KC-46Aは主構造の亀裂問題で2月から納入停止になっていたが、米空軍は「来週からKC-46Aの受け入れを再開する」と発表した。さらに米陸軍は包括的な改革の一貫として既存契約の見直しを行う予定で、ドリスコル陸軍長官は「請負企業から装備品の修理権を取り戻す」と述べている。
参考:KC-46 deliveries set to resume next week
参考:The U.S. Army’s Great 2027 Transformation Has Begun
参考:Warren Statement on Army Right-to-Repair Victory
納入再開はBoeingを安堵させるかもしれないが、RVS2.0のリリース延期でKC-46Aは新たな逆風に晒されている
米空軍が運用中のKC-46Aには飛行中の安全性やミッション達成を阻害する重大欠陥=Category1に分類される欠陥(リモートビジョンシステムの不具合、フライングブームの不具合、燃料マニホールドシステムの欠陥、給油燃料タンクの排水チューブに発生した亀裂や漏れ、APUドレインマストの亀裂など)が未解決のまま残されており、国防総省は2024年の報告書の中で「約9万飛行時間を超える整備データを分析した結果、KC-46Aの任務遂行能力と稼働率は低いままで要求要件を満たしていない」と指摘し、同機の即応性を示す数値も旧式のKC-10A、KC-135R、KC-135Tより低い有り様だ。

出典:U.S. Air Force photo by Airman 1st Class Joshua Hastings
さらにKC-46Aは固定金額で受注しているため膨れ上がったプログラムコストの超過額=Boeingが被った累計損失額は70億ドル以上に達しており、リモートビジョンシステムの不具合を解決するRVS2.0のリリース時期も2024年3月→2025年10月→2026年→2027夏へと延期されているため、まだまだKC-46A関連でボーイングが被る損失額は増えていくと思われるものの、2月下旬に発覚したの主構造の亀裂問題は「原因の特定」「保有する89機の検査」「同様の亀裂が見つかった21機への修理」を実施し、米空軍は「来週からKC-46Aの受け入れを再開する」と発表した。
Breaking Defenseは「空軍とBoeingは767と同様にKC-46Aでも経年劣化で補助翼のヒンジに亀裂が発生するだろうと認識していたが、空軍は納品前のKC-46Aで亀裂が発見されたため受け入れを拒否した」「空軍は同様の亀裂が見つかった21機中19機の修理が完了したと7日に発表した」「今回の納入再開はBoeingを安堵させるかもしれないが、空軍はRVS2.0のリリースが2027年まで延期されると明かしたためKC-46Aは新たな逆風に晒されている」と報じている。

出典:U.S. Army photo by Bernardo Fuller
因みにヘグセス国防長官は今月1日「包括的な改革」を陸軍長官に命じ、ハンヴィー、JLTV、M10 Booker、ストライカーの調達中止、AMPVの調達削減、AH-64DとGray Eagleなどの旧式機材の廃止、無人戦闘車輌=RCV計画の中止、新型自走砲を巡る競争の一時停止などを発表もしくは噂されているが、米シンクタンク=American Enterprise Instituteは8日「2027年に向けた陸軍の大改革が始まった」「現在の陸軍と2027年の陸軍は全く異なる構造になる」「今後の投資はミサイル防衛、長距離攻撃能力、電子戦、AIが優先される」「既存の契約も全て見直され内容が書き換えられる」と指摘しているのが興味深い。
陸軍長官は8ヶ月以内に全部隊への3Dプリンティング導入を要求しており、既存の契約を見直す最大の理由は「修理に関する自由裁量権」の獲得で、陸軍は企業と締結した契約によって「現場で対応可能な部品の修理や整備問題も全て製造元に依頼する」と義務付けられており、ドリスコル陸軍長官も「農家がトラクターを勝手に修理できなくて苦労しているが陸軍にも同じことが当てはまる」「修理に必要な部品を3Dプリントで安価に作成できると知っているし、そのための3Dプリントも持っているが、その権利を自ら放棄してしまった。私はもう同問題で民間企業に譲歩するつもりはない」と述べている。

出典:U.S. Army photo by Markus Rauchenberger
