ミッチェル航空宇宙研究所は「大規模な投資がなければ空軍の老朽化した戦闘機戦力が破綻する」と警告していたが、Defense Newsに寄稿した中でも「空軍再建の鍵はタイムリーな資金供給にかかっている」「これが何十年も欠如していたため近代化と即応性の危機に直面しているのだ」と訴えた。
参考:Did the Trump administration move too quickly to commit to the F-47?
参考:It’s time to fully fund the Air Force’s collaborative combat aircraft
米軍全体の資金に根ざした問題が1兆ドルの国防予算で解決するかどうかは微妙
ミッチェル航空宇宙研究所は2023年6月に発表したレポート(Accelerating 5th Generation Airpower)の中で「現在の戦闘機戦力は老朽化(A-10、F-15C/D、F-16C/D、F-15Eの平均機齢は41年、38年、32年、30年)が進んでいる」と指摘し、大規模な投資がなければ空軍の老朽化した戦闘機戦力が破綻すると警告したことがある。

出典:Mitchell Institute for Aerospace Studies
“冷戦終結後の予算削減で空軍は戦闘機の在庫を4,556機から2,176機に減らし、不足する能力を戦闘効率が高い第5世代戦闘機でカバーしようとしたが、F-22の調達数は750機から187機に削減され、F-35の調達ペースも予定していた水準を大幅に下回る。新造機の調達ペースが急減したため戦闘機戦力に押し寄せるニーズは既存機をより早いペースで消耗させたが、この問題を解決する資金を空軍は持っていない。過去31年間に陸軍は空軍よりも1兆3,000億ドル、海軍は9,000億ドルも多く予算を受けて取っており、この不均衡を是正すべきだ”
“老朽化した機体を処分して「次期戦闘機の開発費用や新機材の調達費用を捻出する」というアプローチは在庫が最も潤沢だった頃に上手く機能したが、現在の在庫規模では殆ど意味がない。持続可能な20年のリフレッシュレートを達成するには最低でも戦闘機を毎年109機(2024年は72機)購入する必要があり、そうすれば長期的な運用・維持コストを抑制できる”

出典:Lockheed Martin
このレポートを執筆したジョセフ・グアステラ元空軍中将は「戦闘機の多くが計画された耐用年数を過ぎている。機体が古くなればなるほど必要な整備と部品交換が増加し、その影響でパイロットの飛行時間が減少する。中国空軍のパイロットは米空軍のパイロットよりも飛行時間が長く、この差が実戦で違いを作り出す」「この深刻さを国民に理解させるには大きな戦争で負ける必要があるのかもしれない」と述べたが、空軍を取り巻く状況は悪化するばかりだ。
前政権のケンドール元空軍長官はDefense&Aerospace Reportのポッドキャストに登場し「NGAD=F-47プログラムを一時的停止したのは純粋な資金不足、CCA登場によるステルスを活かしたスタンドインへの疑問、機会費用に関する問題が関係しており、数ヶ月間に渡る見直しで『NGADへの投資こそが最も低リスクで制空権を確保する重要な要素になる』と判明したものの、この非常に高価なプログラムを進めれば他のプログラムを阻害する恐れがあり、実質的にNGADは対宇宙能力と基地防衛改善への投資とトレードオフの関係にある」と指摘。

出典:U.S. Air Force
Defense Newsに寄稿した中でも「議会はトランプ政権が発表したF-47について厳しく追求しなければならない。我が国の防衛戦略にとってF-47は適切な航空機なのか? 調達コストは手頃なのか? より優先順位が高いものに取って代わるものなのか? 私が空軍省を去るまでNGAD開発に関する決定を差し伸ばしにしたのは、こうした疑問について明確な答えを見つけられなかったからだ」「空軍省は資金供給が始まっていない『戦略的優先事項リスト』をもっており、その最上位はNGADではなく対宇宙兵器と空軍基地防衛だった」「どちらも空軍の直接的な責任範囲ではないもの統合軍全体の成功にとっては不可欠だ」と訴えた。
ケンドール元空軍長官は「トランプ政権は私が空軍省を去るまで見つけられなかった答えを持っているのか?」「トランプ政権の防衛戦略をF-47がどのように支えるのか説明する必要がある」「トランプ政権は手頃な価格でF-47を実現でき、より優先度の高いニーズを犠牲しないと示す必要がある」と主張し、ミッチェル航空宇宙研究所もDefense Newsに寄稿した中でも「CCAに十分な資金を供給すべきだ」と訴えている。

