米海軍のウィリアム・デイリー少将は「実戦でMk.53 Nulkaが素晴らしいパフォーマンスを示した」と明かし、ミサイルによる多数・同時攻撃で対処能力が飽和しないようにするには「オフボードEA(外部搭載方式の電子攻撃手段)の作動時間を拡張する必要がある」と訴えた。
参考:Nulka Combat Use Shows Warships Need Longer-Lasting Electronic Warfare-Enabled Decoys
サイルによる多数・同時攻撃で対処能力が飽和しないようにするにはソフトキルが重要になってくる
米国とオーストラリアはレーダー誘導式ミサイルから水上艦艇を保護するためミサイルタイプのアクティブ・デコイ=Mk.53 Nulka(ヌルカ)を共同で開発し、米海軍、米沿岸警備隊、豪海軍、カナダ海軍の主要艦艇に配備していたが、米海軍のウィリアム・デイリー少将は今月14日「実戦でヌルカが素晴らしいパフォーマンスを示した」「我々にはオフボードEA(外部搭載方式の電子攻撃手段のこと)がもっと多く必要だ」「対処能力の飽和に対抗するにはオフボードEAの作動時間を拡張する必要がある」と述べて注目を集めている。

出典:U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 2nd Class Devin M. Langer
デイリー少将はヌルカの実戦経験について詳細を明かさなかったものの、2016年にフーシ派が米艦艇を攻撃した際にヌルカが使用されており、2023年10月から始まった紅海作戦中にもヌルカが使用されている可能性が高く、オフボードEAの作動時間拡張に関する言及はヌルカの特性と一致したものだ。
ヌルカは高速で飛翔するのではなく空中をホバリングするよう飛行し「水上艦のシグネチャーを模倣してレーダー誘導式ミサイルを本物の艦艇から遠ざける」というもので、デイリー少将の言及は「ヌルカのようなオフボードEAの滞空時間や運用範囲をもっと拡張したい」という意味になり、ミサイルによる多数・同時攻撃で対処能力が飽和しないようにするには「ソフトキルが重要になってくる」と示唆している。
米海軍がヌルカを改良してくるかどうかは不明だが、Lockheed Martinは海軍向けに開発中のLong Endurance Electronic Decoy=長期耐久型電子デコイについて「ペイロードを用途に応じて交換できる飛行体とRF=Radio Frequencyペイロードで構成された使い捨てタイプのシステム」「LEEDはSLQ-32に統合され、ミサイルとの交戦時間を引き伸ばし、特性が異なる同時攻撃にも対抗し、EWの連携と能力を強化する」と述べているため、米海軍の本命はヌルカの改良ではなくLEEDかもしれない。
因みに、この種のシステムは概ね「消耗型アクティブRFデコイ」と呼ばれており、戦闘機を保護するデコイとしても複数のシステムが実用化済みで、Leonardoが開発した消耗型アクティブRF=BriteCloudは英空軍のトーネードGR.4やタイフーン、米空軍州兵が運用するF-16にAN/ALQ-260(V)1として採用され、英空軍はF-35BやSPEAR-EWへの搭載を検討中、米海軍航空システム・コマンドも昨年7月「消耗型アクティブデコイの供給契約(年間1,000基~2,000基)をLeonardoと締結した」と発表した。
米海軍の要求要件がBriteCloudの能力に一致する上「F-35に対するサポート」も契約に含まれているため、F-35へのBriteCloud配備が確定的だと噂され、BriteCloudはフレアディスペンサーから投射するタイプだが、昨年発表されたBriteStormは有人機に随伴する無人機=ウイングマンや徘徊型弾薬に搭載するタイプで、有人機よりも先行して敵防空システムが作動する空域に侵入し、レーダーパルスの反射を模倣した偽信号をばら撒いて敵の認識力を混乱させ「迎撃能力を著しく低下させる」とシステムだ。
これに電子戦システムやステルスを併用すれば戦場での生存性は更に高まり、ウイングマンや空中発射式の徘徊型弾薬の実用化に合わせて登場してきたBriteStormにも大きな注目が集まっている。
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※アイキャッチ画像の出典:U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 1st Class Devin Monroe
レーダー誘導式ミサイルは偽装信号で対処できるとして、赤外線画像誘導式のミサイルへのソフトキルもそのうち考案されるのだろうか
終末段階に潜り込まれたらもう艦影がカメラに捉えられているからアレとしても、中間誘導段階でどうこうするとかそういうの
そもそも赤外線誘導ミサイルの中間段階がどの距離の事を指しているのかよく分からない。赤外線誘導なんてミサイルのサイズ的に終末誘導であって中間なんて慣性誘導かGPSでそれを妨害するだけになる。それをして赤外線ミサイルかと言われると微妙なんだよね複合誘導だし。
飛んで来るミサイルやドローンに、ずっとミサイルやCIWSを使ってたら、あっという間に弾切れですからね
デコイを飛ばしてどっかに行ってくれるならそもそも撃つ必要が無いですし
ヌルカってもっと色んな国で使ってると思ってたら、使ってる国が意外に少ない
日本は導入しないのかな?
