米国関連

米陸軍、新型ドローンの投入で兵士の認識力と攻撃範囲が30kmまで拡張

ハワイ駐留の第25歩兵師団はインド太平洋地域特有の地形や気候で無人機がどれだけ機能するのか調査を行っており、同師団のエバンス少将は「新しいドローンを手に入れて兵士の射程が約10倍に向上した」「現在は30km先の目標を視認、検出、攻撃することができる」と明かした。

参考:Seeing farther, striking deeper, this brigade is pushing its drones

米陸軍とドローンを使用した演習を行っているフィリピン陸軍の運用ノウハウは比較的進んだもの

ウクライナとロシアが演じているドローン戦争は決定的に戦争の形を変えてしまい、米陸軍も2023年3月にドローンと手榴弾の組み合わせを演習でテストし、2024年3月には米陸軍特殊部隊の兵士がFPVドローンを使用しているのが確認され、米海兵隊も3月末「FPVドローンの急速な普及に伴い専門部隊を創設した」と発表、海兵隊訓練・教育コマンドの司令官も「海兵隊員はライフルマンでなければならないというスローガンに変化が起きるかもしれない」「兵士1人の交戦距離は500mから20kmに拡張される」と述べて注目を集めた。

出典:U.S. Army photos by Elena Baladelli

陸軍の第1機甲旅団戦闘団のアームストロング大佐も新戦術の大規模テスト前「FPVドローンを取り入れた部隊はもっと規模の大きな部隊よりも強力な効果を発揮すると考えている」「現時点では我々の仮説に過ぎないが、これを明日=5月21日からの演習でテストするつもりだ」「大半の旅団には電子戦小隊が1つしかないが、我々の旅団には2つ目の電子戦小隊が組み込まれており、敵の通信やドローン攻撃を妨害するのに役立つだろう」「そして歩兵小隊の第3分隊が無人機部隊で、歩兵大隊レベルでは戦場に4つのFPVドローン部隊を投入できる」と言及。

ハワイ駐留の第25歩兵師団も将来の戦場=インド太平洋地域特有の地形や気候で軍用車輌や無人機がどれだけ機能するのか調査を行っており、特に降雨量が多く険しい未舗装の地域ではハンヴィーやJLTVでの移動が困難になり、新しく導入するInfantry Squad Vehicles=M1301 ISVや電動式の手押し車=STEEDをテスト中だが、まだ密林の中をISVやSTEEDがどれだけの装備を運搬できるのか模索中で、湿度の高い環境が低高度を飛行する無人機のセンサーにどのような影響を及ぼすかも結論が出ていない。

出典:U.S. Army photos by Sgt. Collin Mackall

今のところ激しい雨の中でも無人機は飛行可能だが航続距離が短くなり、光学センサーは雨と湿度の影響を受けて一部の性能が低下し、晴天時よりも偵察・監視能力が制限されると判明しているが、Defense Newsは3日「第25歩兵師団の兵士らはドローンの助けを借り、これまでよりも遠くに前進して、より深く攻撃することを訓練している」と報じ、同師団のエバンス少将が2日の会見で述べたことを要約する以下の通りになる。

“ルソン島の島々や密林を横断する作戦行動において高温多湿な環境とモンスーンが大きな影響をもたらした。2024年に開始された Transformation in Contact=接触下の変革によって部隊には中距離と長距離をカバーするドローンが支給され、兵士らは過去に与えられたドローンと比べて約10倍の射程を手に入れた。過去のドローンが敵を偵察できる範囲は3km程度に制限されていたが、現在のドローンは30km先の目標を視認、検出、攻撃することができる。拡張された認識力と攻撃範囲が自らを守る能力を高め、徘徊型弾薬や兵器化されたドローンによる攻撃能力を強化する”

出典:Photo by 1st Lt. Aylin Hernandez

さらに「フィリピンの演習に参加した第2軽旅団戦闘団は3Dプリンターを持ち込んで、演習中に装備のスペアパーツや約50機のFPVドローンを製造した」「彼らはフィリピンでドローン、対ドローン、電子戦能力を備えた連隊規模の敵部隊と対戦した」「今回は前回演習と異なり歩兵分隊用の車輌を持ち込み、そのおかげで部隊の機動性と持続性に大きな変化をもたらした」「米軍とフィリピン軍は演習を通じて認識力を拡張し、より正確に目標の位置を特定し、攻撃能力を発揮できるようになる」とも述べており、恐らく歩兵分隊用の車輌とはM1301 ISVのことだろう。

米陸軍はドローン戦争から得た教訓を各戦場特有の環境で大規模にテストし、この新しいシステムと戦術を自軍と将来戦場に最適化しようとしている可能性が高く、運用方法とノウハウが確立されれば「新しい戦い方」を大規模採用してくるかもしれない。

因みにフィリピン軍はイスラエル製のHermes900×8機、Hermes450×8機、Skylark×26機、Thor×1,066機、米国製のScanEagleII×18機、中国製のTarot X4、Phantom3/4、Mavic Platinum、Mavic Sparkを計155機調達し、最も数が多いのは2019年に発注した軍事向け小型ドローンのThorで、豪国防省も2021年10月「豪陸軍が1,000機以上の無人機を運用している」と明かしているため、フィリピン軍の無人機運用ノウハウはインド太平洋地域の中でも比較的進んだものなのだろう。

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※アイキャッチ画像の出典:U.S. Army Photo by Spc. Aiden O’Marra

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コメント

  • コメント (17)

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    • ドゥ素人
    • 2025年 6月 03日

    ドローンは戦闘機や戦車、駆逐艦、潜水艦に比べてイニシャルコストもランニングコストも人的コストも安い分、進化が早すぎて大量調達のタイミングが難しそう…

    画期的なアンチドローンが発達しない限り、調達した途端に陳腐化とはならないと思いますが、製造工場の維持とかどう考えているんですかね?

