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米陸軍、戦術弾道ミサイルで徘徊型弾薬や精密誘導兵器の投射を検討中

Lockheed MartinはATACMSの代わりとなる戦術弾道ミサイル=PrSM Increment3で獲得する能力について「米陸軍がCoyoteやHatchetなどの搭載を検討している」と明かしため、PrSMは500km以上離れた地点に徘徊型弾薬や精密誘導兵器をばら撒くことが出来るようになるかもしれない。

参考:PRsM Ballistic Missiles Loaded With Coyote Drones, Hatchet Mini Smart Bombs Eyed By Army

PrSMは500km以上離れた地点に徘徊型弾薬や精密誘導兵器をばら撒くことが出来るようになるかもしれない

米陸軍は中距離核戦力全廃条約(INF)失効を受けて射程500km以上の攻撃能力を開発に着手、この能力はDark Eagleを運用するLong-Range Hypersonic Weapon=LRHW、トマホークとSM-6を運用するTyphon Weapon System、HIMARSで運用するPrecision Strike Missile=PrSMの3つで構成され、HIMARSで運用するPrSMはATACMSの後継弾道ミサイルという位置づけで開発が始まったものの、INF失効を受けて射程距離の制限がなくなったためPrSM Increment1の射程は500km以上と言われている。

出典:Photo by Darrell Ames PrSM Increment1

Increment2は改良型シーカーを搭載して海上の移動目標にも対応した対艦弾道ミサイルに進化、Increment3では殺傷能力の強化、Increment4では射程を1,000km以上に拡張、Increment5ではIncrement4を超える射程を目指す予定で、Lockheed Martinは獲得能力を曖昧に表現していたIncrement3について「陸軍は異なる弾頭を搭載したいと考えている」「まだ陸軍は最終決定を下しておらず様々な選択肢を検討している」「陸軍がIncrement3の弾頭としてCoyoteやHatchetなどを検討したことは知っている」と述べたため、PrSMは500km以上離れた地点に徘徊型弾薬や精密誘導兵器をばら撒くことが出来るようになるかもしれない。

Coyoteにはプロペラ推進で多目的バージョンのBlock1、ジェット推進で対無人機迎撃バージョンのBlock2、非運動エフェクターを搭載してスウォーム攻撃を迎撃可能なバージョン=Block3が存在し、米陸軍がどのバージョンを検討したかは不明だが、米陸軍戦闘能力開発コマンド(DEVCOM)は過去資料の中で「PrSMから放出されるCoyote Block1のイラスト」を公開しており、ここから連想されるイメージは徘徊型弾薬化したBlock1を目標近くにばら撒く様子だ。

出典:U.S. Army Combat Capabilities Development Command

さらにHatchetは小型無人機向けに開発された超小型の精密誘導兵器で、Coyoteを搭載したPrSMは目標付近で敵車輌の移動を制限したり、必要なら敵車輌を破壊することも可能で、Hatchetをを搭載したPrSMはクラスター弾頭に匹敵する制圧範囲を実現できるだろう。

因みに自律的な無人水上艇開発のベンチャー企業=Saronic Technologiesはルイジアナ州の造船所を買収し、ここを拠点に全長150フィートもある自律型水上艦=Marauder(ペロイード40トン、最大3,500海里の航行能力、30日間以上の連続運用)の開発に乗り出すと発表したが、個人的に注目したいのはMarauderよりも小型のSpyglassとCutlassだ。

SpyglassとCutlassは大型艦艇や小型船舶だけでなく航空機からの空中投下で目標海域に投入できるため、沿岸海域以外で小型の無人水上艇に襲われるリスクは低いという認識を覆す可能性を秘めている。

誘導式ミサイルは搭載したシーカーによって最終段階の精密誘導が可能(発射時には標的の大まかな座標が必要)なものの、徘徊型弾薬や無人水上艇は脅威が潜むかもしれない空域や海域を長時間徘徊し、自ら標的を発見して攻撃を仕掛けられるため、どちらが優れているかではなく「攻撃アプローチが異なる別カテゴリーの兵器システム」と言え、現在は「これを遠距離からどう投射するか」がトレンドになっている可能性が高い。