何気にここで「魔法のスコープ」って書かれてたスマッシュを空自が導入したみたいに
攻撃側の低コスト化に対して防御側も低コスト化で対応しないとならなくなったのですよね
これもまたドローンによる戦争の低コスト化の波及効果ですが、攻撃側に対して防御側はどうしてもあらゆる面で後手に回らざるを得ない厳しさ
消耗戦が想定される状況下ではデコイは大きな武器になり得るからな
価値が一気に上がってきた感じある
海上なら、エアバッグみたいに膨らむタイプの大型船舶デコイが登場するかも…などと妄想してみる。
お風呂のおもちゃであったね。
自然分解するようにするとちょっと高くつきそうだけど
実戦ていうのはフーシ派相手の海上護衛任務のことなんですかね。
デコイにつられて頭を出したミサイル砲台にカウンターをぶち込むのがA2/AD突破の基本になるのでしょう。
飽和攻撃をしてくる側の数量が、飛躍的に増えたのでしょうか。
本来、イージスシステムも飽和攻撃に対処する為の物でしたが。
本命?のASM/SSMだけでは無く、安価?な無人機を含め同時着弾を目指してくるのかな?。
脅威の種類をを早目に分類し、対処方法を決定する必要があるのでしょうね、きっと。
これからの艦隊は、ひょっとすると、空母や原潜やイージス艦だけではなく、
専属の海上監視衛星も連れて歩く必要があるのかな。
もっとも、同時着弾を計画する側も、それを実現するのは大変と思いますが。
ウクライナのエネルギーインフラを空爆するロシアを見ていても、いまいち、
統制が取りきれていないような気がします。
それはそれとして、デコイやEWを充実させるのは必要なのでしょうね。
海自は遅れをとっていたりはしないでしょうか?。いまいち、良くは判りませんが。
少し前にイギリスが売り込みに来ていたEW搭載の空対空ミサイルと言うのも、このオフボードEAってやつかな?
自衛隊が艦艇、地上型、軍用機搭載のEWにかなり力入れてるのは理解してるが、オフボードなのは未だなかったはず。取り敢えず各国から買うか?
レーダーで、スペクトラム拡散(周波数ホッピング, 直接拡散)って、もう普通に使われているものなんですか? それともこれからの技術なんでしょうか?
そういったものにも通用する電子攻撃も考案されているのでしょうか?
詳しい人いますか?
フーシが飛ばして来るのはドローンが多いイメージ。対艦ドローンって光学誘導が多いと思ってましたがレーダー誘導のもあるのですかね?
中国の最新艦がフェーズドアレイ式のEA機材を積んでますが、ホームオンジャムのミサイルに対してはあまり効果がない徒花だったのかもしれません
電波を出す軍用機材は大なり小なり敵に逆探されないように工夫がされてますが、EAは敵に受信してもらわないと意味が無いある意味ユニークな存在です