米国防情報局のリックマン副長官は今年5月「オープンソースから得られる情報と諜報機関が収集する情報の立場が逆転した」と述べていたが、NATO作戦担当副参謀長を務める米陸軍のワーゲネン少将も「これまで無視してきたOSINTの活用には文化的な変化が必要だ」と述べた。
参考:NATO two-star calls for ‘cultural change’ for OSINT for military ops
これまで無視してきたOSINTの取り入れには反発や不快感が起こるかもしれない
米国のインテリジェンスコミュニティ(United States Intelligence Community=IC)はいち早くオープンソースがもたらす価値に気づき、これを扱う専門家の必要性を認識し、2015年にIC19番目の独立組織としてNational Open Source-Intelligence Agency(NOSA)を設立、さらにアヴリル・ヘインズ国家情報長官とCIAは今年3月「IC OSINT戦略」を発表した。

出典:U.S. Secretary of Defense/CC BY 2.0 アヴリル・ヘインズ国家情報長官
ヘインズ長官はIC OSINT戦略について「OSINTを専門分野として確立し、情報分析の在り方を変革し、米国の優秀なイノベーターや志を同じくする海外のパートナーとの新しい協力の第一歩だ」「新しいOSINT分野の人材確保と技術開発は重要項目の1つだ」「国防情報局は企業全体に対する訓練と防御戦術に重点を置いているが、ICはオープンソース情報の扱い方について大きな変革を必要としている」と述べ、情報分野における危機感についても「過去20年間と異なる環境が自身の眠りを妨げている」と表現。
ヘインズ長官は「情報の爆発的な増大が起こる中、ウクライナ危機、中東危機、中国の問題が大きくなっている。この3つが同時に発生しても情報を上手く活用できなければ我々は何もできないだろう。物事の意味を素早く理解し、これを意思決定者や兵士に手に届けることは『どちらが優れた爆弾を持っているか』と同じか、それ以上に重要なことだ」と指摘。

出典:U.S. Air Force photo by Wesley Farnsworth
米国防情報局のグレッグ・リックマン副長官も今年5月「オープンソースから得られる情報は諜報機関が収集する情報に振りかける塩に過ぎなかったが、オープンソースの爆発的な増大は情報収集と分析の在り方を大きく変え、パラダイムが逆転した現在、メインコースに振りかける塩は諜報機関が収集した情報の方だ」「我々は世の中に出回っている大量の情報を収集し、その意味を理解し、これを活用できるよう情報を加工することに苦戦しており、アマチュアではなくオープンソースを扱う真のプロが必要だ」と言及したが、パリで開催されたEurosatory 2024でもNATOの高官が同様の意見を述べている。
NATO作戦担当副参謀長を務める米陸軍のワーゲネン少将は「長年に渡って欧米の軍事組織は『情報が信用できない』『情報自体が操作されている』と考えてOSINTを無視してきたが、我々が探している情報の90%はオープンソースから引き出すことができる。そのためには情報を扱ってきた組織や人間のOSINTに対する文化的な変化が必要で、これは情報の見方に対する一種の革命だ。従来の古典的で時代遅れな手法では増大するオープンソースの情報に対応できない」と述べた。

出典:U.S. Army Photo by Spc. Thurnapuf Valle, 5th Mobile Public Affairs Detachment. ワーゲネン少将
さらに「オープンソースには誤情報や偽情報が含まれるリスクがある」「情報を扱ってきた組織や人間にも長年の偏見のせいでオープンソースから引き出せる情報を無視するリスクがある」「そのためオープンソースからの情報収集と分析について専門の訓練だ」「但し、従来の古典的で時代遅れな手法を廃止するのではなく2つの間でバランスを取らなければならない」「オープンソースから引き出した情報も現代の作戦環境に適用でき、この2つを如何に統合するかが重要だ」と述べている。
同時に「ICでは何十年も従来の手法で機密情報を収集する訓練を受けてきたため、これまで無視してきたOSINTの取り入れには反発や不快感が起こるかもしれない」と付け加えており、だからこそ「文化的な変化が必要」と訴えているのだろう。
