米軍は対イラン作戦=エピック・フューリー作戦で迎撃ミサイルや長距離攻撃兵器を大量消耗し、国防総省は「21日以内により迅速な増産計画を提出しろ」と防衛産業界に指示したが、ボーイング、ノースロップ・グラマン、ロッキード・マーティンは独自の解決策を11日に発表した。
参考:Innovative seeker concept passes rapid testing
参考:Northrop Grumman Introduces Raid Hunter™ for Next Generation Gun-Based Air Defense System
参考:Lockheed Martin Announces Strigo™ and New Product Center of Missile Technology Solutions to Support the Arsenal of Freedom
参考:Boeing unveils cheap radar seeker built from off-the-shelf parts
参考:Lockheed Martin launches modular missile tech with dedicated ‘storefront’
参考:Boeing, Northrop unveil low-cost intercept tech
防衛スタートアップだけでなく伝統的な防衛企業も本格的に先行投資へ乗り出してきたため、低コスト兵器の開発競争はますます激しくなるだろう
米軍は対イラン作戦=エピック・フューリー作戦で迎撃ミサイルや長距離攻撃兵器を大量に消耗してしまい、ワシントン・ポストは8日「国防総省は防衛産業に対して極度に不足している弾薬や兵器の生産を急速に拡張するよう求めている。水曜日にファインバーグ国防副長官は『より迅速かつ積極的な納入スケジュールの策定及び生産量拡大を実現するための計画を21日以内に提出しろ』と防衛産業界のトップに指示したと判明した。この指示の中で「何年もかかる開発サイクルは容認できない」「我々は今すぐにでもプログラムのスケジュールを大幅に加速させ生産能力を拡大しなければならない」と言及した」と報じた。

出典:Center for Strategic and International Studies
米軍は対イラン作戦の最初の1ヶ月だけでトマホークを850発以上、迎撃ミサイルを1,000発、陸軍の戦術弾道ミサイルを1,300発以上も消耗し、パトリオット迎撃ミサイルの在庫は2,200発から827発未満に、THAADミサイルは452発から278発未満に減少してしまい、国防総省は3日にロッキード・マーティンやノースロップ・グラマンとPAC-3 MSEやTHAADの生産量を増やすための枠組みで合意、2030年までにPAC-3 MSEの生産量を3倍に増やすためロッキード・マーティンと最大586億ドル相当の契約を締結したが、この契約は原資の確保がないまま締結された空手形に過ぎない。
仮に奇跡が起こって財源が確保されても、高度な兵器を生産するためのリードタイムは非常に長く、発注から納品までかかる平均時間はPAC-3 MSEで約42ヶ月間、THAADで約53ヶ月間と推定されており、さらに発注数が生産能力を大幅に超過している状態なのでサプライチェーン全体のパイプラインを太くすることから始めなければならず、数万点から数十万点に及ぶ特注の構成部品は市場に出回る汎用品で代用することもできないためとにかく時間がかかるのだ。

出典:Lockheed Martin
迎撃ミサイルや長距離攻撃兵器を増産する上でボトルネックになっているのがシーカーの供給で、ボーイングは11日「市販の汎用部品を使用した超低コストのレーダーシーカー(ULCS)を開発中で、信号反射を抑制する電波暗室でのセンサー設計評価、航空機搭載での試験、さらには小型ロケットを用いた高速飛行試験を成功裏に完了した」「このULCSは迅速かつ大量生産を可能にするモジュール設計を採用し、移動目標に対する攻撃任務において十分な質量を確保することを支援するのが目的で、我々は自社の統合防空ミサイル防衛、直接攻撃兵器、巡航ミサイルなど幅広い兵器ポートフォリオにULCSを適用できるか評価している」と発表。
