米国関連

次期戦闘機プログラムを水面下でこっそり進める米海軍、今年も研究・開発予算は非公開

米海軍は今年も次期戦闘機「F/A-XX」プログラムに関連した予算を隠しており、プログラム単体の研究・開発予算を計上して開発を進める米空軍との違いがくっきり現れている。

参考:Navy Keeps Next-Generation Fighter Research Costs Classified

空軍はNGADの研究・開発費用を単独計上、海軍は機密を理由に米海軍全体の研究・開発費用にF/A-XX関連予算を紛れ込ませる

バイデン政権は2022会計年度の予算教書(連邦政府予算案)を正式に発表、国防総省は7,150億ドル/約78兆5,300億円で編成された国防予算案を議会に提出したのだが1つ奇妙なことがあるとすれば海軍が進めている次期戦闘機「F/A-XX」プログラムへの予算配分が記載されていない点だ。

出典:ノースロップ・グラマン NGAD

米空軍は第6世代戦闘機と目される有人戦闘機や複数の無人戦闘機で構成されたNGADファミリーシステムの開発予算として2021年度に受け取った約8億ドルよりも大幅に増額された「15億ドル/約1,600億円」を要求しているのだが、米海軍は開発を進めている次期戦闘機「F/A-XX」プログラムへ予算要求は提出された国防予算案に見当たらない。

補足:海軍の次期戦闘機プログラムは空軍の次期戦闘機プログラムと同じNext Generation Air Dominance/次世代エアドミナンス(NGAD)と呼ばれているので区別がつきにくく、以前米メディアに登場したF/A-XXという呼称を使用して区別しているが実際にはNGADと呼ばれているの注意してほしい。

米海軍は2020年度まで予算案にF/A-XXプログラムに関する研究・開発費用を計上(2020年度要求は2,070万ドル)していたのだが、2021年度はプログラム単体で研究・開発費用を計上するの止めて米海軍全体の研究・開発費用の一部として予算計上する形に変更したためF/A-XXプログラムに米海軍が幾ら投資しているのか謎で、今年も米海軍は「全体の研究・開発費用の中にF/A-XXプログラムに関する費用が含まれている」とだけ明かして「これ以上は機密に該当するためノーコメントだ」と言っている。

出典:U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 3rd Class Justin Smelley F/A-18E/F

因みに米海軍で研究開発や買収を担当するジェームス・ガーツ次官(当時)は昨年8月「F/A-XX構想を主導するプログラムオフィスを立ち上げた」と明かしており、空母の航空戦力を構成するF-35CとF/A-18E/Fのうち2030年代に退役が始まるF/A-18E/FをF/A-XXで更新する計画なのだが、海軍作戦部長の下で航空部門を担当するグレゴリー・ハリス少将は今年3月「F/A-XXは空軍のNGADと同じように有人機と無人機によるファミリーシステムになる」と明かした。

ハリス少将はF/A-18E/Fの後継機は基本的に有人機だがF/A-XXプログラムには無人機の開発が含まれているため将来の空母航空団は有人機と無人機の混在になり、海軍は無人機と有人機の比率について当面は40%-60%を目指して整備を行い時間をかけて無人機の比率を50%以上にあげて最終的に60%-40%に持って行くことを想定しているらしい。

出典:ロッキード・マーティン NGAD

さらにF/A-XXプログラムは米空軍のNGADプログラムと密接に協力しているため「プラットホームの内部システムについては類似したものになる」とハリス少将は述べているが、ファミリーシステムを構成する無人機に関しては米海軍は米空軍と異なる考えを持っている。

米空軍が開発を進めている無人戦闘機プログラム「Skyborg(スカイボーグ)」は戦闘機に随伴して搭載されたAIが自律的な戦闘行動を行うことを想定しているが、ハリス少将はAIがターゲットを自律的に選択するというメカニズムは複雑で実用化に時間がかかるので「戦闘機に随伴してミサイルキャリアとして作動する無人機として実用化を目指すほうが理想的」と言っており、これは国防高等研究計画局(DARPA)が発表した複数の空対空ミサイルを運搬可能な空中発射型の無人航空機(UAV)開発「LongShot Program」に近い考え方だ。

出典:DARPA LongShot UAV

さらに興味深いは電子攻撃機EA-18Gと早期警戒機E-2Dの後継機検討もすでに始まっており、この機能は単一のプラットホームではなく有人機と無人機を組み合わせたものになるらしい。

果たしてF/A-18E/Fの後継機、ミサイルキャリアとして作動する無人機、電子攻撃機EA-18Gと早期警戒機E-2Dの後継システムの開発に幾ら投資しているのか不明だが、米海軍はF/A-XXプログラムに資金を回すため2022年度からF/A-18E/F blockIIIの新規調達(blockII→blockIIIへの改修は継続)を打ち切る方針を掲げており、これによって捻出される資金は約48億ドル/約5,100億円(単年ではなく複数年で捻出できる金額)と言われているので議会の承認さえ得られれば米空軍に匹敵する開発予算をF/A-XXプログラムに供給することができる。

出典:U.S. Navy photo by Lt. Cmdr. Darin Russell/Released F-35CとF/A-18E/F

ただ米海軍が資金捻出のためF/A-18E/F BlockⅢの調達を中止すれば同機の生産ライン維持は難しく、議会はF/A-XXプログラムがF-35のように遅れてF/A-18E/Fの退役に間に合わず戦力に空白が生まれることを危惧しているのでF/A-18E/F BlockⅢ調達を維持しながらF/A-XXプログラムの開発を進めろと言い出す可能性も0ではないので今後の成り行きに注目するしかない。

