米国関連

米空軍、正式に「B-1Bランサー」や「A-10サンダーボルトII」など7機種の退役計画を発表

米空軍は2021会計年度予算で要求する予算案を発表し、冷戦期に製造されたレガシーな航空戦力の整理に着手する考えを明らかにした。

参考:Air Force makes reductions to B-1s, A-10s, Global Hawk drones and more in FY21 budget request

米空軍が正式に爆撃機B-1B、攻撃機A-10、無人偵察機RQ-4などの退役を発表

米空軍は10日、2021会計年度予算で要求する予算案を発表し、将来の空軍を支えるプログラムへの投資を増やすために爆撃機B-1B、攻撃機A-10、無人偵察機RQ-4、無人機MQ-9、空中給油機KC-135、KC-10、輸送機C-130Hの一部を退役させると発表した。

ただし今回明らかにされた内容は、これまで報道されていた「過激」な内容から随分後退したものになっており、大幅な戦力整理を主張する国防総省とそれに反対する現場指揮官との妥協案だと見られている。

出典:public domain B-1Bランサー

米空軍が発表した内容は、2021会計年度(2020年10月~2021年9月)中に機体構造に蓄積した疲労の影響で大規模なメンテナンスが要求されている爆撃機B-1Bランサー(62機保有)を17機退役させ、2030年頃まで運用予定の攻撃機A-10サンダーボルトII(281機保有)を3個飛行隊分に相当する44機を退役させる。

さらに無人偵察機RQ-4グローバルホークは最新のBlock40のみを残し、旧型の24機(Block20/Block30)と3機の無人戦域通信中継機EQ-4を退役させ、空中給油機KC-135を13機、KC-10を16機退役させる代わりに欠陥が解消されていないKC-46Aを15機調達して議会に義務付けられた空中給油機479機体制を維持する。

出典:public domain MQ-9リーパー

武装可能な無人偵察機MQ-9リーパーは保有台数を70機から60機へ減らし、輸送機C-130Hは24機を退役させ新たに調達する19機のC-130Jで置き換える。

今回、米空軍が退役させると発表した航空機の中には過去に米議会が退役を拒否した攻撃機A-10や無人偵察機MQ-9が含まれており、この計画が承認されれば米議会が退役を拒否した偵察機U-2や情報収集機RC-135なども退役させることが可能になるかもしれない。

このような取り組みを通じて米空軍は今後5年間で41億ドル(約4,500億円)を捻出し、ステルス戦闘機F-35A調達や第6世代機と言われる次期戦闘機FXなど将来へのプログラムへ資金を回すらしい。そのため発表された機種の退役が2021年以降も継続する可能性も秘めており、戦闘機F-15C/DやF-16C/D、爆撃機B-2A、早期警戒管制機E-3、対地版早期警戒管制機E-8、偵察機U-2、情報収集機RC-135などの早期退役候補たちが2021年以降に姿を消すかもしれない。

では、米空軍は2021会計年度予算で得る資金を何に使うのか?

主要な研究開発プロジェクトに約75億ドル(約8,200億円)を、主要装備の調達費用として約117億ドル(約1兆3,000億円)を要求している。

※あくまで主要な項目のみ。

その内訳は次世代大陸間弾道ミサイルの開発に15億ドル(約1,600億円)、先端戦闘管理システムの開発に3億2,000万ドル(約350億円)、極超音速兵器の開発に3億8,200万ドル(約420億円)、長射程のスタンドオフ兵器開発に4億4,700万ドル(約490億円)、ステルス爆撃機B-21レイダー開発に28億ドル(約3,070億円)、エアフォースワンプログラムに8億100万ドル(約880億円)、次期訓練機T-7Aプログラムに2億4,900万ドル(約270億円)、NGADプログラムの研究開発に10億ドル(1,100億円)を要求している。