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※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air National Guard photo by Technical Sgt. Luke R Sturm
管理人様の発信されている情報が、とても貴重ということだと思います。
いつもありがとうございます。
というか管理人様は日本におけるOSINTにおいては、普通にNOSAまたは日本の然るべき部局からリクルーティングオファーが届くようなスペックだと思いますが。
(あるいは既にFSb(ここで窓から落ちる))
仰る通りです。
サラリーマン専門家が、テレビ出演していて微妙なのを見ると、組織に所属しない立場の方がいいのかなと思う時があるので難しい所ですよね…
情報発信する所に情報は集まりますから、コメント欄の皆様にも、(集合知として)いつも勉強させて頂いています。
専門家はどうしても身の保身や常識を前提に物事をとらえがちですからね。
上の立場が聞きたがらないとか、交渉しているという状況では報告をしたがらないですし、それを言った事で自分が失敗者であるみたいに扱われるのもごめん被りたい。また、ヒューミントも既に薄く広く広がっていて、おかしなことを言うと攻撃されるが、おべんちゃらをすれば便宜を図られるといううすら寒い状況もあったりします。中国の超大型気球が入ってきてたのを放置してたのもそういう面がありました。知ってて報告しないまでありえる訳です。
そこらへん、OSINTという名目を使えば、ある程度マイルドに「そんな馬鹿な話があるのかね?」という事も報告出来る様になるんですよね。なので、うまいこと活用する事は専門家にとっても悪い話じゃないんですよ実は。
そういう深いレベルにまで考察が行きついてる人たちは、OSINTの再評価に前向きになっているが、旧態依然な考え方の人たちは自分たちの権威を汚すつもりかだとか、事実に関係なく政策面で幅を利かせる事でもてる影響力を削がれるのではないか?もしくは、世の殆どの連中は無能なんだから黙って俺の言う事だけを聞いてればいいんだ反論異論の存在は許しがたいという様な…御仁もいらっしゃるという事で。誰も噂話を最優先にしろって話じゃないんですよねコレは。
まさに仰る通りです。
リスクをとって失敗すれば、彼らの仕事がなくなってしまいますからね。
仰る点、上手く仕組みを作って、取り入れられようにして欲しいと考えています。
OSINT先に色を付けてはいけないんですよ。不用意な接触によって情報が歪む事もありえますからね。
オープンソースだろうとクローズドソースだろうと、ミクロだろうとマクロだろうと、
リソースとしての時間やコストを無視すれば、正しいアプローチからは同一の結果を導き出せるでしょう。
問題は、リソースの投入可能量とアプローチの正確性であって、突き詰めればキリがないので何処かで妥協が必要です。
となると場合によっては1つの方法で確度(確率)を上げるよりは、1つの確度を下げてでも複数の確度を組合せた乗算する手法が適切でしょう。
その1つの確度としてオープンソース利用は当然ですね。
OSINT利用に反発があるのなら、OSINT”も”使いこなせない人は出世出来ないというか、組織としては出世させるべき人物ではなさそうです。
一つ一つは断片的で不確実な情報でも数多く集めれば統計的に有意な情報が得られますよね。
諜報機関がこの当たり前の原則を無視してきたことのほうが驚きなんですが。
基本的に昔から同じ事やってたと思いますよ
昔から変わったのは市井の人たちが手に入る情報の確度(現地の軍による戦場の写真や動画、一般人が買える衛星写真の精度向上など)が上がったのにあわせて能力も上がったから、人頭による物量が生かせれる状況になっただけで
英国国防省とか米国戦争研究所とかForbesとか
西側はオープンソースで偽情報を広めるのは得意そうなんですけどね
活用ができていなかったとの自己分析は意外でした
1番の情報の宝庫はローカル言語のローカルSNSなので。
いわゆる「クオリティペーパー」を使ったトップダウンの工作では英米は最強ですが、戦場の解析はボトムを吸い上げねばなりませんので逆ベクトルですね。
それらはオープンソースではないでしょう。
それはサイコロジカルオペレーション、心理戦と呼ばれるジャンルのものですね
