ハドソン研究所は今年2月「国防総省の要求要件プロセス=JCIDSは技術革新を阻害する官僚主義的な泥沼だ」「救済不可能なので焼き尽くして解体しろ」と訴えていたが、トランプ政権はJCIDSを本当に廃止し、国防当局、産業界、アナリストから大きな支持を集めている。
参考:Taking down JCIDS is the right move. What comes next will be crucial.
参考:Pentagon terminating JCIDS process as part of larger acquisition reform: Memo
再び陸軍、海軍、海兵隊、空軍、宇宙軍が調達プログラムの要件策定や検証において大きな権限をもつことになる
米軍のジョン・ハイテン統合参謀本部副議長は退任前の2021年10月「我々は世界に先駆けて極超音速兵器の技術開発に取り組んでいたものの、最初のテストに失敗したため開発は2年間中断され、再び挑んだテストも失敗したため開発が中止されてしまった」「敵も同じ方法で極超音速兵器の開発に挑戦したが、我々と異なりテストの失敗を容認したため開発に成功した」「これを受けて我々も開発を再開したが、依然としてテストのリスクを理解し、ミスを容認出来る環境が整っていないため国防総省は極度に失敗を恐れている」「中国は過去5年間で数百回のテストを実施したが、米国は失敗を恐れて9回しかテストを実施出来なかった」と言及。

出典:Air Force photo by Matt Williams
さらに「米国初の偵察衛星は打ち上げ失敗や衛星が設計通り作動しないなどのミスで13回連続で失敗し、14回目の打ち上げでようやく成功した。新しいモノを早く手に入れるためには『失敗を繰り返すことで学ぶ』というアプローチを行うしかない。金正恩も失敗すれば科学者を殺していた祖父や父のやり方を改め、失敗から多くのことを学ぶことを奨励してICBMと核兵器の開発に成功した」と付け加え、失敗を容認する開発環境の重要性を訴えたことがある。
米国の兵器開発は他国に比べて掛かる時間とコストが異常で、その原因の1つは国防総省が過去の失敗やミスを繰り返さないため設けた検証・認証手続きの肥大化と複雑化にあると言われており、肥大化した手続きの見直しも行われず、何十年も前の措置が技術の発展に見合っていなかったりするため「技術発展の泥沼」と表現されることもあるのだが、ハドソン研究所も「国防総省の要求要件プロセス=Joint Capabilities Integration and Development Systemは技術革新を阻害する官僚主義的な泥沼で、もはや救済が不可能なほど完全かつ組織的に失敗したため解体しなければならない」と指摘。

出典:U.S. Air Force photo by Airman 1st Class Matthew Arachik
ハドソン研究所はJCIDSについて今年2月「現場指揮官に発言権を与え、相互運用性を保証し、技術革新を奨励し、軍の戦略実行に役立つことを約束していたが、実際には軍事力の近代化を妨げ、敵国が迅速に策定する要求要件と同じものに2年以上の時間を要し、技術革新を官僚的で煩雑な手続きに縛り付け、最も戦闘効果の高いシステムを見極めるのではなく『書類の整理』を優先した。これは将来の軍事的優位性を形づくるものではなく、開発を困難にさせる煩わしい形式の階層に過ぎない」と述べ、JCIDSの全てを焼き尽くし歴史の彼方に消し去る必要があると訴えていたが、トランプ政権は本当にJCIDSを廃止してしまった。
トランプ大統領が4月8日に署名した大統領令=Modernizing Defense Acquisitions and Spurring Innovation in the Defense Industrial Baseの中は「JCIDSの見直し」が含まれており、ヘグセス国防長官は20日「調達の効率化と迅速化に向けた取り組みの一環としてJCIDSを廃止しろ」と指示、これを受けて国防総省はJCIDSを廃止し、統合軍のニーズを合理化して要件策定を加速させ、プロセスの早い段階で産業界との協力を可能し、要件の決定とリソースの優先順位をより適切に統合するプロセスを導入、そのため再び陸軍、海軍、海兵隊、空軍、宇宙軍が調達プログラムの要件策定や検証において大きな権限をもつことになる。

出典:U.S. Air Force
Defense NewsはJCIDS廃止について「この仕組みは能力要件の策定や検証プロセスを統合することで国防総省全体の調達に相乗効果を生み出すはずだったが、JCIDSは次第に閉鎖的なプロセスとなり、能力承認サイクルに平均800日を費やし、調達について何の付加価値ももたらさなかった」と、ケンドール元空軍長官も「JCIDSは付加価値ではなく官僚主義的な手続きを生み出すだけだった」と、フェルト元空軍次官補も「最近成功している調達プログラムの全てはJCIDS免除を勝ち取ったものばかりで、この事はJCIDSに価値があったのかどうかを教えてくれるだろう」と言及。
