米国関連

米空軍のCCA優遇、支出ガイドラインを逸脱する予算の組み替えを検討中

Breaking Defenseは14日「国防総省は支出ガイドラインを逸脱してでもセンチネル開発資金から10億ドル以上の資金を削減し、F-47向けエンジン開発からも資金を捻出し、CCA開発資金を増額したと考えている」と報じ、空軍は「この変更は当初予算から優先順位が変わったことに原因がある」と述べた。

参考:Pentagon considers big shifts for Sentinel ICBM, drone wingmen in FY25, draft documents say

次世代エンジン開発からも資金をCCA開発に回しているため「支出ガイドラインを逸脱したCCA優遇」は顕著

米国の2025会計年度は2024年10月1日に始まっているものの、バイデン政権時代に策定された2025年度予算案は成立しておらず、3月に2025会計年度全体をカバーする繋ぎ予算=CRを議会が可決したため、現在の連邦政府機関は通常予算ではなく繋ぎ予算で運営されており、歳出委員会が定めたCRの支出ガイドラインは新型ICBM=センチネル開発に約32億ドル、CCA開発に4.8億ドルを配分していたが、国防総省は定められたガイドラインを逸脱して割り当て資金の組み換え検討している。

出典:General David Allvin

国防総省が通常の予算編成を通じて割り当てられた資金を「目的外のプログラム」に移動させるには議会の承認を必要とするが、3月に可決されたCRは「割り当て資金を議会承認なしで自由に移動させる権限」を与えているため、Breaking Defenseは「この奇妙な仕組みを使用して国防総省は割り当て資金の組み換え検討している」「4月18日付の草案によればセンチネル開発に割り当てられた資金を20億ドルに削減し、機密プログラムに約9.6億ドル、VC-25B開発に1.4億ドル、CCA開発に7,870万ドルに再分配し、次世代エンジン開発を含む7つのプログラムからも資金を削減してCCA開発の資金を約7.1億ドルまで増やそうとしている」と報じた。

空軍の報道官はBreaking Defenseの取材に「今回の変更は当初予算から優先順位が変わったことに原因がある」と述べ、Breaking Defenseも「大幅な予算超過に直面しているセンチネル開発は新たに『ミニットマンIIIのサイロを再利用できない問題』に直面しているが、CCA開発は大きな進展を見せ、イーロン・マスクのような熱心なドローン支持者の影響力も大きくなっている」と指摘、共和党議員も「CRは現実に即した資金運用の権限を軍に与えている」と認めたが、民主党議員は「支出ガイドラインを大きく逸脱することは許されない」「それが必要なら議会と話し合う必要がある」と述べて資金の組み替えを批判している。

出典:U.S. Air Force

米空軍はF-47向けの次世代エンジン開発からも資金をCCA開発に回しているため「支出ガイドラインを逸脱したCCA優遇」は顕著で、一方のセンチネル開発は当初「777億ドルの予算で2030年代に実戦配備する」と喧伝していたものの、開発コストは81%増の1,410億ドルまで膨れ上がり、空軍はセンチネルと1対1で交換予定だったミニットマンIII(約400発)についても「2050年まで運用する必要があるかもしれない」と述べているため「センチネル実用化が大幅に遅れる」と懸念され、再利用するはずだった既存のサイロの再利用も出来ないと判明したため開発コストやライフサイクルコストが更に増加するかもしれない。

Defense Newsはセンチネル開発について「これはアイゼンハワー時代の州間高速道路建設を凌駕する規模になるかもしれない」「センチネルを開発しながらミニットマンIIIの即応性を維持し、ICBMの運用体制をアナログからデジタルのC&Cに移行するのは本当に大変だ」「これほど大規模で複雑な作業をこれまでやったことがない」と指摘しており、もはや計画が巨大すぎて誰もコントロール出来ていない可能性さえある。

出典:U.S. Air Force

因みに50年間の運用が想定されているセンチネルのライフサイクルコストは当初2,640億ドル(核弾頭部分の開発・維持はエネルギー省の予算でカバーされるため含まれていない)と見積もられていたが、高騰した開発コストを反映した新しい見積もりは発表されておらず、3,000億ドル=43兆円を突破するのではないかとも噂されている。

関連記事:F-47の作戦半径は第5世代機のほぼ2倍、CCAの作戦半径もF-35A超え
関連記事:米空軍が開発を進める無人戦闘機の実機を公開、今年後半に初飛行を予定
関連記事:米空軍、調達予定の無人戦闘機をYFQ-42AとYFQ-44Aに指定
関連記事:F-47の特徴、上向きの独特な角度で取り付けられたカナード翼と主翼
関連記事:米空軍の次世代戦闘機はF-47、開発契約はボーイングが受注
関連記事:米軍のICBMは有事の作動を保証できるのか? ミニットマンIII試射に失敗
関連記事:国防予算削減なら「核の3本柱」維持は無理? 米国でICBM廃止の可能性が浮上