関連記事:米海軍、次期戦闘機「F/A-XX」開発プログラムを正式に始動
関連記事:新規開発?F-35Cの改良機?米海軍が選択を迫られる次世代戦闘機の行方
関連記事:米海軍の次期戦闘機「F/A-XX」は有人機、ただ将来の空母航空団は40%以上が無人機に

告知:軍事関係や安全保障に関するニュースが急増して記事化できないものはTwitterの方で情報を発信します。興味のある方は@grandfleet_infoをフォローしてチェックしてみてください。

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 3rd Class Aaron T. Smith

ドイツ、ウクライナが要請した武器供与について「役に立たない」と拒否前のページ

オーストラリア国防次官、アタック級潜水艦の失敗に備えてプランBが存在すると公式に言及次のページ

関連記事

  1. 米国関連

    本当にツイてない? 不幸続きの米海軍、今度は強襲揚陸艦「イオー・ジマ」が火災で損傷

    米海軍は昨年、アーレイ・バーク級駆逐艦「オスカー・オースチン」がオーバ…

  2. 米国関連

    ウクライナの反攻作戦はどうして失敗したのか、計画に生じた誤算と対立

    ワシントン・ポスト紙は反攻作戦の裏舞台に関する記事を4日に公開、パート…

  3. 米国関連

    米下院軍事委員会、中国の台湾侵攻に対応する権限を大統領に与えるべき

    元海軍士官で下院軍事委員会の副委員長を務めるエレイン・リューリア氏(民…

  4. 米国関連

    謎の命令? 米空軍が退役済みのF-117に対して空中給油を正式に許可

    米空軍は最近、公式に退役済みのF-117ナイトホークへの空中給油を許可…

  5. 米国関連

    ライトニングキャリアの申し子、アメリカ級強襲揚陸艦「トリポリ」が米海軍へ引き渡される

    ライトニングキャリアに適していたアメリカ級強襲揚陸艦「Flight 0…

  6. 米国関連

    理想的なカウンタードローンシステム?米軍が魔法のスコープ「SMASH」ベースの新型を開発

    米国防総省が魔法のスコープ「SMASH」をベースに飛行中のドローンにも…

コメント

    • 匿名
    • 2021年 6月 02日

    >F-35CとF/A-18E/F

    最後の画像、写っているのはスパホではなくレガホのような。

    14
      • 匿名
      • 2021年 6月 02日

      エアインテークが曲線だしレガホやね

      6
    • 匿名
    • 2021年 6月 02日

    結局、陸海空いずれの分野でも無人機が増えれば、軍人のネット数は減っていくのだろうね
    我が国にとって一層必要なテクノロジーなのだから、積極的に導入すべきだろう

    15
    • 匿名
    • 2021年 6月 02日

    FS-21で注目すべき成果が上がっています。
    リンク

    今後、米軍は同盟国との連携を重視する方向性なのは明らかですが、成果を出すことでより説得力を得られるようになってきました。
    中国やロシアにはない力を育てるという意味でとても重要だと思いますね。
    そして、こういった連携は戦術レベルにも適用されてゆくのでしょう。
    ということで、個人的にはF-3は是非NGADとの互換性を獲得して欲しいですね。
    すぐには無理でもアップグレードを見越した設計にして欲しいところ。
    情報連携どころか無人機の相互運用ができたりしてね。

    7
    • 匿名
    • 2021年 6月 02日

    日本も頑張れ

    22
    • 匿名
    • 2021年 6月 02日

    グラウラーの後継機も空軍は人員出すだけで自前では持たないんだろうか

      • 匿名
      • 2021年 6月 02日

      将来的にはF-15EXやF-35Aを必要に応じて電子戦に投入するんじゃないかな

      SEAD機の後継までF-15EXやF-35Aにやらせるかはまだわからないけど

        •   
        • 2021年 6月 02日

        SEAD機は昔からレガシーな機体にやらせる傾向があるんで
        最近はSEAD装備は外装のポッドで簡単にできるようになってるので従来通りF16が担うであろ
        F16も相当長い期間使用されるし
        EXは制空、F35は攻撃とより高い能力があるんでそっちを重点に、穴埋めにF16の構図

        5
    • 匿名
    • 2021年 6月 02日

    先頭を走る者として研究開発を止められないのは理解できるけど
    先ずは碌な給油機が居ない状況(しゃーない)を脱する為にMQ25を完成させようぜ

    • 匿名
    • 2021年 6月 02日

    >これ以上は機密に該当するためノーコメントだ
    これで研究開発費用の内訳を隠せるアメリカと比べて日本の方が情報開示に消極的と言われる不思議

    2
      • 匿名
      • 2021年 6月 02日

      日本は機密という便利な言葉をいいことに何でもかんでも情報を隠すからだろ。

      4
  1. この記事へのトラックバックはありません。

ポチって応援してくれると頑張れます!

にほんブログ村 その他趣味ブログ ミリタリーへ

最近の記事

関連コンテンツ

  1. 欧州関連

    オーストリア空軍、お荷物状態だったタイフーンへのアップグレードを検討
  2. 米国関連

    米海軍の2023年調達コスト、MQ-25Aは1.7億ドル、アーレイ・バーク級は1…
  3. 欧州関連

    アルメニア首相、ナゴルノ・カラバフはアゼル領と認識しながら口を噤んだ
  4. 欧州関連

    BAYKAR、TB2に搭載可能なジェットエンジン駆動の徘徊型弾薬を発表
  5. 軍事的雑学

    4/28更新|西側諸国がウクライナに提供を約束した重装備のリスト
PAGE TOP