戦略国際問題研究所も「JCIDS廃止まで時間が掛かったが調達計画を共同化するプロセスにおいて重大な変更だ。過去数年間の装備品調達は本来の方針から外れ『各軍や現場に主導権を委ねる方針』に進んでいたものの、これで最近の調達方針と改革の内容が一致した」と、アメリカン・エンタープライズ研究所も「JCIDS廃止によって官僚主義的な煩雑な手続き、棚に放置されたままの承認書類の山を整理できるようになるかもしれない」と歓迎しているが、新たなプロセスや変更は始まったばかりなのでバラ色の将来が約束されている訳では無い。

出典:General Atomic
それでもJCIDS廃止は国防当局、産業界、アナリストから大きな支持を集めており、少なくとも現状を変えるための起点になるはずで、何処に着地したとしてもJCIDSほど酷いことにはならないことを願っている。
因みに「JCIDS免除を獲得して成功している調達プログラム」の代表例はB-21で、空軍はF-35プログラムの反省に基づき「サブシステム統合に関する事前承認」をJCIDSから獲得し、これによりB-21はサブシステムを統合する度に「複雑で手間のかかるJCIDSの承認手続き」をスキップでき、実質的にB-21開発を主導している地球規模攻撃軍団のレイ司令官は「従来とは異なる斬新な開発・取得プロセスを採用しているため、B-21の初期作戦能力獲得にかかる時間を大幅に短縮できる」「B-21にJASSM-ERを統合するための時間や手間はB-2の時の1/10で済む」と説明。

出典:U.S. Air Force Photo by Giancarlo Casem
下院軍事委員会のアダム・スミス委員長は「肥大化する兵器開発」に批判的なことで有名だが、B-21の開発状況を視察し「F-35プログラムで学んだ教訓を生かしている。このプログラムは開発予算の超過もなく、予定通りにインテリジェントな方法で開発が進んでいる」と絶賛するほどで、もしB-21がJCIDS免除を獲得していなければ煩雑な手続きや承認書類の海に沈んでいたのかもしれない。
追記:トランプ大統領は「国防総省を戦争省に改名するつもりだ」「この変更は今後1週間ほどで行われるだろう」と発言した。
関連記事:ハドソン研究所、国防総省の兵器開発プロセスを焼き尽くして解体しろ
関連記事:また遅延とコスト上昇、B-52Hのアップグレードコストが35億ドルも増加
関連記事:米軍ナンバー2の警告、極超音速兵器のテストを過去5年間で米国は9回VS中国は数百回
関連記事:米国の危機感、なぜ米国の同盟国は中国から無人航空機を購入するのか?
※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force Photo by Staff Sgt. Joshua Hastings





















イラクもアフガンも派遣されたアメリカ軍や政府の役人は
前任者が残した書類をチェックして読み解くのに最初の3か月
予算を申請して入手できるのに次の3か月
後任者に残しておく書類を作成しチェックするのに最後の3か月
何かを実行できるのは1年の任期で3か月しかない、と言っていたような。
書類の山と地獄の事務を回避するためには民間軍事会社を利用するしかない、とも
多分こういう事務手続きが兵器開発以外にもたくさんあり、効率化を妨げているのかと。
この調子だと一個小隊分の弾薬補給を申請するにも、めんどくさい承認手続きと書類の記入が必要だったんだろうな、と
そら現場に権限持たせろ、って話になると思う
軍は公務員だからな。特殊な業務は考える必要があるけど、他の公務員が踏んでるプロセスを完全無視して税金を好き放題に使えるのもおかしい。裁量を与える代わりに暴走しないよう締め付けを設定できるかが肝
自衛隊もその辺きつそうなんですが実態はどうなんでしょうか
いくらFPVドローンを導入しても備品扱いで撃墜された場合は残骸を回収して写真を添付しないと備品台帳から廃棄出来ないとか言われそう
連隊を総動員して、横列させて、最後の破片まで回収させます。
国防総省の要求要件プロセス=JCIDSに対して理解不足でした。
上のコメントは米国の官僚体質に対するものでした。
実際は各軍ではなく国防総省が開発・調達の主導権を握ろうとしたが、各軍の要求すり合わせができないまま同一機能にこだわりすぎて失敗したというところですね。
米国の国防調達に見る統合の限界
リンク
トランスフォーメーションに伴い、2003 年には米国防省の意思決定支援システム制度が大幅に改正され、新たに採用された制度の一つが JointCapability Integration and Development System(JCIDS)と呼ばれる能力ベースアプローチであった
2003 年以前の制度では、装備品の要求性能は各軍種からのボトムアップで策定されたが、要求性能の決定に各軍種の意向が強く反映され、装備品の統合が進まない、類似事業が重複するなどの問題を抱えていた。
米国の防衛改革の構造と展望
リンク
(6) JCIDS 文書の作成と新たな事業評価手法の導入
自衛隊の例で考えれば、F-2 と P-3C は対艦攻撃能力という観点で見れば同一機能分野に分類され、F-2 と自走砲は、陸上目標攻撃能力という観点で見れば同一機能分野に分類されるといえる。
JCIDSがなくなり そして国防総省もなくなった!
