米国関連

米空軍のABMSが見せた将来の可能性、飛行中のF-16をアップデートすることに成功

米空軍は開発を進めている高度な次世代の戦闘管理システム「アドバンス・バトル・マネージメント・システム(ABMS)」の活用してF-16C/Block50が搭載する電子戦ポッド「ALQ-213」のミッションデータファイルを飛行中にアップデートすることに成功したと先月末に発表した。

参考:F-16 receives in-flight software update during recent flight test

将来の戦闘機は出撃前により賢くなって基地に帰還する?米空軍が飛行中のF-16をアップデートすることに成功

従来の装備品やシステムは関係性の近い範囲での互換性しか担保されていないため陸海空に加え宇宙やサーバー空間といった領域を統合するマルチドメイン(多次元戦闘)作戦を実現するには、あらゆる資産が収集した情報を瞬時に統合して活用する必要があり、これが実現すると敵より優れた戦場認識力が手に入るため指揮官は敵より先に優れた決断や指示を下すことができるようになる。

出典:U.S. Air Force photo by 1st Lt Savanah Bray

つまり同じ戦力でも入手できる情報量や情報認識スピードが高まれば戦闘を優位に進められるという意味で国防総省はマルチドメイン作戦に対応した新しい統合全ドメイン指揮統制(JADC2)の開発を進めているのだが、これを実現するためには全ドメイン(領域)間でのシームレスな情報のやり取りが出来る通信環境を構築する必要があり通信プロトコルが異なる戦力をJADC2に参加させるためにはゲートウェイで調整(通信プロトコルの変換)する必要があるため非常に手間のかかる作業だ。

補足:通信プロトコルが異なる戦力の代表例としてわかり易いのはF-22とF-35で、両機種とも高度な敵防空システムで守られた環境下で活動する際に敵に傍受されやすい戦術データリンク「Link-16」ではなく秘匿性の高い別規格の通信プロトコル(F-22はIFDL/F-35はMADL)を使用しているのだが、IFDLとMADLは互換性がないので両機により共同作戦の妨げになっており、IFDLとMADLの通信プロトコルを変換する装置を無人航空機や空中給油機に搭載して中継する実験が最近成功したばかりだ。

要するにJADC2に全ての情報を集約するため米軍の各組織は通信環境の整備を行っている真っ最中で、米空軍の戦闘管理システム「アドバンス・バトル・マネージメント・システム(ABMS)」は通信プロトコルの違いを乗り越えて大量の通信を相互に遅延なく行えるようにする新しいネットワークだと理解すれば良く、これを活用して米空軍はF-16C/Block50が搭載する電子戦ポッド「ALQ-213」のミッションデータファイルを飛行中にアップデートすることに成功したと言っている。

出典:U.S. Air Force

米空軍曰く「作戦中のF-16C/Block50が未知の電子的な脅威に晒されてもABMS経由でデータを受信したAIが特性を瞬時に分析、この脅威に対応したミッションデータファイルを瞬時に作成してABMS経由で当該機に送信するとALQ-213のアップデートが完了して未知の脅威に脅威できるようになる」という寸法なのだが、これは飽くまでABMSを活用したデモンストレーションで実際のF-16が今直ぐ活用できる技術ではない。

しかし米空軍は「いつの日かこのような技術が全てのF-16で利用できる日が来る」と主張しており、ABMSによる高速通信が実現すれば「その先の可能性は無限大だ」と言っている。

関連記事:米空軍、ボトルネックだったF-22とF-35の戦術情報共有に成功

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force photo/Tech. Sgt. David Salanitri

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コメント

    • 匿名
    • 2021年 8月 02日

    ハッキングされそうで、怖いな。

    10
      • 匿名
      • 2021年 8月 02日

      アップデートできるってことは敵に割り込まれてプログラムを書き換えられ置物になんてSFみたいなことも起こりうるってことだしね

      5
    • 匿名
    • 2021年 8月 02日

    なんか凄い技術なんだろうが「その先の可能性は無限大だ」と言われると
    怪しいセミナーにしか思えなくなる

    12
    • 匿名
    • 2021年 8月 02日

    これスゴイのは情報の集約とアップデートが同時にできるてとこがスゴい。
    GCCSでは全軍戦略&戦術レベルでの作戦状況の把握と出来て共通マッピングくらい(これだけでもヤバいけど)だったから、それが単一の指揮権の元に戦況に応じたアプデ出来るようになるとは…

    2
    • 匿名
    • 2021年 8月 02日

    ガンダムWのゼロシステムみたいだな
    実現しても肝心の人間が使いこなせないんじゃね?

