米国関連

米国は自国の即応体制を維持しながら2つ消耗戦を支える能力はない

Wall Street Journalは29日「米国では一部の迎撃ミサイルが不足し、欧州と中東で続く戦争と潜在的な太平洋での紛争に対応できるか疑問視されている」と報じ、安全保障のアナリストは「中東での消耗は太平洋における海軍の即応体制を100%後退させた」と述べた。

参考:Pentagon Runs Low on Air-Defense Missiles as Demand Surges

米国は消耗戦を前提にした欧州と中東の大規模戦争を支えるだけの防衛産業基盤を有していない

米太平洋陸軍のフリン大将はCenter for a New American Security=CNASでの講演で「中国は陸海空の戦力を増強してインド太平洋地域の軍事的優位にますます近づいている」と警告、これについてCNASのへーリング研究員は「米国が中国の脅威にもっと焦点を当てるためには戦場の優先順位を見直し、欧州や中東から手を引いてインド太平洋に集中する必要がある」と指摘したが、Wall Street Journalも29日「米国では一部の迎撃ミサイルが不足し、欧州と中東で続く戦争と潜在的な太平洋での紛争に対応できるか疑問視されている」と報じた。

出典:U.S. Navy photo/Released

CNASのへーリング研究員は「中国軍の戦力増強は論文上の仮説ではなく現実に目撃されている。これは戦力増強のペースに関する問題で米国には対抗するだけの能力がない。米海軍はインド太平洋で必要なミサイルを十分な速さで取得できていない。それにも関わらず驚くべき速さで消耗している。米国のリソースはウクライナ支援や欧州防衛にも向かっているため、インド太平洋での国益を確保するという米国の努力を損なう恐れがある」と指摘し、米国の国益にとって最大の脅威が中国がなら「全てのリソースをインド太平洋地域に集中させるべきだ」と主張。

Wall Street Journalも29日「米軍の限られた迎撃ミサイルの備蓄が急減しており、ウクライナや中東での戦争で生じたニーズに米国と同盟国が対応できるか懸念が広がっている」「国防総省も補充を上回るスピードで備蓄分を使い果たし、太平洋での潜在的な紛争において米国が脆弱になることを懸念している」と報じ、取材に応じたStimson Centerのユーシフ氏も「米国は自国の即応体制を維持しながら、消耗戦を前提にした欧州と中東の大規模戦争を支えるだけの防衛産業基盤を有していない」「しかも2つの戦争は長期化する戦争で米国のシナリオにはなかったものだ」と指摘。

出典:U.S. Navy photo/Released

デル・トロ海軍長官は2024年5月「フーシ派との戦いでSM-2とSM-6を含む10億ドル以上(約100発)のミサイルを発射した」と報告し、この迎撃ミサイルの増産を産業界に働きかけているものの「システムが高度になればなるほど生産は難しくなると」と述べ、WSJも「兵器システムの増産には生産ラインの新設、施設の拡張、追加の訓練された労働力が必要で簡単ではない。特に国防総省が口約束ではなく長期的かつ安定的に購入量を増やすと約束しなければ企業は新たな投資を躊躇する」と報じている。

弾道ミサイルを大気圏外で迎撃するSM-3も驚くべき速さで消耗しており、へーリング研究員は「イラン製弾道ミサイルを迎撃するため米海軍は一晩で1年分の生産量(12発)に等しいSM-3を発射した。現在のようなテンポでハインド兵器を消耗し続けるのは持続不可能だ」と指摘していたが、WSJも「米国はイランへの報復攻撃前にTHAADシステムをイスラエルに配備した。これにより米国はスタンダートミサイル以外の迎撃手段でイスラエルを保護できるようになった」と報じ、ひとまず偏っていた消耗をTHAADシステムに分散させることにしたという意味だ。

出典:The U.S. Army

SM-2とSM-6の年間生産量は不明だが「RTXの生産枠」は米国分だけでなく同盟国分も含まれており、米海軍は2023年度にSM-6を125発しか調達しておらずSM-2については0だ。Foundation for Defense of Democraciesのモンゴメリー氏は「中東で1年分のスタンダートミサイルを消耗している。この迎撃ミサイルは中国との戦いに不可欠なものだ。つまり太平洋における海軍の即応体制を100%後退させたことになる」と指摘しているが、この問題を複雑にしているのはミサイル用のロケットモーターを供給する企業が2社=Aerojet RocketdyneとNorthrop Grummanしか生き残っていなかった点だろう。