出典:General David Allvin
“国防総省は2026年度予算策定にあたり、空軍の近代化を最優先に考えるべきだ。30年に渡る慢性的な資金不足と押し寄せるニーズで航空機は著しく消耗し、空軍の能力と容量は危険レベルにまで低下している。もはや体制を立て直す機会は過ぎ去っており、敵を抑止し、必要に応じて敵を破壊するにはその両方の能力を遂行できる十分な戦力が必要だ。CCAは強化された作戦能力に力をもたらし、大規模に展開でき、新たな脅威に適応して進化できる能力を備えてているため、この戦力構成の重要な一部になるだろう。但し、この方向性を実現するのは資金の投資が不可欠だ”
“冷戦終結による予算削減の影響で空軍の航空機数は大幅に減少している。アルヴィン参謀総長が指摘したように空軍機は歴史上最も少なく大部分が老朽化し、2024年時点で62%という歴史的低水準な即応性も状況を悪化させている。さらにB-2、F-22、F-35といった現代戦に不可欠な能力を削減したことが事態を困難にさせている。空軍はB-2を要求された120機ではなく21機しか取得せず、F-22も750機から187機に削減され、F-35の調達率は計画値に達していない。本当なら2020年までにF-35を800機の取得するはずだったのに272機の取得に留まった”

出典:U.S. Air Force photo by Capt. Christopher Carranza
“現在もF-35の調達率は改善しておらず、もし中国との戦争が明日勃発すれば戦闘機戦力の能力と規模は不十分なままだろう。指揮官が戦争計画を成功するためにはもっと多くの航空機が必要だ。この事を空軍の指導者らは認識しているためB-21のような航空機を迅速かつ大規模に調達し、F-35とF-15EXを合わせた戦闘機の最低調達数を年72機にする必要があると訴えてきたのだ。F-47とCCAの調達においてもスピードと規模が極めて重要だ。
“CCAは戦闘任務に必要な能力規模を手頃な価格で提供し、有人機の出撃リスクを劇的に低減し、作戦成功率を向上させる可能性を秘めている。CCAは敵の状況認識力を低下させ、作戦プランを混乱させ、我々に有利な形で兵器の消耗を誘う形で作戦に組み込むことが出来るだろう。さらに有人機編隊の一部として運用すればCCAは追加の弾薬庫となり、CCAにセンサーを搭載して収集したデータを広範囲で共有すれば状況認識と生存性を高めることができるパラダイムもある”

