米国関連

レガシーなMQ-9は不要と主張する米空軍、来年以降の調達中止を議会に提案

米空軍は再び無人航空機「MQ-9」の調達継続は不要だと表明して2022年度の予算編成で同機調達を打ち切る方針だと報じられている。

参考:Get ready for another fight over the future of the MQ-9 Reaper

やっぱり米空軍はMQ-9の調達を打ち切る予定で同機を取り巻くエコシステムは崩壊するかもしれない

米空軍は2021年~2024年の間にMQ-9を34機調達する計画だったのだが調達コストが高価で運用にも手間のかかるMQ-9に見切りをつけて2021年度で調達を打ち切ることを発表、しかし議会が米空軍の計画を拒否して2021年度予算にMQ-9の調達予算を復活させたためジェネラル・アトミックス(GA-ASI)は首の皮が辛うじて繋がっていたのだが、空軍長官代理を務めるジョン・ロス氏はMQ-9の継続調達を訴えるジャッキー・ローゼン上院議員に対して宛てた手紙の中で「MQ-9の在庫は将来の作戦における需要を十分満たすことができるので同機をこれ以上買い足す必要はない」と説明したと報じられている。

出典:Photo by Tech. Sgt. Ricky Best

ロス氏によれば空軍はMQ-9の調達を中止する予定で同機の代替計画を2022年度の予算案で説明するつもりだと主張しており、これに議会が納得すればMQ-9の調達は2021年度の発注をもって打ち切られることが確定するため同機を製造するGA-ASIにとっては死活問題だ。

ただMQ-9の調達中止は同機の利害関係者(同社の製造拠点、サプライヤー、同機を運用する基地など選挙区に抱えた議員のこと)で構成されたグループとの間で争いが予想されるため空軍が議会を本当に説得できるのかは謎だが、GA-ASIは「調達を打ち切るにしても直ぐに発注を止めれば時間をかけて構築してきた生産ラインや開発体制が一瞬で失われるため決定が間違っていたとしても後戻りが効かない」と主張して発注量を緩やかに減らして最終的にMQ-9の調達数を0にする方法を提案している。

出典:U.S. Air Force photo by Airman 1st Class Quion Lowe

しかし空軍はMQ-9のようなレガシーなISR戦力から資金を引き上げない限り中国やロシアの脅威に対抗できる高度な無人機開発は不可能だと主張しているので、MQ-9が積み上げてきた資産をバッサリ切ってでも高度な防空システムに守られた空域に侵入可能できるISR戦力整備に資金を回すつもりなのだろう。

因みに米空軍が主張している「高度で無人のISR戦力」とはMQ-9のように高コストで高度なセンサーを搭載したハイエンドの単一プラットホームではなく、ローエンドとハイエンドの無人プラットホーム(ハイエンドといっても低コストが基本)で構成されファミリーシステム=つまり高度な相互運用を前提にした分散型のISR戦力群で高度な防空システムに守られた空域の戦場認識力を拡張するという意味だ。

出典:public domain MQ-9リーパー

果たしてMQ-9の命運が本当に2021年度で尽きてしまうのかは不明だが、仮に米空軍の調達が来年途絶えたとしてもGA-ASIは2026年まで生産ラインを維持するのに必要なMQ-9のバックログを持っており、米空軍が保有する約300機のMQ-9は15年以上の寿命を残しているため直ぐにMQ-9を取り巻くエコシステムが崩壊するわけではない。

しかし米空軍はMQ-9の後継ISR戦力の調達に目処がつけば運用に手間のかかるMQ-9の早期退役を実施してくる可能性が高く、そうなれば同機のエコシステムは15年も保たないだろう。

これはMQ-9ベース(機体は主要コンポーネントは同一)に開発されたシーガーディアンやスカイーガーディアンも影響を受ける話なので、日本の海上保安庁は米空軍の動向やMQ-9の海外輸出状況をよく見極めてからシーガーディアン導入するのか決めた方がいい。

そうでなければRQ-4グローバルホークの二の舞になるかもしれない。

関連記事:調達打ち切りに怯えるGA-ASI、MQ-9やMQ-1Cから空中発射可能な小型UAVを初公開

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※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force photo by Senior Airman Haley Stevens

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コメント

    •   
    • 2021年 5月 27日

    早期退役させたい訳だから確かに二の舞は避けられん状況にしか見えない
    後手後手に周りすぎて自国開発もできないのか
    多くの国が自国開発どころか既に実戦配備してるとゆーに

    • 匿名
    • 2021年 5月 27日

    当然だけど無人機でも世代交代が始まるのか
    いつまでも最新鋭のイメージがあったからなぁ

    7
    • 匿名
    • 2021年 5月 27日

    安くするというだけでそれを実現するためのコンセプトが出てきてない。陸軍の新型歩兵戦闘車もそう。開発に対して確固とした方向性を示せなくなってる。産業全体に対する軍需の位置づけが軽くなって良い人材が入って来ないのかな?

    13
      •    
      • 2021年 5月 27日

      いやすでに低コストの後継開発が進んでるんだが

      1
    • 匿名
    • 2021年 5月 27日

    トルコのバイラクタルベースとかどうでしょうか?

    • 匿名
    • 2021年 5月 27日

    まぁ300機もあるなら買い足す必要性は無いわな。
    というか余ってんじゃないか?

    5
      • 匿名
      • 2021年 5月 28日

      >MQ-9の在庫は将来の作戦における需要を十分満たすことができるので同機をこれ以上買い足す必要はない
      これで追加調達を取り止める説明は十分ですね。

    • 匿名
    • 2021年 5月 27日

    リーパー300機のうち半数以上はイラク戦後統治の真っ最中にF16から改編された部隊だな。
    当時のニーズで元のプレデターより攻撃能力を高めた結果がこれなら、今度は逆行でも構わんだろ。
    なんたって当時急造したMRAP群は今じゃただのジャンクなんだし。

    5
    • 匿名
    • 2021年 5月 28日

    Twitterでも少し議論になってたけど高額少数生産のグロホと違って複数国で多数配備されてるMQシリーズは直ぐに部品生産や改修が終了するのは考えにくいって話が多かったかな。GAも軍民問わずに売り込み範囲広げるだろうし米軍が使わなくなる余剰を中国等の新興国UAVに対する為に放出するんじゃないかって話も。そうなるなら暫くはGAもカスタマーサポート続けるかと。今直ぐ買うならギリギリ大丈夫じゃないかね。

    1
      • 匿名
      • 2021年 5月 28日

      ペイロード100kg程度のUCVは市場に溢れかえってるが、ペイロード1000kg以上で今すぐ配備可能となるとMQ9や翼竜2ぐらいしかないし、民間航路にも対応してるハイエンドのUAVとして数年は安泰ではないかな。
      10年後はどうなるかわからんから導入するなら早いに越したことないだろうけど。

    • 匿名
    • 2021年 5月 29日

    この手のドローンは正直自衛隊に欲しい。
    上空から対地ドローンの加護が有るのと無いのじゃまったく違う。

      • 匿名
      • 2021年 5月 29日

      もしかしてリーパーにCASやらせようと思ってますか?
      それは自衛隊向きじゃないんじゃないかと思います。
      洋上監視させるとかならわかるんですが。
      海保でシーガーディアン実証試験してますし。

      2
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