米国関連

米陸軍の極超音速兵器「LRHW」は2,776km先の目標と交戦可能、日本配備も視野に

日本配備も噂される地上発射型の極超音速兵器「LRHW:長距離超高速兵器」の射程距離を米陸軍が公表して注目を集めている。

参考:Army Discloses Hypersonic LRHW Range Of 1,725 Miles; Watch Out China

極超音速兵器LRHWの射程はグアムからでも台湾に届く2,776km以上だと米陸軍が明かす

米メディア「Breaking Defense」の取材に応じた米陸軍のスポークスマンは開発を進めてる地上発射型の極超音速兵器LRHWについて「1,725マイルを超える交戦能力を陸軍に提供できる」と語ったと報じており、これが事実ならLRHWの射程距離は噂されていた1,400マイル(約2,250km)よりも長く、少なくとも2,776km先の目標を攻撃する能力を陸軍にもたらすだろう。

勿論、米陸軍のスポークスマンは「1,725マイルを超える」と表現しているのでLRHWの最大射程は謎に包まれているが、グアムから2,700km先には台湾がありLRHWの最大射程が3,000km台に達している場合は台湾海峡の対岸に位置する中国沿岸部をグアムから直接攻撃することが可能になるという意味だ。

出典:U.S. Army Photo by Elliot Valdez LRHW配備予定の部隊が既にLRHWの訓練用発射装置で訓練を開始している

米陸軍は今年3月に中国に対する抑止力整備のためLRHWを含む地上発射型ミサイルを太平洋地域に前方展開させる方針を発表、インド太平洋軍も同様の趣旨でアジア地域にミサイル網を建設するため6年で270億ドル(約2.98兆円)の追加資金を要請しており、仮に日本がLRHWの配備を受け入れれば北京はもちろん中国内陸部の重慶や西安といった都市まで米陸軍は瞬時に攻撃することが可能になるのだが米空軍の地球規模攻撃軍団(AFGSC)で司令官を務めるティモシー・レイ大将は陸軍やインド太平洋軍が進める計画を「愚かで資金や資源の無駄遣い」と批判して注目を集めている。

陸軍が主導するアジア太平洋地域へのミサイル事前配備は欧州への中距離弾道ミサイル「パーシングII」事前配備の成功体験に基づいた手法で、これが成功したのは潜在的な脅威に対する共通認識がNATO下で確立できたことに大きく依存しているのに「潜在的な脅威(中国)に対する共通認識が欠けるアジア太平洋地域の国が陸軍のミサイル事前配備を受け入れるのか証明されていないため直ぐに信頼のおける配備先は見つからないだろう」と主張してアジア太平洋地域の国に依存しない空中発射型の極超音速兵器に資金を回すべきだとレイ大将は言っているのだ。

出典:Air Force photo by Giancarlo Casem 米空軍が開発を進めている空中発射型の極超音速兵器 AGM-183A Air Launched Rapid Response Weapon

さらに厳しい状況に置かれている国防予算で重複する兵器を二重開発するのは愚かで「なぜ国防総省は残酷までに高価なアイデア(アジア地域にミサイル網を建設する案)を受け入れるのか?」と強烈にレイ大将は批判しているが、米軍は中距離核戦力全廃条約(INF)の関係で射程500km~5,500kmまでの安価で即応性の高い火力投射(地上発射型の弾道ミサイルや巡航ミサイル)能力が決定的に欠けており、逆に中国はINFの制約を受けることなく中距離弾道ミサイルや地上発射型の極超音速ミサイル/巡航ミサイルを大量に保有しているため早急にこのギャップを埋める必要に米軍は迫られている。

仮に米国の国防予算が中国を圧倒する規模ならレイ大将が提案する配備先に依存しない空中発射型の極超音速兵器で中国とのギャップを埋めても構わないが、空中発射型の極超音速兵器は爆撃機やF-15Eなどの大型戦闘機によって火力投射が必要な地域に運搬できる代わりに運用コストが高く、現在の苦しい国防予算状況で中国の低コストな兵器体系に高コストの兵器体系で挑めば量で圧倒されることになりかねない。

