米国関連

何故隠した? 米海軍、位置を偽装報告したイージス艦の艦長を解任

米海軍のアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦「ディケーター」艦長の解任理由を米メディアのサンディエゴ・ユニオン・トリビューン紙が報じ大きな注目を浴びている。

※本記事は2020年4月14日に公開した記事の再掲です。

参考:Navy says destroyer captain removed after lying to San Diego fleet command about ship’s position

駆逐艦艦長が太平洋艦隊司令部に自艦の位置情報を虚偽報告して解任?

古今東西、予定されいない軍の指揮官交代や突然の解任劇の裏にまともな理由があった試しがない。

最近では空母「セオドア・ルーズベルト(CVN-71)」のクロジャー艦長が「艦の指揮能力を喪失」したという理由で解任されたが、実際には新型コロナウイルス(COVID-19)の艦内感染を食い止めるため海軍上層部に対し適切な処置を要請する内容の手紙を外部に漏らしたためだと言われており、空母の乗組員や米メディアは元艦長のとった行動は「英雄的」だったと評価している。

本当に彼の行動が「英雄的」だったのかは賛否が分かれるが、このように肯定的な評価を受けるのは非常に稀な例だろう。

今回紹介するのは話の主人公は、今年1月に艦長職を解任された米海軍のジョンボブ・ボーエン中佐で、彼は2018年6月からアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦「ディケーター」の艦長として艦を指揮していたのが今年1月に突然「艦の指揮能力を喪失した」という理由で解任されサンディエゴの司令部付きに飛ばされてしまったのだ。

出典:U.S. Navy ジョンボブ・ボーエン中佐

当初、彼がなぜ艦長職を解任されなければならなかったのか詳しい理由が明らにされていなかったのだがサンディエゴ・ユニオン・トリビューン紙が12日、ボーウェン艦長が海軍に対して「嘘の報告」を行ったため解任されたと報じて大きな注目を集めている。

彼がどんな嘘をついたのか簡単にまとめると、昨年9月に彼が指揮する駆逐艦「ディケーター」はハワイの真珠湾からカリフォルニアの海軍基地へ向けて航行中、艦の右舷シャフトに異常が発生したため艦を停止させてメンテンスを行うことになったのだが、彼は艦が海上で停止していることを太平洋艦隊(第3艦隊)に報告せず、あたかも順調に航行を続けているように装った虚偽の位置情報を報告し続けたというものだ。

この嘘は駆逐艦「ディケーター」がカリフォルニアに到着後、匿名の通報で海軍が知るところになり調査が行われボーウェン艦長の偽装工作の全容が明らかになった。

ボーウェン艦長は4時間ほどかかったメンテンスと艦が予定されていた位置に復帰するまでの間、正確な位置情報が太平洋艦隊(第3艦隊)に自動送信されるのを防ぐため戦術データ・リンク「Link-16」と海軍向けの汎地球指揮統制システム「GCCS-M」の機能を無効にするよう指示、さらに乗組員に駆逐艦「ディケーター」が順調に航行していた場合の位置を計算させ定期的に太平洋艦隊(第3艦隊)に報告させることで海上に停止している事実を隠したのだ。

艦長の間違った指示に疑問を感じた乗組員が太平洋艦隊(第3艦隊)に報告するべきだと進言したが、彼は「4時間以内の遅れなら報告しなくても問題ない」と退けたと乗組員が証言している。

では、なぜ彼は艦が海上に停止している事実を隠そうとしたのか?

彼は海軍の調査に対しても、この質問だけには「答えたくない」と話しているため虚偽報告の動機については依然不明のままだが、彼は「何も問題ない(4時間以内の遅れは問題ないというボーウェン艦長のみの認識)のに、わざわざ第3艦隊に知らせる理由がない」と話しているため自身に対する評価を落としたくなかったのかもしれない。

ただ彼は今回の虚偽報告について「第3艦隊に報告する必要はない」と発言した事実だけを認め、Link-16やGCCS-Mを無効にしたり虚偽の現在位置を報告することは命じていないと否定しており、見方によっては部下に責任を擦り付けようとしているとも受け取れるため、空母ルーズベルトのクロジャー元艦長ように乗組員や米メディアがボーウェン艦長を擁護することだけはないだろう。

