米国関連

米陸軍の長距離火力への取り組み、次期自走砲調達に向けて提案依頼書を発行

米陸軍は次期自走砲の独自開発を断念し「調達機種を選定するための競争」を2025年に予定していたものの、この取り組みはトランプ政権の方針によって保留扱いになっていたが、米陸軍は自走砲調達に関する提案依頼書を29日に発行し、保留されていた関する取り組みが動き出した。

参考:Army reignites self-propelled howitzer competition after ATI pause

米陸軍採用という肩書きを巡る熱い戦いは熾烈なものになるだろう

米陸軍は大砲の射程拡張を目的にしたExtended Range Cannon Artillery=ERCAプログラムを立ち上げ、M109A7の車体、58口径155mm榴弾砲搭載の新型砲塔、射程延長弾の組み合わせで70km超の射程確保を狙っていたが、2025年度予算案の中で「ERCAの取り組みを停止した」と明かし、調達や兵站を担当するブッシュ陸軍次官補も「ERCAの試みは量産に移行できるほどの成果が得られなかったが、戦術射撃の徹底的な研究において射程を拡張したプラットホームの必要性が再確認されている」「そのため開発済みのプラットホームや弾薬に関する情報提供依頼書(RFI)をまもなく発行する」と言及。

出典:Ministerie van Defensie

陸軍近代化を担当するレイニー大将も2023年「砲兵戦略をウクライナの教訓と米太平洋陸軍の要求の両方に対応させる必要がある」「ウクライナで最も多くの敵を破壊しているのは通常砲だ」「まもなく発表する通常火力戦略には戦場での通常射撃を強化する施策(射程延長や自動装填装置の採用など)が含まれている」「NATO加盟国の中には我々の関心を引く装備がある」と、ブッシュ次官補も「新しいものを開発するのではなく、内外で入手可能なものを使って(火力投射の)範囲と量を確保する方向に移行する」と述べているため、入手可能で実績のある自走砲をテストして購入すると意味だ。

Breaking Defenseも2月「米陸軍は世界中を回って既存の自走砲を評価し新規開発を諦めた」「調達する自走砲を選定するためのオープンな競争を2025年に開始する」「競争に参加する企業を夏までに選定して2026年に評価テストを実施する」「将来の砲兵戦力は長距離精密射撃と大量射撃の両方に対応しなければない」「大量射撃に求められる能力は火力支援のニーズを満たせるペースで装填、移動、展開、再装填、再射撃が出来ること」「採用する自走砲は戦力構成の見直し次第で複数になるかもしれない」と報じていたが、この取り組みはトランプ政権の方針によって保留扱いになっていた。

出典:Krauss-Maffei Wegmann GmbH & Co. KG/CC BY 4.0

ヘグセス国防長官が指示した陸軍改革の一環として「自走砲調達に関する取り組み」も再評価を受けることになり、これまで同計画は保留扱いに指定されていたが、米陸軍は自走砲調達に関する提案依頼書を29日に発行し「包括的な分析の結果、陸軍にとって155mm自走砲が重要であると確認された」と述べ、陸軍改革のテストに参加している旅団への自走砲(6門)提供を想定した情報提供を求めている。

米陸軍は特に「提案する自走砲の生産を米国内に移転する方法」「これを引き受ける米国内の製造拠点やサプライヤーの特定」「自走砲1門の納入に要する期間」「自走砲6門の納入に要する期間」に関する説明を求めており、Breaking Defenseは「この取り組みに参加する潜在的な企業は厳しい米陸軍の要求に疑問を呈している」「我々は彼らに供給するための自走砲を予め製造して保管しているのではない」「我々は注文された分の自走砲を製造して販売している」「自走砲の砲身や部品の調達には長いリードタイムが予想されるため生産には2年かかる」と報じている。

出典:Hanwha Aerospace

提案依頼書の要求は「テスト用に最大6門の自走砲を数ヶ月以内に引き渡せ」とは言っていないが、デモンストレーションに参加する可能性が高いRheinmetall、BAE Systems、Hanwha、General Dynamics、Elbit Systemsの内、複数の企業が米国内での自走砲を製造しておらず、競争入札も正式化されていないため「10月10日まで自走砲生産の移転方法や米国内の製造拠点やサプライヤーの特定を説明せよ」と言われても曖昧な情報提供に終わるしかない。

