米国関連

米空軍が年内に極超音速兵器AGM-183Aを試射、来年にも量産開始

米空軍は開発を進めていた空中発射型の極超音速兵器「AGM-183A Air Launched Rapid Response Weapon(空中発射高速応答兵器:ARRW)」の試射を今月中に行うと明らかにした。

参考:ARRW Hypersonic Missile Will Fly This Month

新技術を開発して実際に兵器が現場に届くの何年も待つ必要はなくなったと主張する米空軍

米空軍とロッキード・マーティンが開発を進めている「AGM-183A ARRW」は弾頭部分に極超音速滑空体(HGV)を採用した空中発射型の極超音速兵器で、マッハ20で滑空しながら非弾道コースで目標に接近するため従来の弾道ミサイル迎撃技術では対応するのが困難だと言われており、これまで地上発射によるHGVの性能検証テストやB-52HにAGM-183Aを統合して飛行テストなどを行なってきたが米空軍のウィル・ローパー次官補は14日、今月中にB-52Hを使用してAGM-183Aのブースターテストを実施すると明らかにして注目を集めている。

出典:Air Force photo by Giancarlo Casem B-52Hに搭載されるAGM-183A ARRW

ローパー次官補によれば今回のテストを無事パスすれば来年中にもAGM-183Aの生産が開始され2022年までに初期作戦能力を宣言する言っており、開発を開始してから僅か4年で実戦配備が始まるという意味だ。

因みに従来のプロセスで開発すれば初期作戦能力の宣言は2027年になると言われていたが、これを5年短縮できたのは次世代戦闘機のプロトタイプ開発と同じ「デジタルエンジニアリング」を採用したためで、ローパー次官補は「新技術を開発して実際に兵器が現場に届くの何年も待つ必要はなくなった」と語ったが、この様な技術的な変革は空軍にも変化を要求していると主張した。

つまり新しい兵器の開発期間が劇的に短縮しても開発兵器の要件とりまとめ、新兵器の導入プロセスや訓練方法が従来のままだと開発期間の短縮効果が半減すると意味で、空軍全体が早いサイクルの兵器開発や導入プロセスに合わせて変化する必要があると言っているのだ。

※アイキャッチ画像の出典:ロッキード・マーティン AGM-183A ARRW

さらに米空軍が開発している「アドバンスバトル・マネージメントシステム(Advanced Battle Management System:ABMS)」は空軍全体に変化を促す契機になるとローパー次官補は主張しており、これは同システムが伝統的な早期警戒管制機「E-3 セントリー」や対地版早期警戒管制機「E-8 ジョイントスターズ」に取って代わることを意図しているためで、高価で大型レーダーを搭載した航空戦力に頼った空軍の戦闘体系が一新されると言われている。

ABMSを簡単に説明すると陸海空の戦力に加え宇宙空間に配備された軍事衛星までが接続されるクラウドベースの戦闘管理システムのことで、分散した戦力のセンサーが収集した情報を瞬時に統合・整理して全軍に提供することでE-3やE-8といった集中センサーに頼ることなく戦場の認識力を拡張させることが可能になり、これが実現するとロシアや中国が超長距離空対空ミサイルを使用して狙っているAWACS破壊=戦場の認識力を低下させて戦況をロシアと中国に有利に状況に持ち込む戦術を無効化することが可能だ。

出典:U.S. Air Force photo by Senior Airman Daniel Hernandez 今年9月に実施されたABMSの大規模なフィールドテスト

因みにABMSの上位レイヤーには「統合全ドメイン指揮統制(Joint All Domain Command and Control :JADC2)」が存在して、ここに同盟国のネットワークが接続されると米軍との情報統合や共有が実現され同一の戦場認識に基づき作戦行動が行えるようになるというシロモノを作ろうとしている。

ただ米国の政府説明責任局(日本の会計検査院に相当)は米空軍が進めているABMSプログラムは開発にどれだけ予算(5年で33億ドル:約3,400億円を投資予定)が必要になるのか、サービスが上手く統合され機能するのか「誰にも分からない」と強烈に批判しており本当に完成するのか怪しいが、今年9月に2回目となるABMSの大規模なフィールドテストを実施して成果を収めており開発は今のところ順調に進んでいるのかもしれない。

少々話が逸れたがローパー次官補はABMSが稼働し始めればセンサーとシューターの分離も進み、膨大な情報をリアルタイムで処理して統合・整理するためにはAIを駆使する必要があるため、空軍は伝統的な概念を覆すような変化に対応する組織へと生まれ変わる必要があるのだろう。

関連記事:センサーとシューターの分離が進む米陸軍、自走砲で巡航ミサイル迎撃に成功
関連記事:米メディア、沖縄に極超音速兵器を搭載可能なF-15EXを優先配備すべき
関連記事:完成するのか不明、対AWACSキラーを無力化する米空軍の新技術

 

※アイキャッチ画像の出典:Air Force photo by Giancarlo Casem

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コメント

    • 匿名
    • 2020年 12月 15日

    日本の防空体制は話題になりますが、東側の極音速兵器に対する対抗策ってどうなってるんでしょ?

