米国関連

米陸軍は空中発射効果を重視、次世代ヘリに対する高速性は優先度が低下

ボーイングは東欧最大の見本市=MSPO2025で「もう米陸軍はヘリの高速性を重視していない」「将来の運用コンセプトは高速飛行の優先度を低下させている」と明かし、ITEP中止は「高速飛行能力で獲得するはずだったヘリの有用性や生存性の向上は空中発射効果で代替できる」という意味だ。

参考:Boeing floats next-generation F-model Apache as ITEP fall back

もう陸軍はヘリの高速性を重視していない

ヘグセス国防長官が命じた陸軍の包括的な改革はハンヴィー、JLTV、M10 Booker、ストライカーの調達中止、AMPVの調達削減、AH-64DとGray Eagleなどの旧式機材の廃止、無人戦闘車輌=RCV計画の中止、新型自走砲を巡る競争の一時停止など非常に広範囲な方針転換が含まれ、これは2026会計年度予算案に反映されて議会に提出済みだが、まだ国防権限法=国防予算に該当する歳出法は上院案と下院案に別れたままで1本化されておらず、この過程で議会主導の大きな変更が加わることも珍しくない。

出典:U.S. Army photo by Bernardo Fuller

さらに言えば2026会計年度予算の審議や成立は10月1日に間に合う可能性は0に近く、米国では「今年も共和党と民主党が予算案で合意することはない」「来年も繋ぎ予算で1年を乗り切る可能性がある」と噂されており、この繋ぎ予算は本来「本予算の審議や成立まで連邦政府機関の閉鎖を回避するための時間稼ぎ」で繋ぎ予算中の支出は前年度レベルに制限されるため、前年度に支出実績がある政策や計画への資金供給は可能だが、当該予算で新たに資金供給が行われる計画、つまり新たな兵器開発計画や武器調達への資金供給は「本予算が成立するまで凍結される」という意味だ。

米国の予算成立は毎年遅れるため繋ぎ予算の運営が日常的になっているものの、2025年は「1年を通じて予算案が成立しない」「予算案の成立を諦めて1年全体を繋ぎ予算で乗り切る」という異常自体で、繋ぎ予算中の支出を「前年度レベルに制限する」という決まりも「特例の連発」で乗り切り、予算案の中で定義される方向性が繋ぎ予算にどう反映されるのかも不明瞭なため、2026会計年度予算に反映されている陸軍改革もどうなるのか誰にも判断がつかず、特に防衛産業界は将来に向けた判断が下せず困惑気味している。

出典:US Army Sgt. William Tanner

ここから今回の本題なのだが、2026会計年度予算に反映されている陸軍改革にはImproved Turbine Engine Program(計画の目標はT901の出力50%向上と燃費効率25%向上)の中止が含まれており、ボーイングは東欧最大の見本市=MSPO2025で「AH-64の発展型(Fバージョンと呼ばれている)はITEP採用による出力向上、複合材料採用による重量削減によってペイロードを引き上げる予定だが、もしITEPが中止されても対応できる。我々はITEPが継続されても中止されても対応できる準備が出来ている」と述べた。

“次世代ヘリ設計の復活にむけた新たな取り組みは前回の試みと一線を画している。これは過去2年間に渡る陸軍との共同作業(次世代ヘリの仕様を確定させる作業)に基づいた結果で、もう陸軍はヘリの高速性を重視していない。将来の運用コンセプト(AH-64Eによる空中発射効果の攻撃)は理論上、ヘリに対する高速飛行の優先度を低下させている。現時点で高速性が潜在的な顧客の要件になるかは分からない”

出典:Bell

陸軍はOH-58の後継機プログラムとしてFARA=Future Attack Reconnaissance Aircraftを進め、この契約を巡って360 InvictusとRaider-Xが争っていたが、ジョージ陸軍参謀総長は2024年2月「我々は戦場での出来事、特にウクライナで航空偵察が根本的に変わったと学んだ」「様々な無人機システム、宇宙ベースのセンサーや武器は今まで以上にユビキタスな存在となった」「しかも安価で遠くまで到達することができる」と述べてFARAの中止を表明。

その後、有人機から小型無人機を空中発射する能力のことをAir Launched Effects=空中発射効果と命名して「ALEは有人機にとってリスクの高い空域で偵察、監視、目標捕捉能力を向上させる効果」と定義しており、AH-64Eで運用される空中発射効果によってヘリの高速飛行能力は優先度が低下した、つまりITEPの中止は「もうヘリの高速飛行能力を重視していない」「高速飛行能力で獲得するはずだったヘリの有用性や生存性の向上はALEで代替できる」という意味だ。

因みにボーイングはAH-64Eの生産についても「陸軍との契約は2028年夏に終了する」「その後の生産ラインはポーランド向けの生産(96機)で維持される」「AH-64の新規もしくは追加契約はカナダ、インド、インドネシア、ルーマニアの決定に左右される」「攻撃ヘリに対する国際的な需要は維持されている」「この需要を満たすための準備は出来ている」と述べている。

関連記事:米陸軍がFARA中止を表明、ウクライナで航空偵察が根本的に変わった
関連記事:Boeing、米陸軍が廃止するAH-64Dに関心を示す国が現れると期待
関連記事:米陸軍副参謀長、いま改革を実行しなければ痛みはもっと大きくなる
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関連記事:米国防長官が陸軍に改革を指示、ハンヴィー、JLTV、M10の調達を中止

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Army photo by Sgt. Vincent Levelev

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コメント

  • コメント (11)

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    • p-tra
    • 2025年 9月 05日

