米国関連

米空軍、B-52Hの新型エンジンにロールス・ロイス製「F130」を採用すると発表

米空軍は今月24日、76機のB-52Hが搭載するエンジン「TF33」を商用エンジンに換装するB-52 Commercial Engine Replacement Program(CERP)の勝者にロールス・ロイスが選ばれたと発表した。

参考:Rolls-Royce Wins B-52 Re-Engining Program Worth $2.6 Billion

F130に換装されたB-52Hは大幅に燃費性能が向上して航続距離が最大で40%増加、ミッションあたりの空中給油回数も削減

B-52Hのエンジンに採用されているP&W製のTF33-P-3は2030年までしかサポートが保証されていないため、これに代わる新型エンジンへの換装プログラム「B-52 Commercial Engine Replacement Program(B-52H Re-Engine Programmeとも呼ばれている)」を立ち上げGE、P&W、RRの3社が受注を競っていたが、米空軍はCERPの勝者にロールス・ロイスが提案した「BR700」ベースのミリタリーバージョン「F130」が選ばれたと発表した。

米空軍の説明によれば2038年9月までにB-52Hのエンジンを換装するため608基(スペアを含めると実際の供給量は650基になるらしい)のF130供給契約をロールス・ロイスと締結する予定で、全てのオプションが行使された場合この契約の価値は約26億ドル/約2,870億円に達すると説明、F130に換装されたB-52Hは大幅に燃費性能が向上して航続距離が最大で40%増加すると予想されており、長距離ミンションを行う際の空中給油回数も減るため逼迫している空中給油機の状況を改善することも期待されている。

出典:U.S. Air Force photo by Airman 1st Class Duncan C. Bevan

但し懸念すべき問題点も指摘されている。

現在運用されているB-52Hは1960年代に製造されたものなので機体自体にどのような問題が隠れているのか全く把握できておらず、個々の機体よって蓄積したダメージも差があるためエンジン換装を含む改修作業のコスト予想が難しく、米空軍はC-5のエンジン換装の際に同じ問題に直面している。

C-5のエンジンを換装する際、機体の一部を分解すると予想もしていなかった機体構造の腐食や配線の劣化等が見つかり追加コストが発生したため全てのC-5を改修するのが不可能になり、米空軍は初期型の一部を退役させなければならず、これと同じ問題にB-52Hも直面する可能性は0ではないはずだ。

出典:U.S. Air Force photo by Airman 1st Class Lillian Miller

CERPに参加していないものの新型エンジンを含むアップグレード作業を担当するボーイング(B-52の開発・製造企業)も「新型エンジンを従来の搭載方法(2基まとめて主翼下の4ヶ所に搭載)を維持した形で換装するかはまだ未定で最適な搭載方法を見つけるため綿密な空力計算を行う」と説明しているので、新型エンジンへの換装作業はTF33をF130に置き換えるだけという単純(異なるエンジンへの換装作業自体も簡単な話ではない)なものに収まらない可能性も、、、

因みにエンジン換装を終えたB-52Hは少なくとも2050年まで運用される予定なので、F130への換装作業で躓くことは絶対に許されないだろう。

関連記事:2050年まで飛行可能に! 米空軍、爆撃機「B-52H」エンジン換装プログラム始動

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force photo by Airman 1st Class Jessi Monte

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コメント

    • 匿名
    • 2021年 9月 25日

    B52の最終生産機の初飛行が1962年。
    C5の初号機は1968年。
    運用や保管状況にもよるけど、これで問題なかったら、オーパーツの領域。

    32
      • 匿名
      • 2021年 9月 28日

      仮にそうなったら現代のボーイングがさらに惨めになっちまうな

      1
    • 匿名
    • 2021年 9月 25日

    0ではないはず()

    • 匿名
    • 2021年 9月 25日

    100年飛ばすつもりなのか
    イナバ物置並みの耐久度だな

    10
      • 匿名
      • 2021年 9月 25日

      100年乗ってもダイジョーブ!ってかw

      18
      • 匿名
      • 2021年 9月 26日

      実際代々軍人のある家系では祖父、父、自分と三代に渡ってB-52のパイロットになっているところもあるとか

      3
    • 匿名
    • 2021年 9月 25日

    当時はアルミの疲労破壊のデータが少なくて余裕をもって設計されたせいでやたらと頑丈らしいのだが、当時の技術者もここまで使われるとは思ってなかったろう

    19
      • すえすえ
      • 2021年 9月 25日

      当時の設計者がすでに寿命を全うしている可能性高し。。。

      25
        • 匿名
        • 2021年 9月 25日

        全構造分かる人がいなくなるという深刻な問題が・・・

        14
          • 匿名
          • 2021年 9月 26日

          B-52にみずほ銀行化の危機か…

          8
    • 匿名
    • 2021年 9月 25日

    頑張れ、わしも精一杯生きる故

    10
      • 匿名
      • 2021年 9月 25日

      すまん、先に逝きそうだ。

      17
    • 匿名
    • 2021年 9月 25日

    まさか2021年になっても未だに飛んでいるとは当時の人達には予想もしてなかっただろうなあ・・・

    10
    • 匿名
    • 2021年 9月 25日

    完全新規設計の非ステルス爆撃機を開発する事は検討されていないのかな?