      • 匿名
      • 2021年 8月 02日

      そしてニュータイプの時代へ

      • 匿名
      • 2021年 8月 02日

      後、ゼロシステムになるの必要なのは、A10神経接続よるAI側によるパイロットの身体操作と、高負荷機動時の痛覚無効と、順法精神無効ぐらいか。

      完全にゼロシステムならAIが体を動かして、操縦桿とか動かすから、使いこなせるんだな。(人道的な結果を保証しないが)

      1
    • 匿名
    • 2021年 8月 02日

    例えば、もしAAM‐4を搭載した日本のF‐2とABMSを搭載したF‐16が戦闘することになったら
    F‐16を即座に全機撃墜しなければ、次の日には電子戦で前日よりも不利な立場になっているということか

      • 匿名
      • 2021年 8月 02日

      次の日どころか本部とのリンクが確立さえしてたら、戦ってる最中にリアルタイムで電子的に強くなっていくかも
      もはやあまりに技術が進歩しすぎて最前線の兵士には今何が起こっているのか理解できなくなる日が来そう

      6
      • 匿名
      • 2021年 8月 02日

      AAM4は従来のアクティブホーミングとは方式が異なり探知されにくいらしい
      ECCM能力も高いので対策取り難いと思われ
      米軍には手の内バレてるかもしれないが

      • 匿名
      • 2021年 8月 02日

      マクロスFでバジュラが反応弾にやられた仲間の経験共有して耐性つけてたよね。

      2
    • 匿名
    • 2021年 8月 02日

    ALQ-213に緊急送信機能がついていて、搭載機が撃墜されても
    撃墜までの電子戦データを本体完全破損や内蔵バッテリが空になるまで送信できるとか
    そんな群体エイリアンみたいな機能がついているなら、ものすごく厄介だな

    もし武装した無人機にALQ-213を搭載して敵対的に突入して来たら、これを撃墜せざるを得ないし
    撃墜したらある程度手の内が流れて即座に対策される、ということになる。
    空対空で長射程の画像・赤外線誘導系ミサイルを開発すべきでは

    3
    • 匿名
    • 2021年 8月 02日

    自衛隊はどうなんだろうな。なんか正面装備ばっかりなイメージ…
    まさか未だにADSL…いや、ISDN…音声カプラ…テレホーダイ!?

    3
    • 匿名
    • 2021年 8月 03日

    ガンダムにマクロスか(*^^*)
    このトピックは正面切った考察が難しいのかな.

    • ゆう
    • 2021年 8月 03日

    インターネットに例えると、アドバンス・バトル・マネージメント・システム(ABMS)はTCP/IC層、IFDL/FMADLはアプリケーション層、ということ?

    • 匿名
    • 2021年 8月 03日

    戦いながら成長してやがる

    6
    • 匿名
    • 2021年 8月 03日

    これからは腕利きの戦闘機パイロットより、システムエンジニア的な人材が重要になるかも

    • 匿名
    • 2021年 8月 03日

    キラさんだな。連邦のモビルスーツを勝手にUPDATEした。

    1
      • A
      • 2021年 8月 03日

      戦闘妖精雪風にもこんなシーンがありましたっけねぇ。

      1
    • 匿名
    • 2021年 8月 04日

    結局IT強くないとどんな分野でも置いていかれるんすかね

    1
    • 匿名
    • 2021年 8月 04日

    実際の所、転送されたデータを使ったらシステムがマトモに作動しませんでしたとかの可能性無いのかね。新しい脅威に対抗しようとしたら古い脅威でさえ対抗出来なくなりましたとか笑えない話だし、後、データのサイズもどれ位かは気になるな小さければ小さいほど回線の負担が減る。

    >空対空で長射程の画像・赤外線誘導系ミサイルを開発すべきでは
     ソッチの脅威が増えるなら、それ用の対抗手段作られるだけなので変わらないと思うぞ。例えばセンサー部分を潰すレーザーとか欺瞞させる物とか機体認識させない塗装パターンとか。

    • 匿名
    • 2021年 8月 04日

    これが本当の「on the fly」または「on the air」アップデート」ですね。
    サイバー攻撃については運用である程度カバーできたとしてもソーシャルクラッキング対策は困難でしょう。

    1
    • 匿名
    • 2021年 8月 08日

    つまりエースコンバットであったような事がどんどん実現されていく

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