米国関連

誰も知らないF-55に全関係者が沈黙、専門家は史上最悪のアイデアと指摘

トランプ大統領が言及したF-55について国防総省は「ホワイトハウスに聞いてくれ」と、ホワイトハウスの報道官は「別の報道官に聞いてくれ」と、その報道官も沈黙したままで、航空分野のアナリストは「数十年前に発売されたプラモデル以外に思いつくものがない」「理論上は可能だが史上最悪のアイデアだ」と述べた。

参考:Pentagon silent, aviation experts baffled by Trump’s fighter comments

この人物の思いつきでGolden Dome構想が動いていると思うとゾッとする

Lockheed Martinは主要プログラム(B-21、T-7A、NGAD、F/A-XX)の入札全てで敗北、ドル箱だったC-130の後継需要もC-390に奪われつつあり、テイクレット最高経営責任者は4月の決算発表で投資家向けに「NGAD入札のため開発した全技術をF-35とF-22に適用することに取り掛かっている」「F-35に多くの先進技術を適用することでF-47の半分の価格で、F-47の能力の80%を実現できると思っている」「先進技術の幾つかはBlock4とF-35で開発中だが、その他にも適応可能なものあり、迅速に国防総省へ提案してF-35を将来に向けて強化してくつもりだ」「このようなF-35は第5世代+だ」と説明した。

出典:U.S. Air Force

この大胆な構想についてDefense NewsやBreaking Defenseは「第5世代+の開発はF-15EXを彷彿とさせる」「F-15EXは第5世代の高度な技術を搭載しているため第4世代ではなく第4.5世代と認識され受注を獲得している」と、特にBreaking Defenseは「第6世代機よりも安価な代替案で国防総省を魅了できると期待し、F-35のアップグレードに全力を注ぐようだ」と報じたものの、Block4の構成要素も満足に完成していないのに「次のアップグレード」を語られてもピンと来ず、投資家の懸念を払拭するための大風呂かと思われが、トランプ大統領はLockheed Martinの構想を連想させる発言をおこないアナリストらを困惑させている。

カタールを訪問中のトランプ大統領はビジネスリーダーの会合に参加し「我々はF-35にシンプルなアップグレードを行うつもりで、私はこれをF-55と呼ぶつもりだ。なぜならエンジンを2基搭載する大幅なアップグレードになるからで、私はシングルエンジンが好きではない」「世界で最も美しい戦闘機はF-22だと思うが、我々はスーパーF-22を開発する予定で、これはF-22の非常に現代的なバージョンになるだろう」と発言。

F-55やスーパーF-22についてLockheed Martinの広報担当者は「F-22やF-35に対するトランプ大統領の支持に感謝する」「引き続き政権と協力して空中優位の実現に努めていく」と述べ、空軍と海軍もトランプ大統領の発言について「ホワイトハウスに聞いてくれ」と、Defense Newsが連絡を取ったホワイトハウスの報道官も「別の報道官に聞いてくれ」と、その報道官もトランプ大統領の発言について沈黙したままだ。

前政権の元空軍長官を努めたケンドール氏も「私が知る限り、トランプ大統領は存在しない未来の航空機について声高らかに述べたようだ」と、航空分野のアナリストも「国民をからかっているのではないか」「F-55の言及に該当するのは数十年前にRevellが発売したプラモデル以外に思いつくものがない」「もしF-35を双発機に改修できると思っているなら大間違いだ」「単発機を双発機に変更するには機体全体の再設計が必要で、恐らく安定性を確保するため新しい主翼も必要になるだろう」「理論上は可能だが史上最悪のアイデアだ」と指摘。

出典:U.S. Air Force photo by Staff Sgt. Jana Somero

さらにケンドール氏はシングルエンジンの設計について「信頼性がない」と批判したことについても「空軍の戦闘機は大半が単発機(F-16×約830機+F-35A×471機とF-15×250機+F-22×185機)で、これはずっと前からそうだった。搭載されているエンジンの信頼性が非常に高いからだ」と反論し、Defense Newsは「国防総省は沈黙し、アナリストらもトランプ発言に困惑を隠しきれない」と報じた。

大統領が政治家が軍事技術や防衛装備品の専門家である必要は全くないが、誰にもアドバイスを受けず思いつきで発言すれば酷い目にあうだけで、この人物の思いつきでGolden Dome構想が動いていると思うとゾッとする。