      • ゆう
      • 2021年 9月 26日

      爆撃機という機種が、金持ち軍隊(現状ではアメリカ・ロシア・中国)しかもてません。
      爆撃機は、爆撃機としてしか使えない。
      制空権を確保していない空域では、爆撃機を飛ばすことはできない。撃墜の確率が高いため。
      また、爆撃機が本当に必要なのか、という課題もある。マルチロール機、攻撃機で十分なのでは。
      多分、純粋な新型爆撃機は出てこないでしょう。
      あるとしたら、輸送機改造爆撃機と思います。

      2
    • 匿名
    • 2021年 9月 25日

    爆撃機の改修計画で人生を噛み締める人を初めて見たw
    かくゆう自分も枝主様の後に続けるよう今を精一杯生きようと思います。

    それにしてもARRWしかり将来登場するであろう空中発射型極超音速兵器の運用プラットフォームとしても優秀となると、ますます退役時期が見えてこなくなってきたね。ぶっちゃけ安全なところからぶっ放すわけだから下手にコストが上がるステルス性も必要なく100年どころか22世紀になっても何かしらの目的で飛んでそうで怖い

    7
    • 匿名
    • 2021年 9月 25日

    B-52Hは将来が保証されてボーンヤードから復活してる機(事故損失の穴埋めだけど)もあるというのに、
    B-1Bは早期退役で先日に45機まで減ってしまった…

    8
      • 匿名
      • 2021年 9月 26日

      無駄の多い古い設計のほうが強いというのがある、無駄とは余裕という意味でもあるから
      ロシアのTu95は現役、中国はTu16由来のH6を細々と作り続けてる
      無駄を無くした新型機のほうがキャパシティーが足りなくて先に退役という話は他にも聞いたしね

      7
        • 匿名
        • 2021年 9月 27日

        グリペンの初期型は無駄を徹底的に省いた結果、当初F-16よりコスパも運用能力も良い傑作機だったけど、拡張性がなかった結果4.5世代機にするのに苦労するはめになっていたからなぁ

        4
    • 匿名
    • 2021年 9月 25日

    あと30年って本気なんだから怖い。
    せめてベイルアウトできるようして!それか無人化しようよ!

      • 匿名
      • 2021年 9月 25日

      ベイルアウトは既に対応してる、乗員のうち2人は下に向けて射出されるけど…
      エンジンの換装はB-52Jへの改修計画の一部で、AESAレーダーへ換装、武器システム•アビオニクスの更新、完全なグラスコックピット、新たな電子戦•妨害装置などが未定だけど計画されてるよ。

      10
    • 匿名
    • 2021年 9月 25日

    今のB52のエンジン8発で777の一発分より少し上程度しかないんだっけか
    エンジン変えるだけでかなりの性能向上が期待できそうだが、費用に見合った効果は得られるのかしら

    5
    • 匿名
    • 2021年 9月 25日

    あの時代の航空機の進化は本当に早かった。
    XF-22とX-35が初飛行で10年差。
    B-29からB-52で同じ10年しか経ってないとは思えない。

    6
      • コメ主
      • 2021年 9月 25日

      訂正
      B-29→XB-29
      B-52→YB-52
      ごめん

      2
        • 匿名
        • 2021年 9月 26日

        今ならより高出力なエンジン搭載とエンジン数削減で速力向上とかも出来るだろうけど、そんな改造したら新規開発に等しい手間がかかるから、新エンジンとはいっても記事の通りで燃費向上がメインだね
        それでも最高で4割も航続距離伸びるのは、航続距離が命の爆撃機にはかなり大きな性能向上だけど