補足:先端戦闘管理システムとは様々なプラットフォームで収集されたデータを統合するための技術で、NGAD(Next-Generation Air Dominance)プログラムは空軍の次世代戦闘機開発=第6世代戦闘機開発プログラムと言われている。

F-35Aを48機調達するために58億ドル(約6,400億円)、F-15EXを12機調達するために14億ドル(約1,440億円)、KC-46Aを15機調達するために31億ドル(約3,400億円)、HH-60Wを19機調達するために12億ドル(約1,300億円)、低率初期生産のMH-139を購入するため約2億1,200万ドル(230億円)を要求している。

補足:MH-139は空軍が使用している汎用ヘリコプターUH-1Nの後継機で、イタリアのレオナルドが開発したAW139をベースに開発された。米空軍はMH-139を計84機を総額24億ドルで調達する予定。

ここで注目したいのは極超音速兵器の開発予算が削られている点で、2020会計年度予算では5億7,600万ドルを割り当てたが2021会計年度予算案では3億8,200万ドルしか要求していない。これは極超音速兵器への予算を単純に削減したのではなく、一刻も早く中露との極超音速ギャップを埋めるため2つあった極超音速兵器プロジェクトを1つに整理した影響だ。

米空軍は開発を進めていた空中発射型の極超音速巡航ミサイル「Hypersonic Conventional Strike Weapon(HCSW)」の開発をキャンセルして、空中発射型迅速対応兵器「AGM-183A AARW(Air-Launched Rapid Response Weapon)」の開発だけ残した。これはHCSWとAARWの両方を開発しているロッキード・マーティンをAARW開発に集中させるための措置だろう。

米空軍は米国防高等研究計画局(DARPA)と共同で極超音速兵器を幾つか共同研究しているが、これは実用兵器の開発ではなく基礎データの収集が目的なので、実用兵器としての極超音速兵器開発はAGM-183A AARW1本に絞られた格好だ。

ただし米軍全体で見れば、陸軍も海軍も独自に極超音速兵器を開発しているためAGM-183A AARWが米国唯一の極超音速兵器開発プログラムではない。

以上が米空軍が2021会計年度予算で要求する予算案の内容だ。

これはあくまで予算案であり、ここまま実現するかは未知数だ。特に米議会が一度拒否した攻撃機A-10や無人偵察機MQ-9の退役や、空軍長官が報告書を提出するまでF-15EXの調達を2機に制限している問題などで米議会と揉める可能性は高い。

関連記事:誤算続きのボーイング、議会が米空軍のF-15EX導入を「2機」までに制限

果たして、米空軍が要求するレガシーな航空戦力の整理は認められるのだろうか?

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air National Guard photo by Munnaf Joarder

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コメント

    • 匿名
    • 2020年 2月 12日

    B-1やKC-10は全数退役でも仕方ないが、A-10を削ってはいかんだろう。
    RQ-4はK国にでも売ってやれば良い。
    次いでに、F-15EXも止めよう。
    B-21も中止にしよう。今時、大型核攻撃機等要らない。
    長距離爆撃機は、B-52で十分。

      • 匿名
      • 2020年 2月 13日

      最終号機の生産から半世紀、文字通りの老体をいつまでも使えるわけもなく
      で、嘘か誠か超音速巡航ミサイルなる代物がある今時に、非ステルスの大型爆撃機なんてでっかい的を新造させてはくれない
      そして、日本とは違い自国の領土や権益を守るためなら先制攻撃も辞さないアメリカが、攻撃機やマルチロールの貧弱な火力投射で足りるわけがない
      B-21は時代の必然ってやつよ

      2
    • 匿名
    • 2020年 2月 13日

    こうなって来ると第四世代機全般を戦力に勘定出来ないって考えがよぎるな

    • 匿名
    • 2020年 2月 13日

    昔はハイエンドだったモノも…てのも当然あるし低強度用の装備はそれにしか使えないからな
    一オタクとして寂しいけどしょうがない
    スポーツクラブと選手の移籍事情と似たような構図

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