それが想定に入っていて十分に確認吟味されている内容ならばさしたる問題はないのですが…
仮に、酒場のバカ話程度だったとしても、そこで出た話が「まったく想定にすらなっていなかった」「十分な確認や吟味が行われていたとは言い難い」という場合には、テキトーな話や嘘かも知れない話であろうとも、ちゃんと分析してひょうたんから駒を得られる機会をフイにしてはいけないという事ですね。
元々、無駄骨に済んでくれるに越したことはないのですし、無駄骨だったならそれはそれで良いんですよ。無駄骨だったという事が分かるのですから。しかし…その想定を完全にスルーしてしまっていたとしたら大問題って事です。国家レベルになると物事に対する尺度が完全に個人とは異なってくるって事ですね。
本当に火から煙が出ているのかも知れないから見逃すなって事です。実際、ウクライナ戦争前に専門家たちはそれを盛大にやらかし、更にロシアの戦争理由を全く理解出来ていませんでした。そんな筈は…は国家レベルでは通用しないということです。同じことは二度とあってはいけない。
まあ、ロシアの戦争理由の理解にはこだわらないのは正解と思いますがね。
侵略国側の戦争理由である以上後からたびたび上書きで変更されるし、ロシア文学並みに複雑に積み上げられた歴史物語の態を成していますから、その中に真実の断片が含まれていたとしても取り出す作業はひどく非効率になります。
リソースの投入可能量が有限である以上、ほどほどのところで他のアプローチにまわさないと、他で煙が出ていても気が付かないことになりかねません。
戦争理由がわからないと備える事が出来ないんですよ。それで色々と情報をかき集めてようやくロシア国内の上層部とそのシンパ達がしている内輪向け発言の実態を知った訳です。その結果、ロシアが大変危険な…言ってみればオウム真理教みたいな状態に近付いていた事を察して、大慌てでそうした「お気楽な冒険心」に歯止めをかけるべくそれを防ぐだけの防備を整えて見せる必要性にかられたという訳です。
最初の頃は損してまではやらないだろうだとか、ウクライナだけ見捨てれば済む程度だろうとか軽く考えてたんですよ。でも、どうもこれは…連続した攻勢シナリオの一部だという話になってきてこうなってる訳です。しかも、勝算度外視で見栄を最優先している懸念すらある。もう実力で前進を止める手立てくらいしか選択肢が残らなくなったというか…
ロシア側もそれを受けて、最近ようやく恒久的停戦「も」考えてるんだと言うようになってきました。でも、まだまだ全然話が進んでない段階ですね。4州割譲要求も「話し合う為にする最初の捧げもの」としか言っていません。そこから話を広げる事になってしまってる。戦争を止めるには結局、ロシア内でそうしたものが大きく流れを変える必要がある訳ですね。
だからこそ、こんな微妙な損失の多い作戦を平気で続けられる…むしろズレたお題目が勝利を台無しにした感すらありますからね。序盤の戦力を大事に使っていれば勝ちもあり得たか、少なくともより有利だった可能性も高かったのですが…押しても引いても、ロシア軍側もウクライナ軍側も地獄ですよもう。
OSINTのしんは辛抱のしんと言うほど根気の要る作業を今までのプロ(特に米国三文字機関)がやってこなかっただけじゃないでしょうか。
偵察衛星やPRISMなんてリソース持っていない国では当然のように活用していたでしょう。
正直個々人の主観が入るSNSなどからの付き合わせとなると、OSINTのような新たな概念を示す単語を作るよりむしろ過去の信頼度で選別した情報提供者からの収集内容を繋ぎ合わせるリアル含むHUMINTへの回帰と言ったほうが良いのでは…?とも思いますね
昨今のグローバル型SNSの複製垢によるバズ投稿をコピーしたインプレゾンビ行為の蔓延を考えるとオープンソースの膨大な情報から濾し取る労力も更に上がってるでしょうし
ソフトウェアでもオープンソースのほうが、閉鎖的でクローズドソースなものより優れてることが多いってのは常識なきがします
米軍は情報分析が優れてるってのも怪しくなってきましたね
たしか大戦後半のソ連が、アメリカによる原爆開発を確信したきっかけが「近頃米英の学会誌には核分裂関連の論文がまったく掲載されなくなった・・・ まさか」だったはず。
逆に冷戦時代のCIAによるソ連GNP推計なんかは、ソ連国家統計委員会の公式統計を、重み付けをし直して再集計したものだった。
偵察衛星や通信傍受の発展で、こういう基礎をないがしろにしていたのだろうか?
