米国関連

米軍、中国軍によるグアム基地攻撃に備えテニアンに代替基地を建設

米国防総省は戦略爆撃機の拠点として活用しているアンダーセン空軍基地の予備としてテニアン島に新たな基地を建設する計画を進めている。

参考:Air Force To Build Alternate Airbase On Tinian Island In Case Guam Gets Knocked Out

テニアン島に戦略爆撃機の拠点を新たに建設してアンダーセン空軍基地の依存度を引き下げることを狙う

そもそもグアム島にあるアンダーセン空軍基地は中国や北朝鮮に睨みを効かせるため米空軍の戦略爆撃機(B-52/B-1/B-2)を前方配備していたが、中国軍の中距離弾道ミサイル戦力増強や極超音速滑空体を弾頭部に採用したDF-17(東風17号)の空中発射型が登場したことで、今年4月グアムに配備していたB-52を米本土に戻して16年間に渡る前方配備を終了した。

しかしグアム島のアンダーセン空軍基地は今後も中国や北朝鮮に対する戦略爆撃機の拠点として活用される予定で、さらにオーストラリアのティンダル空軍基地(豪州北部のダーウィン近郊)を拡張して新たな戦略爆撃機の拠点化(豪州負担で約11億豪ドル:約740億円)を進めており、パラオも米軍基地の誘致(米国側は公式に何もコメントしていない)に乗り出すなど対中国に対する拠点の分散化への動きが顕著だ。

出典:public domain グアム島アンダーセン空軍基地上空を飛行するB-2爆撃機とF-15戦闘機

この動きを象徴するものとして米国防総省は最近、グアム島から約150km離れたテニアン島にアンダーセン空軍基地の予備的な基地を建設する計画を正式に進めていると明らかにした。

米空軍は過去にアンダーセン空軍基地の代替基地建設場所としてグアム島のグアム国際空港、テニアン島のテニアン国際空港、サイパン島のサイパン国際空港、ロタ島のロタ国際空港を調査、2016年12月にテニアン国際空港を拡張するオプションを代替基地の建設案に認定したと正式に発表したが、北マリアナ諸島自治連邦区と国防総省の交渉に時間がかかったため具体的なテニアン国際空港拡張の動きは観測されてこなかった。

しかし国防総省は2019年5月にテニアン国際空港と周辺地域に関するリース契約(40年間:2,190万ドル)を北マリアナ諸島自治連邦区と締結、今後テニアン港からテニアン国際空港までを結ぶ航空燃料の輸送用パイプライン整備やテニアン国際空港の北側に新たな滑走路やエプロンを建設する予定で、演習やアンダーセン空軍基地が自然災害に襲われた際の航空機の退避場所として活用すると説明している。

補足:テニアン島には第二次世界大戦中に建設されたテニアン国際空港(旧ウェストフィールド飛行場)とノースフィールド飛行場(もしくはハゴイ飛行場)が存在するものの、テニアン国際空港は規模が小さいため戦略爆撃機を運用するには拡張が必要で、ノースフィールド飛行場は規模こそ大きいものの荒廃してC-130の訓練に使用する程度でしか管理されていない。

ただしテニアン国際空港の拡張規模は最大12機の空中給油機が運用できる規模だと言われているため、戦略爆撃機を何十機も駐機できるアンダーセン空軍基地とは比べ物にならないほど規模が小さく、地理的にも中国軍の中距離弾道ミサイルや空中発射型の極超音速兵器の射程圏内に収まるためアンダーセン空軍基地の脆弱性を完全に補完することは難しい。

出典:U.S. Air Force Courtesy graphic by Northrop Grumman

それでも西太平洋上唯一の拠点とも言えるアンダーセン空軍基地の依存度を引き下げるのにテニアン国際空港の拡張(+ノースフィールド飛行場)は非常に有効な手段で、米メディアも拠点の分散化は前方展開部隊の生存性向上に役立つだけでなく、敵の攻撃計画や防衛計画を複雑なものにするため悪くないと評価している。

特に米空軍の戦略爆撃機が新たな拠点して活用することを目指しているティンダル空軍基地の拡張工事は2027年頃までかかるのでアンダーセン空軍基地の機能分散は米軍にとって重要度が高く、パラオが求めている米軍の駐留まで実現すれば西太平洋上の米軍拠点の分散化が進み、米メディアが主張するように敵の攻撃計画や防衛計画を複雑なものにするだろう。