どちらにしても「保留されていた関する取り組みが動き出した」という点で見れば、今回の提案依頼書には一定の価値を見出すことができ、米陸軍採用という肩書きを巡る熱い戦いは熾烈なものになるだろう。

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※アイキャッチ画像の出典:Photo by Staff Sgt. Robert Barney

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コメント

  • コメント (15)

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    • p-tra
    • 2025年 10月 01日

    長距離精密攻撃が必要というのは疑いようがないけど砲がその役割を
    担当すべきかは結構疑問だと思う。
    砲弾をあんまり高度な誘導兵器にすると最初からミサイルにした方が
    良かったという結果になりがち。
    結局電子機器が一番高いから砲弾の安いというメリットが消えてしまう。
    エクスカリバーは良かったけど簡単にジャミング食らうことも分かった
    からCPRAの増加なりさらなる電子機器の高度化が必要なら、もう砲弾
    じゃなくてミサイルである必要があるだろう。
    個人的には砲弾は安くて信頼できる兵器であるべきだから誘導化自体
    やめた方が良いと思う。

    9
      • 幽霊
      • 2025年 10月 01日

      別に全ての砲弾を誘導式にする訳では無いと思いますから問題無いのでは?
      必要に合わせて誘導砲弾を使うか無誘導砲弾を使うか使い分けるでしょう。

      19
    • 無印
    • 2025年 10月 01日

    今度こそ決めなければ…
    製造拠点をアメリカに置け、ってのは絶対言われる条件なので、想定していない企業は居るのかな?
    ラインメタルやハンファ辺りは、もうアメリカで組むパートナーを見つけているんじゃないの〜

    14
    • AKI
    • 2025年 10月 01日

    ウクライナでの結果を見ると、とにかく発射後の撤収と移動が早い事が残存性に大きく関わっているので自動化は進めないと仕方ないですね。
    自衛隊の砲兵技術を継承する人が減るのは寂しいが、そろそろ自走砲も先進的な後継が必要ですね。

    3
      • 名無し
      • 2025年 10月 01日

      それが19式装輪自走榴弾砲では?

      20
        • 理想はこの翼では届かない
        • 2025年 10月 01日

        評価されて、まさかの米軍へライセンス供与・現地生産とかになったら大金星ですが、今回のアメリカさんの話を見てると仮にそうなっても日本が儲かるような話に見えないのがね

        4
          • レプタリアン
          • 2025年 10月 01日

          もうアメちゃんが自由に生産して輸出もしていいから対米投資ノルマを差っ引いてくれんかな

          5
        • AKI
        • 2025年 10月 02日

        ウクライナに投入されている自走砲の中で一番近いのがカエサルと思いますが、あまり成績が良く無いです。
        やはり発射と撤収の時間が装軌式にはかなわないようです。

        2
          • 半分の軍事費の国から
          • 2025年 10月 02日

          世界初の移動しながら射撃出来る自走砲塔システムRCH-155を最適と思われる装軌式車体に搭載するのが、現在最強の自走砲みたいですね‥シュート&スクート2.0と呼ばれているのですが、日本もライセンスか独自開発で欲しいと思いますよ。無人自走砲にピッタリな気がします。

    • 幽霊
    • 2025年 10月 01日

    米軍が採用するとしたら装軌式か装輪式どちらになるんでしょうね?
    個人的には装軌式ならK9 装輪式ならRCH155かなと思っているのですが。

    8
    • hoge
    • 2025年 10月 01日

    また要求が過剰で実現できないものになって計画自体がなかったことになるのでは…

    12
    • マミー
    • 2025年 10月 01日

    誰もPzH2000に期待して無いのか…

    5
    • nimo
    • 2025年 10月 01日

    自動化しすぎると高価で重くなったり故障の原因が増えるけど
    装輪式はそれを避けようとしている
    どの程度の自動化なのか

    • どねつくぼうし
    • 2025年 10月 02日

    なんどめだアメリカ
    ってユパ様視点になってしまいますね

    1

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