米海軍は太平洋艦隊の緊急要請に応えるためLRASMを開発したものの「これだけでは中国の能力に対応しきれなくなる」と主張し、スクラムジェットを使用した空中発射型の極超音速巡航ミサイル=HALO開発を進めていたが、米海軍は予算と産業能力の制約でHALO開発を中止した。
参考:U.S. Navy Cancels Critical HALO Hypersonic Missile Citing Cost Concerns
参考:Navy Axes Its Hypersonic Anti-Ship Cruise Missile Plans
米軍全体の関心は能力的に平凡でも「調達コスト」と「量産性」に優れた巡航ミサイルや自爆型無人機に集中している
米海軍は太平洋艦隊の緊急要請に応えるため2009年から新しい対艦ミサイル(OASuW:Offensive Anti-Surface Warfare)の開発に着手、米空軍が開発を進めていたAGM-158JASSM-ERをベースに長距離対艦ミサイル=AGM-158C LRASMを開発して2018年に初期運用能力を獲得、2021年2月に4億ドルを超えるLRASMを発注して本格的調達に乗り出したが、米海軍は同年4月に新型対艦ミサイルの開発に関する通知を発表していた。

出典:ロッキード・マーティン LRASM
米海軍は「LRASMだけでは進歩を続ける中国の能力に対応しきれなくなる」「交戦距離を延長したOASuW Increment2=新型対艦ミサイルが必要になる」と主張し、2023年3月「RaytheonとLockheed MartinにOASuW Increment2の開発契約を授与した」と発表、この新型対艦ミサイルはHypersonic Air-Launched Offensive Anti-Surface Warfare=HALOと呼ばれており、スクラムジェットを使用した空中発射型の極超音速巡航ミサイルで2029年の実戦配備を予定していたが、予算と産業能力の制約で期日内に配備が見込めなくなり計画自体が中止されたらしい。
Naval NewsもWarZoneも「予算上の制約によって予定された納入スケジュール内に配備することが困難になったため、米海軍は2024年秋に予定されていたHALOのEMD入札を中止した」「米海軍は産業基盤全体と既存プログラムのコスト動向と優先順位を比較して分析した結果、HALOプログラムの中止を決定した。米海軍はアフォーダビリティに重点をおいてOASuW Increment2の要件を再検証している」と報じており、当面はF/A-18E/FとB-1Bに統合されているLRASMの能力向上(AGM-158C-3開発)を優先するようだ。

出典:Lockheed Martin LRASM
HALOは元々「空母での運用」を要求していたため「艦載機への搭載」が確実視され、米ディフェンスメディアは「HALOをF-35Cのウェポンベイに収まるサイズで設計するのは技術的に困難だが、例えLRASMと同じ機体搭載になったとしてもHALOがもたらすメリットの方が大きい」と評価していたものの、極超音速兵器は調達コストは非常に高価で「長距離攻撃能力の全てを極超音速化する必要はない」「少量の極超音速兵器と大量の亜音速兵器があればいい」という意見が多く、Naval Newsも「特殊な兵器として計画されたHALOの調達コストは高価だった」と指摘している。
米軍全体は長距離攻撃能力への投資に積極的だが、その関心は能力的に平凡でも「調達コスト」と「量産性」に優れた巡航ミサイルや自爆型無人機に集中しており、質よりも量を優先してきてるのは誰の目にも明らかだ。
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※アイキャッチ画像の出典:Lockheed Martin
これこそ日本と共同開発していいと思うんだけどね。
大量のLRASM vs. 少量のLRASM & 少量のHALO
まあ前者の方が実際の戦争では強いだろうなという気はします……
そもそも、大量のLRASMと言う前提に疑問が湧く
果たして可能かどうか
スクラムジェットエンジンって燃料に炭化水素系が使えなくて液体水素使うしかないらしいので、以前良く記事にあったプリクーラーと同様軍用には使いにくいでしょう。逆に何故実用化できると考えたんだろう?