関連記事:HIMARSで500km先の目標を攻撃可能、米陸軍へのPrSM納入が始まる
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※アイキャッチ画像の出典:Lockheed Martin

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コメント

  • コメント (26)

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    • ブルーピーコック
    • 2025年 5月 01日

    誰の良心も痛めることがない良い作戦ができそうだな。しかし脳波コントロールはできぬ

    15
      • 鉄仮面(南野陽子ではない)
      • 2025年 5月 01日

      少しずつでも地球をさっぱりさせんとな(鬼畜)

      いやしかしこれ防御側からしたら非常に厄介な話では。
      島国の日本は海に隔てられているから無人機攻撃の類は受けにくいだろうと油断していると、航空機や艦船で日本に接近せずとも大陸からノーリスクで日本本土に無人機をバラ撒かれるかもしれないということですよね。
      弾道ミサイル撃ち漏らしたら無人機の群れに襲われるとか考えたくもないな・・・
      結局我が国にも高出力マイクロ波兵器やレーザー兵器などのコスパに優れた無人機対処能力は当然の如く必要ということでしょうかね。

      19
        • バーナーキング
        • 2025年 5月 01日

        いやらしいのは速度必要ないから再突入まで弾道弾でいる必要がないとこですね。
        アポジ手前で分離したフェアリングやブースターかと思いきや、徘徊型弾薬たっぷり抱えた再突入体かもしれない訳で、この技術を持ってるだけでBMD負荷が跳ね上がる…

        18
          • ブルーピーコック
          • 2025年 5月 01日

          MIRBよろしく本体から分離した子弾から更にドローンが・・・
          こちらもやり返せるなら多少は溜飲が下がるでしょうが、配備するには、まず国内の拗らせた連中を排除しないといけないのが。

          8
        • nachteule
        • 2025年 5月 02日

         油断も何も日本はミサイルでマルチプルEFP子弾をばら撒こうとしているんだし、弾頭交換可能な新型巡航ミサイルも開発しているのだから弾道弾でも想定外は無いと思いますよ。既存のミサイルやですら無誘導かセンサー付きの子弾を放出します、ドローンはそれの上位互換なんですからんだから様々な弾頭で攻撃されるなんて想定済みでしょう。
         それに低コストで低速なシャヘドですら航続距離2000km有るみたいな話が出ていて攻撃は受けにくいとは思えない。2000km飛べるなら中国ならロシア北朝鮮領空さえ通過させて貰えれば日本の大部分はカバー出来るし北朝鮮・ロシアがそれを使って攻撃するなら同じ事。中国ならCH-YH1000無人輸送機とかで距離は詰められるだろうし、ラピットドラゴンみたいに有人輸送機から投射だって不可能じゃないので周りが海だからってのは昔の話。

         何が搭載されていようが明確な攻撃位置を持った弾道ミサイルを撃ち漏らせば出るのは確実なのでドローンが1番最悪な損害ではないだろうとは思う。

        1
    • バンダイは早くジムⅢのMGを作ってくれ
    • 2025年 5月 01日

    いつか、化学兵器とか核とかが使いづらい状況でも敵都市とかに自爆ドローンをばら撒くことで、継続的で効果的な破壊が期待できる地域を殲滅するのに使い勝手がいい兵器ができるのかな?

    子供の頃から夢見ていた兵器が実現しそうで嬉しいです

    6
      • kitty
      • 2025年 5月 01日

      対人地雷禁止・クラスター爆弾禁止に続く、無駄協定、CCW/LAWSを推進するんだろうなあ。

      6
    • 理想はこの翼では届かない
    • 2025年 5月 01日

    低空〜高空の間が徘徊爆弾・ドローンで埋め尽くされる未来になるんですかね
    紛争地域の空がドローンだらけになって、地下に潜ってないと死ぬ世界とか怖すぎる

    26
    • 戦車
    • 2025年 5月 01日

    夢をみて開発するのは良いですけど、またコストとか、そもそも、弾道弾で打ち出す必要があるのか?になって、また他の開発計画曰く開発中止になりません?