ノースロップ・グラマンも革新的な50mmチェーンガンを搭載する防空システム=レイドハンターを11日に発表し、このレイドハンターで使用する50mm砲弾は具体的な方法は不明なものの「精密誘導が可能な機動力を備えた砲弾(1発あたり数千ドルを予定)」で、この50mmチェーンガンは陸軍向けの次世代歩兵戦闘車=XM30のために開発したXM913チェーンガンを使用しており、2027年夏までに実射可能なプロトタイプを納品する予定らしい。
The skies are changing. Defending against one threat isn’t enough anymore. Our Raid Hunter™ is built to meet the challenge with precision-guided gunfire and the speed needed to help protect what’s critical. pic.twitter.com/Meuqyg04oY
— Northrop Grumman (@northropgrumman) August 11, 2026
レイドハンターは従来の防空システムを圧倒するような巡航ミサイルや無人機による飽和攻撃への低コストな対抗策で、ノースロップ・グラマンが提供する拡張性の高い多層的な運動エネルギーによる防空能力=レイド・ディフェンス・ソリューションズのコアシステムになり、簡単に言えば迎撃手段を顧客の好みに合わせて追加可能なラインメタルのエリコン・スカイネックスと同じ発想だ。
そしてロッキード・マーティンもモジュール式の防衛ソリューション=ストリゴを11日に発表、このストリゴが何なのかを簡潔にいうと「特定用途のために完結したシステムを作っているのではなく、共通のベースライン・アーキテクチャに基づいてミサイル向けの無線周波数センサー、データリンク、シーカー技術などを網羅した製品ラインで、顧客の要求に合わせて一般的な迎撃ミサイル、弾道ミサイルの迎撃に対応した迎撃ミサイル、空対地ミサイルなど様々な用途にストリゴ技術を素早く再構成して仕上げる」となり、コンセプトスケッチから実射によるテスト完了までを数年単位ではなく数ヶ月単位で終えることができるらしい。
.@LockheedMartin launches Strigo™ – a new family of solutions that bundles RF sensors, missile datalinks & seeker technologies built on a common baseline. A dedicated Strigo Product Center has already demonstrated a faster path from innovation to operational capability.
— Lockheed Martin News (@LMNews) August 10, 2026
ストリゴは書類上の新しい開発アプローチ構想ではなく、自社資金から2.5億ドルを投資して2年前から稼働している開発アプローチで、ロッキード・マーティンも「現在開発が進められているPrSM Increment2のシーカーパッケージ(地上の静止目標を攻撃するPrSM Increment1を対艦弾道ミサイルに変換するためのシーカー)にストリゴの技術が反映されている」と明かしており、ファーンボロー国際航空ショーで発表したPAC-3 MSEの廉価バージョン=PAC-3 ACE(Adapted Capability Effector)もストリゴベースで開発されるかもしれない。
米国の伝統的な防衛企業はウクライナ戦争が勃発して武器需要が高まっても生産能力の増強・拡張に消極的で、経済性を優先した収益性の高い開発・生産アプローチに留まり続けてきたが、防衛スタートアップの自社資金による開発・生産で独占してきた市場シェアが崩され、トランプ政権も伝統的な防衛企業に「国防総省にアイデアを持ち込んで開発資金を確保してから動き出すのではなく、国防総省が発注してから生産能力への投資を考えるのではなく、自社株買いばかりに資金を投じるのではなく、少しは祖国の安全保障のためリスクを冒せ」と要求している。

出典:Boeing
ボーイングのULCSも、ノースロップ・グラマンのレイドハンターも、ロッキード・マーティンのストリゴも国防総省からの開発発注ではなく、各企業が米軍の将来ニーズを見据えて自社資金で進めている独自開発=先行投資であり、防衛スタートアップだけでなく伝統的な防衛企業も本格的に先行投資へ乗り出してきたため、特に需要が高い低コスト兵器の開発競争はますます激しくなるだろう。