ちなみにザヴォドニー「消えた将校たち」1962年、は戦後アメリカに亡命したポーランド国内軍将校によるカチンの森虐殺事件の調査記録。当事者であるソ連政府はもちろんのこと、ポーランド政府アメリカ政府の協力も得られないままで、犠牲者が家族にだした手紙や数少ない生存者の証言などをもとに、虐殺事件の全貌をほぼ明らかにすることに成功している。後にソ連政府の公開資料をもとに書かれたザスラフスキー「カチンの森ーポーランド指導階級の抹殺」2010年、と細部を除けばほとんど違いがない。
公開資料だけがもとでも、超大国の最高機密にこれだけ迫ることが可能であったことの雄弁な証拠でもある。
要するにオープンソースのOSINT情報を理解するには、軍事的専門知識、専門的な経験以外の
「一般的知識」
「一般常識」
「良識」
「庶民感覚」
というのが重要になるわけです。
昔の日本陸軍の陸軍中野学校では、情報将校を集めるのに、幼年学校や士官学校を卒業したのではなく、普通の大学を卒業した予備役将校から選んでいましたが、彼らの方が現役将校よりも一般教養や一般知識が豊富だったためです。
防衛大学校が一般教養の教育を重視したのも、専門知識に偏ると視野が狭くなって大局的な判断ができなくなるからでした。
大平洋戦争直前の日本では、
「総力戦研究所」
というのも作られましたが、これも軍事的専門知識だけを頼りにすると、戦争の勝敗が予想できなくなるためでした。
しかし総力戦研究所で行われたシミューレションの結果は、
「日本は勝てない」
というものであったため、研究の結果はあえて大本営に黙殺されてまったく意味のないものになったのです。スウェーデンの日本大使館付き武官、小野寺真少将の報告もそうです。
総力戦研究所の研究結果が黙殺されたのは、最近では「経済学者達の日米開戦(牧野邦昭)」等では別の評価で、
その研究結果が、軍上層部も含めて当たり前の共通認識だったから、じゃなかったですかね。そのシミュレーション結果を踏まえてどうするか、例えば戦わずにどうすれば活路が開けるか、がなければ取り上げる価値がないといったところでしょう。
まあ、単に不都合な現実を突きつけられるのを嫌がっただけかもしれませんが、それなら軍や本邦に限らない共通の現象というものでしょうからね。
リアルタイムに情報が手に入るのは大きな利点ではあるものの、ここぞというところでは敵も偽情報を流すから扱いは難しいでしょうね。今の生成AIのレベルならまだいいですが、今後本当に判別不可能になった時の対策が気になります。
オシントは別に万能の魔法の杖じゃない。
オープンソースを突き合わせて正解を出すわけだけど、
汚染ソースの混入や、運用コストが高い点、情報照合のエキスパートが必要など、使える手段なのは確かだけど、問題点も多い。
本文にも、アマチュアではなくオープンソースを使う真のプロが必要と書かれてますしね
本当のオシントが存在するとしたら軍隊より商社だろう
あっちは金が掛かってるから
日本の場合北朝鮮やロシアへのシギント要員は本来なら数十年は専属で携わらないと使い物にならないのに定期異動で専門家が育たないというのがありますので、今回の件も日本ではあまり期待が出来なさそうですね。
実は裏では…という展開に微かに期待。
民間のOSINTといえばラヂオプレスもそうですね
ドイツの地方新聞のお悔やみ欄とか、地方名士の近況欄とかで軍隊の部隊移動を把握したって話は古典的だと思ってたんだが