米国関連

米空軍、日本採用のSPY-7と密接な関係にある新型レーダー「LRDR」の初期運用を開始

日本がイージス・システム搭載艦に採用する新型レーダー「SPY-7」と密接な関係にあるLRDR(長距離識別レーダー)の建設工事が完了、引き渡しを受けた米空軍は今月6日に初期運用開始を宣言した。

参考:U.S. Missile Defense Agency Announces the Initial Fielding of the LRDR in Alaska

ついにSPY-7の技術的オリジナルと言える存在のLRDRが完成、2023年の正式運用に向けてテストがスタート

目標に向けて大気圏外を飛行する大陸間弾道ミサイル(ICBM)を迎撃する地上配備型迎撃システム(GMD:Ground-based Midcourse Defense)向けにロッキード・マーティンが開発したLRDR(Long Range Discrimination Radar:長距離識別レーダー)は従来の早期警戒レーダーよりも優れた識別能力を備えているのが特徴で、日本のイージス・システム搭載艦(2隻)、スペインのボニファス級フリゲート(5隻)、カナダの次期フリゲート(15隻)が採用するSPY-7の基盤となる新型レーダーだ。

出典:U.S. Missile Defense Agency LRDRの完成イメージ

このLRDRはアラスカ州のクリアー空軍基地に建設され約1年遅れで米空軍に引き渡され今月6日に初期運用開始を宣言、能力の検証テストを経てGMDへの統合を2022年までに完了して「2023年から正式運用に入る」と米空軍は説明しているが、この遅れは新型コロナウイルスの影響で建設工事に遅れが生じたためでLRDR自体に問題がある訳ではないので米軍のプログラムの中では比較的順調(当初予定だと2019年中に完成する見込みだったので遅れていると言えば遅れているのが・・・)に進んでいる方かもしれない。

ミサイル防衛局の長官を務めるジョン・ヒル海軍中将は「LRDRによって米軍はICBMや極超音速ミサイルの脅威から米国を守ることが出来るようになる」と声明を発表しており、ロッキード・マーティンは「ICBMの検出や追尾に重点を置いて開発されたLRDRはソフトウェアのアップグレードを通じて極超音速兵器の検出や追尾機能を追加することができる」と説明しているのが興味深い点だ。

出典:©Boevayamashina / CC BY-SA 4.0

因みにLRDRの技術を基盤に開発されたSPY-7は既にイージス・システムへの統合を果たし陸上の試験施設で能力の検証テストが進んでおり、SPY-7を構成する4基のレーダーアレイは設計通り360度の半球エリアを監視できることが確認され、日本向けに開発されたSPY-7対応のイージス・システムJ7.Bはターゲットの捕捉、ミサイルの誘導、双方向の通信などSM-3BlockIIAを使用した弾道ミサイルとの交戦に欠かせない火器管制能力を発揮できることをテストで証明しており、ヒル中将曰く「SPY-7とベースラインJ7.Bの統合はコスト、スケジュール、パフォーマンスの全てで順調な推移を見せている」らしい。

つまりオリジナルのLRDRよりも先にSPY-7の能力検証テストが進んでいるという意味で、もう間もなく模擬弾道弾を使用した最終の追跡テストを行い日本に引き渡す(実際に艦艇に搭載して海上試験を行うのは日本が担当するのだろう)と言っている。

関連記事:米ミサイル防衛局、SPY-7とベースラインJ7.Bが弾道ミサイル防衛に対応できることを実証
関連記事:LRDR完成が新型コロナの影響で再び遅延、日本も採用の可能性が高い「SPY-7」に影響も?
関連記事:SPY-6やベースライン10を採用したアーレイ・バーク級駆逐艦、戦力化は最速でも2024年後半

