米国関連

米海軍のインディペンデンス級、一般的な状況で15ノット以上の航行を禁止

フリーダム級沿海域戦闘艦に続きインディペンデンス級沿海域戦闘艦でも運用制限が実施されており、一般的なSea State4で15ノット以上の速度を禁じられているらしい。

参考:The littoral combat ship’s latest problem: Class-wide structural defects leading to hull cracks

一般的なSea State4で15ノット以上の速度が出せないのは極めて深刻な制限

クラッチベアリングが想定以上に摩耗して推進機関を損傷させる問題に悩まされるロッキード・マーチン製のフリーダム級沿海域戦闘艦とは異なり、ジェネラル・ダイナミクスが建造しているインディペンデンス級沿海域戦闘艦は「三胴船(トリマラン)構造を採用した影響で船体に発生する亀裂問題やアルミニウム合金の腐食問題を解消して運用に問題がない」と米海軍は説明していたが、建造した半数以上の同型艦が船体構造の欠陥で運用に制限が設けられているらしい。

出典:Public Domain インディペンデンス級のトリマラン構造

米海軍は「13隻のインディペンデンス級の内6隻で船体に亀裂が発生している」と認めたが、船体構造の欠陥によって発生する亀裂は喫水線よりも上でしか見つかっていないので「同艦の運用要件は満たされている」と釈明、しかし海軍の内部文書を入手したNavy Timesは「Sea State4=約2.4mの波高が発生する海域を高速航行すると船体に亀裂が入るため15ノット以上の速度で航行することを禁止している」と報じており、一般的なSea State4で15ノット以上の速度が出せないのは「極めて深刻な制限だ」と指摘している。

フリーダム級の問題は修正に成功(極めて複雑なギアボックスの交換作業)したと言われているが、フルパワーでガスタービンエンジンを作動させるとクラッチベアリングが想定以上に摩耗してギアボックスに致命的な損傷を引き起こすのは「設計上の欠陥」と主張する海軍と、摩耗は潤滑剤の取り扱いが不適切だったためで「設計上の欠陥ではない」と主張するロッキード・マーチンとの間で「ギアボックスの交換費用」の押し付け合いが発生しており、沿海域戦闘艦は海軍にとって疫病神と言っても差し支えないだろう。

出典:Naval Surface Warriors / CC BY-SA 2.0 フリーダム級沿海域戦闘艦

沿海域戦闘艦は運用コストの引き下げを実現するため、水兵が担っていたメンテナンスの大部分を請負業者に委託することで艦の運行に最低限必要な乗組員編成を40人(後に50人編成に変更)まで削減する方法を採用していたのだが、沿海域戦闘艦の年間運用コストは約7,000万ドル(海軍は5,000万ドルだと反論している)でアーレイ・バーク級駆逐艦の約8,100万ドルと大差がないと米メディアに指摘され、海軍のギルディ作戦部長自ら同艦の年間運用コストが高額であることを認め「請負業者に頼ったメンテナンスを止めて整備担当の水兵を再配置を進める」と明かしたことがある。

特に交換可能なミッションパッケージの開発に失敗したことで水上戦、機雷戦、対潜戦のいずれかに任務が固定されることになったため、沿海域戦闘艦の当初コンセプトは完全に崩壊しており、さらに必要とされる艦艇の要件が「テロとの戦い」から「大国間との戦い」に変更されたことで米海軍は完全に沿海域戦闘艦を持て余している。

関連記事:初期コンセプトが完全に崩壊した米海軍の沿海域戦闘艦、年間運用コストまで高騰
関連記事:米海軍最大の心配事、フリーダム級の欠陥修正費用を誰が負担するのか?
関連記事:米海軍、設計上の欠陥を理由にフリーダム級沿海域戦闘艦の受け入れを停止

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Navy photo courtesy of Muckley Photography/Released

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コメント

    • トクメイキボウ=サン
    • 2022年 5月 11日

    対中戦に使えるかは微妙だと思うがフリゲートとしての性能的にはもがみ型は一応成功とみていいのだろうか

    個人的には発注数半分にしてゴルシコフ級並の重武装に、そしてイージス艦の増勢に備えた方がいいような

    ゴルシコフ云々は私の趣味嗜好です

    5
      • hogehoge
      • 2022年 5月 11日

      うーん、成功かどうかはまだわかりませんね。

      もがみ型で私の一番の懸念事項はCODAG、しかもMT30で更に40MW級GTなので、ギアボックスの耐久性には未知数な部分があることですね。
      これは一般論としてディーゼルエンジン(MAN製6MW級×2基)とガスタービンエンジン(40MW×1基)の回転数や出力差が極めて大きいためで、機関に関しては海自さんかなり冒険していると思います。
      そのためしばらく運用してみないことには判断できないでしょう。

      また対中有事を考慮すると、フリゲート艦としては米コンステレーション級は護衛艦あきづき型程度はあるので、
      私もVLSの搭載数などが適正な(足りている)のかなど、特に対空戦闘の継続戦闘能力面で個人的には不安視しています。