各種ミサイルの需要増を受けてロケットモーター市場にLockheed Martinなど複数の企業が再参入を果たしたものの、武器システムに統合するには各種テストと認証をパスする必要があり、生産ラインの構築にも時間がかかるため、ロケットモーターの供給不足は全ての迎撃ミサイル生産に影響をもたらしている。

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※アイキャッチ画像の出典:U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 2nd Class William McCann/Released

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コメント

    • たむごん
    • 2024年 10月 30日

    レイセオンのサプライチェーン、アメリカ国内で完結していないものもありますからね。

    スティンガーの生産状態だけ見ても、月産60発・1970年代の生産ライン、こんな感じですから2正面の消耗戦への対応は無理でしょう。

    (2023.01.28 ウクライナ提供で激減したスティンガー、生産量を2025年までに50%増 航空万能論)
    (2023年7月4日 携帯式地対空ミサイル「スティンガー」の不足がウクライナ軍反攻の足を引っ張り始めた。アメリカでは増産のため70代の元従業員も駆り出す事態に ニューズウィーク)

    11
      • たむごん
      • 2024年 10月 30日

      追記です。

      月産60発に増強予定(現在40発)
      >月産60発

      7
    • かぼ
    • 2024年 10月 30日

    ウクライナ紛争の方はともかくイスラエル紛争の方は長引きそうですね

    11
    • せやかて工藤
    • 2024年 10月 30日

    民生用に何の役にも立たない
    工業製品の製造能力を常時維持なんて
    基本的に無理な話です
    民間企業にそんな暇も余力もない

    異常な生産力を見せてるロシアとて
    ウクライナの衝突の前は
    兵器メーカーが潰れかけてましたし

    40
      •    
      • 2024年 10月 30日

      昔は王立兵器工場とか。官製工場、造船所があったね。設備の国有民営も可能なはず。知恵とやる気の問題だけど。 国防費増額は真面目に効果を考えるというより、利権臭が強いんだよな。近未来の戦争に合ってるの?感が強い。

      19
      • バーナーキング
      • 2024年 10月 30日

      イプシロン&SRB「」

    • 匿名
    • 2024年 10月 30日

    日本もそのうちウクライナみたいに”こき使われる”かも…
    アメリカからすれば、億超えの人口・意外と好戦的だったりする民族だし鉄砲玉として使うには丁度よいと思われているかもね

    44
      •    
      • 2024年 10月 30日

      基地だけではなく。兵士、サイフとしても優秀。中国、北朝鮮嫌いだから、刺激すれば、後は自主的に戦ってくれる。都合の悪い点は無視なのでリスク管理も雑だし。何よりも世界=アメリカと思っている視野の狭さもポイントが高い。アメリカがいるから勝てる。アメリカに見捨てられたら国破滅と思っている。大国なのに。

      50
        • かぼ
        • 2024年 10月 30日

        韓国が西側から脱落するかもしれないので
        結局、日本・台湾が最前線ですね

        30
          •  
          • 2024年 10月 31日

          韓国自体はともかく、韓国軍の滅共精神は日本の遥か上ですよ
          反日と同じか、それ以上に反共が徹底されてるのでそう簡単に鞍替えできるほど思想弱くないと思います

          5
      • のー
      • 2024年 10月 30日

      うーん。どうでしょう?
      逆に今まで、米軍を鉄砲玉として認識していた日本人の感覚が異常だった気がします。
      とういか、外国のために命を懸けて戦う米国人がやっぱりおかしいですよ。
      湾岸戦争の頃までは仮に死亡してもまともな補償もなかったらしいし。
      それこそ、赤紙で徴兵されて、名誉の戦死ですよ。
      今では増額されたけど、米軍は確か死亡保障は10万ドルぐらいでしたっけ?
      命を懸けるには全く割に合わない金額です。

      21
        • かぼ
        • 2024年 10月 30日

        米兵の命って随分安いですね
        為替を考慮したらロシア傭兵以下の金銭保障かも
        ロシア側中国人傭兵もウクライナで死にまくってるようですがお給料だけはちゃんと出てるのが救いだという動画がアップされてますね

        12
          • のー
          • 2024年 10月 30日

          軍務を務めて国に戻れば、英雄扱いらしいし、戦傷者も遺族も大事にされるので士気が高いのでしょう。
          あと日本では米国が銃社会であることを批判する報道が多いですが、米国が銃社会なのは軍事大国なことと表裏一体です。つかり銃好き=武器オタクが大量にいるのも、米軍の強さの源泉でしょう。
          日本は今までそのアメリカ人の異常さに救われていました。
          まともに金すらも出してなかった。
          でもその当たり前に思ってたものが無くなりつつありますな。