出典:pixabay
“これを手に入れられるかどうかはタイムリーな資金供給にかかっており、これが何十年も欠如していたため近代化と即応性の危機に直面しているのだ。国防支出に上限を設定した2024年予算、未だに続く継続決議による制限的な支出(2025年度予算は未だに成立しておらず、連邦政府機関は2025年9月までをカバーする繋ぎ予算で運営されているため前年度レベルの支出しか資金供給が行えず、前年度に支出実績のないもの=新しい武器システム開発への資金供給が不可能という意味)、インフレによる購買力の低下など、どこ見ても資金供給がニーズに追いついていない”
“トランプ大統領は「力による平和」という安全保障のビジョンを明確に示した。これを実現させるためには空軍を再建する必要があり、CCAは近代化された空軍戦力の重要な要素になるだろう。2026年度の国防予算は空軍の規模と能力低下に歯止めをかけ再建を開始するための予算だ”
Thank you Mr. President!
COMING SOON: the first TRILLION dollar @DeptofDefense budget.
President @realDonaldTrump is rebuilding our military — and FAST.
(PS: we intend to spend every taxpayer dollar wisely — on lethality and readiness) pic.twitter.com/WcZlNAHgDG
— Pete Hegseth (@PeteHegseth) April 7, 2025
トランプ大統領は今月7日「実質的に1兆ドルの国防予算(議会に要求する額のこと)を承認した」「こんな額は誰も見たことがない」と言及、2025年度予算と比べて1,500億ドル以上も資金が増加するが、陸軍、海軍、空軍、宇宙軍の主要プログラムは慢性的な資金不足に直面し、インフレによって調達・維持コストもどんどん上昇しているため、正直なところ1,500億ドル増で米軍全体の資金に根ざした問題が解決するかどうかは分からない。
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※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force photo by Staff Sgt. Zachary Rufus
輸送機も怪しい。
海空のC130もそろそろ更新しないとダメだろとは思うけど、
発注かけても中々、日本の番が回って来ないんじゃないかと。
C-17も後継機開発しないでB-52みたいに直し直し使うんですってね。
後継機を作れないんでしょうかね。
わーくにはC-2を増産すればいいのでは
自衛隊の言う通りならちゃんと使えるでしょうし
無駄なハイエンド志向による自滅だろ
覇権国が皆掛かる病なんですかね。
軍事に依存しているのにケチる。
製造業無しでは崩れるのにケチる。
カネは有り余っているのに、富裕層が振り分けず自分だけで持ちたがって自滅…
F35稼働率が低くなっていることを、管理人様の過去記事でも紹介されていましたが、より多くの機体も必要になりますよね。
量産しやすい製品は、大量生産で安く・安いため大量配備できて・使い慣れているので拡張性にも繋がるわけですが、なんだか複雑な方向に進むのは疑問に感じています。
科学者ならば、華々しくアピールできるわけですが、武器にそれいるのかなと感じたりしてしまいまして。
現代の武器が、新技術・新素材を華々しく開拓した話しをあまり聞かないですから、意味あるのかなと感じたりもします…。
GAFAMなど、大手民間企業が潤沢な資金を使って、新技術を推し進めている気がするので尚更かもしれませんね。
対テロ戦争どころかイラク戦争までやってたからな。不朽の自由作戦までは報復として分からなくもないが。
冷戦後のサボりっぷりが酷い
アメリカは実は第二の冷戦やる気ないな
かつての大規模軍拡はやらないだろう
F-16を相対的比較で安くすむF-16VでF-15EをF-15EXでF-22をF-35で更新するしかなさそう。
F-15Eですら37年か。年食ったなあ。
F-35なんか、他国に売っている場合じゃないんだ。
米軍の図体支えるには後付けだろうが何だろうが「ハイ/ローミックス」が現実解だと思うんだけど、ローのはずの機体が全然ローじゃなくなってるんですよね。
まあ現在の戦場でA-4みたいなガチのロー機が生き残れるとも思えないので人載せる以上リッチになっちゃうのは仕方ないんだけど。
陸兵器もそうですが、兵器である以上消耗品という現実に基づいた前提から目を背けており、ローでも最大限良くしてしまうのが病的ですね。
しかし人命が高い代わりに無人機に関して割り切ったものをつくってくれればいいのですが、現状表に出るのだいたいハイなのですよね。
旧ソ連崩壊で軍縮が進んだ結果が「超高齢化社会」ならぬ「超高機齢空軍」ですよね。
(比較的開発に時間のかかる)ミッションシステムソフトウェアが重要になっている状況では、有人機がハイ、CCAがローとなるには時間がかかりますし、F-35 TR3が戦闘可能にならない限り当面の改善も難しい、代替選択肢もない状況は詰んでいると思います。
あれ?ヘグセス国防長官が軍事費大幅削減だぜ!って言ってなかったっけ?
いつの間にか方針転換している・・・?
2月20日付 Bloomberg 記事によれば、国防長官の予算削減策定指示は重視する17分野以外に対してで、気候変動やDEI(多様性、公平性、包摂性)に関連するプログラムへの過度な官僚主義や支出をターゲットとし、2026年度国防予算要求総額は逆に増加するとしています。方針転換や政権内での不一致ではないようです。
トランプ政権の価値観から見て無駄と判断される予算を段階的に削減し重視分野予算を拡充するということなんでしょう。
ちなみに件の長官指示メモにはF-35に関する言及は無かったそうです。
少し話はずれるけど、いつも不思議なのが、ロシア機は度々撃墜されているから弱いとか西側機に劣ると言われているけど、そもそも西側の機体ってウクライナ戦争みたいに、高度な防空網が敷いてある戦場で運用されたことが無いはずでしょ。何を根拠にロシア機より優れていると言えるのかな。
製造ラインが閉鎖へ向かっているF-15イーグルⅡの増産もあり得そうでミリオタとしては嬉しい流れ
2023.07.1
米シンクタンク、大規模な投資がなければ老朽化した戦闘機戦力は破綻する
まちがって過去記事にアクセスしたかと思いました。
そういやファイターマフィアが出てくるまで米空軍はグダグダだったのを思い出した。
第四世代機の調達速度ですら中国空軍に負けているよね今。ローマ帝国を思わせる勢いで核兵力以外の軍が崩壊してる印象。