    攻撃ヘリの使い方について整理する必要があると思う。
    だいたい攻撃ヘリなんてWW2の戦闘機よりトロい訳で
    こんなもんが50年前から対空兵器に通用しなかったのは当たり前。
    それが必要とされたのはヘリボーンの護衛として生まれたからで
    あって、護衛対象にくっつている必要があるならトロくても別にいい。
    要するに輸送ヘリの代わりに死んでくれって兵器だった。
    そういう兵器だったのに途中からタンクキラーとして使い始めた
    のがそもそもの間違いだったと思う。
    攻撃ヘリは「ヘリボーンの護衛」という原点に立ち返るべきだろう。
    何が何でも戦車を狩るためにALEなんかでアウトレンジを試みるべき
    じゃないと俺は思うね。
    どうせヘリボーンするなら最終的にはLZに向かうしかないし
    射程100kmのドローンとか使うヒマないだろう。

    15
      • nachteule
      • 2025年 9月 07日

       整理する必要があると言って固定翼機と回転翼機を比較している時点でおかしいでしょう。そもそも別ジャンルの物でスピードが遅い代わりに固定翼機が出来ない飛行をする事が出来るのは無視ですか?

       タンクキラーとして使い始めたのが間違いと言うのもよく分からない話で実績があったからこそ世界に攻撃ヘリのジャンルが広がったのでは?
       1次湾岸戦争のアパッチの成果は話半分にしたって戦車装甲車含めて500両以上、何十もの陣地を潰している。開戦前にはタスクフォース・ノルマンディー(ベイプローとアパッチのチーム)がレーダーに感知されない低空でイラク領に進出して指示があるまでホバリングしてレーダー施設を破壊したのは有名な話で元がレーダー施設破壊するのに機銃だけなのは現実的ではないから大火力を投入出来るアパッチが選ばれた。別に高威力の兵器は対戦車の為だけではない。

       護衛対象にくっ付いているならとろくて良いとかCH-47Fの巡航速度がAH-64Dの最高速度だったりUH-60Lの巡航速度だって十数キロ早いんだし護衛が護衛対象より遅くて航続距離まで問題になって作戦の足引っ張るなら本末転倒でしょう。ビンラディン暗殺のネプチューン・スピア作戦とかだって時間との勝負だったし最終的にLZ向かうしかないってのは乱暴な話でちんたら飛行していたら敵に対応時間を与える事になるから成功する者も成功しなくなる。
       それこそヘリボン護衛の原点に立ち返るなら護衛対象より優速で航続距離も長く道中やLZの障害を先んじて排除出来る能力が必要でしょう護衛対象につかず離れずなんて纏めて処理して下さいとお願いするような物です。似たような速度で行動を共にして脅威を排除するまでホバリングして待っててくれとかリスキーでしょう。

      4
    • たむごん
    • 2025年 9月 05日

    多分シンプルな話しなんですよね。

    速度50kmあがったら、価格いくら上がって=生存率どの程度上がって=搭載量どうなるのか

    『ドローンによるヘリ撃墜』ウクライナ戦争の正規軍だけでなく、南米の非政府組織(麻薬組織)もブラックホークダウンに成功したんですよね。

    あれだけ高価なのに、最前線で使えないとなれば価値が激減するわけで、発射プラットフォームにのみ焦点を絞る(価値の格下げする)のも仕方ないのかなあと。

    14
    • 無印
    • 2025年 9月 05日

    インビクタス、イケメンだったのに…
    アパッチも、ポーランド以降の追加発注が無かったらラインが閉じるのか、時代やなぁ
    小型無人機を空中から撃つなら、ぶっちゃけCH-47の改造でも良さそう、輸送ヘリなら小型無人機いっぱい積めるだろうし

    5
    • 歩兵相手はもう無理
    • 2025年 9月 05日

    結局歩兵に弱いのは確定しているし、もう危険な対地支援はドローンがある程度カバーする流れが歩兵(支援を要請しなくても良い)にとっても航空部門(危険を冒さない)にとっても幸せだろう。今後固定翼、回転翼問わず航空部門に求められるのは、ドローンでは歯が立たない相手を大火力のスタンドオフ兵器で吹っ飛ばすことになると思う。それに必要なのは優秀なスタンドオフ兵器と通信能力だろうし、機動力は今ので十分だろう。

    16
    •  
    • 2025年 9月 05日

    前線まで数km離れた地点までなら兎も角、そこから先の戦場は、ヘリで乗り込むのも装甲車で突進するのも今では危険なんだろう。結局ドローン&歩兵浸透しか許されないらしい。

    7
      • 中村
      • 2025年 9月 06日

       米海兵隊の着上陸作戦は旧軍宜しく奇襲前提で凌ぐとしても、我が国の水陸機動団は逆上陸前提の部隊ですからね。

       どうするんでしょう、本当に。まさか、全ての離島に守備隊を事前配置する訳にも行きませんし。

      1
        •  
        • 2025年 9月 06日

        それこそ上陸までに徹底的な封鎖をとるしかないかと。
        ウクライナの戦場をドローンが支配していると言っても、それはウクライナもロシアもそれだけ膨大な量のドローンを製造して、戦場まで持ち込めるから出来ることです。
        確かに中国はドローン製造能力は高いだろうが、それを海超えて毎日の消費に耐えられる量を持ち込ませるのは、戦車を揚陸するより難しい筈です。

    • ななしさん
    • 2025年 9月 06日

    多数の計画を中止して
    将来中止するための計画を
    スタートさせるんですね?

    5
    • さとし
    • 2025年 9月 06日

    AH単体で見ると確かに高速性不要なんでしょうけど、V-22オスプレイやらV-280バローやらの護衛という観点では随伴できるだけの速度性能必要だと思うんですがねぇ

    6
    • あばばばば
    • 2025年 9月 07日

    もう陸軍にもF-35を配備すればいいのでは
    空軍が許さないだろうけど

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