関連記事:トランプ大統領が言及したF-55とスーパーF-22、勘違いか既存の取り組み
関連記事:F-47の作戦半径は第5世代機のほぼ2倍、CCAの作戦半径もF-35A超え
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関連記事:米空軍はF-22Aに約1.1兆円を投じてアップグレード、但しBlock20は処分

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force photo by Staff Sgt. Andrew Lee

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コメント

  • コメント (25)

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    • 無印
    • 2025年 5月 17日

    トランプ大統領のイエスマンですら、黙るしかないF-55
    こういう所から、崩れて行くんですかね

    32
    • Jacomus
    • 2025年 5月 17日

    8655

    3
    • ななしのシロウト
    • 2025年 5月 17日

    トランプ語を平易な言葉に翻訳すると
    「とにかく戦闘機を強化したい!!!」

    8
      • バーナーキング
      • 2025年 5月 17日

      量産効果を考えると「アレもコレも」のやり過ぎは結果として強化どころか弱体化を招くと思うんですけどねぇ…。

      16
    • 分析
    • 2025年 5月 17日

    バイデン氏も相当だったけど、この方もボケてますね…
    アメリカ人は80歳以上を大統領にするのを辞めるべきでは…

    30
      • ネコ歩き
      • 2025年 5月 18日

      恐らくですが、LMが株主に説明した内容に対する勝手な思い込みじゃないですかね。

      >「NGAD入札のため開発した全技術をF-35とF-22に適用することに取り掛かっている」
      >「F-35に多くの先進技術を適用することでF-47の半分の価格で、F-47の能力の80%を実現できると思っている」
      >「先進技術の幾つかはBlock4とF-35で開発中だが、その他にも適応可能なものあり、迅速に国防総省へ提案してF-35を将来に向けて強化してくつもりだ」
      >「このようなF-35は第5世代+だ」

      F-47は双発機だ。その「全技術」をF-35とF-22に適用するんだからF-35も双発にするんだろう。
      そうだ、それぞれをF-55とスーパーF-22と名付けよう。
      てなところでは。

      4
    • イーロンマスク
    • 2025年 5月 17日

    F-35は空気の取り入れ口が2個あるし、経国とかラファールみたいにするのかね
    双発化することで航続距離や発電能力が解決できたりして
    二乗三乗の法則で考えたら悪いアイデアではないのかも

    5
    • にーたろー
    • 2025年 5月 17日

    双発化しようとするとSTOVLのBがシリーズから外れると思うのだけど、そもそもF35はBがまずあってそこからSTOVL機能を外したAとCが派生していたはずなのでそれこそ本末転倒だと思う。それに双発化がシンプルなアップグレードだとは思わなかった。大規模なアップグレードの場合どんなことをするのだろうか。

    15
      • バーナーキング
      • 2025年 5月 17日

      いや「STOVLありきの単発のBがまずあって、技術や部品を共有する別機体としてペイロードや飛行能力優先の双発A/Cを開発する」のは普通に悪くない形だったでしょう。
      「最初からそうやって開発していれば」ですが。

      13
      • バーナーキング
      • 2025年 5月 17日

      あと「シンプル(=小規模とは言っていない)」という言葉のマジックがw
      性能に不足があるから「よし大型化しよーぜー」は実に「シンプル(かつアメリカ的)」な「発想」ではあると思います。

      6
      • ネコ歩き
      • 2025年 5月 17日

      Xに投稿されたトランプ発言の英文を私なりに訳すると

      F-35はシンプルなアップグレードをやっているが、我々はF-55もやるだろう。
      私はそれをF-55と呼ぶつもりなのだが、それは大幅なアップグレードになる予定で、F-35が単発エンジンであるのを双発にするからだ。私は単発エンジン機が好きじゃないんんだ。