出典:ロッキード・マーティン 陸軍が開発を進めている極超音速兵器LRHW

つまり航空機や艦艇からの極超音速兵器運用は「攻撃手段の選択肢を増やす」という点で有望でもコスト面で中国とのギャップを埋める主役にはなりえないという意味で、運用コストが安価な地上配備型こそが中国とのギャップを早急に埋めるための本命なのだ。

ただし地上配備型はレイ大将が指摘したように配備先が課題だが太平洋地域の国が1ヶ国でも配備に応じれば解決するような簡単な問題でもない。

地上配備型の場合は特に分散配備する必要があるので1ヶ国に集中配備しても意味がなく、日本、韓国、フィリピン、インドネシアあたりに即応性の高い陸上配備型のミサイルを分散配備して空中発射型と艦艇発射型の極超音速兵器で補完するのが最も理想的だろう。

果たして米国にLRHWを含む地上発射型ミサイルの配備を打診されたとき日本政府や我々国民はどの様な反応を示すだろうか?

あくまで管理人の予想だが在日米軍基地への航空機や艦艇の配備とは異なりLRHWを含む地上発射型ミサイルは日本国内に分散配備もしくは分散展開させることを要求されるかもしれないので、沖縄、佐世保、岩国、座間、横須賀、三沢といった地域以外(恐らく自衛隊の基地や敷地)も相応の負担(攻撃を受ける可能性)を求められるかもしれない。

こうなると配備先に依存しないレイ大将が主張する案の方が日本にとって都合が良いのだが、本気で台湾での武力衝突や中国との軍事衝突に対処するつもりなら日本政府も国民も「相応の負担」を覚悟しなければならないのだろう。

関連記事:ロッキード・マーティン、米陸軍の極超音速兵器「LRHW」を初公開
関連記事:対中ミサイル網建設は資金の無駄、米空軍が陸軍と国防総省を「愚かだ」と批判

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※アイキャッチ画像の出典:ロッキード・マーティン 陸軍が開発を進めている極超音速兵器LRHW

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コメント

    • 匿名
    • 2021年 5月 15日

    日本開発の滑空弾も配備するから出来そうでは有ると思うが。
    って言うか是非配備して欲しい。

    16
      • 匿名
      • 2021年 5月 15日

      防衛省が開発してるのは「島嶼防衛用」で射程を500km程度に制限と言われています。
      専守防衛という政策を内外に示している関係での自主的制限ですね。
      現情勢では北朝鮮ならまだしも中国内陸まで達する射程のLRHWを装備化するのは政治的に困難かと。

      1
    • 匿名
    • 2021年 5月 15日

    当然、重要な戦略資源と重ならないところに配置するほうが望ましいですよね。いろいろな整備コストはかかるでしょうが。

    1
      • 匿名
      • 2021年 5月 15日

      一般的な「日本全国何処だって攻撃受ける可能性」より、明らかにその地域が敵から攻撃受ける順位が上がる兵器だからなあ。

      6
    • 匿名
    • 2021年 5月 15日

    むしろこれ購入できないかな。
    F15への長距離巡航ミサイルの統合計画が宙に浮いた以上、なにかしら代替の反撃能力が必要に感じる。

    18
      • 匿名
      • 2021年 5月 15日

      絶対に反対運動が起きるから、購入はともかく配備はスムーズにいかない話だけどね。
      「攻撃的」な装備という点、攻撃のターゲットになりうると言う話と両方から。

      7
        • 匿名
        • 2021年 5月 15日

        同感です。
        配備となると、米軍の争いに巻き込まれる可能性が高い。その反面、購入だと自衛隊がターゲットやスイッチを管理できる点などを考えると、ハードルが低いと感じます。

        1
          • 匿名
          • 2021年 5月 15日

          ミサイル技術管理レジームに引っかかるから輸出は不可能だよ。

          1
            • 匿名
            • 2021年 5月 15日

            そうなんですね。残念。

            • 匿名
            • 2021年 5月 15日

            MTCRは自主開発可能な国は対象外だぞ
            あれはミサイルを作れない国への拡散を防ぐ条約だ

              • 匿名
              • 2021年 5月 15日

              作れる国はわざわざ買わないでしょ?

