米空軍のアルヴィン参謀総長は予算不足のため「効果的な空軍戦力とは何なのか問い直さなければならない」と言及、ケンドール空軍長官も「NGADの設計コンセプトが正しいかどうかを検討中だ」と明かし、コスト削減のため次世代戦闘機は再設計される可能性が出てきた。
参考:Next-gen fighter not dead, but needs cheaper redesign, Kendall says
2024年に締結する予定だったEMD契約はずれ込む可能性があるという意味かもしれない
米空軍が開発を進めている次世代戦闘機プログラム=Next Generation Air Dominanceは有人戦闘機や無人戦闘機などで構成されたファミリーシステムの総称で、有人戦闘機(NGAD)のEMD契約はLockheed MartinとBoeingの間で争われ、無人戦闘機(CCA)のIncrement1はAndurilとGeneral Atomicが選定されたと発表されたばかりだが、米空軍のアルヴィン参謀総長は予算不足のため「効果的な空軍戦力=NGADとは何なのか根本的に問い直さなければならない」と言及した。
米空軍が求めているNGADの全体像は不明なものの「世代を越える技術的飛躍」「強化された攻撃性、生存性、持続性、適応性、相互運用」といった要素が含まれ、同時期に開発されるFCASやGCAPよりも高度な戦闘機システムになると予想されており、ケンドール空軍長官は2022年4月「NGADの価格は数億ドルになる」と下院軍事委員会の公聴会で言及し、DefenseNewsも「NGADの調達コストは少なくともF-35の2倍=1億6,000万ドル以上になる」と報じたことがある。
ケンドール長官はDefenseNewsの取材に応じた中で「次世代戦闘機を開発する取り組みは健在で放棄されていない」「NGADの価格は1機あたりF-35Aの3倍になると予想されているため少数しか購入できない」「理想を言えばF-35Aよりも安価か同程度に抑えたいもののF-35自体も決して安くない」「X-planeとアダプティブエンジンの開発から生まれたNGADの設計コンセプトは非常に高価だ」「次世代戦闘機は規模も数も時間も重要で、我々は早く何かを手に入れたいと考えている」と言及し、空軍はNGADの設計コンセプトが正しいかどうかを検討中だと明かした。
設計コンセプトを見直す中で追求する要素は「コスト削減」「最近登場したCCAとNGADの強調性強化」「費用対効果に見合ったエンジンシステム」の3点で、NGAD自体のコスト削減には追求してきた能力を犠牲にする必要があり、CCAとの強調性強化は「NGADに求める能力」の一部をCCAで実現させることを示唆しているが、最も興味深いのは費用対効果に見合ったエンジンシステムについての言及だろう。
戦闘機の構成部品の中で最も高価なのはエンジン(調達コストの約半分)だと言われており、ケンドール長官は「NGADの航続距離と燃費を向上させるためアダプティブエンジン技術を使用したいと考えているが、エンジンコストを引き下げるには技術の複雑さを軽減し、エンジンサイズ自体を小さくするしかない」と指摘したものの、同時に「まだ契約を含むNGADの具体的な変更は話せる段階にない」と付け加えた。
要するに「NGADとCCAの間で追求する能力を再配分し、エンジンサイズを見直して採用する技術的ハードルを引き下げ、NGADの開発コストや調達コストを削減する方向に動いているが、まだ具体的な要件は固まっていない」という意味で、2024年に締結する予定だったEMD契約はずれ込む可能性があると言いたいのかもしれない。
因みに財政責任法導入の影響を受けて米国の国防予算は横ばいになることが確定しており、米空軍のアルヴィン参謀総長も今後の見通しについて「予算が増えない中でコストギャップ、インフレ、二桁の賃金上昇など財政的な津波が押し寄せるだろう。さらにSentinelの実行には400~500億ドルが必要で、この資金を空軍は限られた予算から捻出しなければならない」と述べ、2026年度予算がどの様になるのか、厳しい予算状況の中でNGADは実行できるのかという質問に「効果的な空軍戦力とは何なのか根本的に問い直さなければならない」「2026年度予算は非常に薄いものになる」と回答した。