>スクラムジェットエンジンって燃料に炭化水素系が使えなくて液体水素使うしかないらしい
それは誤認です。ジェット燃料等炭化水素系燃料が使えますよ。
ただし最大速力は Mach 8 が限界になるそうです。
防衛装備庁資料に開発中の「極超音速誘導弾」はジェット燃料を用いたスクラムジェットエンジンであることが明記されています。
>地上燃焼試験を極超音速飛しょう相当の条件下で実施し、ジェット燃料を用いた実機相当長さのスクラムジェットエンジンのスクラム燃焼に、国内で初めて成功した。
このことから「極超音速誘導弾」の巡航飛翔速度は Mach 5<~<8 と推定されます。
つまり、速いんだな
とにかく数と量産性、コスパでしょうね。
台湾沖の図上演習が以前ありましたが、大損害だが勝利という結果でした。
米軍の今の建艦ペース整備力、武器の量産力を考慮すれば負ける判定でるかもしれないなと。
アメリカ軍、明日はどっちだ〜。
ウクライナで必要とされてるのは高価で高性能だけど数が少ない兵器じゃなく安く大量に使える兵器だもんね
日本の防衛において「質で量に対抗する」という考えを改める必要があるよね
自衛隊の「質で量に対抗する」というのも近年では完全に逆転しつつあり
「質と量には根性で対抗」になりつつあるから、本当に喫緊の課題
古かろうが時代遅れだろうが、実際に作動する兵器の方が有用だしな。つか今の米海軍に『新兵器』を作らせるのはリスキー過ぎる
米軍ってホント速いミサイルと縁が無いよね
意識的に嫌ってるのか単なる偶然かは分からないけど
技術難易度もあるんでしょうけど、やはり数を確保することも大事で、速いミサイルと言っても今だとスクラムジェットエンジン位の違い感はありますしね(2倍程度にはなるが)
現状は攻撃用のミサイルが普通の速度で困ることはないですし、迎撃用のミサイルの強化が優先でしょうね
コストに対して一番使用する海兵隊の予算がないという悲しい現実もありますが
英語版Wikipediaによるとですが
2023年4月の ” Navy League’s Sea-Air-Space conference” において、Stephen Tedford 海軍少将が「HALO は Mach 4 代の超音速で Mach 5 を超える極超音速には達しないかもしれない」と語ったとされ、それに続き今回の計画中止が述べられています。
技術目標が未達になり達成には更なる開発予算と期間を要する見込みなのが中止理由かもです。
今から作ってもロシア製に勝てませんからね…
安物で何とかする方向性は正しいと思いますが
アメリカのクソ高人件費で実現できるんでしょうか
ロシアとの技術格差が広がるだろうな。ドクトリンが異なると此処まで、兵器の方向性も変わるなんて。逆に言えば良くアメリカが、投げ出した物をロシアは実用化出来たね。やっぱり冷戦の片翼を担った国何だな。
追記というか質問です。エマニュエル・トッドさんやその他の人がよく触れているのですが、極超音速ミサイルは其処までゲームチェンジャーとなり得る兵器なのですか?
どこまで行っても兵器の一つでしかないので使い方次第でしょう。ウクライナでもそうですが既存のシャヘドの迎撃率は高いけどオレシュニクやS-300は迎撃出来ないか迎撃しづらいから防備を固めていようが被弾覚悟をしないといけない。
敵の最高度の防衛システムを突破してダメージを与える為の速度なので高価値目標を的確に狙えて致命的ダメージを与えられ続けるなら、運搬プラットフォームや搭載数が限られて高価格であっても価値はあるでしょう。
既存の低速なミサイルやドローンが何十基あっても達成出来ない事を1基で出来る可能性があるのが極超音速ミサイル。
何事も使い方次第、組み合わせ次第かなと思います。
国家間戦争では物理の原則、速度×質量×数、通常兵器はこの原則から逃れられないんですよね。
ウクライナ戦争の戦訓は、攻撃側よりも迎撃側の方が、高コストを強いられるというのも重要だなと。
方針と国力の違いにより、
アメリカ海軍には、空母という高価で貴重な兵器が存在するけど。
ロシアにはないし。中国は少ない。
ロシアや中国は、1隻1000億円かけても空母をつぶしたいので、開発する強い動機が存在するけど。