恐らく多くの米国人は、空母「ルーズベルト」のクロジャー元艦長のことを自身を犠牲にしてでも艦の乗組員を助けようとした「英雄」として記憶するだろうが、駆逐艦「ディケーター」のボーウェン艦長に対しては乗組員を犠牲にしてでも自身の保身を図る「愚か者」として記憶するに違いない。

どちらにしても今回の件で一番の被害者はボーウェン艦長の間違った指示に結果的に従ってしまった駆逐艦「ディケーター」の乗組員であり、艦の士官クラス達は今後の昇進や配属先で酷い扱いを受けることだけは間違いない。

結局、今回の件で彼らは馬鹿な上司の馬鹿な指示に従えば自身も無傷ではいられないという教訓を学んだことだろう。

 

※アイキャッチ画像の出典:public domain アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦「ディケーター」

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コメント

    • 匿名
    • 2020年 4月 14日

    日本の会社でもよくある話ですよね。
    でも、部下(士官)だった場合にどうするべきかってのは非常に難しいと思います。
    上官に「正しい報告をすべき」と抵抗すれば、上官が受け入れたとしても厳しい評価をされるでしょう。
    太平洋艦隊にちくったとしても、今回のように巻き添えを食う可能性もありますし。

    太平洋艦隊は以前からこの艦長に問題ありと睨んでいたような気がします。
    ネットワークが切れたなら原因調査はすると思いますし、その過程で
    「匿名にしたるし、評価に影響しないようにしたるから事実を言ってみ」ってなったような気がします。
    あくまで、絶対に、うちの会社のことじゃないですから!

    10
      • 匿名
      • 2020年 4月 14日

      お見舞い申し上げますw

      上手く上司の首だけ飛ばせられれば良いんですが
      平時ではなかなか難しいでしょうねえ…

      5
      • 匿名
      • 2020年 4月 14日

      確か米軍は法的に違法な命令には上官の命令であっても従ってはいけないという決まりだったはず。

      2
    • 匿名
    • 2020年 4月 14日

    ほんとのところはコロナだったりして。

    • 匿名
    • 2020年 4月 14日

    昔、米原子力空母が1941年の12月にタイムスリップするという映画があり
    最後のシーンで艦長が「空母が3日間も太平洋で行方不明とは、どういうことだ」
    と怒られていて、あの艦長はどうなるんだろうかと気になっていたが
    やはり原因が何であれ、報告をさぼると即解任か一時待機になるんだろうか?
                     

    8
      • 匿名
      • 2020年 9月 22日

      ファイナルカウントダウンか…
      海軍タイムスリップネタならフィラデルフィア(ry の方が著名だな

      1
        • 匿名
        • 2020年 9月 23日

        1984年制作の「フィラデルフィア・エクスペリメント」のことかな?

        でもこの映画は、乗組員がタイムスリップするのであって、船がタイムスリップするわけじゃないからなぁ。

        • 匿名
        • 2020年 9月 23日

        それ、都市伝説としてオカルトマニアの間で有名な「フィラデルフィア計画」の事?
        だとしたら、それはタイムスリップでは無く軍艦がテレポーテーションした話だったと思うけど?
        (他の方が指摘されている様に、映画の題材にはなったが……)

        因みに「フィラデルフィア計画」に使用されたとされている護衛駆逐艦「エルドリッジ」(DE-173、キャノン級護衛駆逐艦の一隻)は、実験終了後(?)の1951年にギリシャ海軍に引き渡されて「レオン」と言う艦名で就役後、1992年に退役して1999年に解体の為に売却されている
        もしも「フィラデルフィア計画」が本当にあったとしたら「そんな実験で乗員が色々とトンデモ無い事になった曰く付きの軍艦をNATO加盟国のギリシャに売ったりするのか?」と言う疑問が生じるので、まずホラ話と見て確実だと思う