下院軍事委員会は「民間職の賃金上昇」を理由に「兵士給与の15%引き上げ」を2025会計年度の国防権限法に盛り込んでくる可能性が非常に高く、これはバイデン政権が予算の中で要請した「年4.5%の昇給」を置き換えるものではなく「加算」されるため、政府は陸軍、海軍、空軍、宇宙軍、沿岸警備隊に所属するE-1~E-4ランクの兵士給与を19.5%も引き上げなければならなくなり、2025年~2029年に244億ドルもの追加支出を強制してくる。
この数字は同時期に支出するB-21調達資金を上回る額で、しかも給与引き上げの財源は横ばいになることが確定している国防予算から捻出しなければならないため、その分だけ米軍全体の研究・開発・調達資金が削られることになり、アルヴィン参謀総長が「財政的な津波が押し寄せて2026年度予算は非常に薄いものになる」と言及したものそのためだ。
ホワイトハウスは下院軍事委員会の提案に反対しており、仮に下院案の国防権限法に「兵士給与の15%引き上げ」が盛り込まれても上院案とのすり合わせ過程で生き残れない可能性が、これが実現すると財政責任法の影響を受ける2026年度の国防権限法は各プログラムへの予算配分が削減されるため、NGADを存続させるためにはコスト削減が急務なのだろう。
米空軍はNGADを開発するため2025年度に27億ドル以上(+CCAに5億ドル以上)の資金を望んでおり、2029年度までの総支出は88億ドル以上になると予想され、この資金を手持ちの予算から捻出するためF-22A Block20(32機=5年で25億ドルの資金を節約できるらしい)の退役を繰り返し議会に要請してきたが、2025年度予算でも議会はF-22A Block20の退役を阻止する構えだ。
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※アイキャッチ画像の出典:Lockheed Martin
アイキャッチの画像、古き昔のシューティングゲームのパッケージイラストかと思った
ロッキードの公式なんですね、ラフスケッチみたいですが
実機公開前のF-117(F-19)想像図を彷彿させますね。
ルイジ・コラーニ風味もありますし。
読み取れる限りでは単発の小型機なんで、イラストはLMにおける研究開発段階の技術実証機かもしれませんね。
画像めっちゃかっこいいですね、グラディウスを思い出しました!
NGADのコストがF35の3倍でエンジンコストが半分か。
アダプティブエンジン自体がF35以上の値段とかだとそりゃ流石にムリポ。コンセプトから見直すわなと。
個人的私見だと既存のステルス性に加え、VHFやUHFへのステルス性追加に重点して、
ファーストルック、ファーストシュート、ファーストキルをもう一度再構築すべきでしょうね。
十分なステルス性さえあれば後はペイロードだけ気にすれば良いんじゃねと。
機動性なんかは無人機にどう足掻いても通用しなくなるし、レーザー兵器なんてのも普及しはじめたら意味なくなるわけで。
現代兵器は電力、電力、電力と何するにしても、電力が要りますのがねー。レーザー兵器も現時点の技術だと電力変化率が30%ですから射程距離数kmの100kw撃つのでも300kw以上の発電量要りますからね。
何をするにしても電力が無いと始まらない時代になってします。
>NGADの価格は1機あたりF-35Aの3倍になると予想されているため少数しか購入できない
歴史は繰り返すと言いますが高価すぎたF-22よりさらにひどいことになりそう。
F-35で出ている問題解決を最低ラインとして煮詰めていけば、コスト面だけは優秀な機体は出来そうだけどな。
必要な冷却性能が当初予定を遙かに上回ってエンジン寿命が割を食う。共通仕様等の要望で機体重量の増加して性能が低下する。ステルスにはお金が掛かる。ヘルメットみたいなワンオフ品にお金が掛かりすぎる。