      もちろん、省人化やコスト削減が計画通りに機能すれば効果的に運用できますし、
      第1~8護衛隊がメインなので、サブ艦隊としてはコストパフォーマンスを追求するのは正しい判断でしょう。

      27
      • 四凶
      • 2022年 5月 11日

       いったん、もがみ型が代替することになる艦船の能力見た上で性能の過不足論じた方が良いよ。金が無いから、あきづき型から性能制限したりしてるし

      26
    • tofu
    • 2022年 5月 11日

    よし、もがみ型を売り込もう(すっとぼけ)

    38
      • や、やめろー
      • 2022年 5月 11日

      よし、そうしよう!(すっとぼけPart2

      32
    • フラット
    • 2022年 5月 11日

    時代の節目に翻弄された哀しき艦艇
    しかし、これの失敗があったからこそもがみ型が生まれたと言える

    43
    • ななし
    • 2022年 5月 11日

    ここまでトラブルだらけで対テロでも使えな・・・
    いや流石にそれはないか・・・

    4
      • 第十軍団
      • 2022年 5月 11日

      急行せにゃならんのに波高2.4mで速度制限掛かるのはちょっと…

      27
        • kitty
        • 2022年 5月 12日

        米海軍艦艇は最低31ノット出せないと困りますからねえ。

        2
      • けい2020
      • 2022年 5月 11日

      使えるかと言ったら使えるけど、コストパフォーマンス考えたら使えない現実
      使わなくても維持コスト掛かるけど、通常使用だけで戦闘コスト並になるとか海軍破産しちゃう

      4
    • リポビタン少佐
    • 2022年 5月 11日

    15ノットって一般的な貨物船よりもちょっとだけ速いくらいですね…

    13
      • 短い11両編成
      • 2022年 5月 11日

      レンドリース法成立でウクライナへ向かう船団の護衛ならできるかな(笑

      3
    • 戦略眼
    • 2022年 5月 11日

    自爆型ドローンに改造しよう。

    5
      • ダヴー
      • 2022年 5月 11日

      自壊ドローンにしかならないと思う

      15
    • 無無
    • 2022年 5月 11日

    試験評価のプロセスを飛び抜かして、時間と費用を節約しようとして結果的には莫大な無駄と国防に穴をあける。
    米軍というよりも、アメリカという国の文明の方向性を示唆した事件に思えてならない
    経済性を最優先するとむしろ不経済に陥る

    16
      • けい2020
      • 2022年 5月 11日

      先行量産型で問題が多数指摘されたけど、議会の造船所利権派閥がゴリ押しして
      大量量産を決めてしまったから、、
      30隻とかの量産決めた時に、堂々と造船所の雇用のためって言ってるからね

      不具合も無視、性能不足も無視、ミッションパッケージ未完成も無視、経済性とか検討もされてない
      これで上手く行ったら本当に神の奇跡レベル

      31
    • 2022年 5月 11日

    まぁ一時三胴船(トリマラン)構造は高速&船体の安定化への切り札と持ち上げていたけど、こなると運用制限どころか廃艦が見えてきているのでは?

    13
      • G
      • 2022年 5月 11日

      穏やかな海でしたら複胴船は高速・安定化につながると思いますが、波がある状態ですと各胴体にかかる荷重の差が大きくなり、接続部への負荷が大きくなりそうですからね

      6
      • 西風
      • 2022年 5月 11日

      佐渡汽船が導入した三胴船というかウェーブピアサーのフェリーも日本海の荒波に耐えられず破損したり
      乗り心地も悪いってんで短期間でスペイン企業に売却されて今は地中海で運航してる
      波が荒い海じゃ利点を生かせないどころか欠点の方が前に出てくるんだろう

      9
        • きっど
        • 2022年 5月 12日

        佐渡汽船の「あかね」は三胴ではなく双胴のウェーブピアサー(インキャット社製)では?
        三胴なのは、JR九州の高速船「クイーンビートル」(オースタル社製。インディペンデンス級のベース)ですね
        より大型の「ナッチャンWorld」(インキャット社製)の方は防衛省が借り上げて運用していますので、一概に双胴のインキャット社製ウェーブピアサーが日本近海では完全に使えないという訳では無いように思います
        冬の日本海で運用するには全長100m以上が必要という経験則が有ると聞きますし、その観点からみれば「あかね」は89.7mで、「ナッチャンWorld」は112mですから

        3
    • 成層圏
    • 2022年 5月 11日

    小型・中型のドローンの母艦として活用すればいい。
    それくらいなら十分活用できるんじゃない?
    ドローンの活躍如何によっては、役に立つ船になるかもね。

    6
    • あまつ
    • 2022年 5月 11日

    やっぱり三胴船体はダメなのか~。
    海自の哨戒艦が単胴になって残念に思ってたのだが海自は米軍から内密に「トリマラン・・・あれダメだわ」ってな話を聞いてたのかもね。
    左右の船体にかかる力に差が出るだろうから捩れるだろうってのは素人でも分かるんだが、そこを解決したからこそってわけじゃなかったんだな。