    中国はこのあたり色々な製造業者が国内にいるので、有機的に対応できそうですけど、ものづくり放棄した西側先進国は苦しそう…

    23
    • 幽霊
    • 2025年 6月 03日

    無人機が現代戦の主力になるのならEMP爆弾を実用化した国が戦争で最も有利になりそうですね。

    10
      • レプタリアン
      • 2025年 6月 03日

      平時からドローン大量生産してたら納税者ブチギレるから
      リードタイムが長い専用ジグだけ平時から大量保管しといて
      有事はMISUMI、TRUSCOを死ぬまで酷使させるだけで工程増強出来るような工程設計が重要そうな気がする
      あと、キーエンスは弾道ミサイル降るような爆撃の中でもプロボックス乗って機械持ってきてくれそう

      13
    • トクメイキボウ=サン
    • 2025年 6月 03日

    よし、レーダーの次は日本からは12式改SSMとランクル格安で輸出するからフィリピンからはノウハウ提供してもらおう!

    7
    • 58式素人
    • 2025年 6月 03日

    フィリピン陸軍の交戦相手となると、
    中共系あるいはイスラム系の反政府軍になるのかな、と想像します。
    ジャングル戦もあるのでしょうね。
    ひょっとすると、米軍は、小銃弾から見直しが必要かな、と思ったりして。
    テキトーを言うかもですが、乗り物やUAVよりも先に・・・。
    見てみたら、フィリピン軍は5.56×45弾と7.62×39弾を併用していますね。
    多分、ジャングル戦では、7.62×39弾の方が向いていると思うのですが。

    2
    • p-tra
    • 2025年 6月 03日

    昔見た米陸軍の論説が言ったてたんだが、こういう「スタンドオフ戦」
    に対する投資が過剰になりすぎれば問題だろう。
    ドローンがあれば30km先から攻撃できる!って言っても陸戦の目的
    は究極土地の奪取であって、じゃあ30km先の敵が5km前進してきたら
    5km後退するべきか?って言ったらもちろんダメだろう。
    遠距離から交戦するのが安全でコスパがいい、といってもそれで
    土地を明け渡したなら目先の戦果に釣られる愚をおかしたことになる。
    遅滞戦闘しかしなくていいですって軍隊以外はこのドローン環境でも
    近距離で相手をコントロールできる方法を考えるべきだな、難しいが。

    8
    • イーロンマスク
    • 2025年 6月 03日

    >「海兵隊員はライフルマンでなければならないというスローガンに変化が起きるかもしれない」

    ほほえみデブが箱コン握りしめてる姿想像しちゃったw

    8
    • DEEPBLUE
    • 2025年 6月 03日

    ウクライナは平地が多いですから、極東とか他の地域でのドローン運用はデータ蓄積しないと駄目な事も多いでしょうね。

    7
    • レプタリアン
    • 2025年 6月 03日

    平時からドローン大量生産してたら納税者ブチギレるから
    リードタイムが長い専用ジグだけ平時から大量保管しといて
    有事はMISUMI、TRUSCOを死ぬまで酷使させるだけで工程増強出来るような工程設計が重要そうな気がする
    あと、キーエンスは弾道ミサイル降るような爆撃の中でもプロボックス乗って機械持ってきてくれそう

    • 黒丸
    • 2025年 6月 03日

    東京駅にいる歩兵が横浜駅の敵を直接攻撃したり、ディズニーランドを偵察できるイメージですか。
    ドローン装備なしの歩兵は補給をすることすらできず一方的に狩立てられることになりますね。

    6
    • kitty
    • 2025年 6月 03日

    ドローン戦の前提は電子戦での勝利なんですが対テロ戦争ですっかりロシアや中国に電子戦分野では遅れを取っていたとちょっと前の軍の中の人が言ってたけど、追いついてんですかねえ。
    ロシアには、また塚原卜伝離された予感。

    1
      • kitty
      • 2025年 6月 03日

      > また塚原卜伝離された予感。

      また突き離された予感。

      くそう予測変換め

      10
        • ブルーピーコック
        • 2025年 6月 04日

        氏家卜全が出るよりはマシですかね

          • kitty
          • 2025年 6月 04日

          氏家もくでなくて良かったです。

    • 2025年 6月 03日

    30km先で見つけられるなら
    戦車や銃よりもドローンや榴弾砲が優先になるんだろうな

    5
    • たむごん
    • 2025年 6月 03日

    歩兵が前進するためには、大きな損害を許容するという、厳しい命題になりそうですね。

    ウクライナ=ロシアの戦場は、極寒の中でも自爆ドローン無人機が大活躍していましたから、熱帯・亜熱帯でも問題ないのかは気になりますね。

    3
      • DEEPBLUE
      • 2025年 6月 04日

      無人車両とかが増えて歩兵の仕事は制圧だけという時代が来るのかも

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