米国関連

米陸軍、射程100km以上を実現するラムジェット砲弾「XM1155 ERAP」の実験に成功

100km以上離れた目標を榴弾砲や自走砲で破壊することを目標にしたラムジェット砲弾「XM1155 Extended-Range Artillery Projectile:XM1155 ERAP」の開発が米国で進行中で、固体燃料を使用したラムジェットの実証実験に成功したとノースロップ・グラマンが発表した。

参考:Northrop’s Solid Fuel Ramjet Engine to Provide 100km Range

射程100km以上を実現するラムジェット砲弾開発に取り組む米陸軍

米陸軍が現在使用している155mmの射程延長弾はGPSによる精密誘導が可能な「M982 エクスカリバー」で最大射程は40kmだが米陸軍は155mm砲弾のさらなる射程延長を要求しており、2020年5月にラムジェット砲弾「XM1155 ERAP」の開発契約をレイセオン(オランダの研究機関と提携)と締結した。

しかし米陸軍はXM1155 ERAP開発の一部として固体燃料を使用したラムジェットの研究(solid fuel ramjet:SFRJ)をノースロップ・グラマンと共同で行なっており、最近行われた実証実験の結果「155mm砲弾の射程を100km以上に拡張することが可能だと確認された」と発表、これにより米陸軍が要求している射程100km以上の155mm砲弾が技術的に可能であると証明されたため、XM1155 ERAP開発は次の段階へ進むことになる。

ただ射程100km以上の155mm砲弾は既に英国やノルウェーで実用化もしくは発表されているため世界初ではない。

BAEシステムズが開発した155mm砲弾「超高速発射体:Hyper Velocity Projectile(HVP)」は一般的な155mm砲弾の射程より3倍以上到達範囲が拡張(※)されており、最高速度はマッハ3~5で誘導システムとフィンを備えているので地上の目標だけでなく空中を移動する目標に砲弾を直撃させることが可能で、実際に米陸軍がM109A6でテストを行い巡航ミサイルの飛行コースをシミュレートした標的機「BQM-167」の迎撃に成功している。

※補足:155mmHVPの射程は数値で明かされていないが仮に155mm砲弾の射程が40kmの場合、155mmHVPの射程は120km前後ということになる。

出典:Public Domain M109A6 パラディン

問題は155mmHVPのコストが8万6,000ドル(約920万円)と高価な点だが、空中目標を迎撃するために使用するなら1発300万ドル(約3.2億円)と言われるPAC-3MSE弾よりも安価なので、全く将来性が無いこともない。

さらにノルウェーの防衛産業企業「Nammo」はロケットアシストによって最大射程85kmを実現した155mm砲弾「155mmHE-LR」とラムジェットを採用して最大射程150kmを実現した砲弾「155mmHE-ExR」を発表済み(実用化は2023年頃)が、155mmHE-LRと155mmHE-ExRのコストは非常に高価なると予測されている。

どちらにしても米陸軍は実用的なコストで100km以上離れた目標を榴弾砲や自走砲で破壊するためのラムジェット砲弾を求めており、XM1155 ERAPをコンセプト通りに実用化することが出来れば砲兵の戦闘範囲は劇的に拡張され前線部隊に対する火力支援に大きな革命をもたらすかもしれない。

ただ採用国が増えて調達コストが下がったと言われる「M982 エクスカリバー」でさえ1発約6.8万ドル(約700万円:初期生産ロット時は20万ドル以上していた)もするため、XM1155 ERAPが実用化できたとしても当分は高価過ぎて満足な数を調達することが出来ないだろう。

それでも世界的には精密誘導兵器の普及や長射程化に伴い砲兵の射程を拡張する方向に動いているため、こういった射程延長弾の潜在的需要は高い。特にUAVの出現によって戦場認識力が飛躍的に強化されているため砲兵は圧倒的な火力による制圧射撃ではなく長射程で精密誘導が可能な射程延長弾によるピンポイント攻撃が今後重要視されるのではないだろうか?