ちなみに需要が高い低コスト兵器にとって重要なのは究極の性能ではなく柔軟な生産性であり、従来の生産効率が悪い兵器と根本的に異なるのは特注部品に依存しない、つまり特注部品の調達先が1社しかないというサプライチェーンの構造的な脆弱性と手を切り、複数の調達先が市場に供給している汎用部品を組み合わせて作り上げるのが低コスト兵器の正体だ。
関連記事:米軍、迅速なミサイル増産計画を21日以内に提出するよう防衛産業界に要求
関連記事:トランプ大統領が深刻な弾薬不足について説明を要求、高まる国防長官への不満
関連記事:ウクライナのパトリオット生産、RTXとロッキードは商業的機会の喪失を懸念
関連記事:ラインメタルのATACMS生産、米軍備蓄の補充に役立つまで2年以上かかる
関連記事:米陸軍、地上発射型弾道ミサイルのほぼ全てを対イラン戦で使い果たす
関連記事:米国が欧州の同盟国に弾薬供給を再開、ATACMSだけは現在も保留中
関連記事:米ロッキードと独ラインメタルがATACMS共同生産に関する覚書に署名
関連記事:米陸軍、30年ぶりにパトリオット迎撃ミサイルのPAC-2弾を新規調達
関連記事:ウクライナと欧州が開発する弾道弾迎撃ミサイル、当初はPAC-2の類似品
関連記事:ウクライナでのパトリオットミサイル生産、実現には数年単位の時間が必要
関連記事:トランプ政権、中東諸国にパトリオット迎撃ミサイルを推定4,250発分も緊急売却
関連記事:ドイツがウクライナにパトリオット迎撃ミサイルを600発以上供給、ドローン共同生産も
関連記事:米国がパトリオットシステムの迎撃弾を大増産、年600発から年2,000発へ
関連記事:スイスはパトリオットシステム取得の支払いを停止、米国の態度によっては取得中止
関連記事:NATO、欧州のパトリオット運用国向けに1,000発の迎撃弾を一括発注
関連記事:日本のパトリオットミサイル輸出、シーカー不足で増産に数年かかる見込み
関連記事:海外進出のススメ、世界中の防衛産業企業が進出する年間予算80兆円台の米国市場
※アイキャッチ画像の出典:Lockheed Martin





















元々軍需産業の収益性なんか高くは無いが、軍需へ世界的に資源・人材・金が集まり始めている流れに、伝統的巨大防衛企業が乗り直せるのか
ぶっちゃけ1~2か月先の事も目算付かない所はあるが、賭けに打って出て成功しなければ衰退するのがビジネスの常だ
車でさえ納車一年待ちが珍しくなくなった今日この頃
ミサイルは5年待ちくらいが当たり前になるんですかね
今更アメリカで製造業やって上手くいくとも思えんがな
軍事と分野は異なるが、米国認定鉱山技術者の資格取得者がアメリカ人が年間200人弱に対して中国人留学生は4000人もいるそうです。イランでも欧米の大学で工学博士号を取得した人物が多くおり、優秀な技術将校たちがイラン側の善戦に貢献した。今回のイラン攻撃ではアメリカが敵を舐めすぎたことで失敗したが、兵器の生産及び開発を行う現場技術者の不足も今後問題になるのでは。
アメリカの成績優秀者は皆大きな報酬が見込める金融系学問を専攻し、理工系離れが日本以上に深刻である。「アメリカの大学とはユダヤ人の教授が中国人に数学を教える場所」という揶揄まで存在する。
日本はアメリカの工業生産力にボコボコにされたから
日本叩き日本異質論の代表的論者のカレル・ヴァン・ウォルフレンがいみじくも指摘したようにアメリカに負けたのは必要な軍需物資を必要な技術水準で必要な量供給できなかったからという意識が強烈に刷り込まれて
戦後はフルセット型工業の構築維持に執念を燃やしたけど
その日本をボコボコにしたアメリカが軍事力の源泉が工業力であることを忘れて産業を空洞化させたのは皮肉だね
そして日本とアメリカ双方を反面教師にしてる中国はやっぱ賢い
市販の汎用品を使えば使うほどアメリカは中国より弱くなる
なぜなら製造業のあらゆる分野で汎用品の生産力がダントツで高いのは中国だからね
ハーモニックドライブのような高精度な部品でも一昔前は日本やドイツに片手で収まるくらいのメーカーしかなかったけど(アメリカにも米軍向けの大昔に認証された古い特注品を作るメーカーが1社ある
今じゃ中国企業がバンバン量産してるし電子部品もしかり
もう詰んでるんだよアメリカは