    12
    • たむごん
    • 2025年 5月 01日

    攻撃側は、偵察能力が、ますます重要になりそうですね。

    防衛側は、安価な防空兵器が、さらに重要性を増していくなと。

    11
      • ミリ飯食べたい
      • 2025年 5月 01日

      迎撃側はどうやって索敵するようになるんでしょうね?
      電波出すと逆探知して逆に襲われそうです…

      5
        • たむごん
        • 2025年 5月 01日

        仰る通りで、非常に難しいですよね。

        • ブルーピーコック
        • 2025年 5月 01日

        高精度可視光カメラ・赤外線カメラを搭載した機器で撮影した画像をAI で判別するとかじゃないですかね。既に国内ではこういったカメラやシステムを搭載したドローンを密漁の監視や巡回警備などに使っていますが。

        5
    • NHG
    • 2025年 5月 01日

    問題は500km飛ぶ戦術弾道ミサイルのコストや量産性がドローンの対極にあることかな?
    なのでよっぽど戦略的なポイントを見極めて使わないと進化を発揮できずに終わりそう

    7
    • M10 ブッカーみたく早期に実用化できるのか?
    • 2025年 5月 01日

    実用化までのお時間がいつものお約束・・・

    8
    • かず
    • 2025年 5月 01日

    500km先にばら撒くのはいいけど誘導はどうするつもりなんやろ
    搭載AI任せの完全自立攻撃型なんやろか、それはそれで動くもの全てが攻撃されそうな怖さがある

    7
      • イーロンマスク
      • 2025年 5月 01日

      フハハハ怖かろう

      4
      • 他人事では無い
      • 2025年 5月 01日

      炸薬の総量が少なすぎる。

      5
        • 戦車
        • 2025年 5月 01日

        調べてみるとPrSM自体の炸薬量が91kgと少なく、価格も一ランチャー分2発分か、1発分か分からないですけど350万ドルと結構の値段するんですよね。

        3
      • paxai
      • 2025年 5月 02日

      そりゃもうスターリンクよ。
      アンテナ爆弾ドローンで計20キロぐらいの見積もりでいいんじゃないかな?パラシュートも必要だろうし場所食いそうで搭載数は伸びないだろうけど。
      空軍基地上空で放出出来れば高価値目標の1つぐらいは見つかるでしょうし。
      ウクライナ軍は既にスターリンク搭載ドローンでクリミア攻撃してたし。

    • 他人事では無い
    • 2025年 5月 01日

    アスロックの無人機版か。

    3
    • Authentic
    • 2025年 5月 01日

    アメリカはウィッシュリストにあれこれ書き込む前に地道にエンジニアと部品メーカーを育成したほうがいい
    今のままじゃ何を構想しても絵に描いた餅

    19
    • 58式素人
    • 2025年 5月 02日

    どうなのでしょう。防衛側にとって。
    陸軍の場合、明確な前線(?)だけでは不足になるのかしら?。
    代わりに、前線に奥行きを持たせた、前線域(?)の概念が必要かな?。
    問題になりそうと思うのは、敵味方識別と非戦闘員の区別かな?。
    IFFを携行しない人/物は全て敵になるのかな?。民間人用のIFFが必要かな?。
    海軍の場合だと、海岸線は存在するので、まだマシ、な気もするけれど。
    海岸線より沖側で奥行きを取ることができるだろうし。
    特に陸上で、嫌な予想(未来)?、が立ちそうな気がします。

    • ドゥ素人
    • 2025年 5月 02日

    これって弾道ミサイル(威力重視。究極は核)〜砲弾(安い、数の暴力)の間のどこに位置するんでしょう?炸薬少ないなら命中率高くないと効果微妙ですし、誘導装置にお金かけたらコストとんでもなさそうですし、使い所は敵防空の疲弊?確認?

    防衛側はミサイル以外に安価な迎撃をいろんなところに配備しないといけないですけど、いっその事同じの撃ってドローンで打ち消し合う?(マザーファンネル?)

    2
      • 戦車
      • 2025年 5月 02日

      もし、PrSMそのままならワンセット(2発?)で5億円なんで結構高い兵器ですね、炸薬量も91kgなんでかなりペイロードは控えめですし。

        • ドゥ素人
        • 2025年 5月 03日

        使いところが難しそうですよね
        輸送機で空中投下するより安全です、くらいですかね?
        やっぱり敵防空への負担かなぁ?

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