                • 匿名
                • 2021年 5月 16日

                そう、だから作れるけど敢えて作らず外国から兵器を買う日本みたいな国にとってMTCRは全く無関係なんですよお兄さん。

                1
                  • 匿名
                  • 2021年 5月 16日

                  日本は中距離弾道ミサイルに相当するロングレンジウェポンなんて買った事がないけど?

                  そもそも日本は技術があるとは言うけど、どうせ自前の誘導技術が無いんだから米国のGPSを利用するしかないのに、これで日本の技術だけで作れると言うのは妄想ですよお兄さん。

                  3
                    • 匿名
                    • 2021年 5月 16日

                    馬鹿なの?MTCRの規制要件理解してないの?
                    衛星打ち上げ用の大型ロケットの構成技術がそのまま弾道ミサイル
                    に転用可能なんでMTCRの規制項目に入ってるんですよ
                    GPSを利用するかなど弾道ミサイル開発能力の有無とは何の関係もないですし

                    3
        • 匿名
        • 2021年 5月 15日

        それどころか、今年秋に予定されている衆院選の結果次第ではLRHWの日本配備も絵に描いた餅になる可能性が有りますよ
        それと言うのも、ここ最近のコロナウイルス対応で菅政権が失策を重ねている上、去る4月に行われた衆参議員の補欠選挙2つと広島の再選挙(参院議員)で与党は3連敗を喫していますから、今後コロナウイルスの感染状況と東京五輪の行方次第では野党連合が衆院選に勝って衆参で捩じれ現象が起きる可能性が高く、そうなったら安全保障関連の議題では国会で何も決められない状況が生まれる恐れが有ります

        3
          • 匿名
          • 2021年 5月 15日

          悪いがそれはありえないでしょう。
          たとえ青木率を下回ろうと野党の支持率が二桁にならないと下野することは無いと思いますよ。

          まぁ議席を減らして終わりでしょうね。

          13
    • 匿名
    • 2021年 5月 15日

    むしろ日本に売ってくれ
    そうすれば角がたたないだろ

    14
    • 匿名
    • 2021年 5月 15日

    米空軍が予算欲しいだけではないかと言う気もしてくる

    7
      • 匿名
      • 2021年 5月 15日

      レイ大将の言ってる事は頷ける部分もあるんだけど、あんまりにも攻撃的過ぎて俺(空軍)の縄張りに入ってくるな!って主張に感じちゃうよね

      8
    • 匿名
    • 2021年 5月 15日

    つくろうぜ!モスクワまで届く奴

    2
    • 匿名
    • 2021年 5月 15日

    基地から外に出て陣地転換とミサイルの補給と発射を繰り返すのですかね
    道交法の改正とか秘密裏の陣地の選定とか大変そう

    •   
    • 2021年 5月 15日

    中距離ミサイルのギャップを埋める為に配備するしかないな
    お互いに軍拡競争になったところで軍縮交渉が捗ればいいが
    ロシアはついて来れなさげ

    1
      • 匿名
      • 2021年 5月 15日

      弾道ミサイルとか、ロシアが一番得意で、アメリカが一番不得意な分野にしか見えないが。

      3
    • 匿名
    • 2021年 5月 15日

    これって核兵器も搭載可能なの?
    パーシングの時は核兵器だからこそ問題になり軍縮交渉につながったが
    通常の精密誘導兵器なら、どんどん配備数がエスカレートしていくだけのような

    2
      • 匿名
      • 2021年 5月 15日

      下手に数発でも核搭載してたらシリーズ一式まとめて逆に使えない兵器になってしまうから、絶対に核搭載しないと思う。
      これに核搭載しなくてもアメリカの核運搬手段は今あるので十分だし。