          21
      • マンゴー
      • 2024年 10月 30日

      アメリカは民族丸ごと雇い入れて傭兵や労働力として使うスタイルなんだろうなって、今回のウクライナ戦争見てて思ったよ
      中露も本質的なやり方は変わらんとは思うけど、アメリカは回りくどいからパッと見そう見えないだけで、実質ウクライナは傭兵国家になりかけてる
      ウクライナのコサックが使えなくなったら、次はポーランドのフサリア、その次はドイツ騎士って感じで
      アメリカからしたらゲーム感覚だなまるで

      15
        • kitty
        • 2024年 10月 30日

        日本文明の固有ユニットはサムライなんですよね。
        サイキック女子高生なんてゲームもありましたけどw。

        4
    • kitty
    • 2024年 10月 30日

    すんません。「ハインド兵器」ってなんですか?
    原文で確認しようとしたけど、有料記事で読めなかった。

    2
      • 無印
      • 2024年 10月 30日

      多分「ハイエンド兵器」を、転載対策でわざと誤字にしてあるのではと思います

      20
        • kitty
        • 2024年 10月 30日

        なるほど。
        しかし、typoを「転載対策」と擁護されるのもアレですねw。

        9
    • ぬん
    • 2024年 10月 30日

    金融重視しすぎたツケが回ってきたな。戦争は札束の殴り合いとはいえ実際には砲弾や武器の数が大事。札束だけ持ってても戦場じゃトイレの紙にすらならないってことを忘れてたな

    39
      • 名も無し
      • 2024年 10月 30日

      経済大国になると1次や2次産業が軽視されて机に座ってお金を左から右へ動かす仕事がもてはやされるのは軍事も民間も同じかと思いますししょうがない事かと…

      16
        • ななし
        • 2024年 10月 30日

        いま製造業が充実してる国は中国だから、中国相手の戦争は大変だと思う
        無職も多いから兵士の補充に事欠かないだろうし

        17
          • kitty
          • 2024年 10月 30日

          故佐藤大輔の「征途」だったかなあ。1970年代だったかに、全コンピュータ制御で、対艦ミサイル・対空ミサイルがサルヴォーで大量に消費されるのを見て、「これからの戦争は、戦時中に生産された兵器や徴兵した急造兵ではなく事前に蓄積されたものだけで戦わなくてはならない」とか歴戦の軍人が述懐したシーンを思い出します。

          佐藤大輔も、まさか21世紀に、何年も正規戦が続いて、徴兵した兵士を即最前線にぶっ込んだり、戦争中に軍事工場をフル回転させるような戦争が起こるとは思わなかったんだろうな。

          12
        • マンゴー
        • 2024年 10月 30日

        もてはやすのは良いけど、深刻なレベルで一線超えてたな……

        5
    •  
    • 2024年 10月 30日

    第二次太平洋戦争ではアメリカもガ島の苦しさを味わうことになりそう。つまりは本邦と台湾も

    10
      • DEEPBLUE
      • 2024年 10月 30日

      アメリカでのモンロー主義の高まりを見ると本土さえ無事ならハワイの制海権すら手放しかねない。

      3
    • Easy
    • 2024年 10月 30日

    これはシンプルに比較優位の問題であり。
    20世紀においては、アメリカは一国で圧倒的な生産力があり。その莫大な生産力を背景にパックスアメリカーナを実現できました。
    が、今や世界各国の隅々に生産ノウハウと生産技術が普及しており。
    もはやアメリカだけが物質的に圧倒出来る世界では無いのです。
    これは人類史としては喜ばしいことであり。多極化世界は人類の進歩の当然の帰結なんですね。
    が、それを否定していつまでもパックスアメリカーナを維持するためには,アメリカの比較優位を守らねばならない=日本を含めた他国は衰退して混乱して、いつまでも後進国の地位に甘んじなければならない、となります。
    我々がどちらの立場に立つべきか。
    もちろん、我が日本はアメリカの覇権のために40年間の衰退を選んだわけですが。
    それで何か良いことあったんですか?という答え合わせが始まっているんですね。

    30
      • 匿名
      • 2024年 10月 30日

      国防を米におんぶにだっこでひたすら経済全ツッパしてここまできておいて「いいことあったの?」はさすがに恩知らずが過ぎる。
      日本をそうしたのは誰だってなるとまあ……うん……そうね……

