米国関連

本気なら外交問題化は確実、トランプ大統領「F-35の部品を全て米国で製造する」

米国のトランプ大統領は14日、F-35製造のために構築されたグローバルサプライチェーンについて「海外からF-35の部品調達を行うべきではなかった」と語り注目を集めている。

参考:Trump has questions about the F-35′s supply chain. Here are some answers.

広大なグローバルサプライチェーンは制御することが難しくデメリットの方が多い

この話は中国に製造拠点を持つ米国の製薬企業を国内に回帰させるため、米政府はどのようなインセンティブを計画しているのか米メディアに質問された際に飛び出した発言だ。

トランプ大統領はグローバルサプライチェーンについてF-35の例を挙げて「このシステムの問題はある国との関係に問題が生じるとF-35の製造が出来なくなることだ。これはとてもクレージーなことで米国は全てを国内で作るべきだ」と語り、あまりにも広大なグローバルサプライチェーンはメリットよりもデメリットの方が多いという批判した。

出典:Public Domain 製造途中のF-35の胴体部分

この発言に対し米メディアは「そんなことが可能なのか?」と尋ねるとトランプ大統領は「可能だ、そのために私は政策を変更する」と答えたが、実際にトランプ大統領が海外からF-35の部品製造を国内に戻すため行動をとるのか不明だと米メディアは報じている。

勿論、今回トランプ大統領が言及した内容は大統領選挙を見据えたパフォーマンスである可能性が高いが、F-35を製造するためのグローバルサプライチェーンの問題は米国の政府説明責任局(日本の会計検査院に相当)も数年前から問題視している部分で全く的外れではない。

政府説明責任局は5月12日の報告書の中でグローバルサプライチェーンが部品の納期を守らないため、ロッキード・マーティンはF-35の需要増加に伴う生産量引き上げが上手く行っていないと指摘している。要するにF-35製造のために構築されたグローバルサプライチェーンはF-35の生産効率向上を阻害している要因になっていると言う意味だ。

さらに数日前の記事「米国の排除宣言はブラフか?トルコからのF-35部品供給が中断されていない理由」で触れた、F-35製造のために構築されたグローバルサプライチェーンからのトルコ排除が実際に進んでいないという問題にも答えが出た。

出典:ロッキード・マーティン

米国は2020年3月までにF-35サプライチェーンからトルコの防衛産業企業を排除すると通告していたが、トルコ国防省調達部門のイスマイル・デミール氏はF-35製造に必要な部品供給が今も続いていると語り注目を集めていたが、米メディアが国防総省の担当者の話として「予定されているF-35の生産スケジュール遵守や新規サプライヤー立ち上げコストを抑えるためにトルコからのF-35部品供給はロット14の製造(2022年)が終わるまで続く」と報じている。

以上のことから、2020年1月の段階でF-35を製造するロッキード・マーティンや搭載エンジンを製造しているプラット・アンド・ホイットニーは国防総省に対して「トルコ企業との契約が切れるまで取引を継続させて欲しい」と要請していた情報は本当だったのだろう。

結局、トランプ大統領が「海外からF-35の部品調達を行うべきではなかった」と言い出したのは、このようにF-35サプライチェーンからトルコを排除するだけでも思うように行かない現実を実感したからかもしれない。

しかしF-35の部品調達を全て国内に戻すということはF-35プログラムに出資した国から部品製造権利を取り上げるというを意味しているため実行すれば外交問題に発展するのは確実だが、これまであり得ない言われてきた事をトランプ大統領は幾つか実行(中距離核戦力全廃条約やオープンスカイ条約からの脱退等)してきた実績があるので全くの絵空事とも言い切れない。

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force photo by Staff Sgt. Kate Thornton