    25
      • 匿名
      • 2022年 5月 11日

      三胴船体はかっこいい。
      かっこいいから採用しよう!
      といった素人の発想じゃダメってことね。

      12
        • あまつ
        • 2022年 5月 11日

        「かっこいい」は確かにあったんだけど装備庁が出したコンセプト案だと満載1500トンの小さな船体でMCH-101が運用出来る上に、飛行甲板下のミッションスペースの活用で掃海任務に就けたり貨物を積んで小型輸送艦としても運用可能ってのは魅力的でしたな。
        同じ位の格納空間を単胴船で造ると当然もっと大きな船体が必要になって排水量も増え、その分強力なエンジンが必要になり~と悪循環。
        そういった問題を解決できる妙案と期待してたんだけど・・・そううまくはいかないね。

        17
      • zerotester
      • 2022年 5月 11日

      力学的により厳しいと思える大型双胴船は日本は得意なんですけどね。音響測定艦『あき』がそうですし、スーパーライナーおがさわらもそうです。どちらも三井玉野造船所で、しかしもう造船やめてしまいましたが。

      9
    • すえすえ
    • 2022年 5月 11日

    15ノット・・・
    のろい

    いや呪いかw

    23
    • だいだーら
    • 2022年 5月 11日

    フリーダム級もインディペンデンス級も本音では全部廃艦にしたいんだろうねぇ
    でも造船所の雇用のためにキャンセルできないって話も聞いたし、代わりにコンステレーション級じゃダメですか

    11
      • けい2020
      • 2022年 5月 11日

      そもそもが造船所の雇用のためだけに採用・量産が決まりましたしね
      LCSでどんだけ海軍の予算圧迫したことやら、、

      8
      • TDNトーシロ
      • 2022年 5月 11日

      コンステレーション級も単体では悪くないけど、空母の護衛艦としては27ノットでは速力不足になるのと、CGモデルだとハルソナーが無さそうなのが不安だなぁ。
      中国が大量建造した054A型フリゲート(27ノット)も単艦では問題無さそうだが、空母打撃群に加えた時に速力、航続力不足や仏製ドーファンクラスのヘリなら良いけどシーホーク位のヘリを搭載するには飛行甲板が狭い事が分かったというからなぁ。

      4
    • 四凶
    • 2022年 5月 11日

     いったん、もがみ型が代替することになる艦船の能力見た上で性能の過不足論じた方が良いよ。
     金が無いから、あきづき型から性能制限したりしてるし対中に遜色無い性能を持つ艦船を大量に揃えられるわけでもないし。
     仮に揃えた所で人員確保出来ますかもあるし。

    3
    • さめ
    • 2022年 5月 11日

    やはりガスタービンの変速は難しいんだね…
    もがみの変速は川崎が担当しているというが、果たしてどうなるか
    頼むから頼むぞ

    15
    • K
    • 2022年 5月 11日

    導入早々ほとんど役に立たない金喰い虫の艦ですか。
    何だろ・・・
    空自が最近導入したグローバルホークといい勝負が出来そうですねぇ。

    1
      • 名無しさん
      • 2022年 5月 11日

      インディペンデンス級は1番艦就役の2010年からもう12年ですから
      本来は初期不具合が潰されて熟成された時期になる筈なんですけどね
      弄くり回すよりは引退させて次のコン級に予算回した方がいい気がしますが。

      19
    • トブルク
    • 2022年 5月 11日

    沿海域戦闘艦って、黒海でロシアの相手をするには丁度いいと思うが、実戦で使い物にならなさそうですね。

    • エポキシパテ
    • 2022年 5月 11日

    まさかこんな事になるとは。
    力学的に3胴船は難しいのか、アルミ製なのが災いしたのか。

    1
    • ミリオタの猫(マリウポリ守備隊の無事を祈願中)
    • 2022年 5月 11日

    黒海で撃沈された某・ロシア首都の名を冠した巡洋艦を同じ位に役立たずだったと言う意味で、米露も似た物同士だったんだなあと……。
    中国よ、お前は大丈夫だよな?(壮大な釣り)

    4
      • エポキシパテ
      • 2022年 5月 11日

      遼寧「…」

      5
    • ユーリ
    • 2022年 5月 11日

    LCSの模倣から建造前にもがみ型は方向転換出来て良かった

    10
    • 無印
    • 2022年 5月 11日

    ナショナルジオグラフィックのスペシャル番組が今となっては懐かしい
    何をやってもトラブル、故障、治そうにも部品がない、届くまでに数日、その間に別の訓練をやったらまたトラブル…
    掃海用UUVは発進できても回収できない、無理に回収したらUUVが壊れる、その修理に部品がなくてまた数日
    この番組に出た艦長、水兵、技術者達は今何を思っているのだろう

    これでコンステレーション級まで爆弾を抱えてたら悲惨

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