JCIDSが出来てからの兵器開発プロジェクトで成功したの何かあった?ってレベルの失敗率だったからなぁ
>金正恩も失敗すれば科学者を殺していた祖父や父のやり方を改め、失敗から多くのことを学ぶことを奨励してICBMと核兵器の開発に成功した
いろいろ面白すぎる
ロケット技術者を招いて華々しい祝宴を開いて手ずから金の腕時計を授与したりしてたんだよね。
しかし、最近の海軍の技術者に対してはどうなんだろうw。
よかった!新型駆逐艦の進水式失敗で金正恩に粛清された技術者は居なかったんですね😭
粛清されたのか処刑されたのか明らかではないですが、
これがトランプだろうとプーチンだろうと習近平だろうと
自身が出席した進水式で大失態をしでかした関係者を
何らかの形で処罰するのは当然でしょう
最大限寛大にしたとしても、二度と第一線には戻れず
出世の道は断たれるのが妥当
逆にこれで厳罰に処さない国家元首などいるわけない
当たり前のことですよ
北朝鮮の厳罰か…
命は取らんけど、なぜなぜ分析をなぜ#1000まで掘り下げろ並の苦行させられそう
こうやって行動に移しているだけ羨ましいよ。
何処ぞの極東の島国は兵器開発どころか国家の発展を阻害しまくる世界的に見ても有り得ない様な規制を数十年に渡って野放しにしていやがるからなぁ。
しかも逆に本来規制を掛けなきゃならない分野は規制無しの放置と来たもんだ。
JCIDSのせいで失敗が容認できないとは思えない。
ホントの原因はたぶん別にあるよ。
記事にも書いてある通り肥大化した官僚主義と過剰な文書主義が問題なんじゃないのかな
書類の承認・手続き・書類屋の人件費に現場の時間的負担……
これらが無くなれば確実にある程度はマシになるといえる
マニュアル学があるような国だから、多分相当兵器の開発・製造プロセスは短縮されると思う
トライ&エラー、これを繰り返すのが1番早いでふからね。
スペースXのように、1回100億円のロケットを燃やしても改善に繋げている事例があります。
軍事分野も、ガンガン意欲的に開発していく事を期待しています。
中国のようにガンガン失敗しながら開発すれば伸びるの早い
まず手を動かさないと話になりませんから
アイコンと名前で大草原
アイコンいいですね笑
やっぱり称号システムなんですね。プラチナ会員にならないとw。
以前ここでドイツの調達システムが役所の手続きが煩雑過ぎて、ウクライナ戦争勃発で兵器の追加発注を行うも足を引っぱられ時間がかかりすぎてとかの記事を見た覚えがありますが、何かそういう複数で監査しなければいけない事案が続いていたのでしょう。
ボロクソに言われてますけど、JCIDSがあるって事は、それが必要になった原因もあったという事なんですよね
そこにも目を向けないと、巡り巡ってまた似たような組織や制度が復活してしまうんじゃないかなぁ
邪魔!クソ!!切り捨て上等!!!じゃ、スケールのデカい「臭いものに蓋」な気がしてならない
散々言われてるけど横槍がないB-21は順調だし、他と違って批判も抵抗もほぼ無いあたりマジでみんな要らないと思ってたんだろうな
F-35のパーツ融通の件と言い過度な官僚化があったのは事実であろう。
しかし、防衛省から戦争省に改名ってぶっちゃけたなあw。
間違っちゃいないけれど、何かもうちょっと言い方無いんですかね。
その点我が国は、防衛省をやめたところで軍務省とか兵部省とか候補が沢山有って良い。
我が国はやはり陸軍省と海軍省の分業体制がいいですかね
会議も白熱した良い議論が出来そう
草
航空宇宙軍省 (new!)