        3
    • 匿名
    • 2021年 9月 25日

    B-52もB-21で置き換える構想があるけれど、実際はどうなるんでしょうね
    搭載量が全然違うし、そこは無人機を使えばカバーできるって考え方なのか

    1
    • 匿名
    • 2021年 9月 25日

    CFM-56じゃダメなの?
    実績あるのに。

    3
      • 匿名
      • 2021年 9月 26日

      エンジンの数が変わると翼にかかる応力やら空力やらへの影響が出て面倒なことになるので同じサイズで同数のエンジンに換装するんだって。

      12
        • 匿名
        • 2021年 9月 26日

        でも

        >ボーイング(B-52の開発・製造企業)も「新型エンジンを従来の搭載方法(2基まとめて主翼下の4ヶ所に搭載)を維持した形で換装するかはまだ未定で最適な搭載方法を見つけるため綿密な空力計算を行う」と説明している

        んだよねぇ。
        翼への取り付け数・位置、「1箇所のエンジンの合成推力軸線」が変わらなければ、応力や空力への致命的な悪影響はそれほどなさそうに思うけど。
        4発化断念?には他の理由がありそう。

        3
          • 匿名
          • 2021年 9月 27日

          ファンの直径が大きくなるからねぇ。。。
          特に外側のエンジンで地上高の問題(着陸時とか)が起きそうですね。

          4
            • 匿名
            • 2021年 9月 28日

            CFM56やV2500辺りだと直径が+60cmだから推力軸線そのままだと地上クリアランスは-30cmだよね。
            まだ最適な搭載方法を見つける、とか言ってる段階でバッサリ切り捨てるほど致命的な要素とは思えないけど。

  1. そういえばデビスモンサンからレストアした機体がありましたよね。
    就役までに機体をどこまでチェックしたのか気になりますが、エンジンアップグレード前の検査と同じくらいにはやってるんでしょうか。

    2
    • 匿名
    • 2021年 9月 25日

    KC–135も寿命延長するし、E-3、E-8も寿命延長して100年飛ぼう。

    1
      • 匿名
      • 2021年 9月 26日

      B707の民間機が退役後サプライチェーンが消滅して部品調達が出来ないのにどうしろって言うのですかね …..B52みたいな生粋な軍用機とは違いますよ。

      2
    • 匿名
    • 2021年 9月 25日

    >>C-5のエンジンを換装する際、機体の一部を分解すると予想もしていなかった機体構造の腐食や配線の劣化等が見つかり追加コストが発生した

    そこは換装エンジンを選定する前にチェックしとけよ。

    1
      • 匿名
      • 2021年 9月 26日

      問題があることは分かっていても、問題を増やすことには誰でも
      および腰になるもの。見て見ぬふりは、どこにでもある問題。

      2
      • 匿名
      • 2021年 9月 26日

      分解して分かったと書いてあるだろうに

      8
        • 匿名
        • 2021年 9月 26日

        だからエンジン選定前に(出来れば一番ヤバそうなの)一〜二機バラしてチェックくらいしとけ、って話では?

        俺もそう思うし、アメリカでもそう思った奴は多いだろうから、さすがに今回はやったんじゃないのかね。

        3
          • 匿名
          • 2021年 9月 26日

          個体によって状態が違うので1~2機をばらしたところで意味がないです。
          そのばらした個体がたまたま状態がよかったやつだとしたら、それよりも悪いものが出てたら追加コストが掛かるのは同じですから。

          14
    • 匿名
    • 2021年 9月 26日

    ボーイングが改修して寿命を縮めるって事がありませんように。

    5
      • A
      • 2021年 9月 26日

      あのボーイングですからね~。

      2
    • 匿名
    • 2021年 9月 26日

    サポート保証がTF33-P-3は2030年までなのでF130に換装を決定というこどだが、2038年9月までにエンジン換装を終了するてことはサポート保証が無い状況で運用する機体があるてことですね。
    管理人さんの懸念通り経年劣化で補修が必要な機体も出てくるでしょうし、モスボール保管機からエンジン含めてパーツ取りでもするんでしょうか。
    いずれにしても2050年まで現有76機を現役運用する計画ありきなわけで、次世代作戦機の早急な開発が求められている中、レガシー装備の最たるものに思えるB-52の存在価値が将来的にも低下することはないという米空軍の判断には軽い驚きを覚えます。

    2
      • 匿名
      • 2021年 9月 26日

      予算上、B-21の開発中に平行して別の爆撃機を開発するわけにもいかないので、使える物は使うって考えなのかもしれません。

      3
    • 匿名
    • 2021年 9月 26日

    いっそ非ステルスの新爆撃機残しても良いのではない?B1もB2もそうだったが、結局B21でB52を全てカバーは出来ないだろう

      • 匿名
      • 2021年 9月 26日

      その非ステルスの新爆撃機を無人機として作ればいいのでは?
      とは思う
      戦闘機なりB-21なりに随伴させればどうだろうか

      1
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