M10 Bookerが調達中止になる要因の1つにも「修理に関する自由裁量権」が挙げられ、ドリスコル陸軍長官は「修理権が制限されると請負企業の利益は増大するが、国防総省の負担額も上昇し、装備を修理して任務に備える必要がある兵士の待ち時間も長くなる」と指摘し、この問題の根本は買収上の悪習慣=ある請負企業がF-35のような開発プログラムを受注するとプログラム全体の所有できる点にあり、F-35プログラムを獲得したLockheed Martinは機体の重要なデータを所有する権利が認められているため「製造」「運用」「維持」「アップグレード」に関する作業を独占できてしまう。
他社が能力向上に画期的なアイデアを持ち込んできても、ベンチャー企業やスタートアップ企業が問題解決に役立ちそうな技術を提案してきても、競合企業の製造部門に余力あってもプログラム全体を所有する請負企業が技術的データの開示に同意しないと国防総省は何も出来ず、請負企業にデータ開示を強制する権利も有していない。

出典:U.S. Army photo by Cpl. David Poleski
要するに「契約の見直しによる修理権獲得」とは「請負企業がプログラム全体を独占する権利」を改める歴史的な第一歩で、この問題を長年訴え続けてきたウォーレン上院議員も修理権獲得への動きについて「何十億ドルもの資金を節約出来るようになる」「我々は現場で対応可能な修理に100倍の料金を支払っている」「修理するため本土に装備品を送り返して何ヶ月も時間を無駄にする時代は終わった」と歓迎し、海軍長官と軍事海上輸送司令官にも同様の措置を講じるよう求めている。
ハンヴィーやJLTVの調達中止についても様々な意見が出てきたが、契約済みのJLTV発注がどうなるのか、既存のハンヴィー(約2,000輌)とJLTV(約1,300輌)は維持されるのかなど不明な点が多く、米国が中国の脅威に対応するため欧州から太平洋に軸足を移す上で、ハンヴィーやJLTVは配備が始まった水陸両用車輌=ACVほど有用できないという意見もあり、この話がどのように着地するのかはまだ想像もつかない。
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※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force courtesy photo
メーカーとしては継続的な部品調達が見込めないなら車両自体の単価を上げる必要性が出てきそうですね。
もしくは防衛産業からの撤退か。
まぁ自前で何とかするならお好きにどうぞ、なんじゃないかな。単なる部品だろうが検品だったり強度試験なり行われて品質担保してるんだし。
それがお高いと言うなら自己責任でどうぞ、保証はしないで良いだろう。致命的な破壊を防ぐためにわざと弱く作っているとかあったりするだろうし、強化した結果が変な被害に繋がるとか有りそう。
より売り切りに近い契約になったとして
誰がどう手を付けたかわからん装備品の修理やアップグレードは
作業内容の見積もりが今より一層大変になるだろうな
本邦みたいに小規模な業者が多いとこだとそもそも入札案件に手をあげる事が難しくなる可能性あるなぁ
修理権、興味深いですね。
日本の公共事業でも、1円入札・低価格入札というのが有名であり、多額のサービス料で回収するやり方がありました。
アメリカ陸軍長官、サンクコストに言及しいたことが管理人様の記事で取り上げられていましたが、こういった仕組みにまで切り込むとはかなり改革派の方なのかもしれませんね。
(2021年1月28日 ミサイル追尾の調査研究…三菱電機が22円で落札 防衛相「安値だが、問題ない」 東京新聞)
(2021年3月22日 三菱電機がまた低価格落札 空自システムの研究事業に「77円」 東京新聞)
公正取引委員会のいう『私的独占』に当たらない以上、東京新聞の記事は問題提起にすらなりまへんな。
しかも問題提起したのが白真勲とか、そっちの方が邪悪な意図を感じる。
今まで現場での修理権がなかったって、いざ戦時になっても修理の為にメーカー送りにするつもりだったのだろうか?
普段現場で修理してないのにいざ戦時になったからと言っていきなり現場で修理できるノウハウも無いだろうし。
本当に大規模戦争なんてあり得ないって前提で全てが組み立てられてたんだなぁと思う次第です。
そうだよ?他国の軍も当然同じ、民間でも勝手に分解したら保証しないって条項あるでしょ?