フィリピン、米国が提案したAH-1ZもAH-64Eも高価すぎて購入拒否前のページ

極超音速兵器に既存の迎撃システムが役に立たない理由次のページ

関連記事

  1. 米国関連

    米国史上2番目の取引額、UAE向けにF-35Aを含む2.4兆円の武器販売を承認

    米国のポンペオ国務長官は10日、アラブ首長国連邦にF-35Aを含む23…

  2. 米国関連

    弾が真っ直ぐ飛ばない? 米国、F-35A搭載機銃の攻撃精度は容認できないレベル

    国防総省が発表した年次報告書によれば、依然としてF-35は設計通りに機…

  3. 米国関連

    BAE、米陸軍に迫撃砲搭載のPatria製砲塔を統合したAMPVを納品

    BAEは6日「米陸軍に迫撃砲搭載のPatria製砲塔(NEMO)を統合…

  4. 米国関連

    米海軍、潜航中の攻撃型原潜からUAVを発射して敵艦を見つける

    無人航空機を活用した戦場環境の認識力拡張は潜水艦の戦い方にまで変革をも…

  5. 米国関連

    日米が共同開発したSM-3Block2A、ICBMを想定した迎撃実験に初成功

    米ミサイル防衛局は16日、大陸間弾道ミサイル(ICBM)を想定したSM…

  6. 米国関連

    米メディア、無益なロシアとの戦争リスクを回避するためNATO拡大問題を解決すべき

    防衛や安全保障問題のニュースを取り扱う米国のDefenseNewsは1…

コメント

    • 匿名
    • 2020年 5月 15日

    米国も部品産業は国外に製造委託してるところが多いので、アメリカの部品メーカーに発注しても細かい部品は国外で生産するオチが付きそうですね。
    実際、B-1に中国製素材が使われて問題になったように、100%アメリカ製は困難でしょう。

    全ての部品をアメリカが生産することになれば、アメリカが部品供給のボトルネック、単一障害点になります。

    日本やイタリア、オーストラリアのようにアメリカ国外で機体製造、保守、アップグレードを担当する拠点への部品供給は国外の製造委託契約が切れた段階で高額なライセンス生産にして金を巻き上げるのがトランプのディールでしょう。

    • 匿名
    • 2020年 5月 15日

    F-35を各国に売り込んでるLMの足を思いっきり引っ張りそうな発言ですねこれ
    米国の気紛れでろくにメンテできなくなるかもしれない戦闘機は論外

    • 匿名
    • 2020年 5月 15日

    F-35は「例に挙げ」ただけじゃないの?
    実際トルコですら外せてないのに本気で全部国内に戻す事を考えてるとは思えないんだけど。
    言いたいのは「サプライチェーンの一環を特定の国に依存するのはリスキーだ」で、結局のところ「中国依存から脱却すべき」ってだけでしょ。
    F-35に関して言えば全部品の生産国をせめて「二重化」しとくべきだったと思うけどね(米除く)。

    1
    • 匿名
    • 2020年 5月 15日

    オール米国産部品でF-35を国内製造したとして
    価格も据え置き、とはならないのでは?F-22どうなったよ。

    • 匿名
    • 2020年 5月 15日

    これが本当ならビッグ・ニュースだけど、おそらく「アメリカが使うF-35はアメリカで作る」ぐらいの意味合いでの発言と予想

    1
    • 匿名
    • 2020年 5月 16日

    じゃけん頑張ってF-3作りましょうねぇ~としかならんね

  1. この記事へのトラックバックはありません。

  1. 中国関連

    中国、量産中の052DL型駆逐艦が進水間近、055型駆逐艦7番艦が初期作戦能力を…
  2. 北米/南米関連

    カナダ海軍は最大12隻の新型潜水艦を調達したい、乗組員はどうするの?
  3. 欧州関連

    オーストリア空軍、お荷物状態だったタイフーンへのアップグレードを検討
  4. 米国関連

    米空軍の2023年調達コスト、F-35Aは1.06億ドル、F-15EXは1.01…
  5. 日本関連

    防衛装備庁、日英が共同で進めていた新型空対空ミサイルの研究終了を発表
PAGE TOP