      エスカレートに関しては、既に中国が通常弾頭で同じような思想のものを大量配備してるから、アメリカはあくまでそれに対応する形なんでしょ。アメリカがそれをやらなかったところで中国がこの種の兵器を除去するどころか増やすこともやめないんだから、配慮するだけ無駄。

      13
    • 匿名
    • 2021年 5月 15日

    通常弾頭だし命中率は高くないから移動するものを標的にはできず、中国本土の航空基地が標的。
    一時的な航空優勢を作るための一手段として中国の航空基地を標的として、広い演習場を移動して逃げ回りながらも陸上配備を生かして補給を繰り返しながら大量に撃ちまくる。
    移動式であっても狭い島だと中国からの反撃の飽和攻撃で潰されてしまうから、日本本土の広い演習場に置かなきゃならん。グァムは遠いし狭いし、沖縄も狭いし更なる陸軍の受け入れは政治的に難しいし射程距離的に日本本土でいいんだから沖縄に置く必然性がないので。

    当然中国から反撃が来る。日本本土に弾道弾がたくさん降ってくる。覚悟しなけりゃならんね。

    8
      • 匿名
      • 2021年 5月 15日

      中国は航行状態の艦艇にも弾道弾で命中させたと言っているがね。
      まあ、確かに怪しいが。

      とはいえ、衛星情報とリンクさせれば停泊状態の艦艇や造船所、
      補給施設の類は狙えるだろう。米海軍はほぼ無傷なのに、
      せっかくここまで育てた海軍戦力をすり潰してまで、
      日本と刺し違える覚悟が中国に果たしてあるかな?

      3
      • 匿名
      • 2021年 5月 15日

      >日本本土の広い演習場に置かなきゃならん。

      その目的に沿った演習場って、日本にどのくらいあるのだろう?

      1
        • 匿名
        • 2021年 5月 16日

        日本本土全体が演習場だったりなんかしてな。

        • 匿名
        • 2021年 5月 16日

        北海道にはありそう。しらんけど

    • 匿名
    • 2021年 5月 15日

    であれば米陸軍が開発すべきは5000km級なんじゃないかな・・・。
    要は中国が仮想敵なのになぜ対中国で使い辛い2700kmなのか?という疑問。
    中国とのギャップを埋めたいなら、アジア太平洋地域のどこからでも北京や重要な軍区を狙えるようにすべきでは。
    センサの分離化が実用化しつつある現在なら、今後はICBMクラスの射程でも精密打撃が可能になってくるはず。
    調達コストや運用コストの問題で今のスペックに落ち着いた・・のであれば、まあ納得できなくもないですが。

    1
      • 匿名
      • 2021年 5月 15日

      射程距離が5000km台になると核兵器を搭載したICBMと誤認される可能性があるので、通常弾頭を搭載して使用するのにリスクが高すぎるから作らないし使えない。

      5
        • 匿名
        • 2021年 5月 15日

        誤認も何もスペック公開して配備するだけのこと

          • 匿名
          • 2021年 5月 16日

          早期警戒衛星からICBMの発射と誤認されたら危険なので
          あんまり発射時のシグネチャー大きくできないからでは
          スペック公開云々の話ではないわな

          3
    • 匿名
    • 2021年 5月 15日

    やべー
    高速滑空弾の開発中止してこっち買え
    って言われるパターンじゃん

    2
    • wyuki
    • 2021年 5月 16日

    政府も国民も「相応の負担」を覚悟しなければならないのだろう。
    ⇒政府に国民にも無理でしょ。

    2
    • 匿名
    • 2021年 5月 17日

    忘れてはいけないのは米陸軍の距離発表が”少なくとも”を利用した点です。
    米軍もむやみに最大距離をすぐに発表したりはいないのでお茶を濁しただけですけど、中国を念頭に”グアムに配備しても台湾海峡の侵攻を余裕で挫折させることができる”といえるのです。

    その2775kmを最大距離まで何km伸ばせばいいかが全くわからないのが抑止力になるのです。
    ちなみに、このミサイルは割と小型だから、現存のVLSと潜水艦に搭載可能な改造余地が残されています。

    2
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