ステルスを維持しつつ冷却を効率よくするためのシステム、ステルスと空力に優れた機体形状の追求、マルチロール性能を求めて重量増加するなら取捨選択をしっかりする。複雑なシステムや形状は辞める。端から見たらツマラナイ機体にした方がトータルの戦力として優秀な機体になるんじゃないだろうか。
エンジン部の発電量等の問題がなぁ、レーザー兵器等と無人随伴機運用すると馬鹿みたいに電力喰うからそれらの擦り合わせをどうするかだな。
現在までに伝わっている情報だとNGADは「超音速飛行とAAMが運用可能なB21」「航続距離と兵装搭載量を増やしたF22」に仕上げたい模様。
マッハ3以上の極超音速飛行はエンジンと機体素材、レーザー兵器は電力と照準装置の問題で実現が困難。だから第5世代戦闘機の改良若しくはデータリンク戦闘、無人機との連携を追求する。SF作品の超兵器(物理的性能の追求)というよりは(現実社会で見られる)ネットワーク強化、無人化若しくは省力化が求められそうです。
うーん 難しいけど当初の予算と期間を変更すると失敗するフラグのような……心配だ。
まあ、想定通りコストアップになってきましたね。
電子装置やエンジン等中身が同じなら、新規開発する分高価になるのは当たり前でしょう。
先ず、F-35をしっかり運用して、技術基盤を確立するのが先でしょう。
IT技術を信じて、浮付き過ぎなんですよ。
開発遅延でクッソ高額化したF35が、計画を立て直せて価格低減できたのは、生産機数が最初から4桁確定で、継続的な生産による量産効果を出せたからなのに、どう考えてもF22の様に輸出できないNGADが、現時点でF35の数倍のコストって、詰んでるやろ。
またF22の様に、生産数絞られて、超高額化って未来しか見えないわ。
艦船の方も開発失敗を繰り返してるし、いい加減、完成の目処も立ってない技術を前提に、コンセプトと開発期限切るのは止めたらええのに。
ちいかわみたいな集中線やめろ笑
写真の形の類似形になるとして。
有視界内戦闘は出来るのかな?。(悪口)
F-35A++みたいなF-35をベースに焼き直したほうがよさそう
これでコストが安くなるわけじゃないけどシステム的にF-35と互換性があれば、NGADのウリである高性能無人機をF-35運用国に売り込むことができるし
現在のF-35の発電量って180kwクラス(コレでも消費電力と発電量が釣り合うくらいギリギリと)言われてて、380kwクラスの発電量を確保する案もあるんだけど現在は頓挫してる。
第六世代機は最低500kw級の発電量が欲しいと言われてるけどF-35で簡易版にしようとしたら、大型のエンジンにしなければならないと言われてるから、機体の再設計をそれはそれでしないといけない。
ドンガラだけ大型化して双発にして、中身は一緒でいいんじゃないかな。
恒例の失敗フラグがビンビンですな…
というかそれよりもまずF-35TR3機をまともに運用できる戦闘機にしてくれ
超性能な戦闘機はやめて、F-15とF-16の改造と生産に注力した方がまだマシでは
アメリカの新規開発は夢を見すぎて、第四世代型の再開発すら信用できないだろうし、中国はJ-20等の戦闘機を数作る事に成功している。
現在の時点でF-35がほかの戦闘機に優勢を取れるとしても、整備の渋滞や整備部品の不足で飛ばせる機体が無くなりましたで盤面不利に陥りそうなのが見えている。
現状の開発方式においては、最先端のコンセプトはどこか早い段階で地に足のついた数値要求に落とし込まないことには、開発中に技術要件が変わったり別の技術を織り込む変更が発生してしまいます。早い話どこかで妥協して作り始めないと一生計画案を練っている羽目になるのですが、議会は言うに及ばず米空軍はどこまでその辺意識しているんでしょうね。
米中間の覇権争いが軍事的衝突になるかは分かりませんが、軍事的緊張や軍備競争の流れは既に出来上がっています。そういう情勢下では米本土から外地に出すだけでニュースになるような虎の子のステルス戦闘機や、40年代まで日の目を見なさそうな未来型兵器より、最低限の現代水準にあって想定任務に適正のある「現場で使える機材」の数が求められている気がしますが…
