従うさ
自衛隊が国家を指導って絶望しか見えませんね…
日本自治区になるのとどちらがましかと言う話なら、自衛隊の方ですな。ウイグル見てると
まぁ、渡洋作戦を阻止するより渡洋作戦中の的を域外から叩く方が効率的では有りますが、台湾が干上がってしまえば結果は同じでは?
向こうを撃退出来てもコッチのフネも付けない訳ですから。陸式の発想だと思います。
米軍が台湾周辺の基地から戦力を引いてしまえば
中国軍は台湾有事で台湾海峡の確保だけに注力すればいいことになるので米軍の詰みでは?
枝葉末節ですがサムネ画像の早期警戒機、エンジンから先の翼が消えちゃってますね。
主翼は後方に折り畳んでいる状態だと思います。