      それでも中国寄りになって対米最前線になるリスク考えたらその選択肢は無いけど。
      中国の傘の下が今よりいいとも思えないし。

      24
        • Easy
        • 2024年 10月 30日

        > 国防を米におんぶにだっこでひたすら経済全ツッパ

        それが出来たのが1980年代までですね。
        1990年代より先は、その経済で得た富をひたすらアメリカに還流させる装置としてしか日本は機能していません。
        世界第二位の経済大国を、OECD最下位の発展途上国レベルに落とされていて尚、「我々は良い思いをしている」と思い込まされているのは,もはや悲劇を通り越した喜劇と言えますね。

        3
          • 匿名
          • 2024年 10月 31日

          だからその「世界第二位の経済大国」になれたのはどこの誰の恩恵なのよ。
          その後アメリカの小作人みたいになってたとして、結果だけ見てアメリカ陰謀論みたいに語られても「ふーん」としか。

          9
      • Authentic
      • 2024年 10月 30日

      アメリカもそれ以外の国も重要な物資は国内市場を保護した上で自分たちで作ればいいんだよ
      自由貿易主義なんか崇拝してるから他国の発展を阻害して自分たちだけが作れるような状況を維持するか他国の発展を看過して自国の生産力が失われるのを受け入れるかなんて不毛な二者択一を迫られる

      6
      • 名無し
      • 2024年 10月 31日

      中華は相手を堕とすだけでなく、如何に自分と組むとメリットがあるか、をアピールすることを覚えた方がいいと思うの
      仮にアメリカが信用できず当てにならない国だとしても、中華より余程マシな状況では、いくらアメリカを堕としても中華に付く気になれないのよ。。。

    • マッサー
    • 2024年 10月 30日

    戦争は経済行為であって、使った分が補填されなければ、国民にツケが回ってくる

    9
    • DEEPBLUE
    • 2024年 10月 30日

    太平洋の半分は中国に融和マジであり得るねえ今の戦況。その為に中国はイラン側に支援して来た訳だし

    4
    • dag2j
    • 2024年 10月 30日

    本記事を読むと全てのリソースをインド太平洋地域に集中させても足りなさそうな気が。

    3
    • cosine
    • 2024年 10月 30日

    中国にとって、「従米一本足の国・地域は米国に喰わせる」ことも戦略の一つであることを把握する必要があります。
    もはや米国は、覇権護持のために傘下国すらをも喰らい尽くしていく存在であると。
    彼等は、そうして米国に喰われていく「自由主義」を世界に、そして何よりも自国民に見せしめていきたいのです。

    かつて日本の半導体産業が召し上げられたように、台湾の半導体産業もまた召し上げられるでしょう。
    また、ウクライナでは東部の資源こそ取り損ねたものの中西部の穀倉地帯を手に入れ、そこでウクライナ人などを驚安でこき使って生産される「価格競争力の高い」穀物はグローバルサウス分断のための戦略物資としてバラまかれていくでしょう。

    5
    • 名無し
    • 2024年 10月 30日

    中国は今がピーク
    今の大不況は構造的な問題なので、そこに大鉈が振るわれない限り、今後衰退して行く事が確定しているから
    中国が「やるなら今」と暴発しかねない

    ウクライナはともかく、中東はもうほっといて
    中国シフトして欲しい

    1
    • hiroさん
    • 2024年 10月 30日

    重要な物資の定義次第ですが、恐らく必要不可欠な半導体を各国が自国生産できる可能性があります?
    日本だって特定の半導体しか生産できないのに。
    それなりの資源とそれなりに高度な加工能力が両立している国って米国とロシア位しか無いのが現状でしょう。
    中国は決定的に資源が不足しているし。

    1
      • Authentic
      • 2024年 10月 31日

      何も全てを国産化しろとまでは言ってないしやれる範囲でやればいいんだよ
      特にアメリカなんてあらゆる資源が産出して国内市場も十分に大きいんだから
      >中国は決定的に資源が不足しているし
      アメリカほどなんでも出るわけじゃないってだけで中国は金属や希土類の産出量は世界屈指だし十分資源大国だよ

      2
    • 暇な人
    • 2024年 10月 30日

    ウクライナを見捨てる 自分で火をつけたウクライナを見捨てる事で欧州からの失望を招くNATOが揺らぐ
    台湾などアジアを見捨てる 中国が太平洋に進出できるようになり米国の影響力がかなり後退して安全保障を危うくする、日米安保も微妙になる
    イスラエルを見捨てる 中東諸国からの信頼を取り戻し第三世界への影響力も増す、米国の安全保障には無関係

    イスラエル見捨てるの一択なんだけどアメリカには絶対選べないんだよなあ

    5
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