もし日本が積極的に西太平洋上の米軍拠点の分散化に協力するなら硫黄島の活用も考えて見るべきかもしれない。

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force photo by Staff Sgt. Joshua Smoot

戦闘機に随伴可能な露ステルス無人機「S-70」、空対空ミサイル試射に成功前のページ

米陸軍、射程100km以上を実現するラムジェット砲弾「XM1155 ERAP」の実験に成功次のページ

関連記事

  1. 米国関連

    T-50にRED6のATARSを統合、米戦術訓練機を受注するための布石か

    ロッキード・マーティン、韓国航空宇宙産業、RED6の3社は20日「RE…

  2. 米国関連

    米陸軍、開発中の自走砲「M1299」が70km先の目標に砲弾を命中させる

    米陸軍は22日、開発中の新型155mm自走砲「M1299」が70km先…

  3. 米国関連

    ジェネラル・ダイナミクス、次世代戦車のコンセプトモデル「AbramsX」を公開

    米ジェネラル・ダイナミクスは次世代主力戦車のコンセプトモデルとして「A…

  4. 米国関連

    米軍、複数の空対空ミサイルを運搬可能な空中発射型UAV「LongShot」開発を発表

    米国防総省内部の部局で軍事利用可能な最先端技術の開発を行っている国防高…

  5. 米国関連

    元CIA分析官、限られた見返りのため日独印韓をファイブアイズに加えても頭痛の種が増えるだけ

    元CIAの情報分析官はファイブアイズ拡大=日本、ドイツ、インド、韓国の…

  6. 米国関連

    米軍事委員会のトップ、クリミアの軍事的奪還がないというのが共通認識

    ミュンヘン安全保障会議に出席した米下院軍事委員会のアダム・スミス委員長…

コメント

    • にわかミリオタ
    • 2020年 12月 03日

    中国の驚異は、凄まじいものがあるなぁ。
    超音速兵器はやはり厄介ですね。
    いずれ、地球を何周もできるようなミサイルができて、正確に目標を破壊できるのなら、ミサイル万能論も復活するかも

    10
      • 匿名
      • 2020年 12月 03日

      地球を何周もさせる必要がどこにあるの?

      2
        • 匿名
        • 2020年 12月 03日

        常に軌道上に置いといて自由なタイミングで降下できるなら意味がある

        6
    • 匿名
    • 2020年 12月 03日

    逆絶対国防圏みたいななってきたな

    7
    • パラオ
    • 2020年 12月 03日

    親日国のパラオ共和国は数少ない台湾との国交がある国です

    パラオに米軍が駐留するなら、ジブチのようにパラオ共和国にも

    自衛隊が駐留出来たらいいのに

    まともな軍隊が無いんじゃないかな、沿岸警備隊位だと思う

    基地にパラオ国旗と日本国旗が並んだところを見てみたい

    21
    • 匿名
    • 2020年 12月 03日

    この費用を日本が一部負担する代わりに自衛隊機も置かせてもらうのはどうだろうか
    この島を使えるようになればより活動の自由度が増すだろうし

    7
    • 匿名
    • 2020年 12月 03日

    70年前に日米が血で血を洗い争った場所が日米の盾になるとは…
    地政学上当たり前だと言われればそれまでだけど、何だか変な感じ。

    14
    • 匿名
    • 2020年 12月 03日

    現実論で語るなら、中国に押された米国が引き始めたということですね
    我が国が、厳しい選択を迫られる日が近づきつつあります
    安保を廃棄するのはこっちからでなく米国から先だと、暗い予言をしていいくらい

    3
      • 匿名
      • 2020年 12月 03日

      引いてないだろ
      分散化って事はグアムが潰されてもバックアップで押し返すって意思の現れだ
      引くつもりなら何にもしないで攻撃の兆候が見られたらハワイまで引けばいいだけ
      バカな離間工作する前に軍事の勉強してください
       
      75年前に飛び石で基地潰されて日本は負けたけど
      果たして逆侵攻で中国は島奪っていけるのかな?乞うご期待だな

      23
        • 匿名
        • 2020年 12月 03日

        子供みたいこと言わないでね
        島程度の問題でなく国策の次元だから

        5
          • 匿名
          • 2020年 12月 03日

          太平洋の覇権握るなら太平洋諸島の取り合いになるのは必至なのに誰が島程度なんて言ってんの?