それなら航空機による攻撃やミサイルによる攻撃で十分だと言う意見もあるが、攻撃手段の多重化は指揮官に戦術の幅をもたらしてくれるので必要不可欠なファクターだとも言える。

関連記事:センサーとシューターの分離が進む米陸軍、自走砲で巡航ミサイル迎撃に成功
関連記事:韓国、最大54km先を攻撃可能な155mm射程延長弾「K315」の開発が完了

 

※アイキャッチ画像の出典:ノースロップ・グラマン

米軍、中国軍によるグアム基地攻撃に備えテニアンに代替基地を建設前のページ

次世代戦闘機をテスト中の米空軍、第6世代戦闘機の条件はデジタルトリニティ?次のページ

関連記事

  1. 米国関連

    生まれ変わる米空軍のF-22A、F-35並のアビオニクス搭載で2060年頃まで運用予定

    F-22はもう間もなく待望のアップグレードが始まり、第6世代に取って代…

  2. 米国関連

    米GA、米空軍のMQ-9後継機に全翼機デザインの無人航空機を提案

    米空軍の無人航空機「MQ-9リーパー」の後継機にジェネラル・アトミック…

  3. 米国関連

    BAEシステムズ、米陸軍に装輪型の155mm自走榴弾砲「アーチャー」を提案

    BAEシステムズは19日、米陸軍の要求に応じて装輪型155mm自走榴弾…

  4. 米国関連

    ボーイング、F/A-18E/F BlockⅢのプロトタイプが初飛行に成功

    ボーイングは6月4日、完成したF/A-18E/F BlockⅢのプロト…

  5. 米国関連

    ロシアや中国の妨害に耐性を備えたGPS軍用Mコード、2021年に提供開始か

    スプーフィング(なりすまし)攻撃や妨害電波に対する耐性が強化されたGP…

  6. 米国関連

    米空軍がF-15EXをボーイングに正式発注、プロトタイプ引渡しは2021年

    国防総省は13日、ボーイングに対し正式に戦闘機F-15EXを8機発注し…

コメント

    • にわかミリオタ
    • 2020年 12月 03日

    読んでいる途中で、ミサイルで良くない?って思ってたけど、最後に管理人さんの意見を読んで納得したよ。
    攻撃手段は多いほうが、戦術も幅が広がるか。

    26
      • 匿名
      • 2020年 12月 03日

      高いと批判されるエクスカリバーですら、航空機は勿論、ミサイルよりも安いからね
      砲兵の射程内ならば、砲兵に任せた方が安くて早いと。UACVから安いレーザー誘導爆弾がコスト的なライバルか?

      15
        • にわかミリオタ
        • 2020年 12月 03日

        確かに、レーザー誘導爆弾とは、いい勝負になりそうですね!

        7
    • 匿名
    • 2020年 12月 03日

    これ、既に国土の大半が多連装ロケットの射程に入ってる国はどうするんだろ。東側だってロシアが開発して、中国がコピーして、何故か北が量産、大量配備になるだろ。

    2
    • 匿名
    • 2020年 12月 03日

    数字だけだと実感わかないけど
    射程100kmって皇居から富士山頂に到達できる
    そう考えるとすごいなぁ

    11
    • 匿名
    • 2020年 12月 03日

    155㎜と聞くと打つ弾が高すぎて問題になったズムウォルト級のことが思い出されるが
    これらの砲弾は使えないのだろうか。

    6
      • 匿名
      • 2020年 12月 03日

      あっちはロケット(補助推進)弾なんで互換性はなし。
      開発完了後は、こっちを船に乗せたいぐらいかな?