我が軍は陸軍と海軍の提案に反対である!
サイバー防衛軍省もそろそろ入り用かと…🙄
バイデン時代から議論はあっただろうに、何故トランプに出来て、バイデンには決断を下せなかったのか。確かにトランプの政治判断全て正しいとは言わないし、ハズレ率も高かろうが、何もしないよりはマシだ。ウクライナの開戦以来、バイデン時代の2年間温めた議論がトランプの手によってドンドン正式決定しているが、その全てが2年も温めないと行けなかったのだろうか。
実行力と支持率や評判は別のものですから。最近だとオバマ大統領も実行力の観点では最低だけどなぜか評判良かった…
日本でも最近の首相の中では、在籍一日あたりの法案成立数だと菅首相(第99代のほうね)がトップだった筈。
このあたりの不安定さは民主主義のリスクですね、
さりとて実行力ある人しかトップになれない中共が素晴らしいかというと?ですが。
バイデンは政治家なので確実な成功が得られそいもなければ先延ばしする事に抵抗がないのでしょう
トランプは経営者なので決断をすることが職務であり決断の先延ばしは損失だと理解している。
その差でしょう。
バイデンは成功数が低くても成功9割を目指した
トランプは成功率の黒字な限り施行回数を増やし続けてる
トランプの判断なのに誰も噛み付いてこないのが全てを物語ってるんじゃないかと。
余りに要らなかった
権限が各軍に委譲される段階で最低限の規制は必要でしょうが、文民統制と兵器開発をどうバランスさせつつ開発スピードを高めるか、またデジタルツインとリアルのフィードバックを前提とした新しい仕組みづくりをできるかは重要と考えます。
なお、「Air Force Global Strike Command」の定訳が「地球規模攻撃軍団」なのは分かるのですが、どうにも「石原軍団」とか「大門軍団」を思い出してしまいました。
日本も装備庁解体してくれないかな...
あそこ人材の掃き溜めだよ...
国防省から戦争省ってまた物議になりそうなネーミングをw
平和省とかどうでしょうか
更に踏み込んで戦争省を平和省に改名すればデストピアSFの世界に。対テロ戦争の名目でハイテク技術によって監視システムが整っている上に、トランプは民主主義は権威主義だと言わんばかりの振る舞いをしているので、アメリカはジョージ・オーウェルの世界になりつつありますね。
「恐怖省」なんてのありましたな。
「衝撃と畏怖」作戦なんてのもありましたが、畏怖させられなくなってきた米国。
最近の小説だと「未来省」というのもありましたがマイナーすぎるか。
いっそアメリカ兵の呼称はトランプ兵かカードソルジャーにでも改名した方がいいだろう
自分の事をキングだと思っている人もいるしぴったりだろ
失敗事例を集積してマニュアルに反映させていくというのは実際有効な手法だと思いますが、積み増し続ければいずれマニュアルのためのマニュアルになっていくというのは想像できます。
医療過誤のニュースなんかでも「見落とし→アラートの実装」なんて話はよくありますが、アラートの頻発から無関心を招く・・・なんて事象もあります。
航空業界では事故教訓の反映でかなり安全性が高まっていると聞きますが、手順の肥大化で注意力が低下したみたいな話は聞きません。
要はやり方次第なんでしょうが、公共性があり書類が好まれる官僚とは相性が悪かったんですかね。
事例としては
・カンタス航空32便エンジン爆発事故
→ エンジンが爆発してA380自己診断プログラムが大量のログ吐いてエンジンが爆発した、という事実を確認するのに時間がかかった
・USエアウェイズ1549便不時着水事故
→ 離陸直後の事故でチェックリストを確認する時間の余裕がなかった(知りたい情報はチェックリストの一番最後だった)
とかありますが、いずれも機長含むクルーの適切な判断で死亡者無しで済みました
機械側の対処だけでなく、マニュアル改訂や自己診断プログラムの改良など、より人間の対処を容易にする方向に進んでいますね。
戦争省はJCIDS廃止を是が非でも実現させる為のブラフだろう。戦争省改名は野党の批判で何れ撤回、でもその頃にはJCIDSは誰の反対もなくゴミ箱に送られている。
そんな事しなくてもJCIDSはあっさりゴミ箱だとは思うが、最近の野党はアレだし、まぁ反対者が野党と組んでくる事はあり得るから。
アメリカは自国に簡易妨害活動フィールドマニュアルを適用していたということでしょうか?