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Missile Defense Agency LRDR

F-16を200機以上保有するエジプト、ラファールやSu-35を同時並行で導入する理由前のページ

7ヶ国目の原潜保有国に最も近いブラジル海軍、1番艦アルバロ・アルベルトの耐圧殻建造を承認次のページ

関連記事

  1. 米国関連

    米軍、複数の空対空ミサイルを運搬可能な空中発射型UAV「LongShot」開発を発表

    米国防総省内部の部局で軍事利用可能な最先端技術の開発を行っている国防高…

  2. 米国関連

    米当局、ロシア軍の攻撃でパトリオットシステムが損傷した可能性が高い

    ロシア国防省は16日「キーウ周辺に配備されていたパトリオットシステムを…

  3. 米国関連

    日本への影響は? 米空軍、空中給油機KC-46Aのフルレート生産を延期

    米空軍は8日、次期空中給油機「KC-46Aペガサス」のフルレート生産の…

  4. 米国関連

    バイデン大統領、クラスター砲弾提供は弾薬不足解消までの一時的な措置

    バイデン大統領は「この戦いは兵站の戦争なのにウクライナ人は弾薬を使い果…

  5. 米国関連

    来年の実戦配備に向けて準備を進める米空母フォード、不足する部品を2番艦から転用

    2022年の実戦配備に向けて準備が進むジェラルド・R・フォード級空母の…

  6. 米国関連

    墜落したF-35Cはルソン島の西海域、日本がサルベージ作業に関する航行警報を発表

    米海軍は南シナ海に墜落したF-35Cの位置や引き上げ作業について固く口…

コメント

    • 匿名
    • 2021年 12月 07日

    イージスシステム搭載艦の仕様策定は難航しているようだし、先に米軍の地上型に稼働してもらうことで日本の地上配備案再検討の筋道を作れませんかね…

    10
      • 匿名
      • 2021年 12月 07日

      苦情のでる陸上はあきらめて、石油備蓄基地みたいに海上のコンクリート施設に配備できないかなと
      海自の負担軽減という当初のお題目が飛んでしまってるし、そのくせ不足の人員増を進める様子もない 。
      やはり運用は陸自に任せる体制に
      もうどこに配備してもテロ攻撃や極超音速兵器の的にされるリスクは変わらないから、原点復帰で

      11
        • 匿名
        • 2021年 12月 07日

        自分も陸上型への原点回帰希望だけど、陸上なら勤務も楽なので
        多少高齢者でも良く、退役した元イージス艦乗りの再雇用って手も
        あるので、そこは柔軟にやって欲しい。
        それには、まずは陸上型を復活させる必要はあるけど・・・・

        33
          • 匿名
          • 2021年 12月 08日

          監視だけなら全国数百万のネット民にやらせればいいと思う。
          一瞬のパンチラや心霊現象を見逃さない彼らの眼はまさに

          5
      • 匿名
      • 2021年 12月 07日

      防衛省の役人が誠心誠意の謝罪と説明がない限り、自治体と住民は納得しないだろう。
      それとイージスアショアの配備を中止した政治家のメンツを潰す決定を役人はできないだろう。
      あとミサイル発射後に落ちてくる部品をどうするかも表明しなくてはいけない。(シューターとレーダーの分離を認める事ができるかが見どころ)

      14
        • 匿名
        • 2021年 12月 07日

        山口と秋田って、確か陸自基地内だったよね?
        もうミサイルだけは他から撃つようにするしかないんでわ?

          • 匿名
          • 2021年 12月 07日

          分離案は陸上のレーダーサイトから海上の発射機までの通信が妨害されるリスクを容認できなかったそうだ。

          秋田県の用地決定があまりに杜撰すぎた事と、住民説明会での間違った数値を提示した事、居眠りをして、現地住民と行政の反感を買ってしまった事から、用地買収の問題が無くとも民主制国家からして民意を無視できないだろう
          秋田県は新屋地区への配備についてキチンとした説明をすれば、配備に反対する事はないと県議会で言っていたと記憶している。

          15
            • 匿名
            • 2021年 12月 08日

            ミサイルは車載分散で、通信は電話線や携帯基地局を使う
            どや?

              • 匿名
              • 2021年 12月 08日

              電話網なんて有事の際、最も混乱するインフラだろ。引くなら専用回線だ
              車両から発射も日本では住宅街が無駄に過密すぎて、自衛隊基地からの発射も出来ないだろう。
              そもそも陸上からのミサイル発射を諦めた理由に、迎撃ミサイルのブースターが市街地に落ちてくるというものがあり、切り離したブースターの落下制御をするためには2000億円と10年の期間が必要と言われ、2000億円はともかく10年という期間は許容できないという結論と、日本以外でブースターの落下制御なんて物は需要がないで終結したんだが。

              4
        • 匿名
        • 2021年 12月 08日

        そもそも住民の総意なんて得られる筈もない、説得して総意を得よう
        得なきゃダメって考え方が間違いだ
        反対意見を切り捨てが出来ないから何をやるんでも先に進められない
        国家の安全保障に関わる部分は民意など無視して聖域化しても良いのだ
        この国では行政が弱いと言うか、政治家が票を気にして、国の重大事に
        かかわる事への決断力が無さすぎるのだ。

        8
      • QQ
      • 2021年 12月 07日

      地上に作ると土地を買うだけでなく道や上下水道、基地化も必要。
      海上に作るか船に積んだ方が楽だと思う。

      2
        • 匿名
        • 2021年 12月 07日

        海自が人手不足だからアショアの話がでたのよん、そういう問題が出ることは承知の上で。

        28
        • 匿名
        • 2021年 12月 07日

        けど設備寿命やメンテナンス性、補給、重量問題、コスパなどは圧倒的に陸上のほうが高いからね

        11
        • 匿名
        • 2021年 12月 07日

        地上の方が遥かに省力化できる

        13
        • 匿名
        • 2021年 12月 07日

        道や上下水道などのインフラは一度作ればメンテナンスフリー(便宜上)だから連続稼働できるのが強み
        海は塩害対策とか補給で定期的に帰投する必要があり、その間はレーダーオフにする必要があるから連続稼働できないのが弱み