あと勘違いしてるんだろうけど、修理権っていうのは設計図とかソフトウェアへのアクセスやマニュアルの改訂などであって、メーカーから貰ってるマニュアルの範囲では普通に修理できるから
湾岸戦争とかイラク戦争見てみれば「大規模戦争なんてあり得ない前提」こそあり得ないって簡単に分かるだろう
冷戦中に作られた兵器だって多数現役で活躍してるし
ロシアやウクライナがやってるようなケージの増設も契約上はできなかったんだろうなあ。
まあ実戦になったら無視してやっていたでしょうけど。
アメリカやカナダ、オーストラリアなど欧米では整備や輸送など兵站は民間企業任せというのは21世紀初頭からです。サウジアラビアは湾岸戦争の時にはそんな感じ。日本は遅れてる〜!
遅れてて良かった(真顔)
確かに、日本の周回遅れはよく知られています。
しかし、他山の石とはならず、他国が通った道を同じように辿っていることも知られています。
諦めてください。
民間企業の動員も出来ないのだが。
修理請負による利益も含めて研究開発のインセンティブになってたはずなので
それを奪い取ると事業として難しくなりそう
ようやく軍事請負企業との関係見直ししようとする動きが出てきたか。遅かったな。ダインコープの航空整備士の話とかホンマかいなと思うくらい酷かったし。
カナダ軍は20年前から整備と輸送をチベット&グリッテンに投げたらしいが、今はどうなってるんだか。
AMPVとJLTVの評価そんなに低かったのかな…自衛隊の73式やLAVの後継こいつらにならねえかなとか考えてた時期があったんだけども、どんな問題があったのかな
それとKC-46よ、最高はもう求めないから最低限まともに機能してくれ
AMPVは旧来兵器ブラッドレー装甲強化等の改良版で無難ではあるが方針転換で歩兵の装軌式タクシーはそんなに要らないなら調達停止じゃないの?M113更新用に数を揃えるけど取得単価が高いのランニングコストが高いのは問題かも、一応必要だとは思っているからライン維持の低率生産に移行する訳だし。
JLTVは既にある問題なのか簡易に使用出来るアシが欲しいのに低強度紛争用のサイズが大きい重装甲車両が居るのかはあるのかも、それこそ重量増に加え拡張性がないと酷評されたM10と同じ扱いかもしれない。改善されているかも知れないがランニングコストが高く信頼性も低い死角が多い。
”アホなこと”を言うようですが。
国(この場合は国営工廠?)がメーカーからライセンス権を
買っておけば、対策になるのかな?。
修理/改装を含む形で。
そう思うならまず自分で調べたらいかがか
ライセンス権は知的財産の利用許可であって、製品を維持・修理するための情報・部品へのアクセス保証をする修理権とは全くの別物だよ
あと軍にしろ民間にしろBtoBの製品は基本保守で儲ける構造だから、まあ全部自分でやるとなるとアホほど単価が上昇するでしょうね
なるほど、です。
過去の例ですが。一般的な話にはならないかもですが。
米国でM1カービン銃を量産した時の話です。
WIKIからの抜粋になりますが。
”ウィンチェスター社はM1カービンをロイヤリティフリーと
位置づけた上で各メーカーによる製造および契約を認め、
また同時にウィンチェスター社に対して開発費用として
$886,000がアメリカ政府から支払われた。
過剰生産や不足を避けるため、下請け業者による各部品製造
およびメーカーへの割当は、政府が設置した
カービン産業調整委員会によって指示された[4]。”とあります。
結果として。
”アメリカ国内ではウィンチェスターをはじめとする複数企業
によって生産が行われた。正確な記録は残されていないものの、
主要な10企業によって1942年6月から1945年8月までの期間に
少なくとも各モデル合わせて6,117,827丁が製造された[1]。”
とあります。
ライセンスの権利は大事でしょうが、必要に応じて、
”良い意味で”政府が介入する形で結果が得られるのではないか、
と想像します。
メーカーが部品をキープしなくなって、壊れたらお終いまでがワンセットですかね
Boeingとかいう聖域はかえって肥え太る訳ですね。その点ではバイデンの方がトランプよりマシでした。