      4
    • 匿名
    • 2020年 12月 03日

    台湾海峡の最狭部が幅130キロ程度

    これ中共が福建に配備したら揚陸作戦の火力支援環境激変するやんけ……

    5
      • 匿名
      • 2020年 12月 03日

      これ台湾が沿岸に配備したら揚陸作戦の火力支援環境激変するやんけ……

      という逆説もある。

      22
    • 匿名
    • 2020年 12月 03日

    高い弾を撃つならば、その相手は誰ですかって説明がかならず後から求められる
    国家間の総力戦が起こしにくい状況だから、予想される戦闘も量から質へ転換してるってことか
    砲撃というより狙撃って感覚だね

    9
    • 匿名
    • 2020年 12月 03日

    届く事と当たる事はイコールじゃないが、
    正にUAVが目標の座標を送り其れに向けて砲撃⇒相手は弾道コンピュータにて位置を特定するが反撃も届かず。
    いや、位置の特定不能だわ。弾道じゃ無いかも知れん。

    1
    • 匿名
    • 2020年 12月 03日

    クソ高砲弾で戦線が伸びまくった結果パトロールラインに穴が空いて
    浸透してきた歩兵が持つ100万円ぐらいの簡易UAVで弾薬集積所吹っ飛ばされましたとかいう笑えない事態が発生しそう…

    8
      • 匿名
      • 2020年 12月 03日

      コール襲撃事件の再来……

      2
      • 匿名
      • 2020年 12月 03日

      当然これまでも使っている通常の榴弾も使用するでしょ

    • 匿名
    • 2020年 12月 03日

    素直に砲弾誘導にしてオトメティック化するんじゃないのか。射程でミサイルには勝てないんだからC-RAMで頑張るしか自走砲が生き残るすべはないだろうに。

    1
    • 匿名
    • 2020年 12月 03日

    ラムジェット使っても射程100kmとすると
    別途開発中の射程1000マイル超えるSLRCはどう言うシステムなんでしょうね…?

    2
      • 匿名
      • 2020年 12月 04日

      牽引車四台くらいで引っ張るパリ砲みたいなのでしょ。
      本体が高すぎて、実現するのかどうか。

      1
    • 匿名
    • 2020年 12月 03日

    開発中のM1299と組み合わせたら射程どれだけ伸びるんだろ

    1
    • 匿名
    • 2020年 12月 04日

    空中目標に対して使えるくらいの軌道調整が効くなら使いではありそうだなぁ。

    UAVキラーには丁度良いね。
    相手の速度はたいして早くないし、対応距離も結構あるし、迎撃用に地対空ミサイルは高いし、お手頃価格で使い勝手もよさそう。
    「ホットローンチの地対空ミサイル」と言い換えればぴったりはまる。

    5
      • 匿名
      • 2020年 12月 04日

      楽天的すぎるよ
      UAVも劇的に進化してるから、自走砲の射程圏内がすでにUAVからの攻撃圏内って可能性高いから
      どっちが先にやられるかの瀬戸際

      2
        • 匿名
        • 2020年 12月 04日

        >どっちが先にやられるかの瀬戸際

        兵器に絶対の性能差は普通ないでしょう。ある兵装と対抗兵装はせめぎあうもの。
        今回UAVキラーと呼べる兵装の目が見えてきたってところ、今までは射程が短すぎるか、高価すぎるかで適当な対抗兵装がなかったところに出てきたので「使いでありそうと」と言ってるだけ。

        だいたいUAV自体が正規軍同士の戦闘でどこまで使えるかは未知数。
        UAVに夢を見すぎな人が多すぎ、確かに目新しいけどただそれだけ。現時点では少々反応の鈍い小型飛行機でしかない。使い勝手の悪さと、戦死を気にせず使えるトレードオフの中で位置付けを探っている段階。

        6
          • 匿名
          • 2020年 12月 04日

          その、UAVの可能性否定に熱心なとこが逆に疑問なんだけど
          無人機、ドローン含めて、人間が直接現場に出なくなりつつある戦場の実現に不満があるのですかって聞きたい
          技術の方向性は好き嫌いの次元じゃないから

            • 匿名
            • 2020年 12月 05日

            別に否定はしていない。「可能性は無限大」って人が多すぎるので、「そこまでのものじゃあないでしょ」って言ってるだけ。多少意識してカウンターは提示してるけれど使いどころはあると思ってる。

            >技術の方向性は好き嫌いの次元じゃない
            これには完全に同意する。多数意見と技術の可能性の混合なのでどう動くかを制御することなどできない。「技術」が使われた「結果」が見えてくるまでは。

