米国関連

米空軍がF-35Aの調達を大幅削減、2026年度の要求数はたったの24機

米空軍のF-35A調達ペースは計画値に達しておらず、何年も前から「完全なBlock4が登場するまで調達数を削減する」と説明して調達ペースを更に絞ってきたが、米空軍は2026年度要求予算の中でF-35Aを24機しか要求しておらず、2025年予算と比較して調達要求が半減してしまった。

参考:Pentagon Slashes in Half Its Request for Air Force F-35s

もう米空軍は「F-35A以外の手段による航空戦力の増強に目を向けている」と思った方が良いのかもしれない

2期目のトランプ政権にとって初めての国防予算編成は大波乱を巻き起こしており、誰も見たことがない1兆ドルの国防予算の蓋を開けてみれば裁量的予算=通常の国防予算要求額はバイデン政権時代の支出水準(約8,930億ドル)と遜色がなく、インフレ率の上昇分も加味されていないため「実質的な予算削減」と言われており、1兆ドルを達成するための義務的予算=共和党主導のBig Beautiful Billに盛り込ま割れた1,500億ドルの追加国防支出は両院で可決されたものの、上院バージョーンと下院バージョーンでは資金配分が異なり、前者が採用されると海軍の艦艇調達資金は大幅に削減されてしまう。

出典:U.S. Air Force photo by William R. Lewis

下院歳出委員会も国防総省が要求予算を完全に完成させていない段階で独自の予算案を発表、トランプ大統領も国防総省に相談なくF-15EXの配備基地を増やして混乱を引き起こしており、ヘグセス国防長官の指示で陸軍が進めている戦力構造の大改革も防衛産業界を凍りつかせ、海軍が進めてたF/A-XXも「政権のF-47優先方針」の影響を受けて「F/A-XX開発に割り当てられるはずだった資金がF-47開発に転用され本格開発が先送りされる可能性」が浮上し、ヘグセス国防長官はE-7調達に否定的で「宇宙ベースの能力に投資したい」と主張しているが、さらなるショックがやって来た。

米空軍はF-35A調達について「1,763機購入する」と約束しているものの調達ペースは計画値に達しておらず、何年も前から「完全なBlock4が登場するまで調達数を削減する」と説明し、F-35Aの調達ペースを更に絞っていたが、今週議会に提出した要求予算案の中で24機のF-35Aを要求しており、2025年予算と比較して調達要求が半減(空軍は42機分の資金を要求→議会は48機分の資金を承認)している。

出典:U.S. Air Force photo by Staff Sgt. Zachary Rufus

Bloombergも「ヘグセス国防長官は今後5年間で国防予算を8%削減しろと国防総省に命じたが、メキシコ国境での作戦、核兵器、ミサイル防衛、CCA、原潜、自爆型無人機など17分野は削減対象外に指定し、F-35を含む有人戦闘機は削減対象外に含まれていなかった。今回のF-35A調達縮小は空軍が国防長官の命令を遵守するため計画を見直していることを強く示唆し、このプログラムにおける最大の顧客=米空軍の調達削減はLockheed Martinにとって大きな打撃になるだろう」と報じた。

上院軍事委員会も5月の公聴会で「追加資金を与えればF-16 Block80で戦闘機戦力を強化できるか」と質問し、アルヴィン参謀総長は「現時点でBlock70/72を購入するつもりはないが、次の10年を見据えるとレガシーな航空戦力を更新するための調達オプションは限られている。Block80への変更に必要な事項を確認して報告する」「産業基盤がBlock80に対して何ができるのか真剣に検討しなければならない」「なぜならBlock70/72の生産能力はFMSの需要で食い潰されているからだ」と述べており、さらにCCAの登場で「将来の航空戦の形」も不透明になっている。

出典:U.S. Air Force

そもそもBlock4の開発は「いつ完成するのか誰にも分からない」と皮肉られるほど遅れている上、長年要求している運用コストの削減(1機あたり年780万ドルから年410万ドルまでの削減 )もままならず、F-35Aを調達すればするほど空軍予算に占める運用維持費用の割合が増え、当初計画されていた調達ペースで2036年を迎えるとF-35Aの年間運用コストは93億ドル(計画よりも44億ドル増)となり、研究開発や調達に回す資金が減るため、もう米空軍は「F-35A以外の手段による航空戦力の増強に目を向けている」と思った方が良いのかもしれない。

因みに24機という数字は要求予算案のもので、議会での審議過程でLockheed Martinを支持する議員が「24機以上の調達」を要求するかもしれないが、その場合はトレードオフとして他の要素の資金が削られることになり、どのバランスで着地するかは予算案が大統領執務室に届けられるまで不明だ。

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※アイキャッチ画像の出典:Lockheed Martin

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コメント

  • コメント (20)

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    • もり
    • 2025年 6月 11日

    まさかF-35が世界的にこんな扱いになるなんて5年前からは想像も出来なかったね
    当時はF-16の後継的歴史的傑作機!な評価だったのに

    47
      • monolith
      • 2025年 6月 11日

      >F-16の後継的歴史的傑作機
      なんて言ってたのはロッキードと米空軍と…空自くらいでは?
      日本のミリタリー雑誌でも比較的早い段階からアップデートが進まず本領発揮できない状態が続く先行き不安を指摘していました
      ALISシステムの問題に端を発した稼働率の低さも一向に改善されませんし、根本的に欠陥のある見通しの甘い設計が、シリーズ全体の導入数削減が続く背景にあるのではないでしょうか
      最終的に他国に買わせまくって生産数は多かったから傑作機、という話にもならないでしょうし…

      14
    • 納豆兵
    • 2025年 6月 11日

    あの米軍が兵器を調達出来ないとか相当だな…。
    やっぱ経済が思った以上に悪かったのか?