      双発化を指して大幅なアップグレードと言っているのだと思います。ネイティブな表現に慣れてないのでニュアンス的な誤解があるかもですが。

      12
        • にーたろー
        • 2025年 5月 17日

        ありがとうございます。確かにシンプルなアップグレードとF55は分けて書いてありますね。元ネタの英文をよく読んでおくべきでした。

        8
    • 朴秀
    • 2025年 5月 17日

    トランプの発言は話半分に聞いておくのが大事でしょうね

    まあ双発にすれば電力不足は解決するでしょう

    11
    • ななし
    • 2025年 5月 17日

    何となく、トランプさんの米関税700%と述べた事を連想しました。

    日本は、米の関税額を実効関税率に換算した数値について、2005年に778%相当、2013年には280%相当と発表していた様です。
    後者でも関税額自体は変わらないけど、分母に使用した「コメの国際価格」の相違に伴う実効関税率の変化でした。

    米関税に関して2000年代の記憶を引き摺って発言した様に、双発F-35も時系列の怪しい記憶を元にした妄想なのかな?と。
    具体的には、過去に見た中国J-35試作機の記憶と、最近仕入れたF-35の将来構想が、前後関係を無視してブレンドされてF-55(双発F-35)の幻想を生み出した、といった感じです。
    単発嫌い・双発好きなトランプさんなので、F-35似で双発なJ-35の存在は刺さりそうな気がするし。

    6
    • 名無しの権太郎
    • 2025年 5月 17日

    記事だと、まるでF15EXが第4世代機からアップグレードして第4.5世代機になったみたいに読めるけど、第4世代機のF15C/Dをアップグレードして、第4.5世代機になったF15Eの改造機がF15EXだから、実は世代は上がってないと言うオチがつく。
    それともロシアの自称する第4世代++みたいなカテゴリーなんだろうか。

    6
      • バーナーキング
      • 2025年 5月 17日

      F-15Eは輸出とかの都度細かくアプデされててEXまで地続きで、4.5世代機と呼べるのはSA以降で、SAはEとEXのどっちに近いかといえば断然EX寄りなので、
      大きく丸めるならF-15E=第4世代、EX=4.5世代、で間違ってないんじゃないですかね。
      個人的にはSA以降(EX込み)を「F-15EA」と呼称してくれたら分かりやすいのに、とは思いますが。

      7
    • トーリスガーリン
    • 2025年 5月 17日

    機内燃料タンクが削られて脚が短くなる代わりに、電力問題は解決ですかねw
    双発化した上で航続距離を維持となるともはや別の機体を作ってシステムを移植した方が早い気がしてきますが

    7
    • あさひ
    • 2025年 5月 17日

    F35のアップデート成功させてから言ってくれ
    それすら実現できない今の技術力で妄想を語られても困る
    これ絶対に0から設計するかある程度流用しての再設計しないと頓挫する
    しかも双発への改修をシンプルって認識なのは本当に何でなのよ

    9
    • 2025年 5月 17日

    そんなに双発が好きならばKF21でも買えばよろしい

    3
    • ドゥ素人
    • 2025年 5月 17日

    アメリカが大好きな「最強の〇〇シリーズ」は、今後すごくリスクが高そうですね。全部盛りはどれか一つでも失敗すると、みんな腐っちゃうので。
    コストはかかりそうに見えますけど、やっぱり専用機毎で役割分担したほうがいい気がします。偵察、兵器運搬、発射、誘導、管制…
    各分野で技術進捗があれば、その専用機だけ先行してアップグレードしていくとか…
    足りなくなったら、それだけで増産する事で全体コストの最適化とか出来ないですかね?無人化が進めば行けそうな気がするんですけど。
    整備が大変かなぁ…

    1
    • an
    • 2025年 5月 18日

    数年前にF22のエアフレームにF35の電子機器とソフトウェアという感があって、F2後継はこれで決まり…みたいなことを言う評論家や新聞がいたのを覚えているだろうか?

    1
    • AKI
    • 2025年 5月 18日

    やはりこれにはイーロンマスクも激おこ
    一瞬サイレントイーグルノリで、カタールが開発費出すなら作ってやってもいいと言ってるのかと思った。

    • 2025年 5月 19日

    F-22が美しいのは間違いない

    • 匿名ちゃん
    • 2025年 5月 19日

    妊婦をコクピットに乗せろとかやってた党も大概だが、トランプもヤバそうだな。冗談として聞き流していいなら実害無いのかもしれないけど

    • たら
    • 2025年 5月 19日

    トランプの話しは真に受ける必要はない,というか無視するのが最善。だって,トランプ自身も明日には忘れていますから。夜のニュースショーを見せておけばご機嫌ですよ。

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