          22
          • ido
          • 2022年 9月 15日

          頭おかしいのおる

          2
    • 匿名
    • 2020年 12月 03日

    世界最大の軍事力を持つ米国がここまで身構えてるのに
    日本人ののん気ぶりは精神障害の段階

    14
      • 匿名
      • 2020年 12月 04日

      呑気なのは誰かな
      米軍は今世紀半ばまでにはハワイまで下がりますよ
      極東に取り残された日本の選択肢は、って話になるから

      2
    • 匿名
    • 2020年 12月 03日

    この前の嫦娥5号とか、日本だとやたら捏造・張りぼてと言って侮る意見が多いけど、アメリカさんは中国に対してしっかり備えているんだな。平和ボケと世界警察やってきた国の違いか。

    11
      • 匿名
      • 2020年 12月 03日

      まぁ、アメリカも中国軍がヤバいと慌て始めたのが5~6年前からですし。
      ここ数年の中国軍の成長スピードが異常なだけで。
      冷戦中とは違って、ロシアは経済的に中国へ依存している状況だし、日本人は中国に対するイメージが10年前くらいで止まっているのは仕方のない事では。

      2
      • 匿名
      • 2020年 12月 03日

      一般人のしかもアホな方の意見とアメリカ軍としての考え比較されても困ります…
      アメリカ軍が非対称戦争意識して軍備整え始めたとこから対中戦争対応へと方針転換して
      ドッタンバッタンしてるのがここ最近の話しじゃん
      自衛隊は出来る範囲内でずっと大陸側睨んだ装備更新してるぞ?

      5
        • 匿名
        • 2020年 12月 03日

        まぁ、その出来る範囲というのが問題で自衛隊の装備調達は保守的過ぎて世界の流れについていけてない。

        日本の地政学的条件や自衛隊の性能要求が特殊だからってよく聞くけど、言い訳にしか聞こえないから虚しいよね。

        8
    • 匿名
    • 2020年 12月 03日

    日本側は馬毛島を買収して基地建設しているから丁度良かった
    あいつらからしたら相当嫌な存在になるだろう
    そのせいか、無人島なのに議論を呼びそうだとか
    バカを言うマスコミがいるが、あいつらの脅威を喜んでいるようにしか見えない
    だから、信用されなくなって購買部数・視聴率減で信用されないんだぞ
    さっさと気付け

    9
    • 匿名
    • 2020年 12月 03日

    管理人さんは硫黄島を押しているが、まともな港湾設備がない。
    活火山なのでそれに関するいろんなリスク要素がある。
    工事前に不発弾除去と遺骨収集が必要、とあれ以上拡張するには結構大変なところ。

    せめて活火山でなくなるか、予知技術が進歩すれば、もう少し役に立つのだが

    3
    • 匿名
    • 2020年 12月 03日

    海上空港建設と言えば我が国には色々とノウハウがあるのだから、それがあるうちに長崎空港よろしく無人島を航空基地に改造するとかしてほしいけど……まあお金がね……

    1
    • 匿名
    • 2020年 12月 04日

    テニアンはアカン。韓国系住人が50%いると聞く。
    つまり韓国の意思が入り込みやすい。つまり

    2
    • 匿名
    • 2020年 12月 04日

    日中が戦争や紛争になったら、米軍の兵力はあっと言うに日本から出ていくだろうね

  1. この記事へのトラックバックはありません。

  1. 欧州関連

    トルコのBAYKAR、KızılelmaとAkinciによる編隊飛行を飛行を披露…
  2. 日本関連

    防衛装備庁、日英が共同で進めていた新型空対空ミサイルの研究終了を発表
  3. 中国関連

    中国は3つの新型エンジン開発を完了、サプライチェーン問題を解決すれば量産開始
  4. 欧州関連

    オーストリア空軍、お荷物状態だったタイフーンへのアップグレードを検討
  5. 中国関連

    中国、量産中の052DL型駆逐艦が進水間近、055型駆逐艦7番艦が初期作戦能力を…
PAGE TOP