本気で100機前後の運用想定なら滞空時間に全振りのステルス機でもいいかも。B2の小型版みたいな。
そうなるともう戦闘機ぽくないけど無人機の統括機ならそれでもいいじゃん。
これ
AEWっぽい仕事をステルス性能の高い「戦闘機」が担当して、センサーもミサイルキャリアも無人機に任せる
スクランブル以外はなんとかなりそう
もはや戦闘機とは言えないかもしれんが。。。
それは普通にB-21ですね、一機の大体の価格が1000億円以上の値段だからNGADより遥かに高いですが。
B-2が翼幅52m、B-21が40m強、F-22が14m弱なのでまだ間が相当開いてますね。
翼を最大展開したF-14やF-111が約20mなのでそれくらいの「戦闘機」は十分あり得るんじゃないでしょうか。
F-22の主翼を前縁後退角、後縁前進角そのままほぼ全翼化すれば丁度そのくらいのサイズ感で、それでもB-21の半分以下です。
個人的には過去の報道からもっと大きいの(翼幅20m後半〜30m程度)想定してましたが。
またF-22やF-35の過ちを繰り返すんだな・・・。F-35の部品を極力共用した双発機にすべき
実際、こんど日英伊で作ろうとしてる次世代機をそんな感じにしてやればいいのにとは思います
機体に合わせて一からエンジン作るより開発の時間もコストも省略できそうだし
エンジン自体の素性はいいから、合計推力256knは図体がデカくなること以外のほとんどの問題を何とかしてくれるはず
F35の調達数削減されるらしいから、エンジンメーカーも頭抱えてるでしょうし、結構乗ってくれそうな気もしないでもない
時間優先
F-22EXの開発した方が良いのでは?
双発機の宿命なんですけど、F-22がペイロードが小さくて空対空ミサイルと限定的な対地、対艦兵装しか使えない制空戦闘機としか使えない現状を見ると、もっと大型にしたいでしょうから無理でしょうねー。
F-22の機内兵装搭載量が少ないのは時代背景と設計思想から制空全振りだっただけで最大離陸重量には余裕がありますし間違っても「双発機の宿命」なんかではないと思いますが。
双発式にしたステルス機のF-22、J-20、Su-57を観る限りエンジンに干渉しない様にウェポンベイを設計してる感じなので、新規設計するなら既存の兵装を積むのが難しいのは避けるんじゃないでしょうか?
Su-57はウェポンベイの形状が特殊なので除外しますが、F-22が全長18.92mで内装兵装がAMRAAMの365cmまでで、J-20が全長21.2mでPL-15の399.6 cmになってる現状見る限り制限されてるので、JSOW(426cm)くらいの450cm前後のウェポンベイを目指すのでないでしょうか?
> Su-57はウェポンベイの形状が特殊なので除外しますが
この時点でもう「双発機の宿命」ではなくて単にF-22やJ-20の設計上の「選択」でしかない訳です。
F-15のペイロードでは足りなくてB-21の下が欲しいって、F-111のステルス版欲しいのかな
もう設計図や試作機やデータがあるのでは?、、YF-23という
あれは全長20mだったかな?胴体を洗練させて搭載量を増やせば、、、
YF-23は全長が1.6m(同じ立場のYF-22とならほぼ1.0m)長いだけで翼幅はむしろわずかに狭くて、結果翼面積は1割ちょっと大きいだけ、最大離陸重量は1割も違わないんですよ。
アイキャッチ画像のイラストはウルトラホーク1号の前の方の部分(β号)に似てる・・
NGADは各国が目指している第5世代戦闘機の発展型の第6世代戦闘機とが違って、戦闘機と言う名の別の何かなので正直迷走するのはしょうが無くはある
羽が小さすぎるのか胴体がでかすぎるのかなんかアンバランスに見える
なんとなくズォムルト級と同じ流れになりそう…
EMD(Engineering and Manufacturing Development)契約前に止まったのはまだマシとすべきなんでしょう。
対中国を見据えた機体になるとしても、その戦訓はウクライナ=ロシア戦争から得られる予定なのでまだまだ先が見えないしアメリカ単独で決められない状況というのは厳しいですね。