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force

トランプ大統領がBoeing救済に成功、カタールが2,000億ドル以上の発注を約束前のページ

米陸軍副参謀長、いま改革を実行しなければ痛みはもっと大きくなる次のページ

関連記事

  1. 米国関連

    F-35のエンジンで問題が発生する理由、デポが整う前にオーバーホール需要が発生したため

    現行のF135が抱えるメンテナンス作業の遅延問題についてP&Wは「F-…

  2. 米国関連

    成層圏の要塞が「飛行機の墓場」からカムバック!保管中のB-52が現役復帰

    米空軍は、失われたB-52の代わりを探してきたが、遂にその代わりとなる…

  3. 米国関連

    米国防総省、ウクライナ軍の防空能力は米国が予想していたよりも質が高い

    米メディアのCNNは26日、国防総省の話を引用して「ロシアはウクライナ…

  4. 米国関連

    米陸軍がトマホークを取得、MK.41を流用したロングレンジウェポンの実用化

    米海軍は巡航ミサイル「トマホーク BlockV」を154発調達するため…

  5. 米国関連

    再利用可能な徘徊型迎撃弾、米軍がRoadrunner-Mの調達を開始

    米陸軍は無人機攻撃の脅威に対処するため昨年12月「RTXのCoyote…

  6. 米国関連

    米国、ウクライナ製レーダーで作動するパトリオットシステムを提供予定

    ニューヨーク・タイムズ紙は28日、FrankenSAMの組み合わせにつ…

コメント

  • コメント (7)

  • トラックバックは利用できません。

    • ゴモラ
    • 2025年 5月 15日

    そもそもこれだけ圧倒的な予算をかけていても、それに見合うだけの圧倒的な性能では無いわけだ。他国よりも遥かに、高い金額をかけたが性能は他国の物より優位性を保てる位。明らかにコストに見合ってない。

    7
    • イーロンマスク
    • 2025年 5月 15日

    そもそも国防予算が足りてないんだよな
    GDP比率で3ー4%しかない

    1
    • kitty
    • 2025年 5月 15日

    センチネルミサイルになんの問題があるんだろうと検索したら

    「ミニットマンIIIのサイロを再利用できない問題」

    は単に建造後55年以上経過したサイロの耐久性には問題があるから使えないという、ごく単純な当たり前の話でした。
    別にセンチネルミサイルになろうがミニットマンIIIのままだろうが、問題は存在し続けるという話。

    14
      • daishi
      • 2025年 5月 15日

      もしミゼットマンが計画中止にならず、ミニットマンIIIの後継になってたらセンチネルのアップデートを先送りにできた可能性もありますが、当時の核軍縮の流れでは「開発途中で信頼に足りなりミゼットマン」より「きっちり動くミニットマンIII」の方が優先されたのは痛かったですね。
      ICBMは「国の存亡をかけた戦略核兵器システム」として構築が必要なだけに大きな開発空白期間ができるとご指摘の通りミサイルインフラや制御システムコストが大きく上昇するのは当然のことだと思います。

      1
    • 花神無為
    • 2025年 5月 15日

    トライデントもそうですが、米が半世紀近い古さの戦略弾道弾しか運用していない事に恐怖を感じる
    80年代メリケン品質で何%無事に稼働するのやら

    8
      • kitty
      • 2025年 5月 15日

      いや、今の米国の核攻撃反撃能力は、トライデントIIが主役だと思いますよ。せいぜい30年。

      2
      • ななしさん
      • 2025年 5月 15日

      むしろそれだけ兵器の信頼性や拡張性が優れていたということではないでしょうか
      今はとにかく何でも求め過ぎて結局何も完成させられない病に掛かってるのでは…

      1
  1. 北米/南米関連

    カナダ海軍は最大12隻の新型潜水艦を調達したい、乗組員はどうするの?
  2. 中東アフリカ関連

    アラブ首長国連邦のEDGE、IDEX2023で無人戦闘機「Jeniah」を披露
  3. インド太平洋関連

    米英豪が豪州の原潜取得に関する合意を発表、米戦闘システムを採用するAUKUS級を…
  4. 中国関連

    中国、量産中の052DL型駆逐艦が進水間近、055型駆逐艦7番艦が初期作戦能力を…
  5. 日本関連

    防衛装備庁、日英が共同で進めていた新型空対空ミサイルの研究終了を発表
PAGE TOP