アメリカから見ると、ロシアにそんな高額兵器がないので、高すぎていらないになりやすくなる。中国も空母少ないし。
陸軍や空軍は別の都合がありそうだけど・・・
こういう話題の時に、たまにはASMー3のことも思い出してやってくださいと言いたくなる。
(スクラムではなく)ラムジェットの(極ではなく)超音速巡航ミサイルなのでスコープ外です…
でもロシアのもすわスクラムジェットかと思っていてウクライナで撃墜されたツィルコンの残骸を見たらラムジェットだったオチ。
それツィルコンが枠から外れるだけでしょう。
そうすると喫緊のライバルも不在になりますな。
中国の開発が進んでる様子がちょいちょい報告されてますね。
あとツィルコンもラムジェットは「早期配備型」なのかもしれませんし。
質より量を目指すと言っても、第二次大戦後の伝統的西側軍隊の質的優越性で東側の質に劣るが量に勝るに対抗して勝利するっていうドクトリンをすぐ切り替えられるものなのかっていう疑問があります。
それに今の西側には量を作り出す工業力が衰退しており、今から強化しようにも今更時代遅れとして馬鹿にしてきたものですから、労働力を確保しようにも国民のブルーカラー嫌いは深刻です。
今の御時世では大都会の一等地の空調の効いた綺麗なオフィス以外で働く事は負け組であるというイメージが付いてしまっています。
ブルーカラーの賃金をホワイトカラーより上にすれば良いだけなんでしょうが、その「だけ」が難しい…
アメリカが先を行ってると思われてた、対艦ミサイル、超音速ミサイルに対して遅れてスタートした日本に追いつかれかねない事態になってません?
日本は海陸のミサイルをファミリー化しつつ長年開発を継続をしてきたので、開発計画がぶつ切りになりがちなアメリカよりも、時間をかけて開発してますよ。
と言っても対艦ミサイルの開発の系譜見る限りは、ハープーン→同型エンジンのJ402を積んだJASSM→JASSM-ER→LRASM、と来てるので長く繋いでるのでは無いでしょうか?
極音速ミサイルに関しても、スクラムジェットエンジンの元がインテグラル・ロケット・ラムジェットと言うなら日本のASM-3に対してアメリカはタロスでしょうし。
飛行装備開発の系譜、という観点で「エンジンが同系」というのはあまりにも弱いつながりでしょう。
JASSMの系譜の話なら「TSSAM(AGM-137)」が出てくると思いますが、これ(TSSAM→JASSM)はむしろ米兵器開発の不連続性を象徴する話になるかと…
純粋な対空ミサイルとか戦略級の弾道ミサイルは除くとして、超音速ミサイルの対艦に関しては性能はともかく運用に関しては何とも言えないASM-3位が勝っているかな位で米国には副次的に対艦能力を持つSM-6しかない 。極超音速に関しては日本が島嶼防衛用高速滑空弾しかないのに対して米国は4つ以上の計画があるし、無理すれば実現可能だけども真っ当な判断の下で計画中止出来る方を褒めるべきでは?日本なんか一度決めたら最後まで突っ走るばかり。
> 極超音速に関しては日本が島嶼防衛用高速滑空弾しかないのに対して
「極超音速誘導弾(スクラム)」もありますよ。
国、防衛の規模を考えたら米国の半分やってれば十分でしょう。
よく考えたら、日本は対艦ミサイルのファミリー化とかをうたうせいで、12式向上型みたいに一つの計画で地、艦、空、潜に載せるとかするから一つの計画で複数の計画が同時進行しますからね。
島嶼防衛用高速滑空弾も対艦性能求めてたり、潜水艦搭載も見据えてますし。
近年のパターンだと
コストを重視したと言っても安くなく
量産性を重視したと言っても納期が遅れ
性能を妥協したら使い所に困る
とかのコンボが決まりそう
アメリカに必要なのはコンボを耐えきるウメハラだった・・・?(お目々グルグル)
近年のパターンだと
コストを重視したと言っても安くなく
量産性を重視したと言っても納期が遅れ
性能を妥協したら使い所に困る
とかのコンボが決まりそう
移り気、飽き性で一つ終わる前に次に行っちゃうタイプの人みたいだ
結局何1つ完成しませんでしたってなりそう
極超音速の無力化に精を出したほうが良いと思いますがね