    3
      • 匿名
      • 2021年 1月 06日

      20じゃなかった6だった…

    • 匿名
    • 2020年 12月 15日

    これは、B-52がまだまだ酷使される未来が見えるぞ
    ※Wikipediaの情報を鵜呑みにすると、AGM-183は1000マイル(1600km)以上の射程があるので、
     B-52にしこたま積み込んで安全圏から乱射できるかも?

    7
      • 匿名
      • 2021年 1月 05日

      実際某国のh-20も酷使されてますし。

        • 匿名
        • 2021年 1月 06日

        20じゃなくて6でした。

    • 匿名
    • 2020年 12月 15日

    集中から分散へ
    ふむふむ
    弱点を点から面へ変換すると、相手も面への効率的打撃を探るでしょうが、双方その変化に対応するのに時間が要るでしょうね。
    この空軍の動きからも見えるのは、近未来戦闘のキーワードは時間であり、その時間のために量と質の働きを管制して行くと考えます

    1
    • 匿名
    • 2020年 12月 15日

    極超音速滑空体(HGV)を宇宙にさえ届ければ、後は位置エネルギーを運動エネルギーに変換しながら滑空してくれる。そりゃあ側だけならアメリカでも短期間のうちに仕上げれるよ。

    3
      • 匿名
      • 2020年 12月 15日

      空機艇庫を無視できる超高空を滑空する超音速ミサイル程度なら多くの国で作れる、もちろんアメリカ製と他国とでは精度などが違うだろうが。
      そのミサイルの数十倍の部品点数からなる戦闘機とは同列に論じることはできないはずと素人でも思う。

      1
    • 匿名
    • 2020年 12月 15日

    日本も開発から配備まで短時間で済ませ、
    臨機応変に対応して行かないと
    痛い目見ると思うけどな

    4
      • 匿名
      • 2020年 12月 15日

      XF9-1の開発なんかでもシミュレーションの多用・精度向上でかなり開発期間の短縮が出来た様ですが、
      記事の件や先日報じられた試作機はまた一つ次元が違う感じですね。
      その辺のノウハウをがっつり提供してもらえるならLMの支援も悪くないけど、期待薄だろうなぁ…

      2
    • 匿名
    • 2020年 12月 15日

    センサーはF35で、シューターはB52かP8になるかな。
    そしてお値段は、F35を超えないかな?

    2
      • 匿名
      • 2020年 12月 16日

      センサーはF-35、F-22、ステルス無人機など
      シューターはB-21メインが濃厚

      完全ステルス機だけで先手攻撃をとるのが米軍の理想

      B-52やE-3など非ステルス機は丸見えで狙われやすいから多分運用しないまたは限定的だと思う

        • 匿名
        • 2020年 12月 16日

        おとりに使えるから完全に引退するのはだいぶ先だと思うな

    • 匿名
    • 2020年 12月 15日

    もともと極超音速飛翔体の研究していたとは言え完成早いな
    ただ肝心の弾頭の完成度は未知数だな

    1
    • 匿名
    • 2020年 12月 15日

    最近の米軍の失態を見ているとどうも上手く行くと思えない。空軍だから違うかもしれないけど、デジタル化による軍の近代化がどこまで実現するかは疑問だと考えてしまうのは俺だけ?

    2
      • 匿名
      • 2021年 1月 05日

      それ、ほとんど海軍だろ。

    • 匿名
    • 2020年 12月 16日

    年内施工も可能です!!!
    いやすげぇわ

    1
    • 匿名
    • 2020年 12月 16日

    中国に対抗すべく日米相互運用能力を高めるためには、ABMSに参加しその機能の一部にならないといけないと思うのですが、法整備も進んでいない日本が参加したいと手をあげても無駄なのでしょうね。
    (そもそもアメリカが誰一人参加を認めないことも考えられますが)

    話が外れるのですが、現状の早期警戒と要劇管制を中核とした防空体制では対応できるのは対領空侵犯くらいのもので、今のままではF-35やF-3の真価を発揮できる日は来ないのでは?と思っています。
    極超音速滑空弾だって仮に開発が成功し配備できたとして現状では成果確認は衛星写真に頼らざるを得ず、ちゃんと運用できるのだろうかと心配です。
    優れた戦闘機やミサイルさえあればいいなんてことは全くないのですよね。

    1
      • 匿名
      • 2020年 12月 16日

      ABMSは米軍だけのもので
      最終的にはJADC2に終結するのが目標らしい
      JADC2は同盟軍(自衛隊含む)の情報収集とのネットワーク化が目的なんで、また別の話なるかと

      早期警戒機など大型の非ステルス機は2030、2040年代は時代遅れになるっぽい

      なのでステルス機の先手攻撃を生かした全く新しい防空体制の設立は必要かと思いますね

      1
        • 匿名
        • 2020年 12月 16日

        > ABMSは米軍だけのもので
        最終的にはJADC2に終結するのが目標らしい

        ありがとうございます、そういうことなのですね。
        クアッドから始まる包囲網がJADC2の高度な構築に繋がるといいなと願うばかりです。

        1
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