        11
    • 匿名
    • 2021年 12月 07日

    SPY-7は米海軍が採用してくれなければ未来がない。 もともと計画通りに地上設置を再推進し、艦船搭載用レーダーはSPY-6を購入しなければならない。

      • 匿名
      • 2021年 12月 07日

      いまだにおかしな事言う人もいるもんだな
      イージスシステムというソフトウェアは同じである以上、未来が明るい暗いなんて論ずる意味がない
      どうせSPY-6はアップグレード出来るけどSPY-7はアップグレードできないとかそういう認識なんしょ?
      レーダーというハードは違うが、戦闘システムというソフトは同じ、言ってる意味分かるかね

      28
      • 匿名
      • 2021年 12月 07日

      こう言う人ってカナダの次期フリゲイト、ボニファス級は無視だよね

      22
        • 匿名
        • 2021年 12月 07日

        日本のイージスシステム搭載艦を除いても20隻もの船に使われるシステム一式だもんねぇ
        これで本当に未来ないってなったら次回以降スペインとカナダがブチ切れて別のシステムに行くリスクだってあるのにね

        17
    • 匿名
    • 2021年 12月 07日

    もう日本の地上イージス計画はSM-3の運用を諦めて
    単なる早期警戒レーダーとしてSPY7を導入すりゃ良いんじゃね
    そうすりゃ米からお金貰ってると思しき内局の人のメンツも保てるでしょ

    6
    • 匿名
    • 2021年 12月 07日

    まじでイージスシステム搭載艦の仕様はどうなるんだろうか、自分は安牌きってミサイル重巡だと思う

    4
      • 匿名
      • 2021年 12月 07日

      個人的にはキエフ級みたいに巡洋艦兼軽空母でF-35Bや無人機運用出来るのが来て欲しいです。

        • 匿名
        • 2021年 12月 08日

        その場合問題となるのがミサイルを格納するぶんの重量増と艦内スペースの確保が出てきそう。
        任務も異なった分野とエリアになるだろうからどっちかに集約した方が良さそうな感じはする。

        3
          • 匿名
          • 2021年 12月 08日

          これを見て兼任出来るかな?と思ったのですが、人員不足も有るみたいですし、いずも型とコンビ組んで運用すれば面白そうという素人考えですけど。
          リンク

    • 匿名
    • 2021年 12月 07日

    カナダ15隻・・・
    何気に凄い

    14
    • 匿名
    • 2021年 12月 07日

    富士山測候所跡に設置したらダメかな?
    逆にルックダウン能力が要るかな。

      • 匿名
      • 2021年 12月 07日

      用地が狭すぎるのと、富士山頂周辺を民間人立ち入り禁止にしなくてはいけない。
      そして山梨県と静岡県の県境に位置しているので絶対にめんどくさい事になる(特に静岡)。

      あと夏季の通勤はともかく、冬季の通勤は苛烈を極めるだろう。冬は場所によって比喩でなく人が飛ぶ風が吹くらしいし。
      宿舎に隊員を泊めるにしても、半年という期間は航海に出るの変わらない負担。

      10
    • 匿名
    • 2021年 12月 07日

    もう地上に置くなら分散型レーダーシステムの配備を急いだ方がいいだろ
    現時点ではアショアでHGVの広域防空は無理だし

    3
    • 匿名
    • 2021年 12月 07日

    ガメラレーダーが1基当たり約180億円
    安いのか高いのか

    • 匿名
    • 2021年 12月 08日

    中国やロシアの超音触手誘導弾とやらが出てきたので
    地上設置よりは海上移動できるレーダーのほうが便利だと思うが
    あまり実績のない産道艦に配備するのはちょっと怖いな。

      • 匿名
      • 2021年 12月 08日

      ツッコミ待ち?

      6
        • 匿名
        • 2021年 12月 08日

        面倒なのでそっとしておきましょう…

        5
      • 匿名
      • 2021年 12月 08日

      「触手」「産道」ねえ…
      普段検索しているジャンルが丸分かりだけど、触手好きに免じて見逃してやろう。

      1
    • 匿名
    • 2021年 12月 08日

    最終的にはミサイルを国産化して、JADGEにBMD能力を持たせないといけないなあ

    • 匿名
    • 2021年 12月 08日

    SLBMなら太平洋側からも飛んでくる。ブースター落下被害を避けるなら洋上。
    もしくは固定or移動式シューターの東西沿岸配置。リンクが問題かな

  1. この記事へのトラックバックはありません。

  1. 米国関連

    F-35の設計は根本的に冷却要件を見誤り、エンジン寿命に問題を抱えている
  2. 欧州関連

    アルメニア首相、ナゴルノ・カラバフはアゼル領と認識しながら口を噤んだ
  3. 中東アフリカ関連

    アラブ首長国連邦のEDGE、IDEX2023で無人戦闘機「Jeniah」を披露
  4. 米国関連

    米海軍の2023年調達コスト、MQ-25Aは1.7億ドル、アーレイ・バーク級は1…
  5. 日本関連

    防衛装備庁、日英が共同で進めていた新型空対空ミサイルの研究終了を発表
PAGE TOP