            しかしねぇ、「人間が直接現場に出なくなりつつある戦場」って言うけど、軍人の損耗が減るってだけで、例えば「砂漠の真ん中で戦闘しましょう」ってルール化するのでもなければ民間人は巻き込まれる。所詮は陣取り合戦であり、国家総力戦になるんだから。

            軍人に損耗がない分、初期段階で歯止めが効かなくなる可能性もあり、良いことばかりではないと思ってる。

    • 匿名
    • 2020年 12月 04日

    陸上兵器の精密射撃が向上し、尚且つ射程が大きく延びるなら、陸軍・海兵隊の運用それ自体が変わりそうだね。
    将来は、小型の機雷とかセンサーなども、砲身から打ち出せるようになるかもね。

    2
    • 匿名
    • 2020年 12月 04日

    〇国で54㎞の射程云々ってのがありませんでしたか。
    あれとのすみ分けってどうなるんでしょう。

    1
      • 匿名
      • 2020年 12月 04日

      隣国の夢を壊すなよ、そっとしておいてやれ

      4
      • 匿名
      • 2020年 12月 04日

      これは、ラムジェットの起動に必要なマッハ1程度の空気抵抗を発射で得る、ただの対空ミサイルと言えるかも。GPS誘導で対地攻撃もできる。
      エクスカリバー弾。ただのGPS弾。それでもお高い。
      韓国の54km。発射後、真後ろの真空をガスで埋めて後ろに引っ張られないようにする。しばらくしたら簡易ロケットで推進。どこに飛ぶか分からないのでGPS誘導。GPS誘導以外は実現できると思う。

      2
    • 匿名
    • 2020年 12月 04日

    単発砲でミサイル撃墜とか夢が広がるな

    1
    • 匿名
    • 2020年 12月 04日

    砲弾としてはお高いけど巡航ミサイルとか迎撃出来るなら総合的に見てコスパ良いってことか?
    ジャベリン対戦車ミサイルだったっけ、ダイレクトアタックモードで建物にぶっ放す奴が多過ぎて運用に制限がかけられたとか昔見た気がするが…
    砲兵士官が指揮するならそういう問題は起きないのかな

    1
    • 匿名
    • 2020年 12月 04日

    これが更にネットワーク化された環境で使用される様になるのかな。分散配置された火砲でもって、あっちこっちからドカンドカン撃ち込むと‥。MBTの必要性がますます下がりそうな予感。

    2
      • 匿名
      • 2020年 12月 04日

      確かに火砲が「戦場の神」だったころの再来となる可能性もありますね。

      ミサイル同等まで行かなくても誘導弾を低コストで戦場に提供できる。弾頭威力はかなり低くても歩兵ではなく装甲車両を標的に運用するなら使い勝手は悪くないってことであれば。
      そこまでいくかどうかは現状ではわかりませんが。。。。

      ミサイルは高価だったのでどうしても火砲を置き換えることはできなかった。
      でも、これは、空母が戦艦を駆逐したのとはだいぶ違う様相を見せるかもしれません。短中距離はこちら、長距離はミサイルと綺麗に棲み分けるかも。

      1
  1. この記事へのトラックバックはありません。

ポチって応援してくれると頑張れます!

にほんブログ村 その他趣味ブログ ミリタリーへ

最近の記事

関連コンテンツ

  1. 米国関連

    本当に笑えない、米空母ジェラルド・R・フォードを苦しめるエレベーターの呪い
  2. 軍事的雑学

    打つ手なし? ドイツ軍兵士は一般的な乗用車を「プーマ歩兵戦闘車」と思い込まされ訓…
  3. 軍事的雑学

    ロシア製戦闘機を買うと損をする? SU-30SMを導入したベラルーシの後悔
  4. 日本関連

    海外メディアも注目、横浜で護衛艦「いずも」の空母化工事が始まる
  5. インド太平洋関連

    日米からのオファーがない? 韓国空軍、日本のF-35整備拠点利用を否定
PAGE TOP