    • 匿名
    • 2020年 4月 14日

    こういうケースで部下にも厳しい処罰をしたらそれこそ組織ぐるみでの隠ぺいがまかり通りそうだから、部下にはそれほど厳しい処分はされないのでは

    4
    • 匿名
    • 2020年 4月 15日

    米海軍は機関の故障で艦長の首が飛ぶような組織ではなかったような
    もっと深刻な状況だったか、信じられないほど艦長が間抜けだったのか

    2
      • 匿名
      • 2020年 4月 16日

      以前に何かやらかした事があって「次は無い」状況だったのかもね。

      9
    • 匿名
    • 2020年 9月 22日

    機関の故障とか隠す必要がない事柄に思えるが、軍の調査にも動機を「答えたくない」と
    黙秘するとは、なにか別の要因があるんかね。

    7
      • 匿名
      • 2020年 9月 22日

      なんとなくだが、誰かしらをかばってるような気がする。確証は無いが。

      2
    • 匿名
    • 2020年 9月 22日

    事実はともかく、これじゃ瀬取りしてたんじゃね?と言われてもしかたねーだろ。アホか?

    2
      • 匿名
      • 2020年 9月 22日

      太平洋のど真ん中で背取りですか…

    • 匿名
    • 2020年 9月 22日

    捨てる神あれば拾う神ありで
    彼が誠意の人ならば人生の波を乗り越えられるでしょう

    1
    • oominoomi
    • 2020年 9月 22日

    太平洋戦争中は、信賞必罰の念に乏しかった旧帝国海軍に対し、責任の所在を明確にする米海軍の態度が評価されてきましたが…
    一方で必ずしも指揮官の責任とは言えない事まで責めを負わされることもあり、真珠湾攻撃時の太平洋艦隊司令長官キンメル提督のように、未だに遺族が名誉回復を求め続けるという事も起きています。
    或いは今度の艦長の行動の背景にも、そんなアメリカ海軍の体質があったのでしょうか?

    1
      • 匿名
      • 2020年 9月 22日

      WW2米潜水艦長「え?その米軍ってどこ時空なんですか?」

      • 匿名
      • 2020年 9月 22日

      真珠湾攻撃時のキンメル海軍大将の責任については、歴史研究家の秦郁彦氏が編著を担当した「検証・真珠湾の謎と真実」(中公文庫・2011年)の最後の方で『私(秦)は、奇襲を許した最大の責任はキンメルにあったと今でも判断している』とした上で、ワシントンから十分な警告が得られなくてもハワイの現地新聞を読んでいれば戦争の切迫は分かった筈で或る事、更にキンメルの手元には81機のPBYカタリナ飛行艇が有り、自隊防衛の権限を用いてその飛行艇でオアフ島から西方向への哨戒をやっていれば攻撃の前日に日本機動部隊を発見して返り討ちにする事も可能だったのにそれを怠っていた点を指摘しているので、今後新たな事実が見つからない限り名誉回復は不可能だと思う

      因みに他の方は指摘していないのだけど、米国では日本と異なり偽証(つまり嘘を吐く事)が重罪に当たるので、今回のケースでは艦長が職務中に嘘を吐いた事自体が解任の理由だった可能性が有ると思う

      3
    • 匿名
    • 2020年 9月 22日

    テルミット・プラスで撃沈されなくて良かったね。

      • 匿名
      • 2020年 9月 23日

      WSG亡国のイージス?
      また懐かしいネタを……

    • 匿名
    • 2020年 9月 22日

    根本的におかしい
    「4時間以内の遅れは問題ない」という認識なら偽装する必要も無いのでは?

    5
    • 匿名
    • 2020年 9月 22日

    機関故障でも「整備不良だ!監督不行き届きだ!」と艦長の責任になるんですかね

      • 匿名
      • 2020年 9月 22日

      最終的には艦のトップである艦長の所に責任が行く。
      とは言え、それで処分を受けるか受けないかは状況による。

      2
    • 匿名
    • 2020年 9月 23日

    言動には証拠が残らないから食い違いが生じても、我々外野には確かめる術がないんで論評不可能
    あとは、実際の行動と記録された事実のみで察するだけ
    責任ある公人の行動が怪しいときには何か理由があった、上層部に意見具申するのはリスクがある、その程度までだね

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