    8
      • AH-X
      • 2025年 6月 11日

      予算削減の影響はあるでしょうけどF-35に関する限り今調達して後からブロック4へのアップグレードで金取られるより完成してから買うって方向ではないですかね。

      41
      • 朴秀
      • 2025年 6月 11日

      急いで未完成の機体を買っても役に立ちませんからね
      ロッキードのケツ叩いて完成した物を揃えた方がいいのは分かります

      12
    • そら
    • 2025年 6月 11日

    逆にblock4がどれだけ高性能なのか気になるから、何としても中断せず開発を完了させて欲しいな
    現状のF-35Aだって第4世代機と比べても高性能なはずなのに、それを遥かに上回るって事だもんな

    22
    • DEEPBLUE
    • 2025年 6月 11日

    日本が今回もババ引いたかこりゃ。これくらいやらないとLMはたかをくくってるから荒療治は必要か。

    16
    • PAC3
    • 2025年 6月 11日

    B型C型もどうなるやら…

    2
      • DEEPBLUE
      • 2025年 6月 11日

      B型だけは必要。後はなくなってもいい

      14
    • たむごん
    • 2025年 6月 11日

    力の空白を生みかねないので、現実的な判断ですね。

    安全保障という最上位の概念なのに、納期・品質を担保できないレベルですから、見限られても仕方ないでしょう。

    13
    • tameike
    • 2025年 6月 11日

    「F-35」の文字でこの製品全体が下降線みたいに見られがちですが、
    結局block4を調達するのが現実。

    米国の軍事産業とそれ以外の国の間にはそれくらい差がある。
    ただ唯一中国だけは、アメリカのライバルたる地位を確立しつつありますね。

    軍事産業はブラックボックスで本当のところはわからないにせよ、それ以外の精密機械や半導体生産を見ると技術力とポテンシャルが凄まじい。
    そして調達数もそれなりに確保できる国の規模もまたポジティブに作用。

    13
    • 名無し
    • 2025年 6月 11日

    コロンビア級は1-2年の遅延、センチネルもサイロの老朽化でコスト増で、いずれも5年で戦力化目指してるし
    ニミッツも初期組がそろそろ二回目の燃料棒を更新か廃止かを考える時期なのにGRF3番艦がようやく完成かって状況でしょ?

    とにかく核兵器だけは使える状態にしておかないとならないんだから、新機体に切り替えるとか関係なく通常兵器に予算使ってる場合ではないっていうか…

    6
    • 58式素人
    • 2025年 6月 11日

    以前にどこかの記事(場所忘失)で、ロッキードマーティンは、
    日本にF-22+F-35の共同?開発を申し出た、と聞いたことがありますが、
    ある意味”判っていた”のかな。疑いたくなります。
    今のF-35は既存技術で使える内容にグレードダウンするのかな?。
    例えば、”F”の名前を取り下げて、”A”を名乗るとか?。
    ホントにそうなるならば、きっと複座型も必要に思えますが。
    近い将来に技術が進めば、元に戻る形で。
    例えが悪いかもですが、P-51戦闘機は、RRマーリンエンジンに
    換装するまでは、凡作と言われていたし。

    5
    • daishi
    • 2025年 6月 11日

    > トランプ大統領も国防総省に相談なくF-15EXの配備基地を増やし

    いくら文民統制・一刻の最高指揮権を持つとはいえ、あまりに自分勝手すぎますね。
    全てが自分の思う通りに動かない以上、プロの助言は必須です。
    もちろん、プロが見過ごしたことを指摘することもあるでしょうが、国家元首がマイクロマネジメントしてヒトラーみたいなことにならなければ良いのですが

    6
      • 匿名
      • 2025年 6月 11日

      悪い意味合いでの「ミリヲタ」な石破も、調子に乗って何かヤラかしそうで怖い…

      7
    • kitty
    • 2025年 6月 11日

    Block4がとても遅れているのは、十分、分かったのですが、「Tech Refresh3を適用したBlock3F」はどれだけ出荷されているのでしょうか。
    コスト増がTR3のせいだという言説もちらほら見かけるのですが。

    5
      • NHG
      • 2025年 6月 12日

      米軍が受け取り拒否したため在庫が積みあがってるという話はあったような
      先日も米軍が24機しか買わないという記事あったし、なんで検証が済んでないHWに移行しちゃったんだか

      2
      • 名無し
      • 2025年 6月 12日

      チップが別物でOSみたいなハードウェアとの橋渡しがない場合ほぼ作り直しになるのでそりゃTR3のせいでコストが高いのは当然というか
      受け取り拒否の契機になった話というのも、そのへんのテストに時間かかるからモノを納品して後からアップデート対応させてってだけだし

        • 匿名希望係
        • 2025年 6月 12日

        一応ugは直系cpuでコードの修正いらないやつだったような

    • あうあうあー
    • 2025年 6月 13日

    さしあたって安定稼働版のBlock 3Fをベースに兵器統合を進めていく方がいいのでは
    いつ終わるかわからないBlock 4なんて待ってられないでしょう

    いや、アメリカは待てるのかもしれませんけども

    F-35、「最新β版」「安定稼働版」「さらに安定稼働+省電力版(エンジン長持ち、支援的任務)」の3種類にわけて運用する方がよかったりしませんかね。

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